第70話 セッツ攻防 その4
セッツ編最終話になります。
よろしくお願いいたします。
2015.4.7 次話との関係で最後の部分を少し修正しました。
治療を終えた合流した敏文たちの会話の時間を夕方から夜遅くに変えています。
すみません。
時間を遡ること少し。
セッツの状況を把握した敏文は、同行する6人の女性たちに戦闘準備を指示すると、これからどうすべきかを考えていた。
(数が多すぎる。まず第一に地表に現れているあの蟹みたいなのをなんとかしないと。それにあの港のデカブツ……)
『えっと、地表にわんさかいるあれは多分、アイアンクラブが魔獣化したものね。ほかにもシースネークのもいるのかしら。港にいる触手の大きいのはよくわからないわ』
トモエが敏文に説明する。
『ってことは、元は普通の生物だったのが、魔獣化されてあれだけ大量にいるってことか?』
『ええ、おそらく』
「ならば、こうしよう。ミサキっ! 俺はこれから、地表のあの群れに一斉攻撃をかける。それと同時に、イブキにこの球体を地上に降ろしてもらうから、6人で打ち漏らしたやつを排除するとともに、住民の救助に当たってくれっ!」
「あなたはどうするのっ?」
ミサキのその言葉に敏文は表情を変えずに港の方を見て答えた。
「俺はあのデカブツを片付ける」
「えっ、私は敏文と……」
サラがそう言いかけたが、敏文はニコリと微笑むと、サラを諭すように言った。
「大丈夫だ。以前の俺とちがって、今はイブキ、ヤスツナ、スイメイもいる。それに、サラには今はピュアがついてくれているはずだ。水の精霊の力で負傷した住民たちを助けてあげてくれ」
サラは少し不服そうだが、諦めたように頷く。
「……わかったわ。大丈夫なのね?」
「ああ。皆も頼んだぞ。準備はいいか?」
敏文が、ハルやミシェル、それにミサキたちに向かってそう言うと6人は大きく頷いた。
「よしっ! サトリっ。まずは、セッツにいる魔獣の位置を特定っ! できるかっ!」
「ん。だいじょうぶ」
サトリがそう答えると、敏文の前にセッツの地図が光に照らされてボワッと現れる。
そこに、赤い光点と、青い光点が無数に表れた。
「赤いのが魔獣。青いのは住民」
サトリはそれだけを呟く。
「わかったっ! よしっ! コウっ! キョウっ! モチヅキっ! ヒナタっ! それにスイメイっ! このままイブキと一緒にセッツ上空へっ! 俺が合図したら、一斉に攻撃をかけるぞっ! 俺の意図はわかるなっ?」
「大丈夫っ!」
「わかりましたわ」
「ええ」
「はいはいっ。わかってるよっ!」
「おうっ! 派手にやろうぜっ!」
イブキ以外の5人が大きな声を上げる。
「イブキっ! 今から6人を球体を分離してセッツの街に降ろしてくれ。精霊たちの攻撃の間は視界を封鎖。そのままだとおそらく目をやられるっ!」
「了解だ。任せてもらおう」
「ミサキたちは球体が地上に降りたら、掃討を開始してくれ」
「「「「「「わかったわっ!」」」」」」
敏文の言葉でおおよそ何をしようとしているのか理解した女性たち6人は頷いた。
「セイランっ! 一斉攻撃が終わったら、街の上空を旋回して、打ち漏らしの排除を! コウも一緒に頼むっ! 後の皆は俺と港に一緒に向かいあのデカブツを片付けるっ」
「「「「「「「「了解っ!」」」」」」」」
そして敏文たちはセッツの上空にたどり着く。イブキがミサキたちの乗った球体を分離。地上に降ろしていく。それを見届けた敏文は、イブキの背に跨ると叫んだ。
「よしっ! 大掃除の開始だっ!」
そして合図とともに、コウが《炎雨》、キョウが《星屑落》、モチヅキが《月光針》、ヒナタが《極赤外》、それにスイメイが《水房弾》を一斉に放射状に撃ち放った。
