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玄人仕事  作者: 千場 葉
#4 『スクール・スーパーバイズ』
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8.職員の新規採用について

 傘を持つ生徒と持たない生徒、そんな彼らの比率がそのまま降水確率な曇り空の下、充孝はいつものように栄作と共に寮を出た。寮から学校までは住宅街から一つ角を曲がり、並木道を歩いて五分。栄作と並んで歩いて、一つの他愛の無い話も終わらぬ間に着いてしまう。

 そんな彼の登校風景の昨日までとの明らかな違い。目立つ充孝だけに周りの生徒達もその違いに気づく者も多く、そして気づいた生徒から順に怪訝な顔をしていった。

 そして、怪訝な顔をしているのは当の充孝と、栄作も同じだった。


「なぁ栄作よぅ、これはお前が何かしたのか?」


 真顔でぼーっとしてることが常の充孝の怪訝な顔は、何か困っている風にしか見えなかった。


「……いや、俺は昨日お前と一緒に帰っただろ」

「だよな…… 帰った後も一緒に遊んでいたはずだ」


 街中に数棟と点在している由良木学園寮。充孝達の住む比較的新しい男子寮は相部屋などはなく一人一室となっているが、充孝達は帰ってからも寮内でつるんでいることが多かった。暇つぶしに寮内の食堂でテレビを見たり、ゲーム機を持っている友人の部屋に転がり込んだりと、就寝時と瑣末さまつな日常の用事の時以外はなんとなく一緒にいる感じだ。

 だから今の状況はイマイチなぜそうなったのか、どちらのせいなのか何が呼び込んだ状況なのかが把握出来なかった。


「は、ははは……」


 充孝と栄作の間で、昨日までとの違いAが困ったように笑っていた。


「なぁ穂坂…… 本当に君が呼んだわけじゃ……」

「う、うん…… 残念だけど、わたしも遠目に見て知ってるくらいでしか……」


 昨日、保健室で診察を受けた真唯はそのまま体育館に連れて行かれることとなった。なぜにと思う本人含め充孝達だったがそこはさすが超能力学校、体育館内に頭部MRI検査を行える施設を備えてあった。過剰に大事にされてしまった真唯は恐縮したまま、待機していた医師に引き渡され大型の機械につっこまれるはめになった。

 突然の検査やら静脈注射やらでなんだかぐったりした真唯は、結局何事も無いということでその後六時間目の授業中に解放された。

 今一緒に彼女が登校しているのはその流れ、五時間目中に授業に戻された充孝達に対して、心配をかけたお詫びと無事のお知らせに現れたという流れであり、栄作はニヤニヤとその様子を見ていたが、充孝自身は「穂坂はオレが気づかないような大人の気遣いをわきまえているんだな」等と相変わらずの天然っぷりで感心していた。


「うーん…… じゃあどうして……」


 充孝の登校を寮の門前で待っていた真唯。彼女と同行して歩き始めた直後、路地からすすっと充孝の真横二十センチほどの距離に迫り、一人の女生徒がくっついて歩きだした。

 その生徒は小さく、充孝が並んで歩くとちょっとお父さんな感じになっているが、年齢的には一つ下のはずだった。


「なぁ二月ふたつきだっけ? オレは君と知り合いだったか?」


 充孝は昨日までとの違いB、ほぼ真下に見えるふわふわしたショートカットの頭に話しかけるが、二月からの返事は無い。

 とことこという感じで歩幅の違う充孝と同じスピードで歩く姿はなんだか微笑ましくはあるのだが、彼の視線からは表情はまったくうかがえない辺りが不安だった。


 ――二月 結花ゆうか

 昨晩遅くになってようやく話が中途半端になっていたことを思い出し、自分の部屋からわざわざ同じ寮内の栄作に電話して呆れられた充孝が聞いた話によると、彼女はやはり想像通りの能力者だった。

 『未来予知』。その名称通り未来を知ることが出来るという彼ら超能力者達からしても真偽を疑わずにはいられない能力。由良木始まって以来の能力者であり、学園上層部のみで秘匿しようにもしきれなかったほどの異能だった。

 彼女の能力は未だ未知数、どこまで未来が見えるのか、どのようにして見ているのかは講師達ですらわからないらしいとのことだが、入学したての一年生である二月に関しては、誰が何を言おうと何もかもが噂の域を脱せない。

 誰もが知っているが誰もが何も知らない。二月とはそんな人物だった。


 ――どうしているんだろうな? かわいいけど。

 ――梢くんに用があるのかな? かわいいけど。

 ――オレゆっくり歩いた方がいいかな? ちっこいし。


 三者三様に、周りで噂の生徒と噂の新入生がくっついて歩いていることに目を引かれた生徒も含めれば二十者二十様くらいに、思いを巡らせ黙々と学園を目指す。

 そして短い通学路の終点は特に会話の機会を与えることもなく彼らにその門をくぐらせた。


「ん……?」


 充孝は足を止め、門柱から校門の壁沿いに並べられた植え込みに目をやった。

 真新しい青い作業服の男が同色の帽子を目深に被り、しゃがみ込んで鋏を片手に植え込みを切っている。その横には青いタイ、三年生の妙に目立つ女生徒が仁王立ちでしきりに話しかけていた。


