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ライブ①

 ついに、この日がやって来た。


そう、私達が通っている学校の文化祭当日の日である。


この日は、朝から他校の生徒を始め、一般人がたくさん、私達の学校の文化祭を楽しみに来ていた。


そんな来場者に答えるかのように、学校の至る場所では、生徒達の自作品の屋台や作品の展示、ステージのショーで盛り上がっていた。


この日の昼間の学校は、授業で静まり返った雰囲気とは異なり、まさに祭りの如く、学校中の至る場所が盛大に盛り上がっていた。


 そんな中、私達【D-$】のメンバーもまた、この日の午前中は、各教室で出されている屋台や展示品を見たりして楽しんでいた。


午後から始まる運命を決める、文化祭ライブに向けて、今は、その緊張を忘れるつもりで、文化祭を楽しんでいた。



 そんな楽しい文化祭の午前の部が終わり、いよいよ午後の部が始まった。


午後の部のメインと言えば、体育館で行われる、ステージショーやライブである。


そのステージライブの1つに、私達【D-$】も出演する為、私達は今、ステージである体育館の舞台裏で、紗美が作ってくれたまさにアイドル衣装とも言えるフリフリスカートの魔法少女の様に可愛いらしい衣装を着て、スタンバイをしていた。


この衣装で、今日のライブは成功するぞ!!


と、思いながら、今は、先にステージの上に立ってライブをしている人達の披露を見ていた。


そんな中には、地味にクラスメイト全員で合唱を行っている人達もいた。


例え、文化祭のライブと言えども、盛り上がる要素がなければ、人は集まらない。


その為あってか、せっかくクラスメイト全員で必死に練習をしてきた筈だと思われる合唱には、あまり人が集まらず、体育館に設置されているパイプ椅子の席は、ガラガラの状態であった。


合唱だけではない。


その他にも、仲の良い友達同士で行った漫才や、クラスメイト達と一緒に行う、素人の演劇にも、先程の合唱と同様に、人が集まっていない。


人が集まらなければ盛り上がらない、体育館でのステージショーやライブ。


いくら、盛り上がらなくても、実際にステージの上に立って、今まで練習をやって来た人達にとっては、今までの練習を含め、この文化祭でのステージの上に立って、今までの練習の成果を披露した事全てが、青春の思い出の1ページになるんだろな。


今日の私達のライブもまた、そんな人達の様に、青春の思い出の1ページとなるのだろうか?


 そんな感じで、私は先にステージの上に立っている人を、舞台裏から見ていると、またしても詩鈴が緊張をし始めた。


「もっ、もうすぐですよ…… わたし達のラッ、ライブが」


「そうね。もうすぐ始まるね」


「どっ、どうして、さっ、坂畑さんは、そんなに落ち着いていられるのですか?」


「なぜだか分からない。けど、今までの様には緊張しないの」


確かに、詩鈴の言うとおり、今日の私は緊張をしてはいなかった。


今までなら、こういった時は、凄く緊張をしていた。


そう、夏休みの時の、ライブの様に。


でも、あの時とは異なり、緊張はしない。


緊張をしないのは、1つの覚悟のせいか?


