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第78話 キキョウの行方

……お久しぶりです。


遅筆については弁解のしようもありません。



前回のあらすじ

巨大バジリスクになすすべないダイカク達。

そこに眩い光と共に現れたのは敏文だった。

「……トシフミっ!」

一瞬の間をおいてマリカが叫ぶ!


ダイカクが展開していた≪風洞≫の魔法が消え去るなか、周囲を囲み、次々と炎を吐き出していた中型のバジリスクの姿はもうない。


熱せられた空気により、地面の砂やほこりが舞い上げられ、マリカたちの髪を激しく揺らしている。


そして、それが収まったとき、彼女たちの目には地上に降り立った敏文の姿があった。先ほどまでは巨大な姿を見せていた白い龍は見当たらない。

そして敏文の後ろには、サラやハル、ミサキたちも立っていた。


「また、ギリギリ間に合ったってところかしらね……」

乱れる髪をかき上げながら、ミサキがそうつぶやく。

「マリカっ! 無事でよかったっ!」

サラがマリカに凄い勢いで駆け寄って抱きしめた。マリカの髪の毛をくしゃくしゃにしながら掻き抱いている。


「……ト、トシフミか……、よく……ここに来れ……」

敏文が視界に入ったダイカクは敏文を迎えようと一歩踏み出そうとしたところで、そのままスローモーションのように前のめりに倒れてしまった。

「お、お父様っ!」

「ダイカクさんっ!」

あわてて声を掛けるマリカとイチロウタ。




二人が動き出すのと時を同じくして轟音と共に凄まじい砂埃が敏文たちを襲った。



すぐさま敏文は無言で右手をかざすと≪風洞≫で障壁を張り、大声で指示を出す。

「皆は男爵たちを援護しつつ、城内に退避っ! ハルとシオリはダイカクや皆の治療をっ! サラはピュアと一緒に城門の防御をっ! あいつらは……俺がやるっ!」


敏文には珍しく語気が荒い。

ダイカクが崩れ落ちる様、そして第二防壁周辺に横たわるミヤザ警備兵の遺体が視界に入った彼は、昼間のセッツでの攻防や、ここに来る途中でミヤザの惨状を目の当たりにしたこともあり、エグバートの刺客たちへの怒りに震えていた。


そこに崩れ落ちた第二防壁を乗り越えて巨大バジリスクが入り込んできた。

狭い場所に2匹が体をねじ込みながら、城門前に迫ろうとする。体をくねらせながら争って前に出ようとするので、地響きがすさまじい。


そして城門前の敏文たちを見つけると、一際大きな声で吠える。

その声による振動が伝わり、再び周囲から砂埃が激しく舞い上がった。


すると、敏文が再び大声を発した。

「皆、すぐに動くんだっ!」


その声にそれまで茫然とバジリスクの姿を見ていた男爵やマリカたちは、はっと我に帰って、ミサキやカオリたちに支えられながら、城門内へ入っていく。

そして巨大バジリスクに向かって仁王立ちする敏文。そして、そのそばには、いつのまにか通常の大きさに戻った双頭虎のゴウがついている。


その後ろ姿に、ハルは声を掛ける。

「トシフミっ! 気を付けてっ! 無事を!」

それに片手をあげて応える敏文。


するとその背後から、サラがハルに言った。

「ハルっ! さあ、あなたも城内へっ! ダイカクさんや他の人たちの治療を頼みますっ!」

そのサラの声に頷くと、ハルは後ろ髪をひかれる思いで、城内へ駈け込んでいった。


皆が城内に入ったのを確認したサラは、一人つぶやく。

「さあ、私たちも役割を果たしましょう。ピュアっ! 頼んだわよっ!」

そうサラが叫ぶと、サラの体から青白い狐が現れたかと思うとすぐに巫女姿の少女を形どる。

『ここから先は通さないっ!』

ピュアがそう言うと、敏文が掛けた≪風洞≫の内側に、第三門を覆うように≪水洞≫の魔法がかかる。敏文がかけた≪風洞≫よりも、防御力に特化した障壁を作り上げることができていた。


