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第72話 モンドの誤算

おはようございます。

遅くなってしまいましたがよろしくお願いいたします。


2015.8.27訂正:

モンドノジョーは組合長ではなく支部長でした。申し訳ありません。

「コノジョウまであとどれくらいか?」

ノーギ男爵は幌馬車の荷台の最後尾で後ろを気にしながらシノハに問いかける。

「あと1時間ほどです」

「そうか」


今は幌をまくった状態のまま【コノジョウ】への道を急ぐ馬車が立てる蹄と車輪の音しか聞こえてこない。


男爵たちは多くの煙を上げ、炎に包まれたミヤザを脱出し、コノジョウに向かう馬車の列の最後尾にいた。


「何とか最後の馬車も出すことが出来たのは幸甚でした」

シノハが男爵の隣に立って後方を眺めながらそう言う。

「ああ、だが、まだ油断できん。報告では巨大なバジリスクがかなりの数上陸したって話だ。それがもしそのままこちらに向かってきたら、コノジョウの防壁でもどれだけ持たせられるか……」

男爵は眉間にしわを寄せながら厳しい表情でそうこぼした。


「ミヤザではバジリスクの襲来について王都へ報告を入れる時間がとれませんでした。カージに状況は連絡しましたのでコノジョウから王都に連絡を入れてくれているでしょう。なんとか救援がくるまでわれわれだけで持たせないと」

「そうだな。我々の兵が500。あとは、探検者や住民の中で戦えるものを募って、支えるしかあるまい」



そう2人が話したとき、後方を監視していた夜目の利く兵が叫んだ。

「お館様っ! 後方の街道にこちらを追ってくるものが見えます。 数はわかりませんが馬車の様には見えませんっ!」


男爵は幌の柱を叩いて毒ついた。

「くそっ。追いつかれたかっ! サイト渓谷に掛かる橋までどれくらいだっ!」

「はいっ! あと10分ほどかとっ!」


サイト渓谷は【コノジョウ】までの途中にある。

普段は静かで澄んだ水が流れる風光明媚な場所だ。ミヤザだけでなく、近隣の街からも夏になると涼を求めて訪ねてくる人間も多い。

【コノジョウ】へ向かう山道は途中、この渓谷沿いを通る幅10メルを切る狭い場所があり、その後30メル程の木製の橋で高さ40メル程の渓谷の流れを越え、向こう岸に渡るように通っている。


「援軍の到着が遅れるかもしれんが、今は背に腹は変えられん。あれを落として時間を稼ぐしかあるまい」

「はい、あの場所にはモンドが探検者を連れて待機しているはずです」

男爵の言葉にシノハがそう答えた。


「よし、もうすぐ着く。我々が越えたら橋を落とせるよう備えておくように伝えろっ!」

「はっ!」


すぐにシノハは《遠話の腕輪》でミヤザの探検者組合の支部長、モンドノジョーへと連絡を取り始めた。


「間に合ってくれよっ!」

暗い後方の街道を見ながら男爵は誰にともなくそう叫んでいた。





その頃、第一、第二警備隊に誘導されてミヤザやその周辺を脱出した人々は、続々と【コノジョウ】に入っていた。

ミヤザから距離がある集落の住民たちの中には、【コノジョウ】ではなく山越えをしてクマモやカゴマ方面の山村に避難した住民もいるのだが、結果的に【コノジョウ】には、2万人を超える住民が避難していた。


【コノジョウ】は両側を切り立った山に挟まれた渓谷の奥に3重の防壁を築いて作られている防御用の城塞だ。

築城されてから200年近くなる古城だが、城壁のないミヤザ領主となったノーギ男爵が予算をやりくりして手を入れていた。もともと篭城を想定した城塞でもあり、セッツに作られていたような魔法障壁も展開することが出来るようになっていた。


一番外側には高さ20メル、厚さ5メルほどはある分厚い石造りの第一障壁と深さ10メル程の空堀が設置されており、50メル程の幅の城壁の中央に硬度の高い緑鋼を3重に重ねて作成された厚さ50セルほどの分厚い第1門が備え付けられている。

