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第76話 ハシームの哄笑

大変お久し振りです。

10日程と言っておきながら1ヶ月あいてしまいました。

申し訳ありません。


すいません、既に前に登場した人物の名前を初登場のキャラに誤って登場させてしまいました。修正させて頂きます。

サリナ→カリナに修正。



前話のあらすじ

コノジョウに攻め寄せるバジリスクの群れ。絶対絶命の危機に現れたのは淡緑の光を纏ったダイカクだった。

ダイカクの強力な魔法によりコノジョウに籠ったミヤザの人たちは救われたかに見えたのだが……

偵察部隊からの周囲に敵影なし、の報告を受けた男爵は疲れた表情に漸く笑みを浮かべるとシノハとダイカクに言った。

「漸く一息つけそうだな」


だが、ダイカクは顎に手をあて考え込むようなしぐさを見せる。

「どうしたのだダイカク」


その男爵の言葉にダイカクは首を捻りながらこう答えた。

「どうもやつらの狙いがよく解らなくてな」

「とおっしゃいますと?」

シノハがダイカクに尋ねる。


「いや、キドー公爵の所に援軍で向かった時も思ったのだが、やつら犠牲を構わずにホーエンのあちこちでこのような攻勢に出ているのだ。その結果ブンゴは壊滅したがそれ以外のミナミー島、トーブ島、キタノダ島、本島のカナザ、セッツ。かなりの被害を出してはいるがいずれも踏みとどまれている状況らしい。ホーエンへの全面攻勢をするにしては戦力を分散しすぎているような気がしてな。その戦力があれば俺なら王都を直撃する」


男爵も大きく頷く。

「ああ。しかも、こことブンゴ以外は其なりに諸侯の軍の備えがある場所かセッツのように王都に近くて援軍を得やすい場所だ。わしはなぜミヤザが襲われたのか未だに腑に落ちん。こんな田舎町になぜあんな数の魔獣を割く必要があったのか……」


「普通に考えれば、魔獣を作り出す事が奴等には雑作もないことで消耗を気にする必要がないのかも知れん」

「だがダイカク。そうかといって、無作為に攻撃するほど、やつらも無策ではあるまい。何らかの意図がある……はずだろうと思うのだが」

男爵も首をかしげる。


ダイカクは一つ一つ確かめるようにつぶやいた。

「ブンゴの場合は、その後、ハカタンへの侵攻の動きを見せている。ある程度防備があるハカタンよりは常駐戦力のほとんどないブンゴのほうが上陸しやすく、ハカタンの兵力を釣りだすこともできるって話だとは思う。でもミヤザは後背に大きな街があるわけでもなく、もしここからクマモとかヤナーガの兵を釣りだすには山越えになる上、距離がありすぎる。だからこれほどの魔獣を割いてまで攻める意味がどこにあるのか……」


男爵はそんなダイカクをしばらく見つめていたが、やがて一息つくとダイカクにこう告げた。

「ひとまず、今はお前のおかげで、全滅の憂き目を見ずに済んだのだ。とりあえずの防備の修復はできてきた。お前、まだキキョウには会ってやってないんだろう。中で会ってきたらどうだ。少しは彼女も安心するだろう」


「そうだな。王都にはオズーノ様経由で一応報告だけはしておくか。とりあえず、お前の言うとおり、一先ずは休めるときに休むとしよう」

ダイカクはそう言うと、笑って男爵の肩を叩き、そのままコノジョウの第三門をくぐっていった。



その頃、内門の内部では魔獣が撃退されたと知った住民たちが安堵の声を上げ、互いの無事を喜び合っている一方で、前線で負傷した兵の治療が続いていた。

救護担当の白布を腕に巻いたキキョウも、コノジョウ内の一室で数人の魔法士たちと共に、忙しく動いていた。

「その方はもう大丈夫でしょう。奥の休眠室に運んで安静にしてください」

「はいっ!」

そのキキョウの指示に、担架に載せた兵を男性2人が運び出していく。


「すいません! 次はこちらをお願いしますっ!」

「わかりました!」

キキョウは、休む間もなく負傷者の治療にあたっていた。


「キキョウさん、どうぞこれを」

額から汗を流しながら治療を続けるキキョウに側にいた20歳位の若い女性がタオルを差し出す。

「ありがとう。えっと貴女は……」


それまで側について助手をやっていた年配の女性トヨノとは違う赤みがかった茶髪がキキョウには少し印象的に見えた。


「あら? 貴女、救護隊の顔合わせの時にいらしたかしら? それにさっきまでいたトヨノさんは?」

キキョウには記憶になかったことで彼女はつい問いかけてしまった。それにトヨノがいなくなったことにまったく気がつかなかった自分に驚いたこともあったのだろう。少し彼女にしては珍しく詰問調になっていた。