「トシフミっ! こっちは大丈夫っ! 思いっきりやってっ!」

サラのその叫びに大きく頷くと敏文は正面でうごめく巨大バジリスクを睨み付けた。



その時だった。

「ひゃあっ、はあっ、はっ、はぁ~。こんな土くれの壁で我が僕たちの力を遮ることなどできんわぁ~」

この場に似つかわしくない能天気で甲高い声が響き渡る。


2匹の巨大バジリスクの足元から、ローブ姿の人間が一人現れる。

周囲に揺らめく松明や、中型のバジリスクが吐き出した炎の残骸でゆらゆらと照らされる黒いローブが不気味な姿を見せている。手にはその背の高さほどの長さの杖を持ち、いかにも魔道士風の姿だ。


「んん~? なんだ、ミヤザの連中はたった3人と獣1匹だけ残して、城内に逃げ込んだか……。腰抜けどもよなぁ! まあ、このハシーム様とかわいいこいつらの力の前には、無理もないかっ! ひゃっ、はっ、はぁ~」


そのハシームのセリフに、敏文は少し眉間に皺をよせる。

彼は上げていた右手を下して≪風洞≫の魔法を解除した。

「なぁ、イブキ。あれどう思う?」

『さあな。このような下賤なもの、かけらの興味も湧きはせぬな』


そのイブキの言葉が聞こえたらしく、フードの下から口だけが見えるハシームから怒りの言葉が漏れてきた。

「なっ! このシャハーブ様の一番弟子たるハシームのことを、下賤だとぉ……お前たちゆるさんぞぉっ! 俺様はなぁ……」


それから延々と自分の自慢話を始めるハシームに対して、敏文は一言、

「ふんっ!」

そう言うと、≪神速≫を発動。もはや人の目では追えない速度で巨大バジリスクに接近すると、右にいた1匹の顎を垂直に蹴り飛ばして吹き飛ばす。

そして浮き上がった勢いのまま振りかぶり右腕を一閃した。


すると、巨大バジリスクはその一撃でその場からミヤザ方向へ吹き飛ぶ。


「へ?」

ハシームは突然自分のかわいい僕の片割れがいなくなったことを咄嗟に理解できていない。


続いて、そのまま垂直に降下した敏文は、もう1匹のバジリスクの巨大な尾の端を掴んだ。

「うぉぉおおおおおおおおおおっ!」

敏文はそのまま尾を背負い、これもミヤザ方向に向けて放り投げた。


「ぶぺっ!」

その際、ハシームがバジリスクの足にぶつかり崩れ落ちた城壁のほうへ吹き飛ばされていく。そして城壁の残骸に背中から逆さまにぶち当たると、上から瓦礫が崩れ落ちてきて彼の体を半ば埋めてしまった。今は腰から下だけが瓦礫の上に見えている状況だ。



『トシフミっ! あっちはまかせろやっ!』

すると敏文の体から、巨大な青白い巨大な狐がすうっと飛び出してくると、吹き飛ばされたバジリスクに向かって駆け出していった。


『スイメイ殿が向かうならば、我らも!』

『ええ』

続いてゴウがそう言って駆け出そうとした時、敏文の左腕が青白く光った。

すると、駆け出し始めたゴウの体がみるみる大きくなっていき、10メルほどの大きさになる。

『ふむ、そのくらいのほうがやりやすかろう』


『イブキ様! かたじけないっ!』

ゴウはそう一言残すとスイメイを追って、ミヤザの方向に駆け出した。


敏文はすぐさまクルリと振り返ると、吹き飛ばされて城壁の残骸に埋もれているそれ・・に向かってゆっくりと歩いていく。

そして、ローブがまくれて穿いているズボンが見えている状態のハシームの片足を掴むと土魔法で周りの瓦礫を排除しつつ、一気に引き抜くと第三門前の広場に向けて放り投げる。


「ぐがががが……」

埋まっていた瓦礫にしたたかに顔をぶつけたハシームは顔が腫れあがっているようだ。そのまま蹲って荒い息をついていたが、おもむろに右手を敏文に向けると、その手のひらに黒い魔力の塊が湧きだし、蛇の形をかたどって、敏文にとびかかろうとした。


