Short romance②
「今日さぁー…上司がうるさくて…ホント嫌になっちゃう!」
「そっかー…でも、僕はそういう風に文句言いながらも仕事をしている爽香が好きだよ。」
愚痴を言ってもいつもこう返されてしまうから、私は何も言えなくなってしまう。
「僕は、今の爽香が好きなんだ。」
そんな恥ずかしいことでも彼は何気なく言ってしまうから、私は悲しくなる。
私はこんなに彼のことが好きなのに――――
「そういえば私、あなたの名前知らないわ。」
「名前なんて、いらない。必要ないよ。」
「でもっ…」
「影慈」
「えい…じ…?」
「それが僕の呼び名。」
「……うん。」
それが本当の名前じゃないことなんて明らかだった。
それでも…彼のことを少しでも知ることができたというだけで、私の心は幸せで満ちていた。
その次の週も、次の次の週も、私は彼に会いに行った。
「そういえば、最近仕事の愚痴言わないけど頑張ってる?」
「爽香、化粧変わった?」
「あ、髪染めたんだ!暗い茶髪、とっても似合うね!」
影慈の気を惹くために前より変えたことを、影慈は目ざとく見つけて褒めてくれる。
しかし、私が変わることにつれて影慈が何もせずにぼーっとする事が多くなった。