キョウの《星屑落》は無数の小石クラスの小規模な隕石を中空から降らせるもの、ヒナタの《極赤外》は強力な赤外線レーザーを放射するもの、それにスイメイの《水房弾》は多数の大型の水球を空中に放出し彼の合図で小型の水弾に分かれて降らすクラスタータイプの魔法だ。ただの雨ではなく、その威力は強力な水圧により、鉄盾であっても貫通するレベルのものだ。
5人いずれも、多弾頭型の放射状に発せられる攻撃魔法で、港も含めたセッツ全体を覆うように発射されていた。
周囲に強力な魔法の一斉射による、閃光と轟音が振りまかれる。
ただ放射状に魔法を放てば住民や戦闘中の兵、探検者達を巻き込んでしまうが、敏文ははじめにサトリに魔獣と住民の位置を特定させていた。その情報を使って精霊たちに魔獣のみを正確に狙って放つよう指示しており、コウたちはその敏文の意図をしっかり汲んで住民に被害が出ないようにそれらの魔法を放出したのだった。
「「きゃあっ!」」
あらかじめ警告されており、かつイブキの作り出した球体の中にいたとはいえ、振動が伝わり、球体がゆれる状況に、ハルとサラが悲鳴をあげる。
それは、永遠に続くかと思われたが、時間にして30秒ほど続いたあと、周囲が静かになった。
そして球体が解かれた時、ミサキたちの姿は地上のセッツの街中にあった。
彼女たちの足元では、それまで有象無象で無数に蠢いていたアイアンクラブやそのほかの魔獣達がほとんど動きを止めて屍をさらしていた。
「全く、トシフミの規格外は毎度のことだけどあきれるわね」
そう呟くカオリに、ミサキが笑いながら言う。
「あら、そんなこと言ってていいのかしら?」
「それ以外にどう言えと?」
「そんなことより、早くしないとっ」
2人の会話にシオリが割ってはいる。
彼女たちは、サトリに見せられたセッツの地図で最も住民を示す青の光点が多かった闘技場を見上げた。
すると、すぐそばから男の声がした。
「だ、誰かいるのか?」
その姿は探検者のようだ。恐らく相当に追い詰められていたのだろう、かなり疲弊していた。
手持ちの武器も刃こぼれが酷くボロボロになっている。
ミサキは労わるように声をかけた。
「よかったわ。無事なようで。間に合ったわね」
その探検者は呆然とした様子で、ミサキたちを見つめていた。
セッツの街の上空に浮かんでいた浅黒い肌に黒髪、長い髭を蓄えたその男は、一瞬の驚愕の後、こぶしを握り締め、激しく歯軋りをしていた。
「おのれっ! おのれおのれおのれぇっ! これがシャハーブ様の言っていたトシフミの仕業かっ!」
その男の名はアクバル。
彼はシャハーブに使えるエグバードの闇魔法士であり、シャハーブから巨大な触手魔獣【モジュレル】を預かり、セッツを攻撃して目的を遂行するように指示されていた。
その為、ホーエン本島に潜み、密かにこの日のために準備を進めていたのだった。
「ふふふ、ほれほれ、もう少しあがけっ! そして【モジュレル】の餌となるのだっ!」
彼は【モジュレル】をホーエン本島南部から海沿いに北上させてきた。その無数の触手でその海中に生息する生物を捕らえると同時に魔獣に変え、そして海上を航行していた船舶、それに乗っていた人間を襲い取り込みながら、多くの住民をかかえるセッツを目指していたのだ。
あと、もう少しで彼の思惑は達成されようとしていた。その目的に十分な成果を挙げようとしていたのだ。
が、そこに邪魔が現れた。
シャハーブからも、恐らく現れるであろうと警告されていたその存在。
だが、まさか、それが正面から白い巨竜にのって現れようとは。
そして、それまで港の防壁で思うが儘に兵士や探検者達を蹂躙していたシースネーク、アイアンクラブなどの群れを殲滅されただけでなく、【モジュレル】の触手をほぼすべて切り落とされていた。
空中から降り注ぐ、多種の魔法の攻撃を防ぐため、その触手を防御に使った結果、ほとんどを失ってしまったのだ。
触手自体は再生可能なものであり、致命傷となるわけではなかったが、元の攻撃力を保つためにはいささか時間を要する。
(この【モジュレル】までも失うわけにはいかんっ!)
