12.c12,12/14 真昼
自らもかなり、ぶしつけな話だったとダテは自覚する。だが、そうせざるを得ないと思った。
繰り返し、繰り返し続けるループ世界。いつまでも正気でいられるわけはない。
その中にいて、もう十回を通り越えて同じ時を過ごしているデイトル。きっとこの人物はもう、あらゆる手を尽くして諦めにかかっているのだと、そう思えた。
ならば真摯に協力者として、新たな要素である自分が、本気で解決に動いているというところを見せてやる必要がある。諦めの皮を剥ぎ、希望を湧かせるために。そのための無遠慮な問いかけだった。
長い一分ほどの静寂の後、デイトルがコーヒーに砂糖を追加して、かき混ぜはじめた。
「……少し、いいだろうか?」
くるくる、くるくるとスプーンがまわり、かちゃりとソーサーに置かれた。
「……どうして、脱そうとしたと、原因を探ろうとしたと、そう思うのかね?」
「……? 何を言っている……」
デイトルの声には、ほんの少しの乱れも見えなかった。
その平然とした態度に、ダテが自身に動揺を感じる。
「少しばかり、話がおかしい。ループを認識しているとは言った。だが、なぜそれを人が脱そうとすると、それも必ずそう動くだろうという考えに至るのかね?」
「え……?」
素直に驚きの声を漏らしてしまったダテを前に、デイトルは窓の外を見た。
「どうやらお前さんは、人生の短い時間に多くの人と出会い過ぎてきたようだな。きっとこういった、奇妙な出来事にも数多く接し、接し過ぎてしまったのだろう。そしてそれを、見事乗り越えてきた」
――なんだ…… 何を言ってる……
朗々と語るデイトル。背中を見透かされているような、気味の悪い感覚が過ぎった。
「自分は修羅場をくぐり抜けてきた。たゆまぬ心痛と努力を重ね、物事を解決してきた。それは明らかに、人並み以上である。むしろ余人には到底得られないであろう経験を、自らは持っている」
思わずと表情を失ってしまったダテを見るともなく、デイトルはにやりと笑う。
「お前さんは知らず自らの中にパターンを、人間という生き物の行動に枠組みを仕掛けているようだ。自らの経験則に当てはめ、こうであればこう思う、こう動こうとするはずだ、とな」
「……俺が、のぼせ上がっているとでも言いたいのか?」
「そう思いたいならそう思うといい。それも、悪くはない。正解でも、間違いでもない」
そう言ってデイトルは、立ち上がって窓へと歩き、外へと押し開いた。ダテはようやくと束縛を逃れたという体で、苦い顔で目を逸らす。
デイトルは景色を楽しむように、窓の外を見つめていた。
「繰り返す世界、か…… お前さんは、この世界が繰り返していると思うか?」
「……してんじゃねぇか」
そこに間違いは無い、直面している事実だ。
「なら、人の一生はどうだ?」
「あ……?」
「生まれ、育ち、老い、死ぬ…… 肉体を失ったあと、また同じことを一から繰り返している。そうは思わないか?」
そんな話は、ダテの世界ではダテでなくとも聞き覚える。
実際に目にしたことはなくとも、ダテも知っていた。
「輪廻転生ってやつか? よく知らねぇけど……」
「少し違うな。同じ時間、同じ今の時を、同じ人生を繰り返している。その可能性だ」
「……死んだ後のことまで知るかよ」
聞きたい話はそんな話じゃない、ダテは半ばふて寝するような気分で、テーブルに頬杖をついた。
「ふふっ…… そうだな、わかりようが無い。だがそうだとすると今のこの世界、酷くスパンが短いだけで、状況は同じだと思わんかね? 死んで記憶を司る肉体を失い、巻き戻る。死なずに記憶から何から何まで、巻き戻る。大差は無いだろう?」
何が言いたいのか、ダテにはさっぱりだった。ここに禅問答を期待したわけではない、荒唐無稽な話は実務には役に立たない。
デイトルは窓の外、通り掛かった誰かに手を振っていた。その様子からは、理不尽に巻き込まれて困っている風には見えなかった。
あてが外れたなと、ダテが帰宅を考えだした頃、デイトルは窓を閉めて席へと戻ってきた。
「さて…… では、及ばずながら、解決に手を貸してやるとするか」
「……はぁ?」
再び正面から対面するデイトル。そこには今までのやりとりからは予想外な、奇妙なやる気が見えていた。
「どうした?」
「いや、あんた…… 今どっちかって言うと、解決なんざ考えるなっていう感じで……」
「誰もそんなことは言っとらん。お前さんはお前さんの好きにやればいい、そうしたいなら手は貸すとも」
ダテはわけもわからず、呆れ顔をするより他なかった。
「あ、ああ……? あんたはループから出たいのか、出たくないのか、どっちなんだ……?」
「どっちでもよいというのが答えだ」
「なんだよそれ……」
がっくりと、ダテは机に突っ伏する。
『あの~、ずっと同じこと繰り返してるんスよね? 頭がおかしくなりそうとか考えないんでしょうか?』
『わからん…… さっぱりわからん……』
人の性格をパターンに当てはめている。言われてみればそうだったのかもしれない。
ダテはどのパターンにも当てはまらないこの変人を前に、指摘されたばかりの悪い癖を自覚させられる想いだった。
「ふむ…… しかし、しかしだ……」
「今度はなんだ?」
「手を貸してやるといっても、やはり出来ることは無いな」
「……おいおい」
「お前さんと同じだと言ったろう? 知らないものは知らないのだ」
ダテはテーブルに寝そべり、今日一番の、長いため息を吐いた。
何か聞き出せるかの期待外れどころか、お荷物が増えたような気分で一杯だった。お供なら口うるさい妖精一匹で充分なのだ。
「よし、ではこうしよう」
胡乱な目を上げるダテに、デイトルはこれぞ名案とばかりに目を輝かせて言う。
「全てを忘れ、何も知らぬという顔でもう一周してくるといい」




