第73話 コノジョウの壁
おはようございます。
筆が遅くて月2投稿が続いてしまってすみません。
よろしくお願いいたします。
2015.8.27 訂正
モンドノジョー「組合長」→「支部長」 申し訳ありません。
モンドノジョーはジンノスケが連れてきた自分の愛馬に跨がるとアイミとレミが乗っていた空馬を引かせて男爵たちの元に駆けつけた。
「お館様っ! シノハ様っ! これにっ! 後の方たちは他の者たちの後ろに相乗りをっ!」
「おおっ! モンド! すまんな。助かった」
男爵たちは次々に馬に股がっていく。
中には馬車が転倒した際に負傷した兵もいたようだが、何とか探検者に引き上げられながらも騎乗出来たようだ。
男爵たちの最後の馬車に乗っていたのは男爵、シノハを含めて12人。
アイミたちの空馬に男爵とシノハが乗り、残り10人が探検者達の後ろに相乗りした。ジンノスケも後ろに兵を乗せている。
相乗りをしていない探検者は土魔法士であるマサシとマサフミの兄弟と火魔法士のイノスケの3人。
「よしっ! ジンノスケっ! お館様達をコノジョウへっ! 俺もこの橋を落としたら直ぐに向かうっ! マサシっ! マサフミっ! イノスケっ! お前たちは橋を落とすのを手伝えっ!」
「すまんモンドっ! コノジョウで待っておるぞっ!」
「はいっ! ご無事でっ!」
モンドノジョーのその言葉を聞いた男爵は馬の腹を蹴って、コノジョウへ向かう山道を駆けていった。
コノジョウ側に橋を渡り終えたモンドノジョーたちは、騎乗したまま後ろを振り返る。
「よし、マサシ、マサフミっ!橋の両端の岩盤を削り落とすぞ! イノスケは《火防》で防御を!」
「「「おうっ!」」」
モンドノジョーたち土魔法士3人は橋を渓谷に落とすべく、土魔法の詠唱を始める。
今や反対の橋の際にモンドノジョーが築いた20メル程の高さの《土壁》は次々と仲間の体を踏み台にして乗り上げていくバジリスクたちの重みでギシギシと音を立てている。
最早そう長くはもたない状況になっていた。
その時、ついに1匹のバジリスクが仲間を踏み台に《土壁》の頂上にたどり着き、そこから、炎を吐き出した。
「イノスケっ!」
「おうっ!」
モンドノジョーの言葉に、イノスケは《火防》の障壁で炎を防ぎつつ、《炎刃》の魔法でそのバジリスクの脚を狙って攻撃する。
「ギャウッ」
最初に炎を吐き出したバジリスクの片脚を《炎刃》が切り裂いた。バランスを崩したバジリスクはそのまま渓谷の底へ滑り落ちていく。
だが、その1匹だけではなかった。
次々にバジリスクが《土壁》の頂上に現れ、モンドノジョーたちに攻撃をかけてきた。
「支部長っ!」
その様子にイノスケが叫ぶ。
「あと少しだっ! 持ちこたえろっ!」
そう、モンドノジョーが叫んだその時、《土壁》の頂上から零れるようにバジリスクが次々と橋の上に落ちてきた。落ちた衝撃で仰向けにもがいているものもいるが、すぐに体をひねって正面を向いている。
「支部長っ! やつら、来ますっ!」
そうイノスケが叫んだ時、モンドノジョーが片方の唇を釣り上げてニヤリと笑う。
「間に合ったな。マサシ、マサフミっ! やれっ!」
「「はいっ!」」
2人の掛け声と同時にモンドノジョーも自分の魔法を発動した。
轟音と共に橋の両側の岩盤が削られ、大きく凹んでいく。
すると、間にかかっていた木製の橋は大きく歪み、ばらばらになって崩れ落ちていった。
ちょうど、《土壁》を乗り越えて、橋の上で今まさにこちらに突進しようとしていたバジリスクたちも諸共に落ちていく。
「よっしゃっ!」
モンドノジョーはその様子を見て、大きな声をだすと、3人に急いでこの場を離れるように指示をだす。
「よし、手前側の崖を盛り上げて壁にしたら、急いでここからコノジョウに向かうぞっ!」
「「「おうっ!」」」
うまく橋を落とせたことで3人の表情にも安堵感が現れていた。
モンドノジョーは今の状態でも、そう長くは時間を稼げないと考えて、手前側の崖にも向こう側より高い壁を作って、さらに時間を稼ごうと考えていた。
だが、橋を落とせたという事実が、ほんのわずかな油断を生んでしまう。
モンドノジョーが手前の壁を構築する前に、向こう側の《土壁》の上にいたバジリスクたちの攻撃の一部が、わずかに気が緩んだイノスケの《炎防》の障壁を破って飛び込んできたのだ。