アクバルは港の防壁におり立とうとしている敏文たちから、【モジュレル】を引き離し、撤退させるための時間を稼ぐ必要に迫られた。
そうしているうちに、イブキに乗った敏文が港の防壁の中心に降り立つ。
ヤスツナやドージョーズの姿も防壁上に現れた。
そして左右の尖塔の後には、スイメイと元のサイズに戻った“ゴウ”が飛び上がった。
アクバルはその様子を見てすぐに決断する。
自分の魔力で防壁前の海中にいるあるものに指示をだした。
「いけっ! こいつらを溶かしつくしてしまえっ!」
すると、【モジュレル】の背後の海中から、防壁が見えなくなるほど無数のシルバーナイフが飛び跳ねて防壁の中央にいる敏文たちに集中するように襲いかかってきた。
そして【モジュレル】はその隙に海中へとその巨大な体を沈めていく。
「ちっ! デカブツの前に邪魔がはいるかっ!」
敏文はそういうと≪水洞≫の魔法を重ね掛けして防御を張ると共に、シルバーナイフを打ち落とす為、≪風刃≫の魔法を左右の腕から連射し始めた。
「なめた真似をっ!」
「じゃまだっ!」
「ふん、無駄なことを」
スイメイ、ゴウが魔法で迎撃し、ヤスツナは懐から巨大な弓を取り出すと目にも留まらない速さで無数の矢を放ち始める。
キョウ、モチヅキ、ヒナタも迎撃を開始。
防壁を挟んで、敏文たちの魔法とシルバーナイフの特攻による攻撃が激しくせめぎ合う。
その中で次第に≪水洞≫の防壁の周囲に霧が立ち込め始めた。
「トシフミっ! 強力な酸で出来ているあのシルバーナイフを倒し続ければ、周辺に酸の霧がっ!」
珍しくあわてた様子のサトリの叫びに、敏文はようやく相手の意図を理解して、表情を変えて叫んだ。
「くそっ! 悪辣なっ!」
敏文はすぐに≪水洞≫の魔法を港の防壁全体に展開した。
そしてイブキ、ヒナタ、モチヅキ、スイメイの治癒の能力を持つ精霊たちに向かって指示をだした。
「兵や探検者たちの治療をっ! 大至急っ!」
「くそっ!」
「わかったわ」
4人が治療に回った分、シルバーナイフが≪水洞≫の壁にぶち当たる数が増え、打ち落とし消滅させる数が減っていく。
さらに追い打ちをかけるように、ヤスツナが敏文に告げた。
「トシフミっ! 今の間にあの触手魔獣が逃げてしまったようじゃぞ!」
「なんだってっ! しまったっ!」
両手の≪風刃≫をやめるわけにもいかず、敏文は片足で地面を蹴って悔しがる。
すると、サトリが敏文のそばにやってきて、空中の1点を指した。
「トシフミ、あそこに闇の魔力の出所が。多分誰かが魔獣に指示してる」
「なにっ!」
敏文がそこを見上げ、≪遠視≫の能力を使うと、空中に両手両足を海面に向かって突出し、何かをしきりに叫んでいる様子の男の姿が見えた。
「くっ! ヤスツナっ!」
敏文がそう叫ぶと頷いたヤスツナが巨大な弓を引き絞る。それまでは広角に無数の矢を放っていたヤスツナだったが、力一杯弓を引き絞ると巨大な1本の矢がその手に現れた。
「悪さをする餓鬼には仕置きが必要じゃでな。ふんっ!」
轟音と共にその巨大な矢が弦を離れると真っ直ぐアクバルへ向かって飛んでいく。
はっと気が付くアクバルが体を捻って躱そうとするが、完全には躱しきれない。
巨大な矢はアクバルの右肩を破壊すると右腕をもぎ取って遥か彼方に消え去っていった。
「ち、少し感が狂っておるかの。ワシは使い手ではなく造り手であるからの」
多少言い訳じみたことを言いつつ、忌々しそうにヤスツナが呟く。
