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黄昏の先輩

掲載日:2015/07/01

Twitterに上げていたものを、改稿したものです。



電車のホームで必ず一緒になる人がいる。

放課後、まだ昼の暑さが残っている時間。

その人は私より1つ年上。

中性的な見た目で、背は高い。

ちょっと浮世離れした雰囲気。

なんていうか…妖精とかってこんな感じかもしれない。

別段話した事がある訳でもないけれど、その雰囲気に存在感を強く感じる。


ーーーーーーーーーーーーーーー


私は文芸部と演劇部を兼部しているけれど、文芸部の活動は家でするし、演劇部に至っては文化祭でしか活動しないので、帰宅組だ。

対する彼も帰宅組。

それで、毎回ホームで会う事になる。

話し掛けた事はないけれど、彼も私を認知していると思う。


去年の春頃、まだ入学したての時。

ホームで電車を待っていると、モンシロチョウがまとわりついてきたことがある。

私は新しい制服に鱗粉を付けたくなくて、スカートを持って体を動かして追っ払っていた。

チョウも中々しぶとくて、最終的に私はクルクル回らなくてはいけなくなった。

ようやく追っ払った後、不意に視線を感じて目を上げると…

あの先輩と目が合った。

彼は笑うでもなく、何か言うでもなく、ただ私を見ていた。

…確実に、変人だと思われただろう……。

私が話し掛けられなくなった原因は、その辺にあるのかもしれない。


それからというもの、休みの日や私の部活を除いて、ほぼ毎日彼をホームで見かけるようになった。

私は急行。先輩は各駅。隣のドア位置。

電車が来るまでの、僅かな時間。

それがもう一年以上続いている。

もう今更話し掛ける事は出来ない。


けれど、学校内の喧騒から駅での静かな時間の流れは、割と好きなのだ。

顔しか知らない他人同士の、何となく連帯感のある空気が。

そう感じているのは、私だけかもしれないけど。


ーーーーーーーーーーーーーーー


そうして私にとって、二度目の夏休みが過ぎた。

夏休みが明けると、同好会と化した演劇部が動き出す。

勿論この時期に3年の部員など来るはずもなく、主役は2年の私が受け持つ事になった。

そうすると流石に忙しくなって、同時に文芸部の活動も佳境に入るので、もう帰宅組にはなれなくなる。

もうどれ程会って無いだろう。

夏休みの流れでこうなったので、かれこれ2ヶ月近くなる。

向こうは、私が居ない事に気付いているのだろうか。

なんて思いかけて、止めておいた。

気付いていたとしても、だからどうという訳でもないのだ。

ただの顔見知り。

何なら、それ以下かもしれないのだから。


文化祭がやって来た。

文化部を兼部している者にとって、こんなに忙しい日はない。

演劇部の公演は、普段活動していないので、客は殆ど軽音部に取られてしまう。

まぁ、お陰で緊張せずに演じる事が出来るのだが。

40分間、物語に溶け込む。

最後の挨拶の時だった。

客席の前列に見覚えのある姿がある。

……あの先輩だった。

どうして?どうして?なんで演劇部を見に来たの?しかもそんな前列で。

舞台からはけた途端に恥ずかしくなってきた。

あんな没頭した状態を見せた事も、埋まらない客席も、………私が考えた事も。


文化祭が終わって、後夜祭も終わった。

これから花火が上がるけれど、私は電車が混む前に帰るため、ホームで見る事にした。

一人で駅まで歩いて、いつもの場所で待つ。

あの人が来るかも、なんて思ってない。

……思ってない。


花火が始まる。

私の立ち位置からじゃ上手く見えない。

全体が見える角度に少しずつ移動していく。

と、何かにぶつかった。

慌てて謝りながら振り返る。

…先輩がいた。


「大丈夫?」


その口から出た音は、思っていたより低く響いた。

突然の事に上手く返事なんか出来ない。


花火は大きく綺麗に打ち上がった。


ーーーーーーーーーーーーーーー


また日常が始まった。

私と先輩の位置は元通り。

それがいつもの事。

この間が特別だっただけ。


ーーーーーーーーーーーーーーー


日暮れが早くなってきた。

先輩とは会わなくなってきた。

3年生は、授業が特別編成になるからだ。

…別に何とも思わない。

ただホームに差し込む西日が眩しいだけ。


ーーーーーーーーーーーーーーー


もう息が白い。

先輩とはめっきり会わなくなった。

いつもどうりって何だっけ?

