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意識

 それは、ゴールデンウィーク明けの昼食時のほんのささいな会話から、全てが始まった……


その日以降、私達の日常は大きく変わり、まるで何かの部活動に入ったかのように、いや、まるでアイドルにでもなったかの様な気分になった。


なぜなら、あの日以降、私達は動画投稿サイトを使い、ダンスの動画をいくつかアップしてきた。


始めての投稿以降、いくつか動画をアップしてきたおかげもあり、始めてから1ヵ月が過ぎた今では、再生回数は10を超えるまでに成長をした。


そんな感じで、私、麻子と友人の女月と紗美は、今日の放課後も、いつもの様に部活動でもなんでもない、疑似アイドル活動の練習に専念をしていた。


「はっ、ワン・ツー・ワン・ツー」


このアイドル活動において、主にダンスの振り付けや指導の担当である女月は、今日もまた私と紗美のダンス指導に力を入れていた。


「はぁ、はぁ、はぁ…… このダンス、結構難しいね」


「そうですわね。アイドルのダンスも、イメージとは異なり、結構ハードですわ」


ご覧の通り、鬼コーチである女月のダンス指導は厳しく、ダンスの練習をしている最中に、私達はもう、ヘトヘトな状態であった。


「ほらっ、疲れた表情をしていないで、笑顔を絶やさず忘れない!!」


「んなこと言ったって、疲れてるんだよ~」


「そんな事言っていると、アイドルにはなれないわよ」


「なれないわよって…… 私達は動画投稿サイトを使っての、アイドルごっこみたいなものじゃないか~」


「甘い!! そんな考えでいてはダメよ!! 例え、誰でも自由に投稿できる動画投稿サイト内でのアイドル活動だからと言って、政策に手を抜いていては、その動画を観てくれる閲覧者の方達に悪いわよ」


確かに、女月の言う通り、動画を投稿する以上は、手を抜くような真似は出来ない……


とは言うものの、既に体力の限界……


「そうよ、尾神さんの言う通り、私達のアイドル活動には手抜きは無用よ。そして、どんなに疲れている時でも笑顔を絶やさない様に踊れる様に努力しないと」


「そっ、そうだね…… その為には、私達も頑張らないと!!」


ダンスの練習で疲れ果てて、倒れそうになった私は、紗美の頑張ろうという言葉を聞き、私もどこからか眠っていた力が沸き、練習を頑張ろうという意欲が湧いてきた。


 そして、倒れる様にしんどかったダンスの練習が終わると、休憩に入る事もなく、今度はランニングの練習が始まった。


「さっ、次は校内10週よ!!」


「えぇ~!!」


「そう言わずに走るの。さっ、私について来て」


さすがに休憩がないまま、次の練習に入ろうとしていた為、私と紗美は絶句の表情となってしまった。


「ほらっ、運動部の人達ってのは、このくらいの練習を軽々とこなしているのよ」


「確かに、そうだと思うけど…… あの人達は、元々が体育会系だから体力が持つんだよ」


「ほらっ、麻子、言い訳はしないの! 体育会系の人達全員が、始めから誰だって体力があったわけじゃないのよ。みんな、毎日の練習を積み重ねた結果なのだから」


確かに、そうだけれども、私はハナから体育会系じゃないよ~


「そうですわね。尾神さんのいう通り、確かに毎日の練習の積み重ねは大事ですわ。だからこそ、頑張らないといけないの」


「そうよ、その意気込みよ!! さぁ、私の後について来て!!」


「はいっ!!」


そう言うと、女月と紗美は、校内10週のランニングを行う為、走り始めた。


その為、私一人で勝手に休憩をとるわけにもいかないので、女月と紗美の後を追う様に、一緒に走る事にした。


 先程の激しいダンスの練習の後だけでも充分に疲れるものを、今度は6月の湿った天気の中を走るランニングのせいで、先程以上に私の体力は失われようとしていた。


「はぁ、はぁ、はぁ…… それよりも紗美ちゃんはしんどくないの?」


「わたくしだって、物凄く疲れていますわ」


この場合、疲れていないと言う方が凄いよね……


まぁ、疲れていると言うのが、普通の解答なのだから。


 その後も、私は少ない体力の中、ランニングをやりながら、紗美と一緒に話をやる事にした。


「だったら、さっき、休憩が欲しいって言ったらよかったじゃん」


「確かに、その方がよかったのかも知れないですわね。でも、それをやるよりも、続けて練習をやった方が、後で自分ンがより成長できると思いまして」


「成長できるとは?」


「体力だけでなく、精神面もですわ」


凄い、紗美の考えは私とは異なり、基本的にラクな方へ行こうとする私とは異なり、自分にとって成長が出来ると思う面があると、例え疲れていようともそちらを選ぶ紗美の根性は、何気に凄いよ。