その攻撃が効いたせいなのか、それとも在庫が尽きたのか、敏文たちを攻撃していたシルバーナイフの攻撃が目に見えて少なくなってきた。
そして敏文の眼には、アクバルが左手から黒いもやのような塊を作り出すと、右肩にそれをつける様子が見えていた。
「ほっ、忌々しい力をもっておるようじゃな」
ヤスツナがそう呟いたとき、アクバルの右肩には黒い腕が生えており、再生した右腕をぶんぶんと振り回して動きを確かめる姿が敏文からも見えた。
「一筋縄ではいかない相手のようだ」
そう敏文が呟いたとき、アクバルが空中を蹴って敏文たちにものすごい勢いで近づいてきた。
そして、敏文たちの目前20メルほど前の空中で停止すると、怒りを露にして叫んだ。
「お前がトシフミというやつかっ! それなりの力を持つようだなっ! 俺はアクバルっ! シャハーブ様の側近の一人だっ! お前に本当にシャハーブ様がおっしゃるような力があるのか試させてもらうぞっ!」
そういうなり、かっと眼を見開いたアクバルは、広げた両手にそれぞれ長さ1メルほどの真っ黒な短槍を作り出すと、無言のまま、両手の短槍を敏文に向かって投げつけ、そしてそのまままっすぐ、敏文に向かって突進する。
その2本の槍は豪速で敏文に迫る。
だが、敏文にその槍が刺さるそう見えたその瞬間、敏文は腰の≪ムラサメ≫を一閃。2本の黒い短槍を海中へ叩き落した。
その隙を狙ってアクバルが黒い魔力を纏わせた自分の右腕で敏文に殴りかかった。
上半身だけスウェーしてかわす敏文。
次の瞬間には、防壁の上で、敏文とアクバルの拳による戦いが始まっていた。
「意外だなっ! 殴り合いになるとは思わなかったぜっ!」
そう言いながら左腕の≪剛力の籠手≫でアクバルの拳を防ぎつつ、右腕からのジャブに左脚の蹴りを見舞った敏文。
アクバルは左右の手でジャブと蹴りを弾くと、敏文に頭突きを食らわせようとする。
「おっと」
上半身をのけぞってかわした敏文は一旦、距離をとろうとしたが、アクバルはその距離を詰めてくる。
そしてアクバルの右の回し蹴りが敏文の左腕を襲うが、敏文は動きを見切りその脚を左手でしっかりと捕まえた。
ところが、敏文につかまれた脚を軸に、アクバルは左脚でジャンプして体を捻るとその勢いを駆って敏文の頭をめがけてその左足の踵を振り下ろす。
敏文はとっさにアクバルの右足を離すと、両腕を交差させてアクバルの左脚を弾き飛ばした。
すると、アクバルはその勢いを利用してくるりと宙返りをして、敏文の正面5メルほどの場所に立った。
「俺は元々、闇魔術よりこっちのほうが得意なんだよっ!」
かなり激しく動いたはずだが、アクバルは息も切らさずにそう言い放った。
「これで終わりだと思うなよっ!」
アクバルがそう言って突進すると、敏文も言葉を返してアクバルを迎え撃つ。
「まさかなっ!」
再び、敏文とアクバルの拳による戦いが始まった。
「「「「トシフミっ!」」」」
にらみ合う2人の周囲を、ヤスツナ、キョウ、サトリ、ノゾミが囲む。
その間、イブキ、スイメイ、ゴウ、ヒナタ、モチヅキは敏文の戦闘の邪魔にならないよう、周辺に散らばっている兵や探検者たちの体を、次々と防壁の両端からセッツの街の方へ運び出していた。ヒナタ、モチヅキが治療する一方、イブキは敏文たちを運んだ球体を複数創り出し、兵や探検者を放り込み運ぶ一方で、スイメイとゴウは口でくわえたり、数人を背中に乗せて運んでいる。
だが途中でスイメイはめんどくさくなったのか、港の内側の海水を自分の力で隆起させると、その上に、くわえた兵たちをポイポイと放り投げ始めた。ゴウもそれに同調する。
