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第65話 アヤメの想い

おはようございます。今回もよろしくお願いいたします。

敏文と別れて清心の瀧への道を進むアヤメ達8人は、敏文達と同じように険しい山道を額に汗をかきながら登りつづけた。


前にこの道を通った経験のあるミサキ達【純白の朝顔】の4人とは異なり、アヤメ達はこれからどのような場所にたどり着くのか想像が出来ないものの、黙々と先を行くミサキ達に付いていく。


「修行の場というだけあって、やっぱりキツイね」

そう言って汗を拭うサラに、黙って頷くアヤメ。

「でも、景色はすごくいいわ。下を見て御覧なさいな。コーヤの里があんなに小さく……。遠くには海も見えるわよ」

ミシェルは腰に手を当てながらそう言うと、自分の魔法のポーチから水筒を出して口にする。


「景色なんてどうでもいいわ。早く行こうよ」

アヤメはそう言うと、ミシェルの脇を通り抜けて、ミサキ達の後を追った。


「あら、そんなに急がなくても瀧は逃げないと思うけど……」

そう言うミシェルに、アヤメは振り返るとキツイ一言を返した。

「いつシャハーブ達の攻撃があるか判らないのよ。もたもたしている訳にはいかないわよっ! それともミシェルはこの国の人じゃないから、そんなに気にならないのかしらっ!」


その言葉に驚く3人。

「……そんなつもりで言ったんじゃないんだけど……」

少ししょげるミシェルを見てサラはアヤメを嗜める。

「アヤメ。それは言いすぎよ。ミシェルだって無関係じゃないのよ。そんなにカリカリしていては瀧についた時に修行に差し障るかもしれないわ。少し落ち着こうよ」


「……ごめん。ミシェル」

サラの言葉に、アヤメは両手のこぶしを握り締めて、俯き加減にぐっと歯を食いしばると一言ミシェルにそう言っただけで、くるりと振り返って、先を行くミサキ達を追い始めた。


その後姿を見てハルが心配そうにつぶやく。

「ナーラあたりからかしら。アヤメが少し焦っているような……」

その焦りの原因が自分にあるとはハルは気が付いてはいない。サラとミシェルはそれをハルに告げるほど無神経ではなかった。


「彼女なりにホーエンの為に役立ちたいという思いが強いのかもしれないわね。しばらくはそっとしておきましょう。さあ、私達もいかなきゃ」

サラは2人に声をかけると、先を行く5人を追って山道を登り始めた。



休憩を少しずつ挟みながら4時間ほど歩いたところで、辺りに霧が出始める。

そこでミサキが振り返って皆にこう言った。

「そろそろ霧が出てきたわね。説明した通りこの先、霧はどんどん濃くなっていくわ。そして、霧を抜けると清心の瀧に辿り着く。でも、気をつけて。この清心の瀧は心に邪念や私欲があると受け入れてくれず、辿り着くことができないと言われているわ。いったん気持ちを落ち着けて」


ミサキの説明に頷く7人。


「いいかしら。じゃあ出発しましょう。もし、途中で他の皆が見えなくなっても自分の歩みをやめないで。立ち止まってはだめよ」


そう言うとミサキは先頭に立って霧の中を進み始め、アヤメも他の皆と一緒に霧の中に足を踏み入れた。


霧は白く、そして次第に濃くなっていく。そして次第にそれぞれから視界を奪い、10分もするとお互いの姿は見えなくなってしまった。


(このまま歩いていっていいの? ミサキ達は来たことがあるっていってたから迷わないかもしれないけど、私達は初めてなのにっ! もうっ、一緒に連れて歩いてくれてもいいのに……)


アヤメはそう文句を言いながら、言われたとおりに歩みを止めずに進んでいった。





ドドドド…………


白い霧の中を歩くサラの耳に瀧が滝壷に落ちる音が聞こえてくる。


(あ、もしかしてこっちに行けば出られる?)