「あ、すいません突然。私はカリナと言います。私顔合わせの集合に間に合わなくて。トヨノさんは今体調が悪くなられたとかで私が替わりにお手伝いするように言われたんです」

カリナは少し戸惑ったように答えた。

「そうだったの……。わかりました。じゃあよろしくお願いしますね。カリナさん」

「はい」


それから、カリナの助けをえながら数人の治療にあたったところで、魔力の枯渇が近いことを感じたキキョウは、ふうっと一息ついた。

だが、まだまだ負傷者の治療は終わりを見せていない。

魔法による治療が行われるこの世界では、魔法士の治療さえ受けられれば、生存の確率は非常に高いものがある。だが、失われた腕や脚を生やすことができるほど高度な治療は一般的ではなく、そこまでの治療ができる魔法士の存在は限られていた。


キキョウはそれなりの力を持った魔法士ではあるものの、体の一部が欠損した兵に対して止血や傷口をふさぐような治療しかできない自分の力にもどかしさを感じている状況だった。


「私にもっと力があれば……」

そう呟いた彼女は、新たにその場に担架で運ばれ横たえられた次の負傷者の方を向くと、肩から掛けたポーチから《魔力回復薬》を取り出すとそれを飲み干した。

《魔力回復薬》はいわゆる“良薬口に……”の例に漏れず、苦味が強い飲み物でもある。

それを飲み干したキキョウも眉間に少し皺を寄せて、水筒を出そうと自分のポーチに再び手をいれた。


すると、彼女の目の前に飲み物が入れられたコップが差し出される。

「あ、ありがとうございます」

そう言って差し出された飲み物を受け取ったキキョウは、眉間の皺を何とか克服して、つくり笑顔をしながら振り返った。その表情が驚きから一転、ほころんだような笑顔に変わる。


「いらしてたんですか?」

「ああ、さっきな」

「じゃあ、魔獣が撃退されたっていうのは……」

「ああ、少し・・手伝ってきたよ」

そう言うダイカクに、キキョウは笑顔で応える。

「よかった。お疲れ様でした。お怪我はありませんか? お父様……って、そのご様子だと大丈夫そうですね」

「ああ」

キキョウは額にかいている汗を腰につけていたタオルでぬぐうと、ほっとした表情を見せた。



「ううううっ!」

その時、担架に寝かされていた負傷兵のうめき声が上がった。


はっとしたキキョウはすぐに顔を引き締めると、ダイカクに言った。

「私はまだここで治療に当たります。お父様はまた魔獣が攻めてくるようなことがあればいけませんので少しお休みになってください」

「いや、腕や脚を失ったものがいるだろう。彼らの治療に手を貸すことにしよう」

ダイカクは腕を捲くりながらそう言う。


「でも、それでは……」

心配そうな表情を見せるキキョウに、ダイカクはこう言った。

「出来ることをしないで後悔はしたくないからな」

そう言うダイカクに、キキョウはため息をひとつつくと、奥の部屋のひとつを指差した。

「わかりました。あそこに体の欠損を抱えたまま、やむを得ず傷の治療のみになっている方々が休まれています。そちらを」

「ああ。キキョウも無理をせずに休めるようなら休めよ」

「お父様がいいますか、それを」

ダイカクは、そのキキョウの少しすねたような笑顔に苦笑いを浮かべると、指し示された部屋へ向かって歩き出した。






ちょうどその時、修復された第一門前。

第一門の前にあれほど山積みとなっていたバジリスクの死骸は、ダイカクの大技によってほぼ跡形もなく片付けられていた。

とは言え、空堀内に残っていた死骸の片づけや、周囲に設置されていた灯りと接敵を知らせる役割を担っていた松明などを警備隊の兵たちが行っていく。


そして、第一防壁、第二防壁の魔法障壁発生装置の魔石の交換も行われた。内門内の倉庫から、予備で保管されていた魔石を警備兵たちが運び出して設置していく。

この魔石は第三門や内門の障壁発生用に保管されていたものだったが、第一・第二両防壁の魔法障壁が魔石を使い果たしており、次の攻勢があったときの為に移したものだった。

つまり、次の攻勢を受ければ、第三門や内門は魔法障壁を作ることができない。


1時間ほどで、何とか襲撃前に近い状況まで復旧を終えると、見張りの兵たちを残してそれ以外の兵たちは休息を取るために、コノジョウ内門の中に用意された仮眠室へ下がっていく。

