第81話 王都騒乱 再び
もっと早く投稿するつもりだったのですが、仕事納めが昨日でやっと出せる状況に……。いつも遅くてすいません。
「くっ、全く次から次へと……。悪いが話は一旦ここまでだ。行かなければ」
敏文はカリーナの話を受けてすぐに動き出した。
「仕方ありませんね。もう少し話を詰めたかったのですが……」
本当に残念そうなカリーナに対して、敏文は苦笑いを返す。
「まあ、ほんとうに仕方ないさ。君には貴重な情報をもらった。一方でこちらについてはまだ何も返していない。君たちが、アブドサラームだったか、彼が希望する精霊たちへの助力依頼についても、今の状況だとまだ返答も難しい。もし、王都のシャハーブたちの攻撃を排除した後に、機会があったらまた話し合おう」
「そうですね。その機会をいただけるのであれば。同国人を売ることはできませんが、あなたが無事であるように願っております」
カリーナはそう言葉を返した。
「ここに、来ればいいのか?」
敏文の言葉にカリーナは首を振る。
「いえ、ここはもう使えないでしょう。我々も移動します。もし、あなたが無事な様子であれば、王都のどこかで接触させていただきます」
「そうか……わかった」
敏文はそう言って立ち上がると、キキョウが寝かされているケースを見てカリーナに尋ねた。
「キキョウさんは帰してもらいたいんだが。俺とコンタクトをとるという目的は達せられてるから問題ないだろう?」
「ええ。もちろん。ここで、あなたに機嫌を損ねられても意味はないですし……、ナズィ、ケースを」
カリーナは侍女の一人であった、ナズィに指示を出す。
壁際に控えていた侍女のうち、年齢が高いほうの女性がケースに近づき、しゃがみこんでケースの底のほうについていたボタンを押した。
すると音もなくケースが両側に開いていく。
それを見た、敏文が近づいていくと、
「うう~~んっ!」
驚いたことにキキョウがすぐに上半身を起こして背伸びを始めた。
「固いところに横になっているとあちこち痛くてっ。あ、トシフミさん、すいません私のためにここまできてくださって……。ところでここどこですか?」
若干マイペースなキキョウに驚きつつも敏文は、現在地がサクラージ島であることと、これまでの経緯を簡単に説明した。そして王都が襲われていること、緊急に戻る必要があることを伝える。
「ええ、そこはわかりました。だって聞こえていましたし……」
実はキキョウは、敏文たちの話の途中から目が覚めていた。
話の腰を折るべきではないと考えてそのままの姿勢で我慢していたのだった。
「この状況で、意外に大物ですね、キキョウさんは……」
カリーナも少し驚きを見せる。
「浚うという真似をしてしまってすみませんでした」
そして、敏文に対してと同じようにキキョウに対しても頭をさげた。
「それじゃ、急いで皆と合流したい。すぐに出る。キキョウさん、行きますよっ!」
そう言って差し出された敏文の手を、キキョウは嬉しそうに取って立ち上がった。
「はい、急ぎましょうっ!」
洞窟を出た敏文はセイランに乗り、キキョウを横抱きにして、急いでコノジョウへ向かう。
キキョウは敏文に横抱きにされたとき、若干恥ずかしそうな顔を見せたが、状況を踏まえてすぐに表情を変え敏文の指示に従った。
途中、敏文は遠話の腕輪でサラやミサキと連絡をとる。
キキョウが無事であることについては、喜びの声が上がったが、王都が攻撃されているという話が伝わると一気にその場の緊張が高まった。
「ミサキっ! 転移の大図持ってたよな。俺のはミヤザに行くときに使っちまったから」
転移の大図は行ったことのある場所への転移を可能とするものではあったが、1度使うとしばらくは魔力を充たすまで使うことができないという特性を持っていた。