今は全開になっており、まだ続いている避難民の受け入れを行っていた。


そして第一障壁から30メルほど奥に、高さ20メルほどの第二障壁が第1門を中心にするように湾曲した形でそびえていた。第二障壁は土作りになっており、第一門に面した側は垂直に緑鋼板が貼られそそり立っている。上部は幅5メル程の通路となっており、第一障壁とは2本の橋で繋がっている。緑鋼板の壁が2メルほど上部に飛び出しており、あちこちに、第一門を見下ろす形で、開閉式の小窓がつけられていた。

もし、第一門が突破された場合に、ここから、中央に向けて一斉に攻撃するためだ。

そして内側はつづら折となった登り道が3箇所作られており、左右の端から10メルのところに同じく緑鋼板の第二門が作られていた。左門と右門と呼ばれている。


そして最後の障壁は山の斜面に作られていた。

実は【コノジョウ】の本体施設は、土魔法を駆使して山の中に作られていたのだ。


同じく分厚い緑鋼板の第三門の中に入ると、高さ10メル横幅10メル程のトンネルがくりぬかれており、それを30メルほど入ったところに、最後の内門があった。


それを抜けると巨大な空洞が広がっていた。

その高さは50メル、円形の空洞の直径は200メル。

大きさ的にはドーム型の野球場とほぼ同じくらいのイメージである。


中央の大きな空洞を囲むように段差のついた3階建てになっており、各階広場を囲むような内側の通路以外に、その外側に円形につくられた3本の通路の内側に20~50人程が寝泊りできる小部屋や倉庫が数多く作られていた。外側か内側の通路から各部屋には出入りできるようになっており、天井には魔法による明かりが灯されており、中は暗くはない。


2万人の人間が2ヶ月生活できるだけの食料が備えられており、トイレや風呂などの水周りも設置されていた。


そして、万一のための避難用や空気調整用のトンネルが複数作成されており、土魔法で最後の出口を破壊すると外に出られるように巧妙に隠されている。


住民達は誘導により、その巨大な空間へと導かれ、住んでいた区画毎に割り当てられた部屋に男女別に入ることになった。

中には不安から家族と別れて入ることに抵抗を示す住民もいたのだが、それを認めてしまうと、収拾が着かなくなってしまう。

そこは警備隊の兵士たちが心を鬼にして説得し、男女の部屋が交互に並ぶ形をとることで、近隣の住民がそれほど遠距離に配置されないように配慮されていた。



中央の広場にいくつかのテントが張られ、そこではこの篭城に際して住民に協力を呼びかける声が響いている。

テントにはその内容に合わせて以下のような6つの色の旗が立てられていた。

「茶:炊事協力」「白:救護」「青:城内清掃」「橙:城内自警・介護」「赤:防戦参加」「緑:後方支援」


15歳から60歳までの健常な男女に対して協力の呼びかけがなされており、城内に入った2万人のうち、対象となるのは1万2千人ほどになった。


さすがに城内の防戦・篭城のすべてを500人ほどの警備隊だけでまかなうことはできない。

過去の避難訓練の経験からも、あらかじめ住民には万一の篭城の際、何に協力してもらうのかを申告してもらっており、実際に城内に入った場合どの役割を担うのかはあらかじめ決められていた。

中にはたまたま有事に別の場所にいる、負傷・病気等により対応できないなどの想定から、城内に到着しだい、設置されたテントに到着と協力の意思を申告するようになっていた。


2階にある1室に割り当てられたキキョウ、マリカ、ナミは2-30と書かれた部屋を確認しその中に入る。その中では多くの住民が疲れた表情で背負っていた荷物を降ろしているところだった。


