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緊張

 ここは、街の中心地の繁華街のビルの中にあるカラオケボックス。


そう、わたしは阪畑さん達と共に活動する、アイドル活動のメンバーに加わった事の歓迎式と一緒に、今日は歌の練習もかねてのカラオケボックスに来ていた。


テーブルの上には、4人分のジュースが入ったグラスと、ポテトチップやチョコなどのお菓子が置かれていた。


「それじゃあ、かんぱーい!!」


「かんぱーい!!」


まず初めは、それぞれがジュースの入ったグラスを持って、わたしの歓迎式の祝いを始めた。


「今日の練習は、朝芽さんが私達のアイドル活動に加わってくれた祝いと、これからのアイドル活動の成功を祝って、楽しもう!!」


「そうね、楽しみましょ」


「そう言えば、もうすぐで夏休みだけど、この1学期はほとんどアイドル活動だったね。高校に入学してからの次の月の5月からはアイドル活動中心だったお陰で、ホント、今まで以上に忙しかったよね」


「確かに、そうね。初めは何をしていいか分からない状態から、行き当たりばったりで初めて行って……」


「そうそう、どんな服を着て動画の収録を行うとか、どんな感じの方向性で行くとか話し合ったよね」


乾杯をした後、いったん席に座った阪畑さんと尾神さんは、アイドル活動を始めてからの流れを振り返っていた。


始めの頃のアイドル活動は、わたしは知らないので、せっかくなので、わたしは阪畑さんと尾神さんの話を聞いてみる事にした。


「そう言えば、紗美さんが仲間に入って来たのは、初めての動画の投稿をやったあとだったよね」


「そうでしたわね。その時は、阪畑さんと尾神さんが、わたくしの元へ助けを求める様にやって来ましたよね。今でも覚えてますわ」


「まぁ、そりゃあ、まだ1ヵ月程ですから、誰だって覚えているよ」


「そうでしたわね」


どうやら、桜森さんがアイドル活動に加わったのは、少し後になってからの様である。


「でも、私達がアイドル活動を始めた事によって、桜森さんと一緒に話す事が出来き、仲良くなる事が出来たじゃない」


「そうですわね。こうして友達と一緒にカラオケに行く事も出来ましたし、なによりも、わたくしの好きな動画撮影が活かせて、ホント良かったですわ」


なるほど、私はてっきり桜森さんも始めからアイドル活動をやっていたのかと思っていたけど、途中から入っただけでなく、アイドル活動を始めてから仲良くなったから、まだ1ヵ月程なんだ。


