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歌の練習も大事

 ここ、数日のアイドル活動の主な内容と言ったら、動画投稿の為のダンスの練習と体力作りばかりである。


そして、肝心の歌を歌うという、アイドルならではの事は、未だに行っていなかった……


「それじゃあ、今日もダンスの為の体力作りをやるわよ!!」


女月は、いつもながら張り切った様子で言った。


「また今日も、体力作り? そろそろ、歌の練習をやろうよ!!」


「麻子ったら、文句を言わないの!! 歌って踊るアイドルにだって、肝心な体力がなければ、なんの意味もないじゃないの!! 体力がなければ、肝心のダンスをやりながら歌を歌うという事なんて出来ないわよ!!」


「確かにそうだけどさ、私達がアイドル活動を始めてから、ダンスの練習と体力作りばかりだよ!!」


いつも、ダンスの練習と体力作りの練習メニューしか考えない女月に対し、私は文句を言う様に抗議をした。


「先日のランニングの後に言ってたじゃない、何事にも日々の練習の積み重ねが大事だと」


「確かに、そんな事を言ったけど、それとこれとは、また別だよ!!」


「別なんかではないわ!! ダンスの方が下手だったら、動画を観てくれる人達に悪いでしょ!! だから、毎日の体力作りとダンスの練習は欠かせないわよ」


「だから、私は体力作りとダンスの練習を辞める様な事は、一言も言っていないじゃないの!!」


「麻子が今言っている事は、似た様なモノよ!! 別の事をしてキツイ事から逃げようとしているのよ!!」


「逃げようなんてしていない!! 私達がやっているのはアイドル活動動画をアップするのが目的であって、ダンス動画をアップするのが目的ではないんだから!!」


「アイドルと言ったら、歌よりもダンスの方が大事よ!!」


そんな感じで、この日は私と女月との意見が対立してしまい、練習を始めず、口ゲンカへと発展してしまっていた。


 すると、そんな調子で口ゲンカをやっていた私と女月との間に、紗美が間を割る様に入り、私達の口ゲンカを止めようとした。


「とりあえず、阪畑さんに尾神さん、落ち着いて下さい……」


間に入った紗美は、私と女月との胸を手の平で押さえる様にしながら、私と女月の口ゲンカを止めた。


「そう言う紗美さんは、どっちの味方なんだよ!!」


「そうよ!! 答えなさい?」


「えぇ!? えぇぇぇ!?」


私と女月が、紗美にどちら側の意見の味方をするのか迫るような眼つきで聞いてみると、紗美は困った様子となってしまった。


「紗美さんは、私と一緒で、やっぱり歌の練習も大事よね?」


「歌の練習よりも、ダンスや基礎体力を強化して行く方が大事よ?」


更に、私と女月の目つきは、紗美を睨み付ける様に見ながら、迫る様に言った為、紗美は更に困惑をした様な様子となってしまった。


 そして、紗美はほんの少しの間黙って考え、ひとつの答えを出した。


「確かに尾神さんの言う通り、ダンスの練習や基礎体力を付けるトレーニングは大事よ」


「ほらっ、私の言う通りでしょ!!」


紗美の意見を聞いた女月は、私の顔を見ながら、まるで勝ち誇ったかのような表情をやり出した。


「でも、わたくし達がダンスの練習をしたり、基礎体力を付ける為のトレーニングをやるのは、動画投稿を使ってのアイドル活動が目的でしょ。でしたら、ダンスや体力作りばかりでなく、ちゃんと歌の練習も行わないとダメよ」