キキョウたちは、自分の魔収納のバックがあるため、手には何も持っていない。

そこで、すぐに篭城の協力を申し出るために広場のテントに向かうことにした。

「私は白の救護のテントに行くけど、マリカ、あなた本当に赤のテントでいいの?」

キキョウが心配そうにマリカに尋ねる。


マリカはコクリと頷くとこう言った。

「私にもできることがある。私、ミヤザの人たちを守りたい。だから……」

その表情にははっきりとした意思が現れていた。

「……そう。判ったわ。でも無理はしてはいけないわよ。そしてナミの言うことを必ず聞くこと。いいわね」

そのキキョウの念押しにマリカはコクリと頷く。


それを見てため息をひとつ付くとキキョウは横にいるナミに向かって言った。

「ナミ。マリカをお願いね」

「はい、ご無理をしないよう、しっかりとお守りします」



「やあ、マリカくん。ここにいたのかい」

すると、キキョウの後ろから腕に赤の布を巻いたイチロウタが声をかけてきた。

「あ、イチロウタ先生」


そのマリカの反応に、キキョウとナミが振り返ってイチロウタの方を見る。

「えっと、あなたは……」

初対面のキキョウがそう言い掛けると、イチロウタは頭を掻きながら答えた。

「すいません。自己紹介がまだでしたね。私はイチロウタといいます。つい最近マリカくんの通う高等学校の教師として赴任したものです」


「私の魔導銃の先生」

「あら、では、あなたがマリカに銃の撃ち方を教えてくださっている……」

そのキキョウの言葉にイチロウタは頷いた。


「先生、赤なんだ」

「ああ、どこまで役に立つかはわからないけど、少しは戦えると思うからね。マリカくんはどうするんだい?」

マリカの頭に手を置きながら、イチロウタは問いかける。


「もちろん、赤。一緒に皆を守りたい」

「そうか。じゃあ、私も一緒に戦おう」


「先生、マリカの事よろしくお願いします」

キキョウはイチロウタに対して深く頭を下げた。


「ええ、私に出来る事は全て」


すると、マリカがナミの腕を掴んで言った。

「私たちもテントに」


「じゃあ、私は白の救護のテントなのでここで。何かあったら、《遠話の腕輪》使うのよ。いいわね」

「うん、判った」

「じゃあ、ナミ。よろしくね」

「はい」


そうして、キキョウとマリカ、ナミは別々のテントに向かって歩き出した。


イチロウタは3人を見ながら呟く。

「この戦い、かなり拙い気がする。救援が間に合えばいいが……」





その頃サイト渓谷に架かる橋の袂では、モンドノジョーが探検者15人程を連れて待機していた。

少し離れた場所には【コノジョウ】へ退くための馬も繋がれている。





警鐘が鳴らされた時点で、ミヤザにはモンドノジョーは100人ほどの探検者が活動していた。

そのうち、戦闘を含む依頼をオファーできるランク黄のクラス5以上の存在は24人いた。

最高ランクは、イチロウタの青の4。

それ以外は、モンドノジョーの息子、ジンノスケを含めてほとんどがランク赤の探検者だった。


モンドノジョーは、職員から詳細を知らされたとき、机を忌々しげに叩いて立ち上がった。

「くそっ。よりによって、ほとんど上位の探検者がいないタイミングで……」


愚痴を溢していても何も解決しない、そう踏ん切りをつけたモンドノジョーは、即座に職員に指示をだす。

「よし、街にいる探検者を全員招集しろっ!」



30分後、偶々ミヤザの中や周辺にいて召集に応じられた探検者たち50人程を前にしていた。すでに時間的に午前10時を回っており、ランク赤の探検者のほとんどが、ミヤザを出て依頼任務についており、それらの探検者たちには個別に探検者の腕輪で職員が指示を出すことになった。


モンドノジョーは声を張りあげた。

「知っていることと思うが、ミヤザを放棄しコノジョウに移動する指示がでた。ランク黄の探検者には、住民の避難誘導を手伝ってもらう。順次指示された場所へ行き、住民を馬車に乗せて移動させるようにしてくれ。今いる黄の5以上の探検者には、別に指示を出すからこの場に待機してくれっ」


クラス4以下の黄の探検者たちは、組合職員の指示を仰ぎながら、割り当てられた馬車を操って住民の避難に当たり始めた。



後には黄5以上の15人が残っていた。イチロウタは偶々ミヤザの街中にはおらず、ここにはいない。

「お前たちには、俺と一緒にコノジョウへの街道を行き、途中のサイト渓谷の橋を確保する任についてもらう。ここにいない人間には直接【コノジョウ】に入って防衛戦に加わってもらうことにした」