巨大な狐や双頭虎が歯をむき出しにして自分を咥えようとする様に、助かったと思っていたはずの兵たちは、恐怖におののくが、スイメイやゴウはそんなのはお構いなしだ。
「おまえら、邪魔だから、ちっとそっちにいってろっ!」
悲鳴をあげて隆起した海水の上にほうり投げられていく兵たち。
落ちていく先が海水しかない様子に、生きた心地がしなかったのだが、いざ、隆起した海水の上におちると、不思議なことに沈むことなくその場に留まれていた。
ある程度、防壁の上が片付くとスイメイは、面倒くさげに一言。
「逝っちまいなっ!」
その瞬間、隆起した海水はその形を留めたまま、港の反対側、岸壁に向かってものすごい勢いで滑り出した。
「なんか字の意味がちがああああああああっ!」
「うぉああああああああっ!」
「きゃああああああああっ!」
男女かまわず大声をあげ、ひっくり返る兵たちが岸壁にその勢いのまま放り出されるのを見たスイメイは、ニヤリと笑うと一言。
「あー、スッキリしたぜっ! ほら片付いたっ、片付いたっ!」
そして、スイメイは敏文とアクバルに向かって言い放つ。
「なぁ、お前たちばっかり楽しんでないで、俺にもやらせろよっ!」
「トシフミ、我等にも機会をくれないか? その男、楽しめそうだしな」
「ええ、そうね。私からもぜひお願いしたいわね」
ゴウ(s)も前足で地面を仕切りに掻き、尻尾をブンブン振り回しながら、敏文に自分たちにもやらせるよう要求する。
「ふざけるなっ! 今俺はトシフミと勝負してんだよっ! テメェら関係ねぇやつはひっこんでろっ!」
怒りを露にしたアクバルだが、気を取られたのか敏文への攻撃がわずかに粗くなった。
タクミの伝授した技の力と俊敏さの効果もあり、今の敏文がその隙を見逃すはずがない。
敏文の放った右の拳がアクバルの防御を掻い潜って左脇腹を捉えた。
「ごふっ!」
ミシッと骨がきしむ音と共に、内臓を傷付けたのか、アクバルが口から血を吐き出した。
よろけるアクバル。
「くそっ、この程度で気を散らすとは、俺もまだまだだな……」
口から血を垂らしながらそう呟いたアクバルは、シュっという音と共にその場から姿をかき消す。
「むっ!」
アクバルが姿を消したことに驚く敏文たち。
だが、次の瞬間、ヤスツナが弓を引き絞ると、空中に向かって巨大な矢を打ち放った。
その矢は沖のある1点を目指して風を切りながら飛んでいく。
そしてかなりの距離まで達したとき、そこに、消えたはずのアクバルが現れた。
その矢はアクバルの体の中心を貫くと勢いそのままにしばらくアクバルごと進み、そして、海中に落下する。
敏文には水飛沫をあげて海中に落下するアクバルの姿が≪遠視≫により見えていた。
「普通の人間なら助からないだろうがな」
「そうじゃな、だが、仕留め切れてはおらんじゃろうな」
敏文の言葉にヤスツナが返す。
「それに、あのデカイ触手の奴にも逃げられた。また、どこかを襲うかもしれないな」
「まあ、仕方なかろう。それより、セッツの街の住民たちを救う方に力を注ぐとしようではないか」
悔しそうに言う敏文にイブキが言葉をかける。
「ちきしょっ! なんだか暴れたりねぇぜっ! おいっゴウっ! 街中の残りの魔獣片付けにいこうぜっ!」
「おうっ!」
「いいよなっ、トシフミっ!」
敏文は苦笑いしながら、許可をだした。
「ただし、住民には被害をだすなよっ!」
「わかっている」
