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第75話 淡緑の光

くー、朝に投稿したかったのですが、間に合いませんでした。


イトーが城壁から落下する姿は連絡橋を渡り、第二防壁の指揮所にたどり着いた男爵やシノハの目にも映っていた。

「ああっ! イトーーーーーーっ!」

シノハが慟哭する。


「イトー……、すまん」

男爵は青ざめた顔でうつむいて唇をかむ。

だが、まだこれから戦闘は激しさを増す。

彼に項垂れている時間は許されていなかった。


男爵が顔を上げるとイチロウタとマリカ達が魔法障壁で防御しつつ後退し、右翼の連絡橋を渡り終えたところだった。


「くそっ! イトーの弔いだっ! 右翼の連絡橋を落とせっ!」

「はっ!」

シノハが今来たばかりの右翼連絡橋に向けて走っていく。


そして続けて男爵は、カージとイバ、それにタケイに向けて指示をだす。

「カージっ! イバっ! 防壁上の各員を目前のバジリスクへの攻撃に集中させよっ! それから、タケイっ! お前は後方の陸戦部隊の指揮に回れっ!」

「「「はっ!」」」


その直後、シノハの指示で、右翼の連絡橋が轟音と共に落とされた。

変形し崩れ落ちていく連絡橋の残骸とともに、バジリスクが十数匹、第二防壁前に蠢く仲間の頭上に落下する。


すざまじい轟音が鳴り響くが、それ自体が大勢に影響を与えたわけではなかった。

第一門をくぐり抜けて、後続のバジリスクが次から次へと第二防壁の前に集まってくる。


「もうとっくに千匹なんて、潰したはずなのに……。いったい奴らはどれだけいるんだっ!」

そう呟きながらタケイは各隊の分隊長や班長たちが取りまとめていた後方の陸戦部隊の指揮を執るべく、つづら折りになっている第二防壁の階段を駆け下りていった。




右翼の連絡橋を渡り終えたマリカ達は、その落下の轟音に驚くものの、すぐさま、眼下の敵に向けた攻撃を開始する。

今のマリカの武器は、10発詰の小型のマガジンをセットしたライフルだった。


マリカも、イチロウタも必死に第二防壁を這い上がろうとするバジリスクに向けてライフルを撃ち続ける。敵が密集している分、着弾時の効果は通常のそれよりきわめて大きいのだが、一方で第一、第二防壁間の狭いエリアにバジリスクが密集し、その死骸が積み重なる速度も速い。

仲間を犠牲にすることを全く厭わないバジリスクは仲間の死骸の上に次々と乗り上がり、その姿はみるみるうちに目前までせり上がってきていた。



「先生ぇっ! このままではっ!」

「くっ!」

ライフルを打ち続けながらのマリカの悲痛な叫びにイチロウタも表情を失う。

彼も額から流れ落ちる汗を拭うこともできず、撃ち尽くしたライフルのマガジンを外しては交換し、すぐに撃っているが、もはや追いついていなかった。

彼の目から見ても、最早この場の戦力でどうにかできるレベルを超えていたのだ。





ミヤザの高等学校の魔法科の生徒たちは、担当教師の指揮のもと、第二防壁上の右翼で他のミヤザの義勇兵たちと共に魔法障壁を張る役割を担っていた。

「マリカが前で戦っているんだっ! 俺たちだってここで役に立って見せるっ!」

戦闘前にそう叫んでいたのは、魔法科3年、マリカのクラスの級長をしていたコウタだった。


だが、漆黒の巨大なバジリスクが第一門からあふれ出る姿を前に、そこに6人いた魔法科の生徒のうち、まともに魔法障壁を展開できたのは半分の3名のみ。コウタを含めた3人は腰を抜かしてガクガクと震えるか、呆然としている。


「お前らしっかりしろっ!」

教師の叫びにも反応できない。また、周囲の義勇兵も似たような有様だった。

そのため、想定されていたよりも魔法障壁が薄く、右翼を突破されるのは時間の問題となっていた。



一方左翼も一般市民の義勇兵の中で防系の魔法を扱えるものに、魔法障壁の一部を担わせる予定だったが、防災訓練の時のようにはいかず、頭を抱えて震える者も出る有様で、こちらも障壁の厚さが十分な状態ではなかった。



第二防壁上の各所で、怒号に加えて悲鳴が上がり始める。


「お館様っ! もうここはっ!」

シノハも悲痛な叫びをあげた。


男爵直衛の数人の兵士たちも、剣をすでに鞘から抜き放ち、槍を構え、もう直接戦闘が避けられない距離までバジリスクが迫っていた。


(第二防壁からの後退タイミングを誤ったかっ! こんなにすぐに奴らが仲間を踏み台に上がってくるとはっ!)

