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贖う者  作者: 魚野れん
第九章 砂漠の殿下 ─追跡者と噂─
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静かな飲み会

「もう寝たぞ」

「……」

 しばらくシェリルの背中を見つめていたアンドレアルフスが小さく声をかけた。彼の声に反応して影が動く。

 いつからいたのか、アンドロマリウスがすう、と現れ、そのままアンドレアルフスの隣に座る。アンドレアルフスは近くにあった皿を取り、アンドロマリウスへと渡す。


「俺は、シェリルの問いへの答えを持っていないから助かった」


 皿の上に乗っている大きな卵の燻製に手を伸ばし、食べ始めた。

「面倒な事ばかり俺に押し付けてんのかー?」

「……いや、最近シェリルはお前に懐いているようだから、答えを持たない俺と共にいるより有意義だろう」

 長い溜め息を吐きながら、アンドレアルフスが言えば、アンドロマリウスはそうではないと否定する。

 卵を食べ終えた彼は口の端についた卵の黄身を中指で拭い、ぺろりと舐めた。


「それこそ、役割だろう」

「は、よく言うよ。

 まあ……俺はシェリルの事気に入ってるから、こういう面倒は喜んで引き受けるけどな」

 アンドレアルフスは手元に用意した酒瓶から器へと中身を注ぐ。二つ用意された器には、なみなみと蒸留酒が注がれていた。


 ほらよ。と、ことりと置かれた器を手にしたアンドロマリウスは、一口含んで顔をしかめた。

「これは人間の飲めるものじゃないだろう」

「いや、飲むらしいぞ?」

「……」

 数秒液体を見つめ、もう一度胃へ流し込む。風味のない、ただアルコールだけを感じる液体であった。


「まあ、普通は混ぜて飲むんだがな。

 香りの強い果物とかをさ」


 そう言ってアンドレアルフスはレモンを絞り、彼の器へと加えた。その様子を見ながらアンドロマリウスが卵に手を伸ばす。程よい大きさにスライスされていたそれは、元々はシェリルやリリアンヌ用に用意されたものだろう。

 卵を食べながら酒へと手を伸ばす。

「酒はワインが一番だな……

 リリアンヌは放っておいて大丈夫か?」

 リリアンヌの名を出され、アンドレアルフスの手が止まる。だが、それは一瞬の事で、持っているレモンを自らの器にも加えた。


「あれは大丈夫。

 むしろ相手にされる男どもが心配なくらいだぞ」

 くい、と勢い良く酒をあおる彼を、信じられないものを見るかのようにアンドロマリウスが見ている。

「リリアンヌの奴、女王様になって好き放題してるさ。

 今頃男どもがひいひい言ってるだろうよ」

「……」

 良いのか悪いのか、リリアンヌの今の状況はシェリルが思う程不遇なものではないらしい。これは単純にシェリルの心配損となりそうだとアンドロマリウスは心の中で溜め息を吐いた。


「日が昇る前には戻ってくるはずだ」

 アンドレアルフスはまた酒をあおる。アンドロマリウスもそれにならって器に口付けるが、ちびちびと舐めるように飲むばかりであった。

「……嫌いなら飲まなくて良いぞ?

 代わりに俺が飲んどいてやる」

 苦笑気味のアンドレアルフスに向けて、アンドロマリウスは無言で器を差し出した。本当に口に合わなかったのだなと、アンドレアルフスは忍び笑いをして受け取った。


「あ、そうだ」

「?」


 アンドレアルフスの忍び笑いに眉をひそめていたアンドロマリウスが視線を向ける。

 彼は皿に残っていた肉をつまみ、口の中へ放り込む。

「面倒な事押し付けて悪かったな」

「交渉の事か」

 軽く頷き、アンドレアルフスは向き合うように体を動かした。アンドロマリウスは干したトマトをつまむ。酒の入った器をちらつかせると、彼は不機嫌そうに首を横に振った。


「それなりの働きをしたら、交渉する。金で動くのが傭兵だからな。

 だが、お前のあの人格で交渉を始めたら不自然だ。

 残るは俺かリリアンヌだが、シェリルを一人にできない。

 そう考えれば、俺が行くのが当然だろう」


 どこから持ってきたのか、アンドロマリウスは小さな瓶を持っていた。コルクをきゅっと捻り、抜けばワインの濃厚な香りが漂った。

 空になっていたアンドレアルフスの器に少しだけ注ぐ。それを見たアンドレアルフスは手にしている器の中身をぐい、と飲み干し近くに置いた。

2018.11.14 誤字修正

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