サラは歩みを速める。


そして、白い霧が晴れてくると、そこには20メルほどの幅の泉のような滝壺があり、そして見上げるほどの高さから落ちてくる、数本の水の流れがあった。


「これが、清心の瀧?」

そう呟くサラに対して、瀧の横合いから声が掛かった。


「そう。ここが清心の瀧よ」

サラが声の主を探すと、そこには白い着物に身を包んだ黒く長い髪を靡かせた若い女性の姿があった。


「よくここに辿り着きましたね。私の名前はシズル。この瀧を見守る為にここにいるものです。さあ、あなたのお仲間もそこで待っていますよ」

サラがシズルが指し示す方を見ると、瀧のそばの木陰に一緒に来ていた仲間達がいた。


その姿は6人。

「あれ、誰か足りない……。あ、アヤメ?」

サラは驚いた表情になる。そして慌ててミサキ達に向かって声を上げる。

「ねぇ、アヤメだけまだなの?」

顔を見合わせて困ったように頷くミサキ達。


サラはミサキ達の傍に行くと、戸惑った表情のままミサキに尋ねた。

「そう。道に迷ってしまったのかしら。でも、もう少し待てばきっと来るわよね」


サラのその言葉に答えたのはシズルだった。

「いえ。今回、この場所に辿り着いたのはあなたを含めて7人。あなた達と一緒にきたそのアヤメという女性は霧の中ここにたどりつくことができませんでした」


「え、それは霧が濃すぎて道に迷ってしまったからですよね。じゃあ、私が戻ってここまで一緒に連れてきます」

サラがそう言って戻ろうとすると、シズルはその前に立ち塞がった。


「いえ。あなたが戻って一緒に来ようとしても、再びここに辿り着けるのはあなただけになるでしょう」

「えっ」

驚きを隠せないサラ。

「どうしてですか? だって一緒に手を繋いでくれば……」


ミサキが立ち上がって辛そうに言う。

「最初に説明したよね。この場所は邪念や私欲が強いものは受け入れてくれないの。それがなければ濃い霧の中を歩いてもちゃんと導かれてここに着けるのよ。でも、アヤメは辿り着くことが出来なかった。そういうことなのよ……」

そのミサキの言葉にシズルが頷く。


「そんな……」

一番自分の力を伸ばしたがっていたアヤメがここに辿り着けなかった。そのことがこの後、彼女にどう影響するのか、サラは不安にかられる。


「サラ、アヤメを思う気持ちは判るわ。判るけど、今はこの先の困難に対応するために私たちの一人でも二人でも力を伸ばさなければいけないわ」

ミサキがそうサラに声をかける。


それにシズルが補足する。

「ここに来れなかった彼女が霧を抜けるころ、あなたたちの修行は終わっているでしょう。彼女を山道でずっと待たせることにはならないと思います」


「……わかりました」

うつむいて考え込んでいたサラはそう言って顔を上げる。

(アヤメ、ごめんね。でもあなたの力を伸ばす機会は私もいっしょに必ず見つけるからね)



「では、こちらへ」

シズルがサラ達に声をかけ、滝壺のそばに立つように促す。


「よろしいですか? みなさん一旦、瞳を閉じてください。次に私が声をかけますので、そうしたら修行の開始です」

7人は静かに頷いた。




シズルの声を聴いたサラは、瞳を閉じたまま、じっと変化が訪れるのを待っていた。

すると、ぼんやりと呼びかける声がする。自分のことを呼んでいるようだ、そう感じたサラは眼を開いた。


次の瞬間、サラは自分が今までいた滝壺の前ではなく、どこか別の空間に運ばれていることを理解する。

周囲は真っ白で何も見当たらない。

『ここは?』


『精霊たちの空間の中にいるの。心配はいらないわ』

そう声をかけてきた存在がある。サラは自分よりも若い少女のような声を聴いた。


声の主を探すサラ。


すると、白く何も見えなかった場所に、うっすらと何かの影が見えたかと思うと、それが青白い狐の姿を形どっていくのが見えた。

『あ、あなたが呼びかけているの?』


『そうよ。私があなたをここに呼んだの。私は静流の精霊、水の属性の精霊の一人よ』

その狐は小柄でそう大きさを感じることはない。サラはテレビで以前見たキタキツネの映像を思い出しそれと同じぐらいだろうと感じた。子狐が大人になろうとしている、それぐらいの大きさだ。


