27.食堂派、自宅派、専用室派
午前中の授業が終わり、昼休みとなった。
充孝達はいつもの通り食堂へと行き、食事の乗った盆を取る。
「おっ、今日は結構席空いてるな。隅っこいくか」
「ああ」
広い食堂の中で「隅っこ」と言われる一画は喫茶店のようなパーテーションに区切られた窓辺の席になっていて、大抵は上級生に牛耳られる人気スポットだった。
四人掛け席なので今までは彼らも使ったことなどなかったのだが、最近は三人で行動することが多くなった。たった数日にして妙に縁の出来た女子、穂坂 真唯が加わったこと。これまでメインとして二人で過ごしてきた彼らにとって、正直この変化には違和感を感じるところもある。しかし、三人というのは存外バランスがいいのか、特に不愉快に思うこともなく、むしろ真唯の人柄もあってか会話のテンポが良くなり過ごしやすくなったような気もしていた。
「そういや穂坂ってさ、俺らとメシ食ってていいの?」
「え?」
山盛りのサンドイッチ、紅茶のみという謎なメニューを頬張りながら、ふと思いついた感じで栄作が尋ねた。
「ん、そう言われれば、そうだな。いつも一緒に食べてた友達とかはいいのか?」
今日はシャケ定食。ちょっとご機嫌なカピバラさんが会話に便乗する。
真唯はカルボナーラをフォークでくるくるやりながら、ちょっと困った風に答えた。
「実は…… 恥ずかしながらお昼はいつも一人なんだよ。なんていうか、出遅れしちゃった感じで」
「出遅れ?」
「うん、わたし去年の夏休み前くらいに編入してきたから…… 仲のいい子同士はもう固まっちゃってたっていうか……」
「あー、なるほどな」
「別に嫌われてたりとかそういうことはないんだけど、そこまで仲のいい友達がいるかって言われると…… ちょっと寂しい感じかな」
わからないでもない話だった。栄作にしても充孝にしても、お互いがいなければそうなってたかもしれない。超能力者というのは自らの特別さからか秘密を抱えて育ってきた者が多く、他人と心から接することが苦手な者がほとんどだ。フィーリングで友人を見つけることは一般の人間となんら変わりはないのだが、感性が繊細なためかウマが合うという人間を見極めるまでの時間が彼らよりも長めだった。
たった一時間の間に約二百人が利用する食堂。いくら広いとはいえそれでも授業に遅れる者が無く回転する理由もそこにあった。一人から少人数でいつもの場所へ行き、決められた場所でそそくさと食べる者。団体で広い席を陣取り、長く居座る者達。その割合である。
「そうか、これからはずっと一緒に食べてもかまわないぞ」
「うん…… えっ?」
ご飯をかきこみながら充孝が言った。真唯が彼を見上げ、固まった。
「ちょ、先生、何言い出すんすか!」
こいつはまたとんでもないことをとばかりに栄作が引き気味に言う。
「え? いや、部活仲間だし。ご飯は大勢の方が雰囲気が楽しいぞ」
「い、いやいや、そりゃまぁそうなんだが……」
ぬぼーっとしたさわやかなイケメンの堂々たる物言いと、その横でなんだかうつむいて真っ赤になってしまっているメガネの女子を見比べながら、栄作は自分が一人だけ微妙に損な役回りをさせられているような気になってきた。
なので、ついつい意地悪っぽく口走ってしまった。
「んじゃ、二月や伊達さんも誘ってこないとな。大勢ってわけだし?」
充孝はその言葉に箸を止めた。そして、
「そうだな、今度声をかけてみよう。二月は穂坂と同じく友達いなさそうだし。伊達さんは…… 来るかな?」
ぽんっと手を打って名案とばかりに返してきた。その表情は心なしか嬉しそうだった。
「お、お前なぁ…… まぁいいけどさ……」
「いや…… わたし友達ぜんぜんいないわけじゃないんだけど……」
呆れ顔で充孝に和んでしまった栄作、ちょっと自分をフォローしてみる真唯だった。
そして、やはり微妙に未沙都は蚊帳の外になっていた。
~~
今日も昨日と同じく、彼女は伊達家に来ていた。
食事メニューは昨日とほぼ同じだが、うどんがにゅうめんになっている。
「そんなんで足りるのか、二月」
「ん…… これ全部でおなかいっぱい」
彼女の倍の量を、彼女の倍以上のスピードで食べきってしまう伊達にとって、その少食具合は少しばかり心配だった。
「大将が食べすぎなんですよ。ミッチーみたいに大きいわけでもないのに、いつもいつもどこにそんなに入るんスか?」