素人が人前のステージに上がるのではなく、その道のプロがステージに上がる様に、それ相当の覚悟ってのが、いつの間にか、心の中に出来たのかも知れない。


そのおかげで、文化祭ライブ直前の今でも、大した緊張をしないのかも知れない。


「きっ、緊張をしないなんて、すっ、凄いですね」


「確かに、麻子にしては、珍しいわよ」


「そうかな?」


「そうよ。いつもの麻子なら、こういった時なんて、凄く緊張をしているじゃない」


「そんな事ないって!!」


「いやっ、いつもなら、絶対に凄く緊張をしてるって」


そんな感じで、私は女月と緊張をしているしていないでの言い合いが始まった。


 そんな体育館の舞台裏での言い合いの最中、紗美が私に何か言いたい事があった為か、私に声をかけてきた。


「そう言えば、麻子さん」


「何?」


紗美に声をかけられた私は、女月との言い合い中だったが、その言い合いを中断して、紗見の方を振り向いた。


「今日のライブでは、カメラのスタンバイはどうします?」


「そうねぇ…… 一応、カメラのスタンバイはやっておいて」


「分かりましたわ」


紗美が、私に言いたかったことは、いつも動画の投稿用に使っているカメラのスタンバイの件であった。


そして、私は、いつもの事の様に、紗美にカメラをスタンバイするよう、声をかけた。


 すると、その話を聞いていた女月が、カメラのスタンバイに文句があるかの様に、何か言ってきた。


「カメラなんてスタンバイしても、大丈夫なの?」


「確かに、先生に見つかると不味いのは分かるよ」


「だったら、なんでカメラのスタンバイなんかするのよ?」


「それは、もし体育館のステージを満員に出来た時には、今度は学校公認で【D-$】の活動が出来るじゃない。その時に備えてのカメラのスタンバイだよ」


「なるほどね。それでカメラのスタンバイをしたわけね」


「そう。最も、カメラのスタンバイの事が、先生に見つかった時には、自分達で観る様に撮影をしたと言えば、大丈夫だよ」


「ホントなの?」


「ホントに、大丈夫だよ!!」 


私は、カメラの設置に心配をしている女月を説得させるように言い聞かせた。


 すると、時間もいよいよ近づいて来たのか、文化祭の実行委員の人が、舞台裏で待機をしていた私達に、声をかけに来た。


「【D-$】のみなさん、そろそろ出番ですよ」


ついに、この瞬間が来た!!


舞台裏からでは、どれだけの人が来ているかは分からない。


でも……


今の私は、これがラストライブになって欲しくないと、ただ、そう願っていただけであった。


ラストライブにならない為には……


人が、体育館を満員にしているぐらい来ていればいい。


ただ、それだけの事。


文化祭当日までの昨日に、やれるだけの事は充分にやって来た。


絶対に成功している。


本当に、そうあって欲しい!!


そう私は、心に強く思った。


「そろそろ、私達の番だね」


「そうね」


「そうですわ。今までに頑張ってきた事を無駄にしない為にも」


「ぜっ、絶対に…… 成功をさせて、みっ、見せますわ!!」


「絶対に成功は、するよ」


そして私は、女月と紗美と詩鈴にライブは成功すると言い、皆で体育館のステージへと向かった。


 スタンバイをしている間にも、舞台裏からこっそりと、体育館にどれだけの人が来ているかを確認してみたが、明らかに人は少なかった。


それでも、私達のライブが始まった途端に、人がたくさん体育館に集まって来てくれる。


そう思いながら、私は、ステージの幕が開く瞬間を迎えた。


そして、幕が上がり、【D-$】としての活動が最後になるかもしれないという文化祭でのライブは始まった。


幕が上がり、まず初めに気にしたのは、やっぱり、どれだけ人が来ているかである。


私は、それを確認する為、幕が上がった真っ先に、体育館の観客席に目を向けた。


しかし、そこで目にした光景は、最悪な事に、予想通りの少ない人であった。


舞台裏から確認は出来ていたが、私達のライブになっても、人は集まる事はなかった。


この瞬間、私の処罰だけでなく、【D-$】の解散は決定をしてしまった……


本当であれば、歌を歌わずに、このまま、どこかに逃げ去りたかった。


それは、私だけでなく、女月も紗美も詩鈴も同じ気持ちであるはず。


その証拠に、3人とも、凄く暗く落ち込んだ表情をしていた。


確かに、人が集まっていない状況を見れば、その気持ちになるのは、無理はない。


でも……


例え、自称とは言えども、アイドルなんだよ、私達は。


アイドルが落ち込んでいてどうする?


アイドルだったら、みんなを明るくさせなければダメじゃないの!!


本当であれば、凄く泣きたいところであったが、私は、とりあえず泣くのを我慢し、少ない客を見て落ち込んでいる女月と紗美と詩鈴に、元気を出すよう、声をかけた。


「みんな、張り切って行くわよ!!」


今は、こんな事しか言えない。


その言葉を言うだけが、精一杯であった。


「そうね、確かに麻子の言うとおりだわ」


「そうですわ。例え、少ない客でも、わたくし達のライブを見たいと思っている人なんですもの。全力で頑張らないと」


「そっ、そうですわ…… がっ、頑張らないと…… いっ、今までの、どっ、努力が、むっ、無駄に、なっ、なってしまうわ……」


そして、私の言葉に答えるかのように、女月と紗美と詩鈴は、顔の表情を変え、ファンを元気にする為の明るい表情となった。


 それを見た私は、少し安心をした気分で、再び観客のいる方を向いた。


「みっなさ~ん、こんにちは。【D-$】です!!」


私は少ない観客に向かって、元気よく挨拶をした。


そして、その挨拶の終わりと共に、【D-$】のオリジナルの歌とダンスが始まった。


体育館は満員には出来なかった為、当初の約束通り、【D-$】は解散し、私はそれ相当の処罰を受ける事になったが、今はそんな事はどうでもいい!!


今、この瞬間を、全力で楽しむ事ばかりを考えていた。


この、【D-$】のラストライブを、悔いのないようにする為、そして、私達の少しの間だけだった、動画投稿サイトでのアイドル活動の集大成、絶対に悔いのないようにして終わらせたい。


少ない観客の前で、歌を歌い、ダンスを踊りながら、私は、その事ばかり考えていた。


この時の私には、歌と曲以外の音は耳に入って来ない状態であり、涙で目がかすみ、ステージの向こうが見えていない状態であった。

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