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贖う者  作者: 魚野れん
第九章 砂漠の殿下 ─追跡者と噂─
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リリの提案とアンドレの乱入*

 剣呑とした空気になろうとしている中、リリアンヌが明るい声でそれを壊そうとする。

「この子は無駄だよ。専属だからねぇ」

「んな事知るかよ」

 シェリルを見つめる彼らの視線は変わらない。彼らの態度は得難い獲物を前に、より意気込んでいるかのような節すらあった。


「リリ」

「ん?」


 シェリルは腹をくくった。こんなどうでも良い奴らと寝るなんてまっぴらである。シェリル自身はこれでもまだ、一応処女なのだ。恋人であったロネヴェは結局最後まで行為に及ぶ事はなかった。

 それをこんなくだらない事で失いたくはない。

「私に何があっても、私が何をしても、私に非はない」

「……」


 恐らく、彼ら全員を伸す事は可能だ。シェリルにはそれだけの力がある。リリアンヌはシェリルを見つめた。彼女はシェリルが何かをしようとしているのを分かっているのだろう。長く溜息を吐いた。


「――あんたら。自分の墓を掘るか、諦めてあたしで我慢するか決めな」

「何だって?」


 リリアンヌが口を歪め、笑みを作る。シェリルも彼女の言葉を理解しきれず、リリアンヌへと視線を移した。

「シリルを犯してマリウスとアンドレのコンビに殺されるか、あたしで我慢して今晩楽しむか。

 あいつらほんとすぐに殺すからねぇ……」


「俺様が何だって?」


 アンドレアルフスの声に、男達でできた垣根が割れる。アンドレアルフスの両手は先程の宣言通りに料理を乗せた皿が何枚もあった。

「あら」

「ああ、またシリル狙い?

 やめとけ、マリウスに殺されんぞ。

 まあ……俺もそれに参加するけど」

 器用にも腕まで使って料理を運んできた彼は、それを近くに置いてシェリルを背後から抱きしめる。シェリルが顔を上げれば、いつもとは少し違うアンドレアルフスがいた。


「見つかっちまったねえ。

 もう選択肢はないよ。あたしで我慢しな」

 辺りでいくつか舌打ちが聞こえた。

 リリアンヌがすっと立ち上がる。つられるようにシェリルも立ち上がろうと体に力を入れたが、アンドレアルフスがしっかりと押さえつけているせいで動けない。


「んじゃ、あたしはこいつらとしけこむから」

 リリアンヌをシェリルが睨み付ければ、彼女はふふんと鼻を鳴らして妖艶な笑みを浮かべた。リリアンヌがシェリルに初めて見せた、娼婦の顔であった。

 邪魔をするなと、そういう事なのだろう。シェリルは声を出したい気持ちを抑え、ぐっと口を閉じた。


「適当に手加減してやれよ、明日がかわいそうだ」

「はいはい、分かってるって」

 アンドレアルフスがリリアンヌに笑いながら軽口を言う。リリアンヌも聞き飽きたといった様子で肩を竦めた。

 シェリルは俯いて拳を握りしめ、顔を上げる気配はない。おとなしくなったシェリルに、アンドレアルフスの拘束が緩まった。

「シリルも欲求不満かあ?」

 シェリルがはっとしたように顔を上げると、アンドレアルフスがにやにやと笑っている。彼はシェリルの額に口付ける。


 シェリルは、今の自分が「シリル」である事を思い出して取り繕おうとした。

「ち、ちが」

 だが、彼女の否定の言葉も半ばで終わってしまった。シェリルの唇をアンドレアルフスが塞いだのである。

 以前のアンドロマリウスとした口付けは力の補充であったが、今回は道理が違う。

 こんな意味のない口付けは想定外である。

「んっ」

 シェリルは「シリル」として、どんな反応をすれば良いのか。


 シェリルが下した結論は、羞恥心を捨てて「欲求不満らしいシリル」としてアンドレアルフスと甘い雰囲気を作る事だった。男達を相手にするのに比べたら、アンドレアルフスを相手に口付けをする事など造作もない。

 シェリルの方も口付け返す。羞恥心を捨てるとは言ったが、人前でこんな事をするのは初めてである。

 羞恥心から生理的に頬が赤らんでいくのは止められそうになかった。

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