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玄人仕事  作者: 千場 葉
#6 『コネクティング・ホーリー・アンド・ダーク』
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84.固めし決意


「これは…… どうして……」


 押し寄せる衝撃の波と暴風に身を崩し、伏せた体勢で見上げる光景は、この世のものとは思えない悪い夢のようだった。

 遠く見える、小さな少女達は互いに手から光の弾を放ち、光の壁を出し、時に体をぶつけあいながら大地に爪痕を残していく。


「まさか、ダテ様のお考えが失敗して……」


 一つ間違えれば巻き込まれ、命を落としかねない戦いを前に、イサは動くことなく少女達を見守っていた。




 向かってくる紫色の光弾を腕で弾き、走り込んでくる相手の足下へと聖なる魔力を放つ。


「やめろシャノン! もとに、もとに戻れ!」


 踏み込んだ先が発光とともに破裂するのを跳びすさって避け、シャノンが空中から無数の小さな光弾を撃つ。


「く、くそっ!」


 アロアは眼前に両手を組む。即座に青いドーム状の防壁が彼女の周りに展開され、炸裂する光弾から守った。


「なんで、なんでなんだよ……!」



 ――『あなたが邪魔なの』


 ――『いなくなって、もらえるかしら?』



「シャノン……」


 シャノンが言ったとは思えない、思いたくない言葉だった。

 だが、耳にした事実は消えてくれない。


「くそっ……!」


 再び、悪態を吐いたアロアは視線で彼女を捉えつつ、背を向けて走り出した。


 容赦の無い言葉。しかしまだ救いはあった。

 それはダテが教えてくれた、暗黒の魔力への知識。


 一目散に走り、間合いを開ける彼女へと、何度目かわからない魔力塊が放たれる。


「っ……!」


 足に力を込めると、身は羽のように軽く、矢のように草地を駆けた。

 走るアロア、それでも縮まる彼女を呑もうとする魔力塊との距離。追いつかれるすんでの所でアロアは身を低くし、転がっていたものに手を伸ばして横っ飛びに草地を転がる。

 アロアがいた場所を過ぎた魔力塊が彼方へと飛び、木々を蹴散らす轟音を立てた。

 彼女は立ち上がり、拾いあげたものから力任せに布を引きちぎる。


「わたしが止めるんだ……! 正気に戻すために……!」


 アロアの手には身の丈ほどの大きさの、『二柱の杖』が握られていた。



~~



「くらえぃっ!」


 獰猛な黒い獣のように、身を低く迫るファデル。まさに一瞬とも言える速さでダテの眼前へと現れ、その爪を上段から振り下ろす。


「うおっ……!?」


 退しりぞきながら真横に構えたダテの鉄棒が、ファデルの爪により真っ二つに切断された。


「死ねいっ――」

「甘いわ!」


 驚くダテに追撃を加えようとしたファデルへと、背後から跳びかかったレナルドの錫杖が迫る。


「ぬぅっ……!」


 ファデルが身をひるがえし、真横に跳んでそれを避ける。

 上段から真下へと振り下ろされた錫杖は礼拝堂の床を叩き、石材を飛び散らせ――


 破片とともにレナルドが肩からダテに突撃する。


「……!? 野郎っ!」


 ダテは地を蹴って後方へと跳び、衝撃を殺しつつ両の腕で体当たりを受ける。衝撃に数メートルの距離を飛んだ彼は、壁際にスリップとともに着地した。


「おのれレナルド! 良いところで!」

「阿呆が、裏切りのあとで味方がいるなどと思うな!」

「誰が阿呆か!」


 文句を吐き捨て、ファデルがレナルドへと襲いかかる。

 両手の爪による暴風のような斬撃が吹き荒れた。


「なっ……! 貴様……!」

「甘いと言っているのだ!」


 ギィという金属音を撒き散らし、無数の斬撃がレナルドの錫杖捌きに受け止められていく。

 間隙かんげきい、足下より跳ね上がった柄がファデルの腹部を突いた。


「ぐふっ……!」


 ファデルの体がくの字に曲がると同時、レナルドの錫杖の柄が床へと降り、入れ替わるように右の足が上昇する。


「ぬぅっ……!」


 顎先を狙ったレナルドのハイキックを、ファデルが体を反らし、宙返りを見せて後方にかわした。

 その着地点を狙い、レナルドの手から光弾が撃たれる。


「なっ……!?」


 暗黒の魔力による一枚板の防壁が現れるも、光弾の炸裂とともにファデルが吹き飛んだ。


「どうした、そんなものか? お前の親父はもう少しマシだったぞ」

「くっ……! 馬鹿な……!」

「『ロード』の力? 笑わせるな、力を増したところでお前はお前だ。力など、ある一点を超えてしまえば技の前には意味をなさん。ましてや表に出さず、研磨を怠った扱いきれぬ力で私を制そうなどと、都合がいいにもほどがある」


 穂先を向けあおるレナルドと、口上に身を起こせずにいるファデル。

 見下ろし見上げる、彼らの膠着こうちゃくに、耳障りな金属の打音が走った。


「俺をのけ者にすんなよ…… メインは俺のはずだぜ?」


 レナルドの背後から、ダテが二つに折れた鉄棒を両手に二人を睨んでいた。


「まったく…… 次から次へと新事実ばっかり突きつけやがって…… 気になって戦いに集中できねぇだろうが」

「……!」


 レナルドが目を見張る。


 両手に持ったままに、ダテが左の鉄棒を右手で、右の鉄棒を左手でなぞる。

 左の鉄棒が白く、右の鉄棒が暗く紫に、輝きを灯し、染まっていった。


「そ、その魔法は……!」

「あん? 知ってんのか?」

「物体への付加魔法エンチャント……! 未だ解明されていない術式を……」

「ああ、こっちじゃそうなのか、わりと普通なんだがな」

「あなたはいったい―― ……!?」


 ダテに気をとられていたレナルドが、背後に迫る気配に身構え―― 肩すかしを食らった。


「なんだと……!?」


 猛進する黒い影がレナルドの脇をかすめるようにすり抜ける。

 影は耳をつんざく高音とともに、ダテの前に動きを止めた。


「……!?」


 振り下ろされたファデルの爪が、白い棒に受け止められていた。彼を見るともなしに掲げられた、左手に握るそれによって。


「……うん、コーティングしてやれば切断されないようだな」

「なに……!? 私の爪を…… ただの燭台ごときで……!」

「ずっと触ってると危ないぜ? それ、聖属性だ」

「なっ!?」


 接している爪から白い魔力が流れ、彼の手に伝わっていく。


「ぐ、ぐああっ! 焼ける……! 焼ける!」

「ははは……!」


 煙を噴く腕を押さえ、痛みに呻きながらファデルが彼を離れた。


「神父狙いに見せかけて俺とはいいフェイントだったんだが、相手が悪かったな。そもそもあんた、動作が遅い上に攻撃がテレフォンパンチだ」

「て、てれ…… なんだ?」

「まぁ…… 戦いのセンスが無いな、ってことさ」

「な、なにぃ……!」


 怒れるファデルを置き、ダテは両手の武器をかち合わせ、音を響かせて身構える。


「さて…… あっちはあっちで心配だし、そろそろ本腰を入れてやらせてもらう。……行くぜ?」


 言葉とともに発せられる空気に、レナルドとファデルが身を固く、応えるように身構えた。



 遠く、決戦の地より感じる緊急のサイン――


 彼は自らの戦いを前に、一つと、柄にも無い思いを投げかける。



 ――頼んだぜ、相棒。


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