だが、次の瞬間敏文の右手の甲が光ると、一条の光線がその蛇を貫き、そのまま、ハシームの右手を吹き飛ばした。

「ヒナタ……よくやった」

敏文は闇の蛇を無力化したヒナタに一言礼を言うと、ハシームに向かって言った。

「無駄なことはするもんじゃない」



「お、おのれぇ……ならばっ!」

手首から先がなくなった右腕を左手で抑えながらもハシームは体から禍々しい魔力を立ち上らせる。

すると、ハシームの周囲に2メルを超える大きさの50体ほどのリザードマンが現れた。鋭く尖った爪を持ちながら、大ぶりの剣や鑓、ハルバートで武装している。そして口にびっしりと生えている牙を剥き出しにして敏文を威嚇していた。

「お前らいけっ!」


リザードマンたちは、敏文に対して四方八方から飛び掛かった。

常人ならば、いきなり50体ものリザードマンに襲われれば、瞬時に押し潰され、切り刻まれるところではあるのだが、そこはもはや常人ならざる敏文のこと。


瞬間、≪神速≫を使って後退すると、右腕の甲をリザードマンに向けてかざす。

甲に形作られた紋章のうち、月を象る紋章が強い光を発した。

「モチヅキっ! いけっ!」

敏文がそう叫ぶと、月の光をその力とするモチヅキの≪月光針≫ムーンライトニードルがリザードマンに向けて放射状に放たれる。

その銀の光は、無数の針となって、敏文に飛び掛かろうとしていたリザードマンたちを貫き、その体に無数の穴をあけていく。

そしてそのまばゆい光が収まった時、敏文とハシームの間には、ぴくりとも出来ないリザードマンであったものしか残されていなかった。



「いったい、なんなんだよお前は……」

そうつぶやくハシームに対して、敏文の表情は冷ややかだ。


「おい、ミヤザにあれだけのことをしておいて、ただで済むと思ってないよな」

それに対して、ハシームは悪びれない。

「ふん、あんな町のひとつやふたつ、無くなったところでどうということもない……」

その言葉を最後まで言い終わる前に、敏文は瞬時にハシームに詰め寄るとそのローブの首の部分を掴みあげると、そのまま高々と持ち上げる。

「ぐっ、息が……」


「お前にとってどうかは知らんが、俺たちにとっては、ミヤザの街の住民にとってはかけがえのない場所だったんだ。お前らの勝手な都合で簡単に燃やしていい場所じゃないんだよっ!」

敏文はそう言うと、ハシームを地面にたたきつけるように放り出す。


「ふん、俺は……お前らホーエンの国民がどうなろうと知ったこっちゃ……ないね。俺にとっちゃ……シャハーブ様の……ご意思が絶対。そのシャハーブさまから……ご指示をいただいた以上、お前らの都合なんて……知らんさっ!」