「確かに、厳しい修行を行うと、強くなるもんね」


「そうよ、始めはダメでも、日々の修業を重ねて行く事により、自分自身は強くなるものよ」


「そうなんだ。じゃあ、私ももう少し頑張らないと」


「それが良いわ」


そして、体育会系でもない私の、曇りという天気のせいで無性に怠く感じるランニングは、共に頑張る紗美がいる事で、つらい練習もなんとか乗り切れそうな気分になってきた。


「実は、わたくしは初めから、ビデオカメラの撮影が上手かったわけではないの」


「えぇ、今はあれだけ上手いのに!?」


ランニング中の、突然の紗美の発言に、私は疲れが吹き飛ぶくらい驚いた。


以前に見せてもらった映像は、素人の目からは上手く判断が出来ないけれども、少なからずはそこらの素人よりも上手く、プロにだってなれるくらいの上手さだったと思う。


「上手いのは、ビデオカメラの性能のおかげよ。肝心の撮影する人の腕が上手くないと、どんなものを撮影してもダメなのよ」


「そう言うものなんだ。私達から観たら分からないけれども、やっぱり違いとかあるんだ。ビデオカメラの撮影にも」


「もちろん、あるわよ。上手い人が撮影をする映像なんて、例えスマホのビデオカメラを使っていても、上手く撮影をするのよ」


「どういう感じに、上手く撮影をやるの?」


やっぱり、ビデオカメラの素人の私には、撮影の上手い下手の基準なんて、分かるはずがない。


「上手い人の撮影は、下手な人の撮影に比べると、構図が全然違うのよ」


「なるほど、構図ね……」


納得をした様な感じで言ったみたものの、やっぱり素人には分かるはずはない。


「最も、モノの捉え方が上手い人と下手な人とでは違うのよ。例えばリンゴひとつを例にとってみても、下手な人はそのまま撮影を始めるけど、上手い人は光の調整をしながら、いかに綺麗に撮れるかを気にしながら撮影をやって行くの。そうやって、綺麗な映像は出来るのですわ」


「なるほど、要はプロ意識を持たないと、良い物は作れないというワケだね」


「少し違うけれども、ほとんど似た様なモノね。つまり、何をやるにも手を抜いてはダメって事なのよ」


「そうだね! じゃあ、このランニングだって、私達のアイドル活動の練習のひとつつだから、観てくれる閲覧者の事を思うと、手は抜く事なんて出来ないね」


「そうですわ」


そんな感じで、私は紗美との会話で、例え動画投稿内での疑似アイドル活動だからと言って、動画を投稿する以上、手を抜かずにプロ意識を忘れてはダメだと言う事を、紗美から強く教えられた。


「それに、わたくし、この学校に来た時に、映像関連の部活がない事を凄く残念に思っていたの。そんな時に、麻子さんや女月さんからのビデオカメラの撮影お誘いがあったのをきっかけに、私も一緒にアイドル活動をやる事にしたの」


「そういや、そうだったね」


「でも、ただ映像を映しているだけでは良い映像は撮れないと思ったので、こうして、麻子さんと女月さんと一緒にアイドル活動を始める事にしたの」


「それで、紗美ちゃんは、私達のアイドル活動に参加をしてくれたのね」


「まぁ、理由はそれだけではなくて、ただ単に、女月さんから見せて頂いた動画を観ていた時に、とても楽しそうだったので、わたくしも一緒にやってみたいと思ったの」


なるほど、だから紗美は私達と一緒にアイドル活動をやろうと思ったのか。


初めて会った時は、特にやりたい理由は語っていなかったので、どうしてかと少し疑問には思っていたけど、ついに理由は分かった。


「そうだったんだ!! じゃあ、これからも観る人が楽しいと思う様な動画を作れるように、私達ももっと頑張らないとね」


そして私は、今はダンスだけしか投稿していないアイドル活動の動画だが、少なくともその動画を観て楽しんでくれる人がいると知り、再び、ランニングを頑張ろうという意気込みが湧いてきた。


「あと、こんなところで言うのもなんだけれども、わたくしをアイドル活動に誘ってくれてありがとう」


「いえ、こちらこそ。確かに、こんなところだね」


そんな感じで、6月の曇りの日のさえない天気の中でのランニングは、疲れを忘れるくらい、私は紗美との会話を楽しみながら、時には励まし合いながら、一緒に走った。

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