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贖う者  作者: 魚野れん
第九章 砂漠の殿下 ─追跡者と噂─
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リリアンヌの選択とシェリルの気持ち

「シリル、あんたも楽しみなよ。

 また明日。

 ほら、あたしで良い奴は相手してやるから来な」

 リリアンヌはシェリルの精一杯の演技を揶揄し、背を向けた。彼女の後に男達が続く。彼女についていったのは、半分程度だった。

 残りは単に野次馬として来ていただけなのか、そのままどこかへ行ってしまったり、シェリルとアンドレアルフスの行為を見ていたりとばらばらである。


「シリル、続きは戻ってからしようぜ。

 多分マリウスも戻ってる」

「ん」


 シェリルは頷くとアンドレアルフスの首に両腕を伸ばして抱きついた。彼はそのままシェリルを片腕で抱き上げ、空いている手に皿を持った。

「俺様についてきてもおこぼれはなしだから諦めろよ?」

 その場に留まっていた数人の男に対して牽制の言葉を投げ、アンドレアルフスはテントへと向かって歩き出した。


「突然悪かった」

 シェリルを抱き上げて歩きながら、アンドレアルフスが小さく謝罪する。彼女はすり寄るように頬を寄せ、口を開いた。

「ちょっと驚いたけど、私にはどうすれば良いのか分からなかったから」

「長居するより早く消えた方がよさそうだったからな」

 アンドレアルフスは普段の口調で答え、立ち止まる。テントに戻ってきたのだ。彼はシェリルを降ろしてテントの中へと案内する。


 結界の施された安全地帯へと戻ってきたシェリルは、アンドロマリウスがまだ戻ってきていない事を確認した。

「アンドレ」

 手に持っていた皿を安全な所へと置いていたアンドレアルフスが振り向く。シェリルは俯いていて、表情が分からない。だが、アンドレアルフスには、シェリルが怒っているのだけは分かった。

 彼女の持っている力が程良く芳香を放っているのである。


「リリアンヌの事だね」

「そう」


 シェリルは近づいてきたアンドレアルフスを睨みつけるように見上げる。その口元はきゅっと引かれ、顎に力が込められていた。

「彼女がそういう商売をしているのは知ってる。

 でも、安売りしてほしくなかった」

 口には出さなかったが、シェリルはリリアンヌが自分の代わりに身を差し出したと分かっているのだろう。

 アンドレアルフスからしても、それは真実であると考えている。リリアンヌはシェリルの身を守る為、そんな提案をしたのだ。


 傭兵で身が堅い人間など少ない。拒絶ばかりしていては、不自然である。下手をすれば彼らの興奮を煽り、シェリルの事など構わず力任せに行動を起こす人間が出るだろう。

 野次馬をしていた男共はそれを応援はすれど、シェリルを助けようとはしないだろう。リリアンヌが恐れたのはそこである。


 矛先がシェリルにしか向かっていないのを幸いに、リリアンヌが自ら進んで差し出す事で彼らの気を逸らしたのだ。

 リリアンヌは気の回る女だ。二人が囲まれているのに気が付いたアンドレアルフスは、彼女が言い出す時期を見計らって会話に割り込んだのだった。途中で割り込むのも手ではあるが、それだとリリアンヌとアンドレアルフスの間に主従関係が生まれてしまう。

 傭兵をやっていると、馬鹿でも小さな矛盾に気付くようになる。それができるようにならなければ生き抜く事などできない。

 この小さな矛盾が後でどのような副作用をもたらすか、アンドレアルフスにも見当付かなかった。


 だから、どうしても、アンドレアルフスはリリアンヌが言い出すのを待つ必要があったのだ。そこまで気付いていないであろうシェリルに、これを言っても逆効果である。彼女に無力さを、より強く実感させるだけだ。

 とは言え、わざわざ説明する必要もない。


 恐らくシェリルはリリアンヌの事を守らなければならないと思っているのだろうが、事実は全くの逆である。守るべきなのはシェリルであってリリアンヌではない。

 それを理解していないシェリルは、説明したとしても、結局ら自分の力のなさを感じてしまうのだ。


「リリアンヌは気にしていないと思うが、あんたはそうじゃないんだろ?

 悔しいんだろうが、この世界はそういうもんだ。

 ある意味閉鎖的な空間で生きているあんたには、対応しきれる問題じゃない」

 アンドレアルフスは言葉を選びながら言葉を紡いだ。

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