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玄人仕事  作者: 千場 葉
#4 『スクール・スーパーバイズ』
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20.裂ける並木


『ちょちょちょ! どうするんですか大将! 主人公が職務放棄だなんて!』

『放棄してねーよ! 思いつかねーだけだって! あと今の主人公は梢だ!』

『まだやれることあるでしょ! 実力に訴えてもいいですから!』

『実力にってお前……』


 実力行使、試しておくべきだろうかとは伊達も考えていた。

 近くでは二人の言い合いを、聞こえないために伊達の奇行として首を傾げる二月がいる。


『クモ、思いつくままに実力行使を語ってくれ』

『う、う~ん…… あっ!』

『なんだ?』

『雲をふっとばしましょう! 風を起こしてですね!』

『駄目だ、この世界ではそこまでのことは無理だ』

『なら…… ラ○デイン?』

『俺に雷を落とせってか? 本末転倒だろ……』

『じゃあ大将が撃たれましょう! 大将なら大丈夫!』

『俺をなんだと思ってるんだお前は! ってかどうやって撃たれるんだ! ……ん?』


 伊達は反対車線の並木の向こう、家屋の屋根に立つ、ちょっと昆虫じみた機械を見た。それはテレビの受信を目的として建てられるアンテナだった。


『……避雷針か、悪くないかもしれん』

『えっ?』


 自分の背中にくっついている二月に首を向ける。


「すまん二月、ちょっとここにいてくれ。あと、今から見ることは内緒な」

「ん……?」


 伊達は地面を蹴って垂直に跳ぶ。自分を見上げ、口をぽかんと開けている二月が一瞬にして小さくなった。二十メートルほどの高さへと到達し、風の魔力を集め、空中を移動し始める。


「っと…… この空じゃ仕方無い、姿を消すか」


 ステルスを使い、雷雲の様子に時折空を見上げている充孝達の目を欺く。


「んじゃ…… やりますか……」


 伊達は上着の袖を捲り上げる。両腕がグロテスクにジャバラに裂けて垂れ下がり、硬質にして柔軟な金属に変化していく。彼はそれを組み合わせ、細く長く、一本にして真上に向けて伸ばしていった。


「人間避雷針ってのも…… アホな変形だな。避雷針なんてそこらにもあるし、意味あるのかもわからん。だが、あいつらの真上にこれで立ってれば雷も落ちようがないだろ」


 充孝に防御壁を張る、という確実な手段もあった。だが、行うことはためらわれた。仮にそれを行い、それを破られるような事態が起こるとすれば、その衝撃は充孝を死に至らしめる力になりかねない。伊達が実力行使に尻込みをする理由。それは彼自身の力が大きく、下手をすれば死ななくて済むはずの者を死に至らしめる可能性があるからだった。


「後は祈るだけだな、っといけねぇ……」


 彼は右足のズボンの隙間から、針金のように触手を伸ばして地面の一画へと地中深く突き刺した。避雷針の機能として、忘れてはならない部分だった。

 後はまさに、見守るだけである。


 会話をして歩く充孝達を見守る、そんな伊達の目に――


「ん……?」


~~


「未来予知か…… あったらいいな…… とは思えないか」

「えっ?」


 充孝が呟いたその一言に真唯が反応し――


「梢 充孝ー! お待ちなさーい! ですわー!」


 充孝の後方から、間の抜けた必死な声が聞こえてきた。


「えっ?」

「会長?」

「今この辺りに私の師匠が―― ぎゃん!」


 ものすごい勢いでコケた。

 顔からいった、そしてやはり五点にふさわしい体勢になる。


「うぉい!」


 栄作がその壮絶なコケかたに鋭くツッコミを入れる。


「だ、大丈夫ですか由良木さん!」


 充孝が未沙都に向けて走り出す、その時――



 閃光―― 轟音――



~~


「な、何……?」


 上空で東京タワーみたいになっていた伊達が、下の状況に驚いていた。

 何も知らず、道路側から充孝、真唯、栄作の順で並び、常に並木の傍を歩いていた充孝。見ていてひやひやする状況の中、予定されなかった闖入者が走り、転び、充孝がそちらへと動いた。