そう言って、15人の顔を見渡したとき、モンドノジョーは周囲と比べて小柄に見える少女が2人混じっているのに気がついた。

金髪を頭の両方でダンゴにまとめている細身のレイピアを腰に挿した勝気に見える少女と、その少し後ろに立ち、茶色のショートカットで少し大人し目に見える杖を持った少女がいた。


「ん? お前たちは確か……」

「はいっ! 私たちは、昨日黄色の5に昇格したアイミと……」

「レミです」

そう言って二人は緊張した表情で返事をする。



この2人はミヤザの高等学校の魔法科を去年の夏卒業し、仲が良かった友人でチームを組んで活動をしていた。つまり、マリカの1年上の先輩ということになる。


金髪のアイミが土魔法を、茶髪のレミは火魔法を扱えると申告しており、あくまで魔法科の卒業生としては、優秀な成績を収めて飛び級で卒業していた。2人とも実家がそれほど裕福でなかったこともあり、探検者として身を立て、稼いだ金で両親を楽にさせたいと意気込んでいた。

2人の素直でまっすぐな性格もあり、黄ランクの仕事を一生懸命こなし、探検者になってから1年ほどで黄の5まで上がってきたのだった。


そして今日から、黄の5として、護衛や戦闘が絡む仕事に携わる依頼を受けられるようになり、まずは依頼の内容や必要な下調べに組合にきていたところに緊急招集に巻き込まれていたのだった。


「お前たち、戦闘の経験はあるのか?」

モンドノジョーの質問に2人は顔を見合わせると、アイミが一歩前にでて答える。

「はいっ。採取依頼途中で、一角ウサギとの戦闘経験はあります」

「一角ウサギか……、対人や大型魔獣との戦闘は?」

すると、少し俯き加減でアイミが答える。

「……いえっ、それはまだ……」


「そうか、ならお前たちは今回は黄4の連中と一緒に避難誘導を……」

そう、モンドノジョーが言いかけたとき、アイミが声を張り上げた。

「待ってください。私たちも成り立てとは言え、黄の5です。皆さんと同じように、いや、成り立ての分それ以上に頑張りますからっ。ぜひ一緒に連れて行ってくださいっ! ほら、レミもっ」

そうアイミから促されたレミは少し怯えながらも、モンドノジョーに頭を下げる。

「……私もお願いします……」


「そうは言ってもなぁ」

モンドノジョーは少し迷っていた。

先日のシーバの戦闘や王都の騒乱の話を聞くにつれ、今ホーエンを混乱に落とそうとしている敵の力は熟練の兵士や探検者でも十分に脅威となる相手であった。

今回の【コノジョウ】への撤収はもし戦闘となれば、同じレベルの魔獣を相手にすることになりかねない。


そこで娘のユリネが、モンドノジョーに声をかけた。

「彼女たちは、魔法科でも土と火の魔法に優秀な成績を収め、飛び級で卒業したほどの娘たちです。これまでの依頼についても、落ち着いて対処し、依頼主からも評価をいただいています。ただでさえ、魔法を扱える人員が少ない状況ですので、お連れになってはいかがでしょうか?」


ユリネはこの2人が探検者になりたてのころから目をかけており、依頼に対する真摯な姿勢を彼女なりに評価していた。

「ユリネさんっ! ありがとうございますっ! 支部長っ! お願いします。私たちも連れて行ってくださいっ! ミヤザのために少しでも役に立ちたいんですっ!」


その真摯な姿勢を見たモンドノジョーは普段であれば、慎重な判断をするところであったが、状況が状況なだけに、少しでも優秀な魔法士が欲しかった。娘の口ぞえもあったかもしれない。

「……わかった。ただし、こちらの指示には必ず従うことっ。いいなっ!」

「「はいっ!」」



そうして、15人ほどを連れたモンドノジョーはサイト渓谷にかかる橋を越えたところで、全員に下馬を指示し、馬は纏めて橋の袂から50メルほど【コノジョウ】に向かったところにある大木に繋いでいた。