『他のみんなは?』


『大丈夫。別の場所にいるわ』


ほっとした表情になるサラ。そのサラに静流の精霊は問いかける。


『あなたはどうしてここに来たの?』


その問いに、サラは少し考え込むとこう答えた。

『私はサラ。この世界の人間ではないの。トシフミという男性と一緒に、原因や理由はわからないけど、元の世界から突然この世界に移ってしまった。私は、もう元の世界に戻れないみたい。だから、トシフミと一緒にこの世界で暮らしていこうと思って』


そのサラの言葉を静流の精霊は黙って聞いている。サラは続けて話した。

『この世界に来てからいろいろなことが身に起こってとまどうばかりなんだけど、今はこのホーエンの国が大変なことになろうとしているのが判っているわ。一緒にいるトシフミは精霊を何人も宿せる力が備わっていて、自分にしかできないことがあるならって、がんばろうとしている。私はこの世界や国を自分が救えるなんて大層なことはできないと思うんだけど、でも、トシフミの力になりたい。そしてこれから自分が暮らそうとしているこの世界が穏やかになるのなら、できることをしたいと思っているの』


『そう……。自分の暮らす世界だからがんばるってこと……』

静流の精霊はゆっくりとその尾を揺らしながらそうつぶやく。

『わかった。私がサラと一緒に行く』


その言葉にサラは驚くと共に喜びを表す。

『え? 一緒に来てくれるの! それってもしかして、トシフミみたいに私に宿ってくれるってこと?』


『うん。そのつもりだけど。いや?』


『いやなんてそんなことないわよっ! 力を貸してくれるのね?』


静流の精霊は頷くとサラに向かってこう言った。

『うん。じゃあ、どこにする? あと名前なんだけど……』


サラは自分の体をあちこち見回した上で、ひとつ頷くとしゃがんで静流の精霊を抱き寄せる。

『そうねぇ。じゃあ、左の腕に。名前はどうしようかなぁ。ん~。水の精霊なんだよね……』


サラは静流の精霊の毛並みを撫でながら考え込む。

『じゃあピュアでどう?』

『ピュア?』

『そう。私の国の言葉で純粋って意味なの。きれいな水のイメージからなんだけど……』


静流の精霊はすこし考えると、首を縦に振った。

『わかった。ピュアね。よろしく、サラ』

『ええ、よろしくねピュア』


『でもね。少しだけ待って。ここを離れることを言っておかないといけない相手がいるから……』

ピュアはそう言うと、ここにはいない誰かと話を始めた。


『あ、話があるの。私ここに来たサラって人に宿ってここを出るわ。後は、私がいなくてもきちんとやってよね。……え、だめよ。もう名前も貰ったし、ついていくっていっちゃったもの。……いや。もう決めました。いっつも私にここのこと預けて自分の好き勝手出かけてるんだから、私もいいでしょっ!』


どうやら、相手ともめているその様子にサラは少し心配な表情になる。


すると、どこからともなく、大きな気配がしたかと思うと、そこにピュアとは比較にならない大きさの巨大な狐が現れた。

『おいっ、どういうこった! お前にここを任せているんだから、離れるなんてできるわけねぇだろっ!』



サラをそっちのけで激しく言い合う二人。

しばらく言い争っていた二人だが、ピュアのほうが言い負かしたようだ。大きな狐は吐き捨てるように言った。

『ちっ。そうまで言うなら仕方ねえな。ここにはオレの分体を残していくしかねぇかっ!』


『なっ、最初からそうすれば私がここにずっと居なくても良かったってことじゃっ!』


そのピュアの叫びには構わずに、その大きな狐は自分とそっくりな分身を作ると、その場を去っていった。


『全くもう。今まで私がここからずうっと動かずに務めを果たしてたのはなんだったのよっ!』

一言そう毒つくとピュアはサラに向き直って言った。

『じゃ、行こう! 私が宿ることで何があなたに出来るのかは少しずつこれから話すから。よろしくねっ!』


『こっちこそっ!』

サラは嬉しさのあまり大きな声でそう答えると、ピュアの指示の通り、清心の瀧を思い浮かべてその場からかき消えた。





その頃アヤメはまだ白く深い霧の中を歩いていた。

(結構かかるなぁ。まだ歩かないといけないのかなぁ……)


