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玄人仕事  作者: 千場 葉
#6 『コネクティング・ホーリー・アンド・ダーク』
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81.訪れし、変革


 目も眩むような巨大な光波を維持し続けながら、おかしなものだとアロアは思う。

 昨夜、ダテからこの対策を与えられ練習を始めた頃は、何度となくシャノンの力に押され、弾かれ、草地をごろごろと転がった。

 それが今やこうして数十分と変わらずに、その時とは比べものにならない魔力の出力を保てている。

 練習の時とは違い、今の魔力の量であれば最早失敗すれば吹き飛ばされるくらいでは済まないだろう。だが、たしかに厳しい状況であるのに、安心感すらも感じるのだ。


 アロアの表情から、小さく笑みがこぼれる。


 ――「お前は覚えるのが早いな」


 数時間をかけ、シャノンと出力を合わせられるようになった時の、彼の言葉が頭をぎっていた。


 アロアの思う「あいつ」は口が悪い。尚更に、特別、自分には口が悪い。

 それだけに褒められた時に貰える、世辞の無い言葉には心が躍る。


 ひょっとしたら自分は本当に、こういったことに才能があるのではと思い込んでしまうほどに。


「……!?」


 不意に、体勢が揺らされた。


「な、な……! 危ねぇ……!」


 慌て、アロアは足に力を入れ、出力を上げて応対する。

 決して気が緩んでいたわけではない。先ほどまで均一を保っていたはずのシャノンの光波が唐突に乱れ、強いものに変わろうとしていた。


「ど、どうし――」


 「どうしたんだ」とシャノンを気遣い、合図を送ろうとしたアロアは、そこで言葉を失った。



~~



 剣戟けんげきと変わらぬ、金属がれ合い、かち合う響きが礼拝堂を騒ぐ。

 三者の衝突が生み出す衝撃に、居並んでいた長椅子はすでに壁面へと吹き飛び、一部はただの木片と化していた。


 レナルドの杖がダテの腹部を狙い、突きを放つ。ダテが下段から棒をかち上げ、それを上方へと払う。右手の爪にてダテの背中を狙ったファデルが、彼の跳ね上がった後ろ足に顎先をかすめられ、二の足を踏む。


「そらそらどうした! 二人がかりでそのザマかぁ!」


 長い鉄棒の端を右手一本に握り直したダテが体を捻り、彼を挟む二人を回転して薙ぎ払う。ファデルが間一髪で下がり、レナルドは杖にてそれを受け、圧力により後退する。


「まだまだぁっ……!」


 両手に鉄棒を構え直したダテが、レナルドへと突進。続け様に三発、鋭い突きを放つ。


「ぐっ……! ぬっ!」


 レナルドは器用にも、細い錫杖の柄の真心にてそれを正面から防ぐ。


 ――ダテの鉄棒の先端が、小さく反時計回りに動いた。


 錫杖の柄を絡め取るように動いたその動きが、レナルドの守備をこじ開ける。


「はっ!」


 鉄棒の先を握るダテの左手が緩められ、後ろを握る右手に押し込まれた鉄棒が手のひらを滑った。


「ぐっ…… はっ……!」


 急激に伸びたと錯覚するような最大延長の突きを胸に受けたレナルドが、礼拝堂の床へと吹き飛ぶ。


「なっ……!」


 床に転がるレナルドへと、ファデルは一瞬と目を奪われた。


「……!?」


 すぐ様に、敵へと目を戻したファデルが見たものは『残像』、鉄棒を軸に、宙へと舞い上がるダテの姿――


「上……!」

おせぇ!」


 気が狂った風車のように体の前面にて鉄棒を回転させながら、ダテがファデルの頭上から降りかかった。

 何発とわからぬ回転撃がファデルの頭部を肩を、上から下へと強かに打ち、顔面から地面へと叩き落とした。


「ぬぐっ…… はっ!?」


 急ぎ身を起こそうと両手をつくファデルが顔を上げたと同時、その体が礼拝堂に飛んだ。容赦の無い胸部へのサッカーボールキックは、ファデルの体を礼拝堂の壁面へと打ち付け、落下した彼を長椅子の木片と一体化させた。


「くっ…… なんという技の冴え…… だが……!」


 起き上がっていたレナルドがダテへと迫る。走り込みながら一発と、レナルドの右手が聖なる魔力塊を放つ。


「いいぜ、退屈させんな」


 右手で魔力塊を弾き、鉄棒を両手に構え、ダテが応対する。

 レナルドの突きのフェイントからの足払い。ダテの鉄棒がそれを払い、弧を描いて跳ね上がり、面を放つ。両手で錫杖を掲げたレナルドが受け止め、そのまま両者はエモノを擦り合い正面に、足を踏み出し鼻先三十センチの距離で押し合う。

 じりじりと、鉄棒と錫杖が震え合った。


「……ひとつ聞いておくが、あんたは間抜けじゃないよな?」

「どういう意味かね……?」

「暗黒の魔力と聖なる魔力、合わせても力にはならねぇって言ってるんだ」

「『聖杯』の機能ならば問題は無い…… 純粋に、私の力となる……!」


 レナルドが気迫とともに、錫杖を押し込んだ。


「それを聞いて、安心したぜ……!」


 返す言葉とともに、ダテが鉄棒を支持する。



 ――瞬間、二人の手から震えが消えた。



「……! これは……」

「ついに、訪れたか……」



 黒き天のアーデリッド―― 浮かぶ二柱の神は一つとなり、世界は一瞬にしてその構造を変えた。


 目に見えるたしかなものは何も無い――



「合月の時か……」


 木片の中から、ファデルが立ち上がった。


「この感覚…… 二十五年前と何も変わらぬ」



 定められた時刻の黙祷のように、礼拝堂に、世界に静寂が訪れていた。


 世界の法則の変化は、全ての生物に、感覚として伝わっていった。


 ただ一つ、一時の沈黙を与え。



~~



 ただ二人、一時の沈黙を与えられない。


「ぐぁ……! な、なんだ……!」


 自分の体が自分のものでは無くなっていく、まさにそんな感覚だった。


「ご、合月……!?」


 ぐらりと混濁こんだくに傾く意識を四肢に力を込めて揺り戻し、白き光波を保つ。

 自らの中に世界の力が流れ込む。想像も出来ない内容が、今現実として確信させられた。


 力がみなぎる。そんな生優しいものではない。

 ともすれば肉体が張り裂けるのではという危機感すらも抱く、狂気じみた力が体のどこを選ぶことなく入りこみ、膨れあがり、駆け巡る。


「ぐっ…… うああ……!」


 生存本能が、流れ込む力を外へと吐き出せと命じる。

 全身を青白く発光させる彼女の腕から、堪えようの無い命令に従い、これまでとは比較にもならない強大な魔力が放出された。


「……! シャ、シャノン……!」


 相手を心配する必要はなかった。

 白き強大な出力は、黒き強大な出力によって微動だにすることなく抑え込まれていた。


「お、おまえも…… 同じか……」


 合月は例を違えることなく、世界の魔力を二人の代表者へと分けていた。


「遠慮はいらんみたいだな…… 使い尽くすぞ!」


 力の増大した光波。放たれるほどに、自らの体が、意識が、自らの意思へと取り戻されていく。そのはっきりと自覚出来る感覚に、彼女はダテから聞かされた話と、受けたこの対策の正しさを確信出来た。

 終わりの見えた合月の時、アロアは意気揚々と光波の出力を上げた。



 ――しかし、彼女は未だ気づいてはいなかった。


 繋ぎ流れる力の先、そこに立つ少女の心の根。


 自らの心の、奥底にも。


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