轟音に包まれる4人。
「な、しまっ……」
「うわぁっ!」
手前にいたマサシ、マサフミは炎に包まれてしまう。
わずかに離れていたイノスケは、着弾の爆風でわずかによろけたものの、なんとか跳ね上がる馬にしがみついて難を逃れていた。
そしてモンドノジョーは爆風で馬諸共吹き飛ばされ、そばの大木に叩き付けられていた。
さらに間が悪いことに、共に吹き飛ばされた馬が大木との間に下半身を挟むように横たわっており、身動きが取れなくなって意識を失っている。
「ああっ! し、支部長ぉっ! 」
自分の気の緩みがこの状態を生んでしまったことに、イノスケは激しく動揺していた。
あわてて下馬し、何とか馬を退けようと必死に横たわる馬の手綱を引くが、もはや事切れているその馬はピクリとも動かない。
「このっ! 動けっ! このぉっ!」
動転したイノスケは闇雲に手綱を引っ張り続ける。
「……うっ」
その時、わずかにモンドノジョーが意識を取り戻した。
「支部長っ! 今助けますからっ!」
イノスケは必死の形相でそう叫ぶが、震える体で自分の状態を確認したモンドノジョーは最早自分を動かすことはできないだろうということが理解できていた。
彼はすぐに自分で土魔法を唱えて、馬をどかそうと考えたのだが、大木に叩き付けられた際に、肋骨を数本骨折してしまい、それが肺に刺さった状態になっていた。彼は無詠唱での発動はできなかった。
そのため、土魔法の詠唱による治療や馬の排除ができる状態になかったのだ。
もし生きていたのが、土魔法を使えるマサシかマサフミであれば、土魔法で馬の下の地面を掘り下げるか盛り上げるかして馬をどかすことができたかもしれない。
だが、生き残っていたのは火魔法士のイノスケだった。
「……イノ……スケ……お、おまえは……コノ……ジョウ……へ……。お館……さ……まに、お伝え……、後を……ごふっ!」
そこまで話した時、モンドノジョーは激しく血を吐き、ガクリと頭を垂れた。
「な、支部長っ! 支部長ぉーーーーーーーっ!」
イノスケは慟哭した。
だが、状況はイノスケをそのまま悲嘆にくれたままにはしてくれなかった。
《土壁》の頂上のバジリスクが炎や氷弾を放つ一方で、次々と後続に押し出され、渓谷に転落していた。
イノスケの身近に着弾する中で、イノスケの目には次々と前にいる仲間を押し出しては頂上に現れるバジリスクの様子が見えていた。
(ま、まずい……このまま、あいつらが自分の犠牲に構わず押し出していたら、あの馬鹿でかい体で渓谷が埋まってしまう。そしたらすぐに……)
イノスケは立ち上がるとモンドノジョーに深く頭を下げて、そのまま振り返らずに自分の馬に飛び乗った。
「おおおおおおおおーーーーーーっ」
イノスケは流れ落ちる涙を振り払うように、暗がりの中を、山道の奥に見えるコノジョウの灯りを目指して馬を走らせていった。
その頃、コノジョウでは、最後の避難民とミヤザ警備隊の兵を乗せた馬車が次々と第一門を潜り抜けているところだった。
「よくがんばったなっ!」
「もう、大丈夫だぞっ!」
第一防壁の上や第一門の横には多くの兵や探検者が姿を見せており、たどり着いた人々に声をかけている。
そんな中、怪訝な表情をした人間が2人顔を見合わせていた。
カージとタケイの2人だ。
「おい、最後の馬車は10台だろ。9台しかいないってことは……」
カージの呟きに、タケイが馬車から降りてくる兵たちに詰め寄る。
「お前たち、お館様はっ! シノハ殿はどうしたのだっ!」
すると、ミヤザ警備隊の兵が、青ざめた顔でそれに答える。
「お館様たちの乗られた馬車は、渓谷の橋を渡られるとき、爆発に巻き込まれて……」
「なんだとっ! お館様はどうなったのだっ! お前たちお館様を置き去りにしたのかっ!」
タケイがその兵の襟首に掴み掛った。
「くっ! だが、すぐに橋に控えていたモンドノジョー殿たちが馬で駆け寄られていたっ! 倒れた馬車からお館様たちがすぐに外に出られたところまでは見えたんだっ!」
そこに別の兵が駆け寄る。
「タケイ殿っ! やめてくれっ! 俺たちはお館様やシノハ殿に後方の馬車に何があろうと、コノジョウへ一直線に駆け抜けろと厳命されていたんだっ! 絶対に馬を止めるなとっ!」