すると、目の前の霧が少しずつ晴れてくる。

(あ、やっと出口。やっぱり修行って言うだけあって、ちょっとしんどかったけど、これで私にも何か力が身に付くんだわ。ナツキだけじゃなくて私にもっ!)


そう思ったアヤメはそこから駆け出していく。


そして霧を抜けたアヤメは、驚きの表情で叫んでいた。

「え、何?! ここ元の場所じゃない! え? 何かの間違いよねっ! 瀧はどこよっ!」


「みんなはどこっ!」

アヤメが辺りをきょろきょろと見回していると、そこにサラやミサキ達が霧の中から現れた。


「サラっ! 私、瀧に着けなかった。みんなもそうなんだよねッ?私達何がいけなかったのかしら?」

そう叫ぶアヤメに7人は辛そうなあるいは悲しげな表情をしている。


「えっ! 違うのっ?」

アヤメが7人を見渡すと、カオリが今まで見たことのない手甲を身に付けており、そしてサラの左腕に今までなかったはずの蒼く透き通るような丸い紋章が淡く浮かんでいるのに気がついた。


「カオリっ、その手甲……。それにサラ、何か紋章のようなものが腕に……まさか、まさかあなたたち瀧に……」


「ごめんなさい。アヤメ。私達、瀧に着いたの」

サラが、そう答える。


「えっ! まさか7人とも?」

そのアヤメの言葉に7人は顔を見合わせると辛そうに頷く。


「そんなっ! それでカオリはその手甲を? サラのその紋章はまさか精霊がトシフミみたいに? 他のみんなは?」


震えながらそう言うアヤメにミサキが答える。

「私とハル、それにミシェルには魔力の増強が、アオイには刀に関する奥義が、シオリには治癒の力を持つワンドが渡されたわ。そしてあなたが気がついた通りカオリにはこの手甲が、そしてサラには水の属性を持つ静流の精霊が宿ったそうよ」


「じゃあ、何もなかったの私……だけなんだ……。私だけ……」


(どうしてっ! 私の何がいけなかったの? 私どうすれば良かったの?)

呆然と立ち尽くすアヤメの心の中で、その自問が繰り返されていた。


『私から少し説明するわ』

そう声がしたかと思うとサラの紋章が淡く光だす。

そしてそこに一瞬青白い仔狐が現れると、すぐに変化して白い装束を纏った少女が現れた。


「えっ! あなたはシズル?」

そのミサキの問いに、彼女は頷きながら答える。

「今はサラからもらったピュアという名前よ」


「え、シズルがピュアなの?」

驚くサラの手を握るとピュアはアヤメに向き直りこう言った。


「あなたがどのような想いで今まで来たのかは今の私にはよく判らない。でも今のあなたには、他人に負けたくない、他人より上にいきたい、他人より認められたい、そう言う感情があるように感じられる。清心の瀧は落ち着いた純粋な気持ちに対して応じるものなの。だから、今回、残念だけどたどり着けなかった」


「アヤメ……」

サラが申し訳無さそうにそう呟く。


「……そう。そっか、私がいけなかったのか……」

アヤメは少しの間うつ向いていたが、顔をあげると笑顔でこう言った。

「じゃあ、仕方ないかっ! 私に彼女が言う気持ちがなかったかって言えば確かにあったし」


そしてアヤメはピュアに尋ねる。

「ねえ、ピュア? 私が気持ちをきちんと落ち着けてまたここに来たらその時は瀧にたどり着ける可能性はあるの?」


「そう、かもしれない」


そのピュアの言葉にアヤメは大きな声をあげた。

「じゃあ、次頑張ればいいわっ! そうでしょサラっ!」


そう言うアヤメに頷くことしか出来ないサラ。


「さっ、じゃあ、里に帰ろうよ。トシフミ達待ってるかもしれないし」

アヤメはそう言うとクルリと体を返して、里へ下る山道を先に歩き始めた。


「アヤメ……」

ハルが何か言おうとしたが、言葉にならなかった。今彼女が声をかけても感情を逆撫でしそうで、言葉が継げなかったのだ。流石にハルもアヤメが対抗意識を燃やしていたのが自分であることに気がついたのだった。