それなのに、桜森さんはもう長い間、阪畑さん達と友達でいたかのように自然と会話をやっている。


早くわたしも、みんなと仲良くなって行かないと……


そう、わたしは思ってしまった。


 それからすぐに、阪畑さんがカラオケの曲を入れる機械を持ち出した。


「せっかくだしさ、1曲目は、朝芽さんが歌ってよ!!」


「そうだね、朝芽さんの上手いと言われている歌声を聞かせてよ」


「その、綺麗な歌声を、是非とも聞いてみたいですわ」


いきなりの一発目は、わたしからであった。


人見知りのせいか、なれない場所にいる今のわたしは、緊張をしてしまい、ただ、他人の話を来ている事しか出来なかった。


歌が上手いと噂されていたわたしと一緒にカラオケボックスに来たと言う事は、わたしは絶対に歌を歌わなければならないという事は、このわたしでも初めから分かっていた。


でも……


「はっ、はい…… ちょっと歌う曲を考えますので、そのきっ、機械を貸してください……」


わたしは、少しでも緊張を解す為、時間稼ぎをするつもりで阪畑さんから、曲を入れる機械を受け取った。


「どっ、どれに、しようかな……」


わたしは、入れる曲を考えるフリをやりながら、時間稼ぎをしていた。


すると、その隣から、坂田さんがわたしの持っている機械を見ながら、話しかけに来た。


「ねぇ、朝芽さん、何か得意な歌とかはないの?」


「わっ、わたしの得意な歌ですか? う~ん、歌のジャンルと言っても、音楽の授業でしか歌を歌った事がないので、あまり歌を詳しくないのです」


「そうなんだ! それは驚き」


「確かに、驚かれるでしょ。でも、私は音楽の授業でしか歌を歌った事がないのです」


確かにわたしは、音楽の授業以外では、歌を歌う事がない。


音楽系の部活にも入っていなければ、友達とも今までカラオケにすら行った事がない為である。


もちろん、山田さんとは、カラオケに行く事はなかった。


「なるほど、確かに朝芽さんの上手いと言われている歌は、噂になるわけだ。聞ける人がいないのだから」


「そっ、そうですね……」


「じゃあ、今、こうして朝芽さんと一緒にカラオケに来ている私達は、物凄く幸運じゃない?」


「あぁ、そうかもね。こうして個室で生で、朝芽さんの歌を聞ける私達は、物凄く幸運かもね?」


「それでしたら、今日は凄く運がいい日ですわね」


えっ、えぇ~ ちょっと…… そんなに、わたしの歌声に期待をしないでよ!! あ~ぁ……


そして、私は胸の心臓の鼓動が大きくなり、顔が真っ赤になり、その顔を両手で隠した。


「あっ、あれ? どうしたの、朝芽さん?」


突然、両手で顔を隠したわたしを見た阪畑さんは、先程までの期待とは異なり、わたしの事を心配する様子を見せ始めた。


「だっ、大丈夫です……」


「そっ、そう?」


心配をする阪畑さんに対し、わたしはただ、大丈夫としか言えなかった。


「もしさ、気分が悪かったら、トイレに行くといいよ」


「そっ、そう? ごっ、ごめんね……」


「良いよ大丈夫だよ。朝芽さんが戻って来るまでの間に、一発目の曲は、私が歌って時間を稼いでおくから」


「ホッ、ホント、ゴメンね……」


そう言って、わたしは部屋を出て、トイレへと向かった。


阪畑さん達には悪いが、わたしは、緊張のあまり、一旦戦線離脱をさせてもらう事にした。



 そして、カラオケボックスのトイレへと入ったわたしは、洗面台の鏡を見ながら、深呼吸をして気持ちを落ち着かせようとした。


「はぁはぁはぁ…… ダメじゃない、山田さんの前では、あれだけ強気になって言った癖に……」


わたしは、昨日の学校で、山田さんの前で強気になって新しい自分に生まれ変わるとか言っておきながら、いざとなったら、なにも出来なかった。


結局、わたしは口だけなの?


そう思いながら、わたしは鏡を見ながら、メガネを取り把外して、自分の顔を見つめ始めた。


「阪畑さんは、可愛いと言ってくれたけど、本当に可愛い顔をしているの? 自分では分からないものね……」


わたしは、目が目を外した素の姿の自分の顔を見つめながら、阪畑さんに言われた通り、本当に可愛いのかよく見てみたが、こういうのは自分ではなかなか気が付かないものである。


「でも、可愛いと言ってくれた阪畑さんの方が、わたしなんかよりもずっと可愛くて明るくて、誰にでも気軽に話しかけられて…… ホント、阪畑さんは本当にアイドルみたいだよ」


そして、わたしをアイドル活動に誘ってくれた阪畑さんの事を考え、ほんの少しばかり嫉妬してしまった。


「でも…… そんな阪畑さんが、わたしの事を良いって言ってくれてスカウトしてくれたんだし、なにより、山田さんに対してあんな事を言ってしまったんだから、少しは頑張らないとね……」


そう言いながら、私は手に持っていたメガネを、再び付け始めた。


そして、私は緊張を自ら解き、阪畑さん達が待っている部屋に、歌を歌いに行く為に、戻る事にした。

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