「あれ? 生徒会長じゃね?」


 立ち止まってる充孝の横から栄作がひょっこりと顔を出し、同じ方向を見ていた。ついでに充孝のお腹の辺りからもひょっこり二月が同じ方向を見ている。

 真唯は私なら絶対頭撫でてるなぁ、などと思いながら充孝を見ていた。

 生徒会長は長い髪を揺らしながら何やら大げさに言っているがこちらからは聞こえない。


「うわー、あの人用務員さんに絡んでるのか? 綺麗な人なんだけど残念な人だしなー」


 栄作は額を押さえ、見ちゃいけないものでも見たような顔をしていた。


「あれ? でも用務員さんってあんな方いました?」


 ようやく充孝から目を離した真唯が作業服の男を見ていた。実は充孝も気になっていたのはそこだった。

 充孝はうーんと唸り、顎に手を当てる。


「ん? 充孝、どうした?」

「いや、な…… 用務員さんっていうのは…… おじいさん手前のおじさんの仕事じゃなかったのか?」

「うん……? ……いやいやいや! 納得しかけたけど限らないだろっ! 確かに他に見たことないけど!」

「用務員さんなら最近は若い女性の方もいらっしゃるみたいですよ?」


 充孝の天然発言に妙なところで用務員談義に入る三人だったが、少し話している間に「ちっこい子」がいなくなっていることに気づき、はっと植え込みの方を見た。


「あ…… 二月」


 ぼーっとした顔でそちらを見ると、無表情でじーっと二月が用務員の真横にしゃがんで作業を見ていた。


「何やってんだあの子……」

「ちょ、ちょっとちょっと……!」


 用務員がびっくりして手を止めてる様子に、実はお姉さん気質なのか真唯が二月の方へと走り出した。充孝達も少し遅れて、釣られるように彼女を追いかける。


「だめでしょ二月ちゃん、用務員さんお仕事中!」

「ぅん……?」


 二月はしゃがんだまま小首を傾げて真唯を見上げた。無垢な無表情っぷりが愛らしいが、なんとなく雰囲気が充孝っぽい。


「はぁっ……!?」


 真唯はあることに咄嗟に気づき、振り返ってチョキを突き出した。


「ぎゃあああああー!?」

「えぇ!?」


 栄作は目を貫かれ、悶絶。真唯はその隙にささっと無防備に子供っぽい下着を露出させていた二月のスカートを直してやる。本当にお姉さんっぽい。

 ちなみに充孝は背が高すぎるのと栄作の悶絶にびびって気づかなかったらしい。


「な、なんですの? あなた達急に……! って梢 充孝!?」


 用務員の傍で次々と現れる闖入者にフリーズしていた生徒会長、由良木 未沙都がついに動き出し、怒ったり驚いたりした。


「梢……?」


 突然の騒ぎに栄作の方を見ていた用務員が充孝を見た。

 自分の名前を呼ばれ、違和感を感じた充孝は思わずその瞳を見返した。

 学校で働いているということは三十か、二十五かは越えている年齢だとは思うが、見返すその顔や全体的な雰囲気は自分達とそう変わらない年齢に思える。

 充孝は、帽子のつばの境から覗くその瞳から目を離すことが出来なかった。


「ああ! すみません! お騒がせしました!」


 そんな充孝の前で真唯は生徒会長か用務員か、どっちに向いていいかわからないといった様子でぺこぺこと謝っていた。


「な、なんだよ穂坂、いきなりなんで……」


 泣きそうになりながら栄作が復帰してきた。

 真唯はその様子に、何も見てなかったんだなとほっとしていた。


「すみません、えっと、由良木さん? こちらの方は……」

「な……! あなた私の名前がなんで疑問系……!?」


 気になったことを聞きながら、さりげなく未沙都を傷つける充孝。もちろん天然だった。


「新しい用務員さんっすか? 前の人が辞めてから長いっすけど……」


 気を取り直した栄作が充孝を後押しするように聞いていた。主人公の友人らしく、妙なところで事情通だった。

 その質問になぜか未沙都はバッと両手を交差させてポーズを決め――


「よくぞお聞きになりましたわ、この方は私の――」

「本日から用務員として働かせていただくことになりました、伊達です。学生の皆様、どうぞ宜しくお願いします」


 ややこしいことを言わない内に用務員に華麗に遮られた。


「梢 充孝です、宜しくお願いします」

「穂坂です」「あ、木林です」


 未沙都はとりあえず蚊帳の外にして、礼儀正しい挨拶に三人は恐縮して挨拶を返した。


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