「そうは言ってもっ!」
さらに詰め寄ろうとするタケイの肩をカージがつかんで止める。
「おい、それ以上はやめておけっ! お館様が常々おっしゃっていたことではないかっ」
その時、防壁の上にいた見張りの兵が大声を張り上げた。
「馬蹄の音が聞こえますっ!」
そしてすぐに2人ずつ相乗りした2頭の馬が第一門に飛び込んできた。
「お前たちはっ!」
そう声をかけるカージに、タモジが答えた。
「俺たちは支部長の指示でこの2人を連れて先行した。間もなく、支部長たちはお館様たちを連れて馬でこちらにこられるはずだっ!」
タモジとゴウタはそういうと、呆然とした表情の2人の少女を馬から抱えおろす。
「おいっ、だれかこの2人を奥へっ!」
そう、タモジが叫んだ時、第一門へアケビとユリネが走ってきた。
「あ、あなたたちどうしたのっ!」
ユリネは、悄然としてその場にへたり込んでしまったアイミとレミの肩をゆすって声をかける。
「……あ、あ、ああああっ! すいません! すいません!」
そう言ってアイミは泣き崩れる。
その横でレミは焦点の合わない目をして、ぶつぶつと何かを呟いていた。
「ゴウタさん。2人に何が……」
ユリネがゴウタに尋ねると、ゴウタとタモジは非常に気まずそうに言葉を濁した。
「いや、いろいろあってな……」
「いったい……」
さらにユリネが2人に尋ねようとしたその時、再び見張りの兵が叫んだ。
「さらに馬蹄の音が聞こえますっ! 今度はもう少し数が多いですっ! お館様たちではっ!」
「おおっ!」
カージとタケイは第一門の外に駆け出していく。
すると、周辺に配置された篝火に照らされた第一門正面に、十数頭の馬が近づいてくるのが見えた。
そしてその馬たちはすぐに第一門を潜り抜けていく。
その姿を見たカージとタケイの顔には安堵の表情が浮かんだ。
「よかったっ! お館様とシノハたちだっ!」
第一門を潜り抜けたところで、男爵たちはすぐに馬から飛び降り、周囲に指示を出し始めた。
「魔獣が間を置かずにくるっ! すぐに戦闘・防衛の準備っ! 第一門を閉じる準備をしろっ! この後にモンドたちがおっつけくるはずだっ! そしたら、すぐに門を閉じて魔法障壁を張るんだっ!」
その指示に兵たちは慌ただしく動き始める。
「非戦闘員は内門の中に至急入らせろっ! 赤の人員は第一防壁と第二防壁の上に待機っ! 内門の警備は橙の人員にっ!」
シノハが続けて大声で叫んだ。
そして男爵は、そこにいたアケビとユリネたちを見て声をかけた。
「お前たちもその2人をつれて、中へ入れ。モンドもすぐにくるだろう」
アケビは頷いたが、ユリネはその場を動こうとしない。
「私はここで父を待ちたいのですが……」
「すぐにモンドも……」
男爵がそう言いかけた時、見張り兵の叫び声が聞こえた。
「馬蹄が聞こえますっ!」
「ほらな、モンドもすぐに……」
「その数1っ!」
にこやかにユリネをなだめようとした、男爵はその声に振り返って防壁の上を見上げる。
「なにっ? 4ではないのかっ!」
「はいっ! 1頭のみですっ!」
そして、第一門に飛び込んできたのは、涙で顔をぐしゃぐしゃにしたイノスケの姿だった。
ユリネが思わず駆け寄って声を上げる。
「イノスケさんっ! 父はっ! ほかの人たちはっ!」
その声に、イノスケは馬を放るように転がり下りると、ユリネの前に両手をついて土下座した。
「もっ、申し訳ありませんっ! 私が油断したばかりにっ! 私のせいでっ!」
そこに男爵も駆け寄ってイノスケに問い詰める。
「モンドはどうしたのだっ! ……まさかっ!」
「……はいっ! 支部長は亡くなられましたっ! 橋を落とすことに成功したのに油断した私が防御を一瞬緩めてしまったために、バジリスクの炎を……。他の2人も……」
「なんてことだっ!」
左手の手のひらに右手の拳をあてて、男爵は怒りを顕にする。
「……そ、そんなっ!」
わなわなと震えるユリネの後ろで、突然大声がした。
「ああああああああああーーーーーーーーーっ!」
今までぶつぶつと独り言を言っていたレミが気が狂ったように第二門のほうへ向けて走って行った。
そしてもう一人のアイミはその場に崩れ落ちる。