アヤメを追うように皆歩き出す。その姿は力を得た喜びよりアヤメに対する憐憫の感情でいっぱいで重々しい足取りになっていた。


そして先を行くアヤメの瞳からは頬をつたって涙が流れ落ちていた。





里に戻ったサラ達の元に、トシフミ達も男子の宿坊に戻ったとの連絡があった。翌日の朝に一旦王都に向けて出発しようということになり、その日は宿坊に再び泊まることになった。


夕食の場ではアヤメは明るく振る舞い、一見落ち込んでいるような素振りは見せなかった。

「大丈夫。次の機会にがんばるからっ!」


サラはそんなアヤメを見て、カラ元気だろうとは思いつつも、明るい声を出せている状況に少し安心もしていた。

(次、アヤメが何か力を得られるように私も応援するからねっ! そうだっ。王都に戻ったらアヤメの大好きなスイーツの店に一緒に行こう!)




食事の後、風呂へと向かおうとしたアオイは、アヤメが一人で出かける姿を見かける。

(あら、あれはアヤメ? 今からどこに行くつもりなのかしら……)


「ちょっと出掛けてくるから、これ部屋に持ってってくれる?」

ちょうど風呂から戻ってきたシオリにお風呂セットを預けるとアオイはアヤメを追って外に出た。




アヤメは宿坊を出て歩き出す。特に行く宛がある訳ではなく、やはり仲間と一緒に居るのが今は辛かったのだった。


(やっぱり、私、【ミスティック】にいちゃいけないのかなぁ……。私じゃトシフミの役に立てないのかなぁ……)


そう考えながら、無意識にアヤメの足は昨日と同じ庭園の奥を目指していた。



ふと気がつくと昨日サヤメと出会った場所にアヤメはいた。

「サヤメさん、いるわけないよねぇ……」


そう言ってベンチに腰を下ろすアヤメ。


すると、アヤメは背後から突然声を掛けられた。

「あらあら、今夜もお悩みは深そうねぇ。アヤメさん?」


アヤメが振り返るとそこにはにこやかにサヤメが髪をなびかせながら立っていた。




「そう……、そんなことがあったの。それは残念だったわね」

アヤメの話を聞いたサヤメは心から残念そうにそう言った。


「私、多分【ミスティック】にはもういらない娘なのかもしれないです。あーあ、どうして私、力が手に入らないんだろう。トシフミだけじゃなくて他の皆の背中まで遠くなっていくわ」


「【ミスティック】にいるのに力が必要なの?」

サヤメはそう問いかける。


「そりゃあ、ないよりあったほうがいいもの。それに、前の王都の騒乱の時、私あまり出来ることがなかったし、私の居場所だんだん無くなっていく感じで。トシフミの横もナツキに取られそうだしなぁ……。私何をやってるんだろうって」


そのアヤメの言葉に彼女に見えないようにニヤリと笑ったサヤメ。

彼女はアヤメにこう言った。


「私、ここの他にも力を得ることの出来る場所知ってるわよ」


「ええっ! 本当ですか? それはどこにあるんですっ!」


食い付くように近寄るアヤメにサヤメはニコリと微笑んだ。



「それはね……」






アオイはアヤメを追って庭園の中を奥へと進む。


(昨日の場所に向かってるの? あ、あの場所は昨日のベンチ……)


アヤメがベンチに座るのを見たアオイは良くその様子を見るために周囲を見回し、さらに近づくのに適当な茂みを探そうとしていたが、ふと気がつくとアヤメの側に昨日のあの女性が立っているのに気がついて愕然とする。


(彼女いつの間にあそこに?! 全く気配がわからなかったなんて……)


暫くその女性がアヤメの横に座って話をしているのを遠目に観察していたアオイに、突然悪寒が走る。

その女性の白い髪がたなびいた瞬間こちらを見てニヤリと笑ったような気がしたのだ。


(何? こっちに気がついているの?)


