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玄人仕事  作者: 千場 葉
#9 『アマチュア・ワークス』
284/375

1.白いページ


 きりきり かりかり 歯車回る


 論理の機構は計画通り



 きりきり からから 歯車回る


 理屈の実行骨組み鳴らす



 きるきる けりかり 歯車回る


 成因結果に評価をかけて



 きしきし けりかり 歯車回る


 筋道改善埃を落とせ




 まわれまわれよ 歯車まわれ


 進め昇れと螺旋を描け




 ぎりぎり がりがり 歯車回った


 油果たされ真黒くなった



 ドス黒い空の下に広がる、荒野の岩場。

 丘に登ったおれは毒々しい魔力に包まれた、紫に染まった城を見下ろしていた。

 暑さも寒さも感じない。感じるのは死の匂い。それが吹き付ける砂埃に混じっているのか、本当にしているのかはよくわからない。


『ダテ、聞こえるか』


 胸の辺りからやつの声がした。

 おれは首に提げたペンダントを、空々しい赤い鎧の胸元から引っ張り出す。


「ああ、聞こえてる」


 携帯電話にはほど遠い、この世界のトランシーバーのようなもの。

 オレンジ色の珍しい石を前に、おれは向こうの質問に答えていった。


 質問は今の状況―― 戦況だ。


 手持ちの攻城戦力はゼロ、点呼の必要も無く楽。

 作戦の成功は、絶望的。


 めんどくさそうにそう答えてやると、向こうは押し黙ったあと、言う。


『……撤退しろ。お前だけでいい、帰ってこい』


 予想通り。そう言うだろうと思っていた。

 おまえらは、そう言うだろう。


 おれはすぐに意見をつっぱねた。

 「手持ちの戦力はゼロだ。だが、失った戦力は万分の一にもならない」、と。


 ペンダントを握り、握り潰した。

 おれの顔に笑みが浮かんでいく。

 ペンダントから最後に聞こえた、うろたえたような声が心地よかった。


「さぁ、やってやるか……」


 おれは邪魔くさいマントを引き千切り、剣を抜いて丘を飛び降りた。

 もがき続けた最悪の月日。その全てに決着を叩きつけるために――






 三ヶ月前――



 遠くから聞こえる、規則的に何かを叩く音。


「っと……?」


 目の前には学校の机があって、ノートが開かれていた。

 顔を上げると黒板に文字を書く、教師の後ろ姿。

 黒板は埋め尽くされていて、おれのノートは真っ白だった。


 ――まさか……


 ぼやけた教師の背中が、こっちへと振り返る。


「……? 伊達、お前…… さっきまでいたか?」

「え? いや……」


 クラスの連中の目線が、おれへと集中した。


「いつの間に……」

「相変わらず忍者みたいなやつだな」

「あれ? でも授業始まった時はいたよ?」


 口々に、まわりからおれに対するひそひそ話が始まる。

 教師がカツカツと教卓を拳で叩き、みんなを静かにさせた。


「あー、伊達、なんかよくわからんが、トイレは黙って行くな。別に生理現象を止めたりせんから、ちゃんと俺に言うように」

「あ、はい……」

「それと、俺の授業は絶対に高校受験に役立つ、漏らしたって価値はあるぞ」


 クラスはひと笑いして、そのまま授業は続けられた。


 ――またか……


 おれは思う。

 またおれは、()()()()()んだと。


 息が詰まりそうになる感覚に、おれは必死でノートを埋めていった。



 いよいよ大詰め、『#9』開幕です。


 読者の皆様、ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

 『玄人仕事』の根幹の序、どうぞお楽しみください。

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