「おい行くぞっ! ゴウっ! モタモタしてると俺たちの潰す分がなくなっちまうっ!」
なぜか意気投合した様子のスイメイとゴウは並んでセッツの街中に消えていった。
「あいつら見て住民たちが腰を抜かさなきゃいいけどな」
「まったくじゃの。あいつらのほうがよっぽどアイアンクラブやシースネークより恐ろしいじゃろうて」
敏文の言葉にそう言って笑い出すヤスツナ。
「さて、俺たちもセッツの住民たちの救助に行こう。そっちの方はまだまだ、手が必要なはずだ」
敏文はそう言うと、セッツの上空を見上げる。
そこには、粗方、魔獣の排除が済んだのだろう。
上空を旋回して下を伺うセイランの姿が敏文の眼には見えていた。
(これは後で、欲求不満のスイメイとゴウから相手をしろと言われるかもしれないな……)
そう思いつつも、敏文は街中へ向かうため、イブキの背に跨った。
それからしばらくは目の前の住民たちの救助と治療にかかっていた敏文たちは、夜遅くになってようやく領主軍司令部の前でミサキやサラたちと合流する。
お互いの無事は≪遠話の腕輪≫の通信で確認していたのだが、合流よりも少しでも被害を抑えることに注力したためだ。
「そちらも、無事だったようだな」
「ええ、もちろん。港の方はどうだったの?」
そのカオリの言葉に敏文は頭を掻きながら、恥ずかしそうに答える。
「いや、あの触手の魔獣をぶっつぶすと言っておきながら、恥ずかしい話、逃げられた」
「「「「「「えっ!」」」」」」
驚くサラたち。
「いや、今回の魔獣を操っていたアクバルという男に遮られてな。そいつも多分……逃げちまった」
若干へこみ気味に話す敏文に、一瞬あっけに取られるミサキ達。
だがその時、ミサキの後ろから声をかけて来た者がいた。
「いやいやいやいや、逃げられたというより撃退したの方が正確なんじゃないのか?」
そこには男が2人立っていた。
「この人たちは?」
ミサキに尋ねる敏文に、本人が笑って答えた。
「いや、自己紹介がまだだったな。俺はこの街の領主軍司令でトールという者だ。で、こっちの無駄にさわやかな笑顔をばら撒く男は俺の副官のソータという」
「無駄にってのは余計な気がしますが……」
ソータのボヤキを無視しながらトールは続けた。
「君がトシフミか? セッツの危機によく駆けつけてくれた。お陰であの無数の魔獣を撃退できたばかりか多くの住民たちを救うことができた。住民を代表して礼を言わせてくれ」
そう言うとトールは敏文に握手を求め、ソータは深々と頭をさげた。
敏文は差し出された右手をしっかりと握る。
「意外に普通の手なんだな。もっとゴツいのかと思っていたが……」
トールはそう言って首を傾げる。
その時、トールの部下が港に到着していた第三艦隊から連絡が入ったことを伝えてきた。
「さて、もう少し話していたかったが、第三艦隊の対応をしなければならんようだ。間に合わなかったとはいえ、せっかくきてもらったのだ。随伴で物資を積んだ船もきているらしいからな。一応感謝しておこうか」
その時トールはふと思い付いた様に言った。
「君たち今日はどうするのだ? こんな時間でこの状況だからな街の宿屋はまず空いておるまい。良ければ……」
トールがそこまで言いかけた時、敏文とミサキの探検者の腕輪が通信を傍受する。
そのドーセツからの報せは敏文たちに更なる驚きと苦難をもたらすものだった。
最後まで読んで下さってありがとうございます。
もうすぐサクラの季節ですね。
何故か嬉しくなるのは日本人だからでしょうか?