男爵は声にならない叫びを心の中であげる。


そして、第二防壁の全面でバジリスクが防壁の高さまで仲間の死骸を踏み台に上がってきたその時、魔法障壁の強度がバジリスクの攻撃の圧力に耐え切れず、消滅した。







「くそおっ!」

男爵がそう叫び、防壁上の誰もが絶望に追い込まれ、自分の死を覚悟した。






次の瞬間……………………





周囲が激しい切裂音に飲み込まれる。

第二防壁の前には、それまでとは異なる新たな魔法障壁が展開され、その前面では3本の竜巻が、それまでそこにいたバジリスクを血風に変えながら、轟音とともに立ち昇っていた。

切り刻まれたバジリスクの血肉は竜巻に巻き上げられて第一防壁の外へ放り出されていく。




「こ、これはっ!」

「た、助かったのか???」

口々に周囲を見渡す兵士たち。




そして男爵にはその魔法を展開したのが誰かが判っていた。

「来てくれたのか……、助かった……」



強烈な魔法の気配に、男爵が第二防壁の後方を見下ろす。

そこには全身から淡いグリーンの魔力を立ち上らせた一人の男が立っていた。

「……遅くなってすまん。ヨシノリ」



「お父様っ!」

マリカも第二防壁の上から、その姿を捉えていた。





そう、そこに立っていたのは、ダイカクだったのだ。

「ダイカク様っ!」

後方部隊を指揮するべく、第二防壁後方、第三門前の広場にいたタケイが駆け寄る。

「いったい何時ここにっ!」


その問いにダイカクは魔法を制御しつつニヤリと笑いながら答えた。

「いや、以前ここに訓練時に来たことがあるし、《転移の大図》をもっているからな。俺は」


「そうかっ!」

タケイの顔に理解の表情と歓喜の笑みが拡がる。

「よく、よく来てくれましたっ!」



「話は後だ。今から、2つの防壁前のバジリスクを殲滅するっ!」

ダイカクはそう叫ぶと、体から一層グリーンの光を立ち上らせる。



すると、第二防壁前で吹き荒れる3本の竜巻に加えて、その向こう側第一防壁の前にも3本の竜巻が立ち上がった。

周囲は切裂音がしているはずなのだが、今度は何も音が聞こえてこない。


「さすがにこれだけの竜巻の音を直接聞いたら、何も聞こえなくなってしまうからな」

不思議そうな表情をするタケイに向けてダイカクがそう説明する。

彼が風の魔法で第二防壁の前で音を消していたのだった。




そして、6つの竜巻が2つの壁の前で踊り狂い、そこにいる全ての動く物・・・を呑み込んだ時、そこには魔法によらない静けさが夜の闇と共に存在した。





そこにいる人々は誰もが固唾を飲んで見守っていた。


そしてダイカクの体から立ち上るその淡い光が次第に収まっていくと共にあれほど荒れ狂っていた6つの竜巻がその勢いを弱めていく。



そして完全に見えなくなったとき、そこにはあれだけ人々を恐怖に陥れた凶悪なバジリスクの姿はそこにいる人々からは見えなくなっていた。


「終わったのか……」

「助かったのか……」

次々にそう呟く兵士達。


タケイがダイカクに駆け寄る。

「ダイカク様っ!」

するとダイカクがニヤリと笑って答えた。

「ああ、終わった。後始末が大変そうだがな」


その言葉が聞こえた瞬間、第三門前の兵士から大歓声が上がる。

「うぉおおおおおおーっ!」



それは直ぐに第二防壁上の兵たちへ、それに第三門の中で固唾を飲むように前線の兵達の無事を祈っていたミヤザの民たちへ伝わっていく。


「ダイカク様ぁ!」

「ありがとうございます!」

「流石はダイカク様だぁっ!」


その兵達の声は次第にダイカクの名を連呼するものに変わっていく。

「ダイカクっ! ダイカクっ! ダイカクっ! ダイカクっ!」



第三門の前や防壁上の兵達が抱き合い、肩を叩き合い、歓声を上げるその様子を見て漸く表情に笑みを取り戻した男爵は、シノハ、カージ、イバを呼び寄せ、矢継ぎ早に指示を出した。


