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贖う者  作者: 魚野れん
第十章 砂漠の殿下 ─カリスへの道─
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王女の噂

「嫌になるわね……」

 シェリルは溜息を吐いた。憂鬱そうな表情をしているのは、シェリルだけではない。表情豊かなアンドレアルフスはともかく、アンドロマリウスまでうんざりとした雰囲気を醸し出している。

「一体、どうしてそこまでするんでしょう」

 リリアンヌが机に突っ伏した。彼らが鬱々とした空気を生み出しているのには、遡る事数時間。酒場で聞いた噂話が原因である。




「どっかの王女がお忍び中なんだって?」

「ああ、カリフの殿下に会うとか聞いたな」

 ワインを頼み、サラダを食べているシェリルの手が一瞬止まった。アンドレアルフスがその動きに合わせて彼女のサラダを摘んで口に放り込む。

 もしゃもしゃと豪快にサラダを咀嚼するアンドレアルフスを一瞥し、シェリルは何事もなかったかのようにサラダへ手を伸ばした。


「とんだじゃじゃ馬王女らしいぜ」

「そうなのか? 俺は深窓の美女で誰も見てねぇって聞いたぞ」


 アンドロマリウスがメルツィカの肉を食べながら、目をひくつかせた。眉をひそめていない事から、恐らく笑いを堪えているのだろう。

「もしかして殿下んとこに嫁入りすんのかねぇ」

「でも巷じゃ賞金首じゃねーか」

 リリアンヌが受け取ったばかりのワインを一気飲みする。ぷは、と息を吐いたその表情は、誰かに喧嘩を売っているかのようであった。


 辺りは謎の王女の話題で持ちきりである。どういう事か分からないが、王女と因縁付けられて追い回されているシェリルにとってみれば、良い迷惑である。

 それとも召還術士である事が周知されていないだけましなのか。


「美人なんだろ? 賞金いらねぇから持って帰りてぇな」

「おめぇ、金なきゃ俺ら生きていけねーだろがあほ」


 同じ空間で息を吸っているとも知らず、男達はひたすら話に興じている。むしろ当人達の方が何とも言えない雰囲気である。

「でもよぉ、誰も見ちゃいねーんだろ?

 嘘っぽいよなぁ」

「そもそも顔分かんねえしな」

「もうカリフに着いてんじゃねぇか?」


 最後の一言に野次が飛ぶ。まだ旅の途中であると考えている者の方が多いようだ。どうやらそれらしい噂を流して、事情を知らない彼らの動きを見て、計画的にシェリル達を襲っていたようである。

 もしかしたらあの集団の中に、一人だけ諜報が潜んでいるかもしれない。


 他者に探させ、それらしい情報があれば自分達で密やかに動く。そんな集団が少なくとも二つあるのだ。

「案外近くにいたりしてな」

 にやにやと卑下た笑みを浮かべながら男達は酒を飲む。

 シェリル達は言葉少なにひたすら料理を食べ続けた。


 その後も男達は謎の王女を肴に酒をあおり続けている。くだらない全く偽りの話から、シェリル達が実際に山賊に襲われた時の話まで、あらゆる話が噂として流れていた。

 山賊の話題の時ばかりは、アンドレアルフスが「あのクソババア、やっぱりか」とぼそりと呟いた。


 彼らの話す噂話を聞きながら食事を終えたシェリル達の気持ちは、「とても面倒な事になっている。」これに尽きた。

 そして宿での、あの会話に繋がるのだった。

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