 その後二秒を数えないうちに、落雷が並木を襲った。

 彼女が現れた方向へと走り出した充孝は落雷した並木から離れ、難を避けたのだ。


「は、はぁ……!?」


 伊達は間抜けな格好のまま、間の抜けた声を上げる以外になかった。


~~


「っつ~~! なんだぁ……?」


 栄作が耳を押さえ、地面にしゃがみこんでいた。真唯も座りこんで耳を押さえている。

 辺りには火事場のような匂いのする煙が充満していた。


「……!? うわっ……!」


 強烈な音の発信源に振り返った充孝がその事態に驚き退いた。

 落雷があったのだろう木は焼け、ところどころに火を放ちながら煙を吐いている。辺りには裂けた木の破片が同様に煙を吐きながら散乱していた。


「大丈夫か! 穂坂! 栄作!」


 もはやコケているだけの未沙都などどうでもよかった。充孝は栄作達の下へと駆け寄る。


「お、おう…… 耳が痛ぇけどなんとかな……」

「わたしも、大丈夫」


 充孝はほっと胸を撫で下ろした。そして思う、あの場所に立っていたらと。怪我じゃ済まなかったんじゃないかと。思ってみてゾッとした。


「おーい!」


 反対の車線から、見知った顔が近づいてきた。傍には小さな女生徒もいる。


「伊達さん!」

「おい、大丈夫か、お前ら!」

「え、ええ……」

「はい……」


 伊達はいの一番に不自然にも充孝の腕を掴んで見、そのあとで栄作と真唯の様子を見た。そして、険しい顔になった。


「怪我をしているな……」

「……!」


 伊達の一言に、充孝は二人を見た。栄作は左手の甲、真唯は右のふくらはぎの辺りから血を流していた。


「お、おい……!」


 慌てて詰め寄る充孝を伊達が手で制した。


「大丈夫、ただの切り傷だ。ちょっと待ってな」


 伊達は真唯のふくらはぎに手をやり、目を閉じた。

 二月を含めた四人が見守る中、伊達の手が薄く、緑色に発光する。


「な、なに……?」

「あぁ……?」

「よし、終わったぜ」


 伊達が作業着からティッシュを取り出し、血を拭うと真唯の足からは傷が完全になくなっていた。


「え、えぇ……? って、ちょっと!」


 全員の視線が自分の足に集中していたことから慌てて彼女は足をひっこめた。


「回復魔…… ヒーリングってやつだ。内緒にしとけよ」

「す、すげぇ……!」


 伊達は一番口が軽そうに見える栄作に向けて言った。彼は素直に驚いていた。伊達は栄作の腕を掴んで同じように回復魔法を唱えてやった。


「ば、万能っすね、伊達さん……」

「……そうでもないさ」


 表情を固くしたまま、伊達はそう言った。


「うぅぅ…… 踏んだり蹴ったりですのですわ……」


 ふらふらと、耳を押さえながら未沙都が近づいてきた。


「うわぁ……」


 彼女の濡れ鼠具合に充孝が引いていた。


「未沙都、どうした」

「どうしたのこうしたのもないですわ! 追いかけてきましたのよ! 師匠!」

「俺をか……?」


 未沙都と話そうとする伊達の袖を、二月が引っ張っていた。


「おいちゃん、あれ」


 二月の指差す方へと、伊達が首を向ける。焼け爛れた並木があった。


「おっと、そうだな…… みんな、もう今日は帰れ、あとは俺がやっとく」

「やっとくって…… 何を?」

「消防に通報に決まってんだろ、落雷だぜ?」


 充孝達が大人の対応に「おお」と納得する。


「未沙都、話は明日聞くから、君もとっとと寮に帰れ、正直女の子の格好じゃないぞ」

「わ、わかりましたわ……」


 生徒達はそれぞれ、伊達に手を振って帰っていった。


「さて、二月」

「ん……」

「ちょっと携帯貸してくれ」


 伊達は落雷がありましたとだけ、消防に告げてその場を後にした。


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