「ほらほら、やっぱり、私の言う通りだったでしょ!!」


しかし、紗美の言葉には続きがあり、その続きの内容こそ、私の意見と同意見であった。


紗美が、まさかの私と同意見であった為、先程まで勝ち誇っていた女月の表情は一変し、残念そうに驚く表情に変わってしまった。


そして、代わりに、今度は私が女月に勝ち誇った表情を行った。


「確かに、桜森さん…… だけでなく、麻子の言う通り、ダンスや体力作りばかりをやらずに、歌の練習もやらないとね」


「そうだよ。ゲームと一緒で、ひとつにステータスを振り切っていては、上手くバランスは取れないでしょ? アイドル活動だって、それと一緒だよ!!」


「確かに、麻子の言う通りね。きちんとバランスよく練習をして行かないと」


「そうだよ。じゃあ、早速、歌の練習をやろうよ!!」


「そうね」


その後、私と女月の口ゲンカは納まり、この日は歌の練習をやる事で、話は合意した。


同時に、私と女月の口ゲンカを止めた紗美は、先程とは異なり仲良くなった私と女月の姿を見て、ホッと一安心をした様子でいた。



 その後……


この日からいよいよ歌の練習を始めるわけなのだが、まずは歌う歌を探すところから始まった。


「とりあえず、私達がいつもダンスの練習で使っている、この歌でいいかしら?」


「私は、それでいいと思うよ。いつも聞いている歌なんだから、もう歌詞もリズムもだいたいは覚えちゃったし」


「わたくしも、それでいいと思いますわ。お2人の方がアイドル活動は長いので、お2人に任せますわ」


歌の練習を始めるに辺り、女月が自分のスマホからいつもダンスの練習に使っている歌の動画を見せると、いつも聞いていた理由とあってか、私と紗美は特に反対をする事もなく、賛成をした。


「じゃあ、まずは私から歌ってみるね!!」


そう言って、私はいつもダンスの練習中に、飽きるほど聞かされていた、いや、流れていた歌を歌い始めた。


 ダンスの練習中は、歌の歌詞を聞いている余裕はないので、歌詞は完全には覚えていないが、歌のリズムだけは充分に覚えているので、スマホに表示された歌詞を見ながら、私はその歌を歌った。


そして、歌を歌い終えると、私は早速、その歌を聞いていた女月と紗美に歌の感想を聞いていた。


「ねぇ、私の歌はどうだった?」


「う~ん、なんか微妙な感じ」


「特に下手でもないし、上手くもない。本当に微妙なラインだったのよ」


えっ!? そんな反応!?


歌っている時は、私は動画投稿サイトで歌動画を投稿している歌い手さんの様に上手く歌えているとばかり思っていた。


しかし、そんな歌も他の人が聞いたら、決して上手い歌とは言えないレベルであった。


その為、私は少し残念そうにガッカリした様子となった。


「そうなんだ…… 歌も、これから練習をして行かないとダメだね。それにしても、どうやって歌って上手くなるのかしら?」


「きっと、ダンスや体力作りと同様に、毎日歌い続ける事が大事なの。なので、わたくしも歌いますわ!!」


そう言って、次は紗美が、先程私が歌った歌と同じ歌を歌い始めた。


 紗美の歌声は、動画投稿サイトで投稿されている歌い手や、プロの歌手には劣るものの、一般人の歌としては、普通に上手いと思えるレベルであった。


そして、歌を歌い終わると、紗美は照れくさそうな表情をやりながら、私と女月に歌の感想を聞いて来た。


「で、わたくしの歌はどうでしたか?」


「まあまあ上手いと思うよ」


「さっきの麻子の歌に比べると、上手い部類かも知れないわね」


「なるほど、そうですか」


私と女月から歌の歌唱力の感想を聞いた紗美の表情もまた、先程の私と同じ様な感じの表情であった。


恐らく紗美も、私と同様に、自分で歌っている時は、物凄く上手く歌えていると思っていたのだろう。


「わたくしは、楽器の演奏は出来ても、歌を歌うのは、そんなに得意ではないのよね」


その後、紗美は言い訳をやる様に、歌を歌うのが得意ではないと言い出した。


 そして、今度は女月が私と紗美が歌った歌を歌おうとして、自分のスマホの画面を見ながら立ち始めた。


「せっかくだし、今度は私が歌うわ」


「今度は尾神さんですね。頑張ってください」


そう言って、女月は紗美が応援をする中、歌を歌い始めた。


そう言えば、女月の歌声ってどんな感じだろう……?


女月とは、今まで一緒にカラオケにも行った事がなかった私は、女月の生歌を聞くのが、この時が始めてであった。


そして、歌のイントロが終わると、女月はまるでカラオケボックスで歌っているかのように、ノリノリな気分で歌い始めた。


「うぅ!?」


その直後、私の耳は、黒板を引っ掻く様に嫌な音でも聞いたかの様な感じになった。


女月の歌声は、とても聞けたものではなかった。


ハッキリ言って、下手過ぎる。


タダの音痴であった……


そんな音痴な歌を、楽しそうに歌っていた女月もまた、歌い終えると、私と紗美に歌の感想を聞いて来た。


「どうだった? 私の歌声は」


女月は、自分の歌が上手いとでも思ってこの質問をしたのだろうと、私はうすうす感じていた。


「う~ん、上手くはなかった」


「阪畑さんの方が、上手かった気がする……」


直球に、下手という言葉を出せなかった私と紗美は、遠回しに下手だという事を言った。


「ウソ!? うそでしょ……」


その反応を見た女月は、やはり、自分の歌は上手いと思い込んでいたらしく、予想外な反応を聞いて大いに驚いていた。

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