ハシームはとぎれとぎれに肩で息をしながらそう言うとゆっくりと立ち上がる。そしてボロボロになった体をゆらゆらとさせながら、敏文のほうに近寄ってきた。


「俺はシャハーブ様の、そして偉大なるシダーグ様やマフナーズ様のご意思を遂行するためにいるもの……」


その姿に敏文は身構える。


「エグバートに栄光あれっ!」

そう叫んだハシームがそれまでのふらふらした姿からは思いもよらないスピードで敏文に向かって突進する。

次の瞬間、轟音と共に周囲を閃光と爆風が包み込んだ。


「トシフミっ!」

サラが叫ぶ。


だが次の瞬間、一陣のつむじ風が巻き起こると、周囲の土埃が払われていく。

そして、そこには右手を突き出した状態の敏文が何事もなく、無傷でその場に立っていた。


敏文は咄嗟に、≪光壁≫という光属性の防壁魔法をハシームの正面に展開して防御したのだった。

そして、それに向かって突進したハシームは敏文に抱きついて自爆しようとしたのだが、その手前で行く手を阻まれ、そのまま自爆魔法を起動させてしまったのだった。



「あっ!」

敏文に向かって駆け出そうとして、自分の正面にある≪水洞≫の魔法に阻まれたサラは、後ろを振り返ってピュアを見た。

するとピュアが大きく頷くと≪水洞≫の魔法は解除され、敏文の傍へ行く障害がなくなる。


サラは急いで駆け出して行くと、敏文の背中にしがみついた。

「よかったっ! 怪我は……怪我はないっ?」


「ああ、大丈夫だ。でも、大したことを聞き出せないままに自爆されてしまった……」

敏文は苦々しい表情で今までハシームがいた、今は焦げた地面だけになっているその場所を睨んでいる。

「でも、あなたが無事でよかった……」

サラがしがみついたままそう話すと、敏文はゆっくりと振り返り、サラを抱きしめた。

「心配、かけたね」


そう敏文が言った時だった。

ミヤザの方向から地響きがしてくる。

敏文とサラはバジリスクが戻ってくる可能性を考えて身構えた。


すると、青白い光が防壁の残骸を超えて、敏文たちの前に現れた。

『おい、トシフミよぉ、せっかく面白くなるところだったのに、あれが消えちまったんだよっ! お前なんかしただろっ!』

その後ろから、二本のしっぽをうなだれさせながらゴウも現れる。


「いや、何かしたかって言われれば、確かにしたけどさ。……あ、ハシームが自爆してしまったからか」

召喚主であったハシームがその命を失ったことで、召喚されていたバジリスクも自ずとその姿を消滅させてしまったのだった。

そして周囲に転がっていたリザードマンの死骸もいつの間にか消え失せている。


『くー、また満足できねぇままに終わっちまったじゃねぇかっ!』

悔しそうに前足をダンダンと地面にたたきつけるスイメイと些かふてくされたようにペタッと座り込んでしっぽを項垂れさせるゴウ。


「……」

その様子に敏文はなんと返していいものやら、困った表情をしていた。

すると、サラの後ろから近付いてきたピュアがスイメイ達に向かって言い放つ。

『あなたたち、本末転倒よっ! あなた達を満足させるのが目的じゃなくて、ミヤザの人たちを救うためにここに来たんだから、敵が倒れて喜ぶべきところじゃなぃっ!』


『でもよぉ』

『でももなにもありませんっ!!!!』


その、ピュアの一言に、がっくりと項垂れるスイメイ。少しかわいそうになった敏文は、スイメイとゴウを慰めるつもりで言った。

「まあ、これで終わりなわけがないだろ。まだ、これから、いろいろお前たちに戦ってもらう機会はあるさ」

『ち、わかったよ』

スイメイはそう言うと、敏文の体へスウッと入り込んでいった。


『お主も元に戻さねばなるまいな』

イブキがそう言うと、敏文の左腕が光ると共に、ゴウの体は子虎の姿まで小さくなった。

「ぎゃうっ」

ゴウは腕を顔に近づけるとそれをペロペロと舐めている。

「かーわいいっ」

成体のときは恐怖を感じる双頭虎も子供の姿だとかわいく見えるようで、サラが背中から両腕の根元を抱きかかえている。


「よし、じゃあ城内に戻るか」

敏文はそう言うと、城内に退避していた男爵に連絡をとることにした。


『トシフミかっ! 連絡をくれたってことは……』

「ええ、とりあえずはバジリスクは消滅。それを使役していたハシームという魔法士も死にました。おそらくは大丈夫かと」

『そうかっ! そうかっ! よくやってくれたっ! おい皆、トシフミが敵をやっつけてくれたぞぉっ!』

男爵の声の後方で大きな歓声があがるのが聞こえる。



敏文とサラはゆっくりと第三門に向かって歩きだした。




城内に入った敏文達を迎えたのは大きな歓声だった。

「すげえぞぉ、あんたっ!」

「あのでけぇのをどうやってやっつけたんだ?」

次々と声をかけられ、肩を叩かれる。握手を求める人もいる。

人々の顔は喜びに溢れていた。



そして、城内中央の広場に着いた所で男爵やシノハ、カージなどの男爵家の人々が出迎えた。

「よくやってくれた。ミヤザの民を代表して礼を言わせてくれ」

そう言って差し出された男爵の手を敏文はしっかりと握った。

「遅くなってすみませんでした。まさかミヤザがこんなことになっているとは知らず……」

敏文の表情は曇ったままだ。


「確かにミヤザは燃えてしまった。だがお前が来てくれたおかげで多くの民が命を落とさずに済んだのだ。イトーやモンドノジョーたちも喜んでくれているはずだ……」

そう言う男爵の表情を見て、敏文もこの場にいない2人に起こったことが理解できた。

「……そうですか、イトーさんやモンドさんが……」

敏文も眉間に皺をよせる。


「二人を始めとして警備隊や探検者の多くを失ったことは、ミヤザにとっては痛恨事だ。だがな、下を向いてばかりもいられん。残された人間でミヤザを復興させて、皆の犠牲が無駄じゃなかったって思ってもらわにゃならんからな」