本来であれば、サクラージ島から一気に王都に向かいたかった敏文だったのだが、ミサキたちとの合流を考えたのには、キキョウの存在とも合わせて理由があったのだ。
『ええ、大丈夫。使えるわ』
「わかった、【ミスティック】と【純白の朝顔】は王都防衛にっ!」
『了解っ! あなたが戻ったらすぐに出れるように皆には準備させるわ』
「頼んだっ!」
コノジョウについた敏文とキキョウを第三門前の広場で、皆が出迎えていた。
そこには、ミサキやサラ以外にも、男爵やアケビ、カージ、シノハといったミヤザの皆や、マリカ、イチロウタの姿もある。
敏文が広場に降り立つと同時に、マリカが駆け寄ってきてキキョウに抱き着いた。
「お姉さまっ! よく御無事でっ!」
アケビも近寄ってきて二人を抱きしめる。
「よかったよっ! 無事でよかったっ!」
普段のマリカからは想像できないような激しさでキキョウに抱き着いて泣き出すマリカにキキョウも驚く。
「あらあら、私は大丈夫よ。皆の前なのにそんなに泣いちゃって……」
すぐそばにはナミの姿もあった。
「キキョウ様、私がいながら、申し訳ありませんでした」
彼女は深々と頭をさげる。
「もう、いいのよ。何もされなかったし、どこも怪我もしてないわ。トシフミさんに無事に救い出してもらいましたから……」
キキョウは未だ泣きじゃくるマリカの頭をなでつつ、ナミに対して微笑む。
そして、ふと心配そうな表情を見せて、ナミに尋ねた。
「ナミ、お父様は?」
「ダイカク様は、未だ休まれておられます。命に別状はないのですが、魔力を枯渇するまでお使いになられておられましたので、体へのダメージが大きいようです。まだ目を覚まされません」
ナミの表情は優れない。
それを見た敏文はキキョウにそっと伝える。
「今はキキョウさんやマリカはダイカクの傍についてあげてください。王都の事は俺たちが……」
「判りました……」
キキョウはそう答えた。だが、そこでふとあることに気が付いて再び怪訝な表情を見せる。
「ところでアヤメはどうしたのですか? ブンゾーさんの姿も見えないようですが……」
「っ!」
その問いに、敏文は答えに詰まる。
すると、その時、それまで泣きじゃくっていたマリカが顔を上げた。
「アヤメ姉さまやブンゾーさんは、トシフミたちと今は事情があって別行動してる。そうミサキさんに聞いた」
「そう」
キキョウはその言葉に、若干腑に落ちなさを感じつつも、それ以上問いただそうとはしなかった。
敏文がミサキを見ると彼女は大きく頷いた。ミサキが敏文の留守の間に同じ問いを発したマリカに事情を説明していたのだった。
すると、そこに男爵が声をかけた。
「トシフミ、お前に無理ばかりを頼んですまん。事情はさっきミサキ殿から聞いた。また、王都が襲われているという話だな。こちらもさっき王都に通信をいれたのだが、かなり混乱していて、至急お前達に戻ってほしいそうだ。疲れているだろうが……すまんな。俺たちも手伝えればいいのだが、この有様では出せる兵もない」
力なくうなだれる男爵に敏文は力強く答える。
「いえ、大丈夫です。まだ、行けます。恐らくホーエン各地への攻撃は陽動で、この王都への攻撃が本命なのでしょう。すぐに向かいます。ハル、サラ、ミサキっ!」
すると、ミシェルやカオリ、シオリを含めた6人が近づいてくる。
「私たちの準備はできてるわ」
そう口々に答える。
その中で、敏文は表情に焦りと苛立ちが見えるハルの両肩を掴んで、こう言った。
「もう一度、王都へっ! これ以上シャハーブたちに好きにさせないためにっ!」
「はいっ!」
目を大きく見開いて敏文を見上げるハル。
そして、ミヤザの人々が見守る中、敏文たちはミサキの持つ転移の大図を使って、その場から姿を消した。
その日、王都は朝を迎えようとしていた。