「シノハっ! 各隊の状況を確認! 被害の状況を報告すると共に負傷者の救護を!」

「次にカージっ! 第一、第二の各防壁の破損状況を確認! 現状で出来る限りの修復を! まだ次がないとも限らんからなっ!」



そして最後にイバを呼び寄せ、両肩に手を置く。

「……イトーの事は俺の責任だ。モンドをサポートに付ける積もりだったのだが……。指示が出来なかった。辛い思いをさせてすまん」

以前からイトーを兄のように慕っていたイバにそう言葉を掛ける男爵。

「いえっ! 私の援護が遅かったのです! もっと早くに何か手を打てていればっ!」

そう涙を隠さずに言葉を吐き出すイバ。


その様子に男爵だけでなくカージやシノハもイバの肩に手を置く。

「彼の分も俺たちで。ミヤザをこれからも守らないとな……」

そのカージの言葉に黙って頷くイバ。


「すまんがイバ、斥候を出して第一防壁外の様子を探らせてくれ。もう何もいないのか、確認を頼む」


その男爵の言葉にイバは涙を拭って顔を上げた。

「畏まりました。直ぐに手配します!」



そして男爵は防壁の階段を下りてダイカクの元に向かう。

ダイカクの周囲は彼を讃える人だかりでごった返していたが、男爵が近づくと気がついた人間が道を空けていく。


そしてその先には父親にしがみついて泣いているツインテールのこの戦闘の功労者と苦笑いしながら周囲の喧騒に応えている男の姿があった。


王都以来の再会を果たした二人は、固く握手をするとそのまま互いの肩を叩き合い無事を喜んだ。

「本当によく来てくれた……」

「済まない、一足早くミナミー島のキドー公爵からの援軍要請があってな。ミヤザの第一報を聞いた時は運悪く戦闘中だったのだ。その為遅れてしまった」

そう言って謝るダイカク。


「いや、民衆にはほぼ被害を出さずにあの状況を越えられたのだ。謝られる事はない」

「誰か犠牲が?」


そのダイカクの問いに男爵は辛そうに言葉を返す。

「……ああ。イトーとモンドがな……。モンドは渓谷の橋で奴等の足止めをする際に、そしてイトーはここの戦闘で……」

「そうか、あの二人が……。全部終わったらゆっくり弔ってやらなければな」

「ああ」



「お父様……」

そこに些かやつれた様子の女性が近づいてきた。

「……キキョウ、良かった無事だったようだな」

「はい、お父様も」


その時マリカが声を上げる。

「お姉ちゃん!」

キキョウは妹の頭を撫でながら、側にいたイチロウタとナミに向かって頭を下げた。

「マリカも無事で良かった。イチロウタさん、ナミ、お二人も無事で。マリカのこと無事に連れ帰って下さってありがとうございました」


「いえ。マリカくんは初めての大規模戦闘だというのにとても良くやってくれました。今回の防衛戦、彼女の功績大ですよ」

「そうですね。私の目から見ても奮闘してましたよ」

その二人の言葉にマリカは顔を赤くして照れている。



その照れ隠しだろうか、マリカは姉に話を振った。

「ねえ、お姉ちゃん。何だかやつれてるように見える。救護大変だったの?」


するとキキョウは少し困った様な顔をして妹に答えた。

「う~ん。お父様が現れて魔獣を殲滅したって報告が内門の中にも聞こえてきたの。そしたら周りの人たちがここはいいからお父様に会っておいでって。そこまでは良かったんだけど、いざ内門を出ようとしたら、ソノさん達に捕まっちゃって……」

「ああ~」

その困った様な顔をしているキキョウ見て、マリカとナミはクスリと笑った。

ソノに一度捕まったら、なかなか抜けられない程のお話好きであることはミヤザの一部の住民には有名な話だったからだ。



「さて、ひとまず周囲の調査と念のための再防衛の準備だな。住民達には今日これからここを出るのは危険だし、渓谷の橋も落としてしまっているから、今夜はここで明かすように伝えてくれ」

男爵は周囲の兵にそう伝えると、改めてダイカクとしっかりと握手をしていた。







その頃、イバの指示を受けて第一門の外では、5人一組の偵察隊が3班組織され、周囲の偵察に当たっていた。


あれだけの数がいたバジリスクの姿は今は影もない。

「ダイカク様ってやっぱりすげぇなぁ。あれだけの数一人で何とかしちまうんだから」

「ああ、全くだ。本当あの人がミヤザの出身で良かったよ」


兵たちはそこに何も動く物・・・がいない事に安心してそんな会話をしながら歩いていく。


「何だか霞んでねえか?」

兵の一人がそう呟くが、班長は気にも止めなかった。

「そりゃあれだけダイカク様が魔獣を風の刃で細切れにしちまったんだ。血や肉が霧みたいになってるのかもしれねぇぜ」

「おいおいっ! ヤバくないかっ?」

「お前意外に臆病なんだな」

班長はそう言って笑い、その他の兵士も目の前の恐怖から解放されたせいか笑いで追従する。







だが、彼らはそれが只の霞や霧とは違う事には全く気付いていなかった。

最後まで読んで下さってありがとうございました。


よろしくお願いいたします。


前話の後書きで10日後ぐらいまでにはと書いてみたのですが、何とか間に合いました。

次話も同じくらいで頑張りたいと思いますが、力尽きた時は、ああダメだったのかと笑っていただけるとありがたく……。

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