そういう男爵の表情にははっきりとした決意のようなものが現れていた。


「わかりました。俺にできることがあったら遠慮なくいってください」

「おう、この騒乱が収まったらぜひ頼むぞ。土魔法をガンガン使ってくれるとありがたい」

「ええ」


そこで、敏文は気になっていることを男爵に尋ねる。

「ところで、ダイカクはどうしていますか?」

「ああ、今は医療室に運んで休んでもらっているはずだ。イチロウタとマリカがついているし、あそこにはキキョウもいたはずだからな」

「そうですか。組合長からミナミー島からの連戦だったと聞いています。しばらくは休んでもらったほうがいいでしょうね」


そう、敏文が言った時だった。

あわてた様子でアケビとマリカが走ってくる。

「あんたっ! 大変だよっ!」

「トシフミっ! 姉さまがっ!」


男爵と敏文は二人のあわてた様子に驚く。肝が据わったアケビがそこまで慌てる姿はあまり目にしたことがないからだった。

「どうしたんだ?」

男爵はアケビに尋ねる。


アケビはその手に握りしめた手紙のようなものを、二人の前に突き出してこう叫んだ。

「キキョウちゃんが浚われたんだよっ! こんなものが医療室にっ!」


「「なんだってっ!!!!」」

男爵はアケビの手から手紙をひったくるようにして、目を通し始めた。

敏文もその場で手紙を覗き込む。




そこには、キキョウを預かっていること。

そして、なぜか敏文が一人でサクラージ島というニシノベ島の南端の沖合にある島までくることを要求する文面が記載されていた。敏文が一人でこなければキキョウの身の安全は保障されないこと、逆に敏文が一人で来る限りはキキョウは丁重に扱うことが書かれてあった。


差出人には「カリーナ」という名が記されている。


「おい、カリーナって誰か知ってるか? 女だと思うが……」

その男爵の問いに周囲の人々は首を傾げている。

すると、周囲にいた人間の中で、頭に包帯を巻いた警備兵の一人が前に出てきて言った。

「お館様、確かキキョウ様が私を治療してくださった時に、そばについていた女性がカリナと呼ばれていたように思います」

「他にわかることはあるかっ!」

男爵のその問いに首をふる警備兵。周囲の人間も首をふるばかりだ。



「私が行きます」

敏文はそう男爵に伝えた。

「だが、罠の可能性もある、いや、おそらくこれは罠だぞ。たぶん、エグバートの連中の一人なのではないか、このカリーナという女は……」

「そうかもしれませんが、行かなければキキョウさんの身の安全が……」

その時、マリカが叫ぶ。

「トシフミっ! 私もっ!」

それに呼応するように、サラも叫んだ。

「私たちも行きますっ! あんな優しいキキョウさんを浚うなんてっ!」


だが、敏文は二人を見ると優しく諭すように伝えた。

「この手紙には一人で来いと書いてある。そうしなければキキョウさんの身の安全を保証しないと。ということはこのカリーナという女にはなにか俺に要求があるんだろうと思う。だから、二人はここで待っていてくれ。キキョウさんは必ず連れて帰ってくるから」


「トシフミ……」

そうつぶやくサラ。

マリカは自分が助けにいけないことが悔しいのかこぶしを握り締めて俯いている。


多くの住民が助かったことに興奮して騒いでいる最中、男爵や敏文の周囲だけが、沈んだように静まり返っている。


「あまり時間をかけてもいけないでしょう。すぐに発ちます。皆を頼みます」

そう敏文は言うと、外へ向かって歩き出した。





そして夜が明け始め、空が白んできたちょうど同じ頃、厳戒態勢にある王都コーベンから見渡せる海原には数多くの船が近づきつつあった。

最後まで読んでくださって本当にありがとうございます。


相変わらずの遅筆ですいません。

エタらず頑張りますので、気長にみて頂けると有り難く……

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