非常事態が王家より発せられている関係で、王都の港湾の海側の入り口は高さ10メルの防護壁により夜間は閉鎖されていた。
街中の各区域の通りも何時もより多くの照明の魔道具が通りを照らしており、そこを国軍兵士達が、時折巡回している。
だがさすがに明け方ということもあり、人通りはほとんどなかった。
もう少し時間がたてば人々で賑わいを見せるであろう商店が集まる中央の各区も静かな様子だった。
ただその中でも多くの人間が往き来している場所があった。
王都港湾である。
海軍王都港湾管理局は王都の港の出入港管制、港湾施設の管理並びに警備を担う組織で、海軍卿であるタチバナ伯爵の部下であるアシヤ男爵が局長を勤めていた。
魔獣により船舶が多数攻撃されていることもあり、海軍の管理下にある王都の港湾施設は海からの攻撃には神経過敏になっていた。
そして、管理局管制室詰めの兵たちにとっては、不幸なことに更に彼らを神経過敏にする事情があった。
彼らの上司であるアシヤ男爵が前日から、イライラと落ち着きを失っていたのだ。
実は昨日、彼の妻と娘が実家のあるトーブ島センダからの定期船で王都に戻る予定だったのが、未だ到着していなかったのだ。
普段から美しい妻と愛らしい娘の自慢とのろけを聞かされていた彼の部下は今は妻子の安否が不明なことでイラつく上司を気遣いながら仕事をしていた。
「局長、かなり落ち着かないな……」
「無理もねぇさ。日頃からあれだけ自慢していた嫁さんと娘が帰って来ないんだぜ」
「行方不明って言っても、この状況じゃ。多分……」
海上を監視する彼らに当直主任から罵声が飛ぶ。
「こら、無駄口叩いてないで、しっかり監視しろっ!」
首を竦めた彼らが改めて前を向いて少しずつ空が白み、周囲が肉眼でもはっきりし始めた海に目を向けた瞬間だった。
「おい、あれっ!」
「ん? いや、そんなばかなっ! いつの間にっ!」
二人は慌てて立ち上がり椅子を倒してしまう。
二人の眼前にはついさっきまで無人の海原が広がっていたはずの沖合いに突然数十隻の船が現れていた。それは監視兵だけではなく周囲の人間でも肉眼で確認できる状況だった。
「おい、監視兵は何をしていたっ! あれほどの数の船舶にここまで近寄られるまで気付かないとは!」
「いえっ、今の今まで船の影など全く……なあっ!」
「ああ、ついさっきまで何もなかったのに……」
管制室に詰めていた他の兵たちも一斉に首に下げていた双眼鏡を手に取り海上を確認する。
「な……そんなばかなっ! 主任っ! あそこにいるのはセッツで沈んだと報告のあったデジマとコバシですっ! それに他の船も……」
双眼鏡でその船を確認した兵は驚愕する。
ここ数日の魔獣の攻撃により沈んだあるいは行方不明とされていた船ばかりだったからだ。
「なんだとっ!」
その声にそれまで局長席でイライラと机を指先で叩いていたアシヤ男爵は立ち上がる。
そして自分の首に下げていた双眼鏡で沖を見始めた。
港湾を管理する海軍は騒然となり、至急防壁を開門して迎え入れるべきだとする主張と、沈んだはずの船が現れたことに疑念を抱き、臨検してからだとする主張が真っ向からぶつかっていた。
すると、沖合いの船舶から一斉に開門を促す、汽笛が鳴らされる。
アシヤ男爵は悩んでいた。
理性で考えれば、このタイミングで沈んだとされる船が王都の沖に一斉に現れるのは極めておかしい。
だが、もし沈んだとの情報が誤報で、あるいは魔獣に襲われた船が何らかの方法で逃れてきたのなら、早急に受け入れなければ乗員乗客の生死に関わるかもしれない。
2つの主張に悩んでいたアシヤ男爵は、その時双眼鏡の視界のその先に求めていた船、自分の妻と子が乗っていた王都へ向かうはずだった定期船の姿を見つける。
(あれだ! 間違いない!)