なんで私はこんなに気にしてるんだっけ?

あの不思議な人は、秋と共に消えてしまったんじゃないかしら?

夕焼けが怖い程に赤い。


ーーーーーーーーーーーーーーー


雪。

雪が先輩を連れてきた。

久々に先輩に会えた…!

何だかますます神秘的に見えるのは、久々に会った故のマジックだろうか。

少し痩せた?

受験のせい?

そんな事思っても、話し掛ける事はない。

私達は近づいたりしない。

二人の間を埋めるように雪が振り続ける。


その時は、そう感じたんだ。


ーーーーーーーーーーーーーーー


この前少し積もった雪が、溶けきらないくらいの頃。

私は珍しく、学校で先輩を見つけた。

視線で追ったその隣。

長い髪…?


……先輩に話し掛けてるその人は、好意があるのが丸分かりで。

先輩もまんざらでもなさそう。

私はそこに立ち尽くして、ただ呆然と眺めていた。


何日経っても頭から離れない。

帰りに会うのが嫌で、わざと時間をずらして帰っている。

友達とくだらない事を話していたら、気が紛れるから。


先輩にも同級生の女子はいるわけで、そこに好きな人がいてもおかしくない訳で。

そんな簡単な事を忘れていた。

そんな簡単な事で動揺してしまう自分が、おかしいのに。

何も無かったのに、勝手に裏切られた様な気分になって。

馬鹿だ。

馬鹿だ。私。

先輩を勝手に神聖なものにして、手の届かなくて当たり前と思って。

それでいて現実を見たら裏切られた?

私は一体何様だ。


思っていたよりも早く月日は過ぎるもので。

電車を待ちながら4月には、もう隣に居ない人を考える。

いや…4月からじゃなくて、月曜日からか。

今週ももう終わる。

次の日曜は卒業式。

その次の日にはもう居ない。

そこまで考えて、ハタと気が付いた。

私…このままでいいの?

あれから先輩には会ってない。

このまま会わないでさよならは、あんまりじゃないか。

最後の記憶があのツーショットなのは嫌だ。

でも会ったところで、何もしないだろう。

果たして意味はあるのか…。



……色々考えて、結局会う事にした。


ーーーーーーーーーーーーーーー


とうとう卒業式も終わった。

夕日の射し込むホームで先輩を待つ。

来て欲しい気持ちと、来て欲しくない気持ち。

期待と不安なら後者が勝っている。

自分がどうするつもりなのかは分からない。

でも一目見たいという、ただそれだけの思い。


いつもの場所に先輩は来た。

何故だか涙が出そうになるのを、懸命に堪える。

先輩は胸に花を挿している以外、いつもどうりだ。

より特別に見えるけれど、それはもう思い込みだという事を知っているーーーー

そう思うと、スっと涙が引いた。

…なんだ。悩む事なんて無いじゃない。


丁度いいタイミングで急行が来てくれた。

日曜日で空いている電車に乗り込む。

そして、ホームに居る先輩に向き直る。

一息入れる。

…大丈夫。


「先輩っ!ご卒業おめでとうございます!」


ーードアが閉まった。

驚いた顔が笑顔に変わるかどうかで、電車が動き出した。

先輩が軽く会釈する。

私も負けじと頭を下げる。

加速する電車の中で、私は初めて先輩の笑顔を見た。

そして、私と私の想いは……

夕日の中に溶けていったーー。


~Fin~




最後までお付き合い頂き、ありがとうございます。

こちらの小説は、元々Twitterで連載していたものなので、読みづらい箇所も多々あったかと思います。すみません。

これからも精進して参りますので、また立ち寄って頂けると嬉しいです。


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