「運動量が並みじゃないんだよ、あと、頭の使い方もな」
頭の使い方で「ぶはっ!」と妖精が笑い、すぐさま空のペットボトルが投げつけられた。
ちゅるちゅると、にゅうめんをすすって二月が言った。
「おいちゃん、みっちーはどう? 助かる?」
「多分な、言った通りだ。未沙都が千里眼さえかけてくれりゃなんとでもだ」
「未沙都ちゃん、どうやって誘う?」
「……それは考え中だな。まぁ、最悪本人が来ないでもなんとかなるだろ」
解決策はもう伊達の中にあった。それよりも、心配すべきは別にあった。
「……おいちゃん、今日はちょっと変」
「ん……?」
伊達はつい真顔で、止まってしまった。
「なんかよそよそしいというか、報告がいい加減」
「……そうか? 取り立てて言うことが無いだけなんだが……」
はたで見ていたクモが、伊達と目が合いそうになって慌てて外す。
伊達は誤魔化すようにどこかの店の名前がついた、高いラーメンをすすった。
「あ、美味いこれ」
誤魔化すように口に入れたが、普通に美味かった。
「二月、ちょっと食うか?」
「……! いいの?」
「あ、ああ……?」
二月の目が光ったように見えた。
伊達がプラ容器を渡すと、ちゅるちゅるではなく、二月はラーメンを「ずぞぞっ」といった。
満足気に器を返してくる二月、一口に見えたが結構な量がいただかれていた。
「くっ…… 少食じゃなかったのか……」
「ふふん」
美味いものは別腹。子供でも女ってのは恐ろしいなと伊達は思った。
「た、大将! 私めも!」
「な、何?」
「家系ラーメンっしょ!? ちょっと食べてみたかったっス!」
確かに「~家」とかかれたこういったラーメンは多いが、そのような呼び方は初めて知った。伊達はこの妖精の微妙に偏った知識はどこから仕入れてくるのだろうと不思議だったが、
「あ~、俺の分が無くなるからまた今度な」
「大将、私には冷たいっス!」
とりあえず却下はしておいた。
ちゅるちゅると、にゅうめんを終えて最後のおにぎりを頬張る二月。
その横顔は過酷な力を持つにはあまりにも幼い。
いや、幼いからこそ、乗り越えられるのかも知れない。
伊達はそう思うことにする。
「なぁ、二月。今日部活の後、ちょっといいか?」
「……? うん」
伊達は自らの責められることの無い責任から、逃げないことを選んだ。
~~
「な、なんですって……!?」
理事長室の机に突っ伏していた未沙都が上半身を上げた。
「繰り返しになりますが未沙都様、生徒会による今年度の予算編成が済んでおりません」
「よ、予算編成ですって? なんのですの?」
「新入生歓迎会、体育祭、文化祭、その他もろもろ、今年度予算です」
未沙都の前には髪の長い、聡明そうな男子生徒が報告書を持って立っている。
霧島 学――
二年生で生徒会の副会長にして実は学園内に多数いる、未沙都の信奉者だった。
残念ながら彼の登場にさしたる意味は無いが、優秀にして美しく、権威ある理事長代理にして生徒会長、その昭和の流れを汲んだような彼女には昭和の流れを汲んだようなファンクラブまであり、彼はその代表だった。
無論、彼の登場にさしたる意味は無いといった手前、どうでもいい。だが若干かわいそうなので彼の能力は周囲にいる生物を把握できる能力「生態感知」とだけ紹介しておこう。無論、どうでもいい。
「ちょ、ちょっと待って霧島くん、そのような予算、職員側で……」
「そのような予算の決定権さえも生徒会で握ろう、そうおっしゃったのは一年前の未沙都様であると私は記憶しております」
「くっ……!」
「ですので、本日の放課後は生徒会にご出席ください」
由良木学園の生徒会は「普通の生徒会」であり、一般の学校よろしく職員達と学校にとって都合のいい、内申点を餌に労働力を釣りあげるただの無給のアルバイトだ。
それを一年前、突発的強権的に「漫画のような生徒会」にしようと企んだアホが一人。
「なぜ私はそんなことをっ!」
こいつである。
「ご心配無く。お体が優れないようですのでいらっしゃるだけで結構です、後は私がいかようにもいたしましょう。では……」
慇懃無礼にも見える態度ながら、彼女の最高のファンである男は部屋を出て行った。
「くっ、師匠…… 申し訳有りませぬっ!」
自らを崇高で、尊敬の対象だと思っている彼女は知らない。
「アホだけど、だから最高にかわいい」、そんなファン達からの絶賛の評価を――




