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贖う者  作者: 魚野れん
第九章 砂漠の殿下 ─追跡者と噂─
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傭兵最後の夜

「明日でこの仕事も終わりだな」

 アンドレアルフスが伸びをしながら言った。リリアンヌがあくびをする隣で、シェリルは小さく頷く。


「周りも賑やかになってんな。

 はは、おもしろそうじゃねーか」

「まだ仕事は終わっていない」

「シリル、そんな硬い事言うなって」


 シェリルがつれない返事をすれば、アンドレアルフスが上から被さるように肩を回してくる。彼女はそれをうっとうしそうに剥がして溜息を吐いた。もちろん、フリであるが。

 今は最後の夜になるからと商人が奮発してくれた肉を焼き、宴を開いている所である。




 今日は忙しかった。午前には盗賊が荷物を狙って襲って来、午後はヒポカ等の家畜を狙って大鷲がやってきた。

 盗賊は人間だから簡単にアンドロマリウスとアンドレアルフスを中心に傭兵達で撃退したが、大鷲の群は少しやっかいだった。


 近接武器があまり役に立たないのである。

 野生の動物から荷を守るとはあまり考えていなかった傭兵が多く、基本的な装備は剣である。そんな彼らは、襲いかかる鷲の爪から家畜を守る事しかできず、鷲と戦う以前の問題だった。


 誰もいなければ、アンドロマリウスは翼を顕現させて空中で戦っただろうし、アンドレアルフスはおそらく大鷲に飛び乗って戦っただろう。

 だが、今は人前である。人外の動きをして、目立つ訳にはいかない。そもそも彼らが悪魔であると知られたら、それこそカリスに辿り着けなくなる。


 そんな時に活躍したのがシェリルである。


 彼女は持っていた弓矢をつがえ、適当に空へと放つ。飛んでいった弓矢は途中ではじけ、大鷲の翼を傷つけた。

 実際の所、弓矢は術式による氷でできており、それが組み込まれている式の作用で粉々に飛び散っただけである。

 大鷲に当たらなかった分は、降り注ぐ事なく霧散した。大鷲を倒した訳ではないが、大鷲の群を驚かせるには十分だったのである。

 意外な襲撃者を難なく撤退させたシェリルは商人から大いに感謝されたのだった。




 ある意味、本日の功労者がすぐに座を辞す訳にもいかず、シェリル達はだらだらと酒を摘みながら傭兵の騒ぎを見ていた。

 そんな中、アンドロマリウスだけは席を外している。

 商人と報酬の交渉をするのだそうだ。言い出したのはアンドレアルフスであるが、今のアンドレアルフスは交渉するような人間ではない。

 仕方ないといった様子でアンドロマリウスが交渉に行ったのは自然な事でもあった。


「シリル、もっと飲んだらどうだ」

「別にいらない」

「あたしが貰うよ」


 シェリルが断ると、リリアンヌが代わりにアンドレアルフスが差し出した器を受け取り一気に飲み干す。のどを鳴らした彼女は満足そうに頷いてまた食事へと手を伸ばした。

「俺様、今日は気分が良いから他のも取ってきてやろう」

 アンドレアルフスはそう言って立ち上がる。シェリルが彼に視線をやれば、すぐ戻ると手をひらひらとさせてそれに答えた。


 女二人になった途端、それを見計らったかのように周りに傭兵達が群がってきた。シェリルはそれを面倒そうにゆっくりと見回し、リリアンヌはおかしそうに笑った。

「シリル、つまらなそうだな」

「向こうで楽しく過ごすか?」

 シェリルはにやけた顔で周りを囲う男達をうんざりとした眼差しで見回し、溜息を吐く。リリアンヌはけらけらと笑う。


「あんたらもやるねえ」

「へへ、もう会わないかもしれねーんだ」

「凍らされっぞ!」


 リリアンヌの言葉を返した男に野次が飛ぶ。げらげらと周りの傭兵が笑い出した。シェリルは内心気が気でなかった。近くにいるはずのアンドレアルフスだが、まだこちらに戻ってくる様子はない。

 傭兵がシェリルとリリアンヌを囲うように集まっている為、どこにいるのかさえ分からない。

 舐めるような、下心のある視線を受ける事が今までなかったわけではないが、それでも相手は集団である。不快感は数倍違う。


「うせろ。

 私はお前達と楽しむ予定はない」


 シェリルの、小さいがはっきりとした声がした。一瞬、周りにいる傭兵の動きが止まり、時間が止まったかのようだった。

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