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ライブ②

 そんなライブも、時間が経てば終わってしまう。


私達のラストライブは、あっさりと終わってしまった。


最後の一曲を歌い終えると、私達は、見に来てくれた観客達に感謝の気持ちを込めて、頭を下げた。


これで、【D-$】の活動が終わってしまう。


このまま、終わって欲しくない!!


もっと、もっと、みんなと一緒に居たい!!


私の青春は、ここで終わらせたくない!!


幕が下りるとき、私は、これで本当に【D-$】が終わってしまうのが、心の底から嫌であった。


でも……


当日のライブに、体育館を満員に出来なかったら、【D-$】を解散すると言ったのは、この私。


無理を言ってまでこじつけた文化祭のライブだけに、私も沢谷先生との約束は果たさなければならない。


これも、ひとつのケジメなんだから……


ワガママは、言えないんだ……


 そして……


体育館の幕が下りた瞬間、私はその場にしゃがみ込み、先程まで少しでも我慢していた涙を、一気に流した。


「うっうっうっ…… うぇ~ん」


私は、その場から動こうとはしなかった。


ここで動いてしまえば、その時点で【D-$】が終わってしまうと思い、その場でしゃがみ込んで、ただ泣いていた。


 すると、そんな私の事を心配した女月が、私の右肩を揺らし始めた。


「ちょっと、麻子ったら!!」


「だって、【D-$】がこれで終わりだよ!? 終わっちゃうんだよ。悲しくないの?」


女月の姿を確認した私は、咄嗟に女月に抱き着き、今度は女月の胸元で泣き始めた。


「ちょっと麻子!! はっ、鼻水付けないでよ!!」


「仕方ないじゃない!! うぇ~ん」


私が女月の胸元に抱き着きに行ったせいで、女月の服には、私の鼻水が付いてしまった。


ゴメン、女月……


せっかくの衣装を、私の鼻水でビチョビチョにしてしまって……


そんな私に対し、女月は私の頭をやさしくなでた。


「何、泣いているかは知らないけど、この声が聞こえないの?」


「えっ!?」


鼻水を付けられて困った顔の女月に言われるがまま、私は一旦、泣くのを止め、耳を澄ましてみる事にした。


すると、ステージの向こう側の観客席の方から、物凄い声援が聞こえてきた。


「アンコール! アンコール!!」


この声援を聞いた瞬間、私の顔から、悲しさの涙は消え始めた。


「やりましたのよ、麻子さん。わたくし達は目標を達成出来たのですわ」


「どっどうやら、わたし達のライブ中に、突然、大雨が降ったらしくて…… その影響もあって、みっ、見事に、体育館が満員になったの」


 確かに、詩鈴の言うとおり、耳を澄まして聞いていると、体育館の屋根に大粒の雨が当たっている音が聞こえてくる。


とりあえず、沢谷先生との当初の約束は果たせた。


それで、また、今までの様に、女月と紗美と詩鈴、そして私の4人で【D-$】の活動が出来る…


出来るんだ!!


これで、堂々と、動画投稿サイト内で【D-$】としての活動が出来るんだ!!