だが、まだ彼は決断出来ないでいた。
そして、上司であるタチバナ伯爵へ指示を仰ごうと考えたその時、管制室に大きな声で報告が上がった。
「東方の第10監視所から連絡っ! 王都の東方沖を触手を多数生やした巨大な魔獣が西進中! セッツを襲った魔獣ではないかと! 1時間以内に王都沖に達する見込み!」
すると顔色を変えたアシヤ男爵はすぐに命を下す。
「やむを得ん、開門する! 魔獣が現れる前に至急で各船を収容するのだ! 湾岸警備中の海軍各隊に通達。各船が接舷次第救護活動にあたられたし!」
そのアシヤ男爵の命に部下の一人が異を唱えた。
「待って下さい局長! あれらの船には不審な点があります。状況から湾内にいれるのはやむ無いにしても、接舷は待たせて臨検すべきですっ! せめて海軍卿のご指示をっ!」
だが、既にアシヤ男爵の思考の天秤は一気に開門に傾き、魔獣の手から自国民を守るためとして参謀の反対を押し切って開門と接舷の許可をしてしまう。
「ゆっくりしている暇はないっ! すぐに開門っ!」
次々と王都の港湾に滑り込んでくる船舶。そのどれもが大きく損傷しており、浮かんでいるのが不思議な状況に港湾警備兵には見えた。
なんとか、魔獣到着の前に全船舶が港湾内に収容された。
その数およそ、大小あわせて60隻。
500人程の定員を持つ大型の定期船が5隻含まれていた為、8千人近い乗客や乗員が乗っているものと推測された。
アシヤ男爵は乗員乗客の上陸保護のため、各埠頭を優先的に使用させるよう指示をだす。
海軍港湾管理局の指示を受けて、各船舶は指示されたとおりの埠頭に接舷していった。
そして、緊急の連絡を受けた、海軍、王都警備隊の兵や、救護隊が埠頭に待ち構える中、船からは中々人が続々と降りてくる。
「おい、あれ生きてるんだよな……」
「あんなに蒼白くなっちまって、よほど酷い目にあったんじゃ……」
降りてきた人々の表情は兵たちが驚くほど青白く何れも生気が感じられないほどやつれ切っていた。
港湾管理局長は本来であれば、管理局内で指揮をとるべきであり、通常は有事に現場で直接指揮を取ることはない。
たが、行方不明となりあきらめかけていた自分の妻子がいるかもしれないと考えたアシヤ男爵は、部下にその場を任せて現場に向かうとして、周囲の制止も聞かず管理局の建物を飛び出していた。
そして、とっさに確認したトーブ島からの定期船が接舷予定の埠頭まで馬を飛ばす。
もしかしたら、妻子が無事かもしれない、その一心で。
降りてきた乗客達を見てさっそく救護に当たろうと、救護隊が乗客たちに近づいた。
「おい、大丈夫か? キツイなら横に……」
そのとき、彼らの顔に驚きと恐怖が浮かぶ。
「な、なんだ?」
うつむいて座り込んでいるように見えた乗客たちの顔を覗き込んだとき、その瞳に赤い光が宿ったのだ。
その直後、その他の乗客たちの瞳にも赤い光が。
「うおあっ!」
仰け反った救護兵が最期に見たのは自分に襲いかかる蒼白い体に口から牙を剥いた人間だったモノの姿だった。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
今年は筆が進まず、大変申し訳ない気持ちで一杯です。
来年はもう少し頻度を上げて、完結を目指したいと思います。
どうかよろしくお願いいたします。
皆様にとって来年が良い年でありますように。
シゾウマ 拝