第三門と内門の間の通路には、それらの作業を終えた兵たちの疲労を癒すために、街の女性たちが飲み物などを準備して待っていた。


そして、第一門上の鐘楼には、見張りの兵たちがいささか疲れた表情ながら、コノジョウへ連なる山道を見つめている。

少し目線をあげると、木々の向こう、ミヤザがあった東南の方角は赤い光を発している。

「……ミヤザ、燃えちまったのかな」

見張りの兵の一人が呟く。

「バジリスクが街のあちこちに火を放ったらしいからな」

「やっぱそうだよなぁ。はぁぁ」

がっくりとうなだれる兵士。


「そうか、お前、家を建てたばかりだったな」

同僚の落ち込みようを見て、その兵士は左横にいたその肩を叩いて励ます。

「でもさ、命助かってめっけもんじゃないか。家は土魔法士さえいれば作り直せる。命は失くしちまったらそれまでだからな」


うなだれていた兵も、顔を上げて呟く。

「……そうだよな。ダイカク様が来てくださって命拾いできたんだからそれを喜ぶべきなんだろうな」

「ああ、これが終わって戻ったら、またお館様と一緒にミヤザを復興させようぜっ!」

「お、おう!」


同僚が少し元気が出てきた事を喜んだその兵が、再び視線を山道に戻したその時だった。

「ん? なんだあれは……」


彼は霧に包まれた山道の向こうに、何かがうごめいているような気がしたのだ。

「おい、何か来るぞ!」

「なんだって!」

鐘楼にいた、数人の兵たちが、いっせいに鐘楼から身を乗り出すようにして、山道の方を向いた。


それは、霧の中にもやもやとした動きとして見えていたのが、次第にはっきりしてくる。

「おい、ありゃ人じゃねぇか?」

「うそだろ、あれだけの魔獣が通ったあとで、しかも橋だって落ちてたはずだぜ?」

「いや、でもよっ。ありゃ確かに……」


兵たちがざわついているわずかなその間に、霧の中からフードつきの長いローブを身に纏った人の姿が現れる。

「お館様に報告をっ!」

兵達のざわつきに気がついたカージが、腕輪を使って男爵と連絡を取ろうとしたその時、突然ひと際大きな男の声が門前のローブの人間から発せられた。


「愚かなホーエンの民どもよ。魔獣が撃退されたと思って安心をしておるようじゃな。我らがそんなに甘いと思うてかっ!」

そう言うとそのローブの男はどこから取り出したのか杖を右手にかざすと、そのまま、防壁に向かって突きつける。

「いでよっ!」


そう男が叫んだその時、周囲の空気の流れが大きく変わった。

「おいっ! なんだあれはっ!」

「あれは只の霧じゃないのかっ!」

兵たちの同様をよそに、周囲に充満していた霧が次第にローブの男の前に集まってくる。


そして、鐘楼の兵士達だけでなく、第一防壁上にいた兵士達がその光景に唖然としていた。


霧はだんだんと纏まり、複数のあるものの形を作り上げていく。

それは、とても巨大な、そして、兵達にとっては二度と見たくもない姿をしていた。

「うそだろ!」

「あんなの、しゃれにならねぇよ!」


「はーっはっはっはっ! ホーエンの愚民どもよっ! お前達の安寧など、これから先に残されていると思うなよっ! わが名はハシームっ! シャハーブ様の忠実なる僕よっ! お前達に喰らい切れぬほどの悪夢を喰らわせてくれるわっ!」

ローブの男はそう言って杖をくるくると振り回している。


そこに、連絡を受けた男爵やシノハ達が、鐘楼に駆け上がってきた。

「くそっ! なんだありゃぁっ!」

シノハの叫びに、男爵が後方の兵士に向かってさけぶ!

「おい、内門内に非常事態を伝えろっ! 戦闘配備だっ!」


驚愕する男爵たちの前で第一防壁の壁には、黒い巨大な影がゆらついている。


そこにはつい先ほど撃退されたはずのバジリスクが、全長が30メルはあるであろう数匹の巨大な姿に変わって、吼え狂っていた。


そしてその後ろでは杖を振り回しながら哄笑を続けるハシームの姿が周辺に置かれていた監視用の松明の灯りに照らされて揺れ踊っていたのだった。

最後まで読んで下さってありがとうございます。

筆が遅くて本当にすみません。

本業の仕事とプライベートのゴタゴタで筆を進める余裕を失っていました。

次回はこんなに開かないように努力奮闘したいと思います。

どうかお見捨てなく……

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