その時、既にシノハからの連絡で男爵たちの馬車が魔獣に追われながらそこに向かっていることは把握していた。


「いいかっ。俺たちの役割はお館様達の馬車がここを過ぎたところで、この橋を落として魔獣を足止めにすることだ。今こちらに向かっている馬車には住民たちも乗っている。俺たちがヘタを踏むとまだ【コノジョウ】に入りきれていない住民たちが魔獣に襲われることになるぞっ! いいな、しっかり決めた役割どおりに動いてくれっ!」

「「「「「「「「「「「「「「「はいっ!」」」」」」」」」」」」」」」


モンドノジョーが立てた対応は、以下のようなものだった。


馬車が魔獣に追いつかれず、橋を越えることができた場合は、土魔法で橋の橋脚部分を変形。架かっている橋を渓谷に落とす。さらには両岸を削って魔獣がこちらに渡れないようにする。それ以外の探検者は渓谷の向こうの魔獣へ魔法や弓による攻撃を行い、さらに馬車が【コノジョウ】に向かう時間を稼いだ上で、殿として撤退する。


もし、馬車が追いつかれ、戦闘中のままにたどり着いた場合は、馬車の後方、渓谷の向こう側の山道に土魔法で壁を作って後続の魔獣を遮断。その上で馬車に取り付く魔獣を排除して【コノジョウ】に逃がし、最後に橋を落として自分たちも撤退するというものだった。


現在、モンドノジョーとアイミを含め、土魔法士が4名。

それ以外の魔法士が5名。残りの7名は魔法を使えないため、魔法士の護衛と、弓による援護をすることになった。



橋の両側にいくつかおかれている篝火の光だけが周囲を照らす薄暗い状況の中、馬車が立てる蹄や車輪の音を聞き漏らすまいと、息を呑んで待機しているモンドノジョーと探検者たち。


そんな緊張感の中、集団の後ろに控えていたアイミは横にいるレミがカタカタと震えているのに気がついた。

アイミは周囲に気づかれないように小声で、レミに話しかける。

「レミ、大丈夫?」

「えっ、う、うん。だって橋をおとして逃げるだけだもんね。だ、だいじょうぶだよっ」

そう強がってはいるものの、レミの体は小刻みに震えている。

「……ア、アイミは大丈夫なの?」

レミは繋いだアイミの手をぎゅっと握り締めて尋ねてきた。


「え、う、うん」

「で、でも、もし、支部長の言ってた魔獣がここまできたら……」

レミのその言葉に、アイミの表情にも不安がよぎる。

「だ、だいじょうぶよ、たぶん」

「でも、5メルのバジリスクがたくさんだって……、そんなの来たら私たち……」

レミは半分なきそうになりながらそういった。


実はアイミも、5メルのバジリスクが大量にこちらに向かっていることを聞いてすっかり恐怖心にとらわれている状況だった。


(こんな田舎町にそんな数の魔獣がくるなんて……、私はただ、なんとか実績をつんで少しでも早く上のランクに上がりたかっただけなのに……)


