1.白いページ
きりきり かりかり 歯車回る
論理の機構は計画通り
きりきり からから 歯車回る
理屈の実行骨組み鳴らす
きるきる けりかり 歯車回る
成因結果に評価をかけて
きしきし けりかり 歯車回る
筋道改善埃を落とせ
まわれまわれよ 歯車まわれ
進め昇れと螺旋を描け
ぎりぎり がりがり 歯車回った
油果たされ真黒くなった
ドス黒い空の下に広がる、荒野の岩場。
丘に登ったおれは毒々しい魔力に包まれた、紫に染まった城を見下ろしていた。
暑さも寒さも感じない。感じるのは死の匂い。それが吹き付ける砂埃に混じっているのか、本当にしているのかはよくわからない。
『ダテ、聞こえるか』
胸の辺りからやつの声がした。
おれは首に提げたペンダントを、空々しい赤い鎧の胸元から引っ張り出す。
「ああ、聞こえてる」
携帯電話にはほど遠い、この世界のトランシーバーのようなもの。
オレンジ色の珍しい石を前に、おれは向こうの質問に答えていった。
質問は今の状況―― 戦況だ。
手持ちの攻城戦力はゼロ、点呼の必要も無く楽。
作戦の成功は、絶望的。
めんどくさそうにそう答えてやると、向こうは押し黙ったあと、言う。
『……撤退しろ。お前だけでいい、帰ってこい』
予想通り。そう言うだろうと思っていた。
おまえらは、そう言うだろう。
おれはすぐに意見をつっぱねた。
「手持ちの戦力はゼロだ。だが、失った戦力は万分の一にもならない」、と。
ペンダントを握り、握り潰した。
おれの顔に笑みが浮かんでいく。
ペンダントから最後に聞こえた、うろたえたような声が心地よかった。
「さぁ、やってやるか……」
おれは邪魔くさいマントを引き千切り、剣を抜いて丘を飛び降りた。
もがき続けた最悪の月日。その全てに決着を叩きつけるために――
三ヶ月前――
遠くから聞こえる、規則的に何かを叩く音。
「っと……?」
目の前には学校の机があって、ノートが開かれていた。
顔を上げると黒板に文字を書く、教師の後ろ姿。
黒板は埋め尽くされていて、おれのノートは真っ白だった。
――まさか……
ぼやけた教師の背中が、こっちへと振り返る。
「……? 伊達、お前…… さっきまでいたか?」
「え? いや……」
クラスの連中の目線が、おれへと集中した。
「いつの間に……」
「相変わらず忍者みたいなやつだな」
「あれ? でも授業始まった時はいたよ?」
口々に、まわりからおれに対するひそひそ話が始まる。
教師がカツカツと教卓を拳で叩き、みんなを静かにさせた。
「あー、伊達、なんかよくわからんが、トイレは黙って行くな。別に生理現象を止めたりせんから、ちゃんと俺に言うように」
「あ、はい……」
「それと、俺の授業は絶対に高校受験に役立つ、漏らしたって価値はあるぞ」
クラスはひと笑いして、そのまま授業は続けられた。
――またか……
おれは思う。
またおれは、消えていたんだと。
息が詰まりそうになる感覚に、おれは必死でノートを埋めていった。
いよいよ大詰め、『#9』開幕です。
読者の皆様、ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
『玄人仕事』の根幹の序、どうぞお楽しみください。