この瞬間、私の悲しく泣いていた表情は、次第に喜びの表情に変わっていった。


「麻子!! とりあえず、私達は目標を達成出来たのだから、これからも、【D-$】としての活動が出来るんだよ!!」


そう言いながら、今度は女月が私を強く抱き始めた。


「くっ、くるしぃ~」


女月は、強く抱きしめている為、凄く苦しい……


「しかし、ライブ中に大雨だなんて、こんな奇跡があるのですわね」


その様子を、紗美は奇跡だと言いながら、嬉しそうに私と女月の様子を見ていた。


「でも、ただ満員になっただけでなく、『アンコール!』と言ってくれるぐらいなんだから、私達の実力は本物だったってのが、見事に証明されたね」


そして私は、体育館から聞こえてくる『アンコール!』という声援を聞き、自分達のやって来た苦労と努力の成果が出たと、改めて実感をした。


それは同時に、私達【D-$】の人気が証明されたという証拠である。


私は、この瞬間だけでも、まるで本物のアイドルの様になれた気分がした。


 さて、そんな事はさておき……


とりあえず、体育館を埋め尽くすほどの観客達からの声援に答える為、私達は、もう一度ステージの上に立った。


「それじゃあ、みんな、楽しみに待っていてくれているファンの人達の為に、アンコールに答えるわよ!!」


「そうね、行きましょ!!」


「アンコールも、楽しみですわ」


「そっ、そうですわね。アンコールでも、すっ、凄く緊張します」


私の一声と共に、女月と紗美と詩鈴も、アンコールに備える為、再びステージの各位置に配置をした。


「でもさ、アンコールと言っても、何を歌うの?」


「せっかくだし、あの歌にしようよ!」


「あの歌とは?」


そんな中、女月はアンコールに何の歌を歌うのか疑問に思いながら聞いて来た為、私は咄嗟に思いついた、あの曲を歌う事に決めた。


「決まってるじゃない!! 私達が始めて作った、あの曲だよ!!」


「あぁ、あの曲ね」


「凄く良いと思いますわ」


「たっ、確かに。初めて作った曲だし、それなりの思い入れもありますし」


「でしょ!! それで決まりだね!!」


そして、アンコールに歌う歌を、初めて自分達で作った歌を歌う事を言うと、女月だけでなく紗美と詩鈴も、それに喜んで賛成をした。


 そして、私達がステージの上に立ったのと同時に、下りていた幕は再び上がり始めた。


先程とは異なり、今度は、始めからアイドルらしく明るい表情で。


だって、ステージの向こうには、多くの声援を送るファンがいるんだもの。


それ以外にも、私には凄く頼りになり、私をいつも助けてくれる仲間達がいる。


まず、私の幼馴染である女月は【D-$】の事になると厳しくなる分、誰よりも【D-$】の事を思っていてくれる。


また、動画投稿を始めてから、新しく友達になった紗美さんは、【D-$】の映像をいつも綺麗に映してくれ、時にはは私達【D-$】の悩みの相談者であり、良き仲介者でもある。


そして、普段は恥かしがり屋で人見知りではあるが、いざ、歌を歌う時になれば、歌の上手さにより誰よりも目立つ詩鈴は、私達【D-$】と出会う事により、その才能は少しずつ開花し始めていった。


そんな紗美と詩鈴とは、動画投稿サイトがなければ、出会う事がなかったかも知れない。


でも、動画投稿サイト内でアイドル活動をやって行くというひとつの目標の元、出会う事が出来た。


やはり、これもまた、ひとつの運命なのだろう……


 そして今、友達同士で作った動画投稿サイトだけの疑似アイドルが、今、この瞬間だけは、まるで本物のアイドルになった気分である。


その証拠に、ステージの幕が上がり体育館を見てみると、先程は涙で霞んで見えなかったが、そこには、私達を応援してくれる、数多くの観客がいた。


その観客達の期待に答える為、私は最高にハイテンションな気分になり、目の前にいる多くの観客という名のファンの為に、改めて大きな声であいさつをした。


「アンコール、ありがとう!! みんなの声援に答えて、私達【D-$】は戻って来たよ!!」


そして、今度は本物のアイドルの様に、多くのファンが見守る中、私達【D-$】は、アンコール曲として、自分達で初めて作った歌を歌い始めた。


それと同時に、更に体育館は熱狂の渦に溢れた。


 同時に、この日の私達は、時間を忘れるかのように、このライブをやっている今と言う瞬間だけ、ごっこではなく、本物のアイドル歌手になった気分で、私達の目の前にいる、私達のライブを見に来てくれた観客達を楽しませる為に、私達は全力でこの文化祭のライブを楽しんだ。


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