「そんなっ! 私たちのせいだっ! 私たちのせいでっ!」
アイミはそのまま大声を上げながら泣き崩れてしまった。
その様子を見たアケビがアイミを抱え上げる。
男爵と目が合うと頷いて彼女を連れて励ましながら内門へ向かって歩いていった。
「いったいあの2人は……」
男爵の言葉に、ゴウタがユリネを見ながら言いにくそうに答えた。
「お館様の馬車が橋を渡ろうとした時、バジリスクの姿に怯えたレミ、今走っていった少女ですが、彼女が前を見ずに火魔法を放ってしまったのです」
「では、わしらが乗った馬車が横転したのは……」
「そうです。そこで支部長は動転していた2人を現場から離すために我々を……」
「そ、そんな……」
ユリネは自分が同行を薦めた2人が、作戦の失敗に繋がるミスをしたことを理解した。
「私が、私があの2人を連れてってと言わなければ……」
そう言ってその場に崩れ落ちるユリネ。
「それは違うぞユリネ。あの2人を連れていく判断をしたのは親父だっ。そして俺たちも反対しなかった」
そう言って近づいてきたジンノスケが妹を抱きしめる。
「あっ、あっ、うわああああーーーーーーーーーっ」
その場にユリネの慟哭が響き渡った。
その様子を見ていた男爵ははっと我に返って指示を出す。
「第一門を閉じよっ!」
「支部長がっ! そんなっ!」
第一防壁の上にいたマリカががっくりと肩を落として呟く。
「マリカくん……」
イチロウタが肩に手を置くと、マリカはその額をイチロウタの胸に預けて俯いた。イチロウタには彼女の震えが伝わってくる。
マリカの瞼には自分の進むべき方向について何度となく嫌な顔をせず相談に乗ってくれていた支部長の笑顔が焼き付いていた。
ナミがそんな彼女に声をかける。
「支部長が命懸けで皆が備える時間を作ってくれたのです。私たちはそれに応えなければ……」
そのナミの言葉に、マリカは漸く顔を上げると強い決意をその顔に表していた。
「私の全力でここを、皆を守るっ!」
それから直ぐに第一防壁の上には、魔法や弓による遠距離攻撃が可能な探検者や警備兵たちが五列に並び、篝火に照らされた障壁前の山道を見下ろしていた。その数およそ五百。
第二防壁の上には、義勇兵やマリカが通う高等学校の魔法科の生徒達を含むほぼ同人数が展開している。
そして、遠距離攻撃が出来ない、近接戦闘を得意とするものや、ミヤザ住民の義勇兵の大半は第二防壁の内側、右門と左門の背後に警備隊の兵の指揮下に入り、整列を終えていた。
それぞれの装備はバラバラだが、皆等しくその左腕に赤い布を巻き、内門内にいる自分の家族や故郷の人々を守るための決意に溢れていた。
全体でその数は警備隊、探検者を含めて二千五百。
元々それほど幅がないコノジョウの障壁やそれより幅が広いとは言えそう大きくはない第二門内の広場に展開出来る兵は限られていた。
恐らく、真っ向からぶつかった場合、それだけの人数がいてもバジリスクの大きさや攻撃力を考えれば、そう長くは持たないと考えられ、コノジョウの障壁をどう使うかに内門の中にいる住民達の生死が委ねられることになる、そう男爵達は考えていた。
それ以外の人員は第三門や内門の中で待機していた。
息の詰まるような時間が過ぎる中、魔法障壁越しに山道を見つめていた兵が、正面の異変に気がついた。
「お館様っ!」
振り向きながら叫ぶその兵の声に、第一防壁の中央、第一門の直上の鐘楼で、それまで目を閉じて、腕を組んだままじっとしていた男爵の両目がかっと見開かれる。
「来たか……」
「「「はいっ!」」」
そばに控えるシノハ、カージ、イトー。
直ぐにカージとイトーが一礼をすると、防壁両翼に配した兵や探検者達の指揮をするために走り出していく。
マリカたちは防壁外側に向けた右翼、カージの指揮下に入り、魔法士達と並んで最前列にいた。
マリカはガトリングスタイルの銃身を支柱で支えて構え、ナミは取り回しのしやすいコンバットボウを、そしてイチロウタは銃身の長い狙撃銃を構えている。
初め、周囲の魔法士や警備隊の兵達は、見た目小柄で華奢なマリカが自分のポーチから見たこともないガトリング銃を取り出すのを見て、目を疑うような表情をしてマリカに問い詰める者もいたが、イチロウタの説明とカージが配置に着くよう号令をかけた事もあり、今はマリカの周囲は静かな状態だ。
