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玄人仕事  作者: 千場 葉
#8 『アズ・タイム・ゴーズ・バイ』
281/375

28.c14,12/20 昼


 件のチャンネルに合わせられたテレビが鳴る、ダテの仮住まい。

 全てを終えたダテとデイトルはテーブルに着き、時間の終点、その瞬間を待っていた。


「椅子も人も、定めからは逃れられんか……」

「ああ、あんたの言う通り、人だってこの世界を構成する「もの」だからな――」


 ――番組が生まれたきっかけ、ジャドが彼女を選んだきっかけは、彼女があの港でダテを助けたことにあった。だがループ自体はこれまで、ダテの存在に関わることなく起こっていた。


「ナタリーがあの場所で()()を助けて面倒を見る、それは確定していたんだ。状況や想いは関係無い…… 確定している事象に対して、世界に繋がる「もの」は従う他ないのさ」


 ――それはその日を乗り越えようとも崩れ落ちた、あの椅子のように。


「我ながら、えげつない手段だ」

「そうかもな」


 ここに至るまで幾通りと練られた変化へのプラン、当然に「七日目の封筒をナタリーから奪う」という手段も考えられた。その方が彼女にとっては良かっただろう。

 しかしそれでは九日目の夜、偶然にしてジャドに出会い、その場で「きっかけ」が生まれてしまう可能性を否定出来なかった。


「そういえばデイトル、()()()はどうなった?」

「んん……? ああ、いつぞやの()()()()()()()()例の外国人かね? 病院に聞いたところ、昨日にはもう祖国に帰ったそうだ」

「そうか……」

「毎日港で張り込んだ甲斐もあったな、お前さんには随分と感謝していたそうだよ。本来なら、感謝されたのは彼女なのだろうがな」


 世界の矯正力は、いともたやすく偶然を必然にも変えてしまう。

 ダテは確実に「きっかけ」を潰し、「二人を」拘束する手段を選んだのである。


「……ジャドの相手は、どうだった?」

「うむ…… 楽しい男だったよ。彼女に会わせてやれないことに、心が痛むくらいにはな」


 通報し、時間通りにレスキューを寄越したデイトル。

 ダテはナタリーを抑え、デイトルはジャドを抑えた。

 あの夜ループを生み出すはずだった二人は、ついに出会うことはなかった。


 テレビ番組が始まり、あの日と同じ時刻になる。

 つつがなく、キャスターとジャドの会話が流れていった。


 デイトルが懐中時計を取り出し、今を確認した。


「……抜けたか」

「ああ…… みたいだな」


 世界のループが今、終わりを告げた。

 ダテは時を同じくして訪れた「予感」に、それを確信する。


「なぁ…… 一つ、聞いてもいいか?」

「うん?」

「あんたは全てわかっていた上で、やらないことを選択していたのか?」


 デイトルは、テレビに視線を向けたままに答える。


「わかってなどおらんかったよ。そして、わかっていようとなかろうと、選択も判断も無い。ただ、受け入れるのみだ」


 そう言った彼の表情からは、何も読み取れなかった。寂しそうでもあり、幸福そうでもあるように見えた。きっと見る者の主観で変わるのだろうと、ダテはなんとなく思った。


「そうだな、一つ答えたついでに、一つじいさんらしく、それっぽいことを言い残しておいてやるか」

「……?」


 デイトルは席を立ち、椅子を戻す。


「自らが動かなくとも物事は動く。人間自ら動くのは、どうしようもなく我慢出来ない時―― ケツまくって逃げる時だけでいい。案外そんなもんさ」

「……あんたが言うなら、そうなんかもな」


 動かなきゃ何も始まらない、そう思い、そう動いてきたダテは、反論したい内心はあっても何も言えなかった。

 今度の「仕事」でデイトルは、それを実証してみせていた。


「ではな、ダテよ。もう会うこともあるまいが、達者でな」

「……おう」


 ゆったりとした、軽くどこかへ出かけるような足取りで玄関へと歩むデイトル。

 (せき)(りょう)感も何も無く、ひどく普通に扉は開き、そして閉まる。そんな別れだった。


 デイトルは、いなくなった。


 そして――


 がらんとした部屋の中、光の柱が降る。

 光は長方形を描き、徐々にその姿を変え――


 光の扉が現れた。


「……帰るか」


 ダテは席を立ち、テレビに映るジャドを消し、扉へと向かう。


 彼はくぐる、光の扉を。



 光の扉が閉じ、この世界から彼が消える瞬間――



 小さな光が一つ、そこから飛び出した。


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