アイミは自分が支部長についていくと言い出した手前、カラ元気を出そうとしたのだが、先ほどからのどがカラカラに渇いて、やたらと水筒の水に口をつけていた。

そして、何とかレミを元気付けようと口を開きかけたその瞬間。


「支部長っ! 来ますっ! 馬車の音ですっ! しかも後方に多数の魔獣の足音も聞こえますっ!」

待機していた風魔法を使う探検者が、前方の暗闇の音を拾ってモンドノジョーに叫んだ。



モンドノジョーは橋の袂にいた魔法士に向かって叫ぶ。

「追いつかれているのかっ?」

「いえっ! まだ距離がすこしありますっ! ただ、馬車からの魔法や弓の攻撃は既に始まっていますのでそう間はないと考えられますっ!」


「そうかっ、よし全員、用意はいいなっ!」


「「ひっ!」」

アイミとレミはそのモンドノジョーの声を聞いて、大量の魔獣の姿を想像してカタカタと震え始めた。




その時、男爵たちは最後尾の馬車から、後方の魔獣への攻撃を行いつつ、必死に橋を目指していた。

「お館様っ! 橋ですっ!」

「よしっ、何とかぎりぎり間に合ったかっ! このまま一気に渡りきれっ!」

10台連なっていた馬車が次々と橋を渡っていく。


男爵の乗った最後尾の馬車も、橋に差し掛かろうとしたその時、ついに後方のバジリスクが暗がりの中からそのスピードに任せて馬車にとびかかろうとしていた。

「くらえっ!」

馬車の中にいた、警備隊の魔法士が飛び掛ってきたバジリスクに目掛けて《雷刃》の魔法を打ち放つ。


「ギュアッ」

喰らったバジリスクが後方に仰け反って吹き飛び、男爵たちがほっとしたその時だった。


ドガンッ、ドガンッ、ドガンッ。

馬車の前方から3連続の大きな音がしたと思ったら、馬の嘶きと共に馬車が横転しはじめた。

「くそっ! なんだっ!」

その男爵の叫びと同時に中にいた風の魔法士が男爵を中心に《風防》を張るが、轟音と共にそのまま馬車が完全に横転した。

「おいっ、急いで馬車から出ろっ! やつらに囲まれるぞっ!」

男爵は幌を剣で切り裂くと、跳ね起きた兵士たちもそれに習って外に飛び出していく。



外に飛び出した男爵たちが見たものは、後方が見えなくなるほど山道を埋め尽くしたバジリスクの群れが橋の袂から連なっている状態だった。



即座に魔法士たちが、《風防》や《水防》を張り、一時的にバジリスクの侵入を防いでいるが、だんだんとハジリスクの数が増えて山道からあふれて渓谷にこぼれ落ちるものまで出るようになってくると、その圧力に、魔法士たちが悲鳴を上げ始めた。

「お館様っ、このままではここを支えきれませんっ!」

「くそっ! あいつらにここを渡られたらコノジョウまでさえぎるものがなくなってしまうっ。もう少しだけ耐えてくれっ。シノハっ、モンドはどうしたっ!」



そう男爵が叫んだとき、男爵たちの目の前の地面が、バジリスクたちを後方に弾き飛ばしながら急激に盛り上がって巨大な壁を築きあげていった。






その時モンドノジョーは、我が目を疑った。


彼は今、男爵が乗った最後の馬車が橋に差し掛かった所で、後ろから迫るバジリスクとの距離が殆ど無かった事もあり、自身の土魔法でバジリスクを

遮断、馬車の走行を援護すべく土魔法を発動しようとしていた所だった。


ところが突然、彼の後ろから《炎球》の魔法が3連続で飛び出し、あろうことか魔獣ではなく、男爵が乗っていった馬車の直前に着弾したのだ。


馬車を牽引していた2頭の馬は、それに驚いて竿立ちと成や否や馬車を横転させてしまった。


予想外の出来事にモンドノジョーが後ろを振り返ると、左手で右手首を抑え、そのまま正面に向かって突きだした状態のレミの姿があった。魔獣に対する恐怖からかその目は固くつむられ、正面を見ていない。体はガクガクと震え、その場に尻餅を付いていた。


「おいっ! 何をやってるんだっ!」


「み、みんな殺られちゃう…… 殺られちゃうのっ」

レミはうわ言の様に呟いて、自分の世界に入り込んでしまっている。


「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい……」

その横で事態の重大さに青ざめたアイミも、呆然と立ち尽くしていた。



(くそっ、戦闘慣れしてないものを連れてくるんじゃなかったな!)


モンドノジョーは自分の判断に後悔しつつも、男爵を援護するため探検者達に指示を出す。


「タモジとゴウタっ! その二人を相乗りさせて先にコノジョウへ行けっ! 他は全員騎乗しろっ! お館様達を掬い上げて撤退するんだっ!」


そう叫ぶとモンドノジョーは両手をかざして自分の魔力で展開出来る最大限の《土壁》を山なりになっているバジリスクの前面に展開した。

そしてジンノスケが連れてきた自分の馬に跨がると、後ろを振り返って叫ぶ。

「あれが支えてるうちにお館様達を掬い上げてこの橋を落とすぞっ! 急げっ!」



最後まで読んで下さってありがとうございます。


今回話の切りどころが上手くいかず、少し自分でもスッキリしていないなかの投稿になってしまいました。


次話との関係で後から少し補正するかもしれません……。


自分の拙さにあきれます。


もっと上手く書けるようになりたいです……。

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