「……来た」
「ああ。マリカくん。弾は無限じゃない。よく引き付けてから敵が集中するところを狙うんだ。いいね」
「はいっ」
そのマリカの視線の先で、暗闇に包まれる山道の方向に異変が起こる。
山道の途中に設置されていた篝火が次々になぎ倒されてその光を失っていく。
そして第一防壁上の篝火や魔法士達が飛ばした火魔法の灯りによりそこから見通せる150メル程先にそれらは現れた。
「あれ、全部……そうなの……」
ちょうど光と闇の境目、そこから山道の向こうへ道沿いに蠢くそれは、一旦動きを止めると左右に広がるように動いていく。
「まだだっ! まだ撃つなよっ!」
カージの声が周囲に響く。
防壁上の兵達はいつ次の指示が飛ぶのか、固唾を呑んで前方を見つめていた。
そして、バジリスクたちの攻撃が始まった。
「炎」そして「氷」
一匹が炎弾を吐き出すと、それに続く様に次々と炎や氷の弾丸が第一ほに向かって飛んでくる。それらは魔法障壁にぶち当たると霧のようにあるいはこなごなに霧散する。その度に魔法障壁が強い光を発すると共に、ドガン、ドガンと轟音と震動がマリカ達に伝わってきた。
「けっ、効いてねえぞっ! ざまぁみやがれっ!」
「一昨日来やがれってんだよっ!」
防壁上にいる義勇兵の間からは、魔法障壁がバジリスク達の攻撃を弾いていることから強がるような叫びが沸き起こっている。
だが、男爵や、シノハ達警備隊の兵、それに探検者の中で魔法障壁の性質をよく知る人間達は次第に顔色を変えていく。
魔法障壁はその発生装置である魔道具に魔力が籠った魔石をセットすることで発動する。だが、それに見合うだけの魔石はそれなりの大きさと魔力量が要求され、非常に高価なものだった。
王都や交易により潤沢な資金を持っていたセッツのトーヨ子爵等は相応に必要な魔石を確保出来ていたが、ここは地方貴族でしかも男爵家の抱える緊急避難場所的な城塞だ。
それほど多くの魔石の準備があるはずもない。
また、バジリスクの攻撃を受ける度に、その強度を補強する為、魔石の魔力は使用されていく。
つまり、このままバジリスクの遠距離攻撃を受け続けていると、いずれ魔石が魔力を失う。予備に交換出来たとしても、そう長くは持たない。
男爵達の額には汗が浮かび、苦々しげな表情を見せていく。
「やはり、誰か魔獣をこの場で操っているヤツがいるな……」
その男爵の呟きに、そばにいるシノハも大きく頷く。
バジリスクは闇雲に突進してくるのではなく、魔法障壁が消えるのを待っているかのようだった。バジリスクだけではこんな知能は持ち合わせているはずがない。明らかに知能あるものの指揮がある様子だった。
「くそっ、そのまま突っ込んで来れば障壁が持っている間にある程度のバジリスクを削れると……」
シノハが悔しそうに言う。
「おいっ、あとどれぐらいだっ!」
男爵が小声でシノハに確認する。
「あと10分程かと……」
「そうか、それからが勝負だな……」
男爵はギリッと歯を食いしばると再び前方を見つめた。
そして、ついに、その時がやって来た。
「お館様っ!」
防壁両翼の魔法障壁発生装置に詰めていた兵が青ざめた表情で伝令に駆け付ける。
男爵は大きく頷くと、伝令の2人に静かに指示する。
「カージとイトーに伝令。“やつらが来る。心して掛かれ”と」
そして、眼前の魔法障壁がその色を薄くしたその時、耳をつんさぐような轟音が辺りに響いた。
「お、おいっ! 魔法の壁がっ!」
「なんだよっ! 無くなっちまったぞっ!」
義勇兵達に動揺が走る。
そしてそれ以降、飛来する炎弾・氷弾は直接第一防壁に叩きつけられていく。
直ぐに魔法士たちが《防》系の魔法を展開して第一防壁上の兵達への直接の被害はまだ出ていないが、魔法障壁が消えたことの衝撃は義勇兵達にとって、大きなものだった。
その拡がる動揺を一喝するかのようにカージが叫ぶ。
「ここからが正念場だっ! やつらが来るっ! 1匹たりとも中には入れるなっ!」
そして、バジリスクたちが第一防壁に向かって突進を開始した。
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