驚くアオイ。


すると、アヤメが立ち上がってその女性に一礼すると、庭園の入口に向かって走り出した。


アオイは慌ててそれを追おうとするが、再び話し相手の様子を確認しようとして驚きに包まれる。

なんと、その女性の姿がかき消えていたのだ。見回してもどこにもいない。


(彼女はいったい……)



だが、庭園の入口に向かうアヤメの姿が遠のくのを見て慌ててそれを追って宿坊に向かってアオイは走り出した。




宿坊に戻ったアオイは、部屋でサラと楽しそうに語らうアヤメの姿を見つける。

「あれ? アオイお帰り。 お風呂にいってたの?」

「いや、ちょっと夜風に当たりにね」


「そうなんだ。あ、そうそう、サラがね。王都に戻ったら一緒にスイーツ食べに行こうって。ほらあの有名なジャルダンってお店。前から行って見たかったんだよね。一緒に行かない?」

その明るいアヤメの様子にアオイは少しほっとする。


(取り越し苦労かしら。でもあの白い髪の女性、気になるわね……)




アオイはそこでアヤメにその女性の事を尋ねなかった事を後悔することになる。



翌朝、宿坊からアヤメの姿が忽然と消えていたのだ。



「ねぇ。アヤメ知らない?」

朝食の時間になっても現れないアヤメに7人は首を傾げる。

「私てっきり散歩にでもいってるのかって思ったんだけど、違うの?」


「ねえ、サラ。アヤメの腕輪の感覚は?」

ミサキにそう言われたサラは【ミスティック】の探検者の腕輪に少し魔力を込めて気配を探る。


「あれ? 宿坊の部屋の方だけど……」


食堂から宿坊の部屋に戻った7人が見つけたのは、部屋のテーブルの上に置かれた探検者の腕輪と《遠話の腕輪》、それに小さな置き手紙だった。

そこにはこう書かれていた。

“私、自分の能力を見つけるために旅に出ます。きっと役に立てる力を身に付けて帰ってきます。アヤメ”


「アヤメっ!」

「まだそんなに遠くじゃないかもっ! トシフミに連絡して気配探知をっ!」


ハルの叫びにサラがそう言ってトシフミと《遠話の腕輪》で連絡を取る。


『そんなに慌ててどうしたんだ? サラ。』

「アヤメがいなくなっちゃったのっ! お願いっ! アヤメの気配を探してっ!」

『なんだってっ! ちょっと待ってくれっ。………この3キル四方にはいないようだ。腕輪の気配はそっちにあるが……』

「腕輪置いていっちゃったの、2つともっ!」

『置いて? じゃ、拐われたんじゃなくて自分から出ていったって言うのかっ。何があったんだ?』


そのトシフミの問いにサラは昨日の清心の瀧で起こった出来事を話して聞かせる。

『なるほどそうかっ。なら、このままここにいても仕方ない。合流して直ぐに追おう』



トシフミの言葉にそこにいた7人は顔を見合わせて頷くと出発の準備を直ぐに始めた。



10分後。

一昨日別れた宿坊入口の門の前、受付のある場所で9人は合流する。


「トシフミ、ごめんなさい。こんなことになるなんて……」

そう項垂れるサラ。

「いや、サラのせいじゃないだろう? 今はアヤメの行く先だ。誰か心当たりは?」

書き置きを見ながらトシフミが7人に尋ねる。


首を振る女性達の中でただ一人、アオイが気になる事を口にした。

「もしかしてあの女性と一緒かも……」

そう言うとアオイは昨日、一昨日とアヤメに話しかけていた白い髪の女性の事を皆に話し出した。


アオイがその白い髪の女性の姿がかき消えたことを話した時、突然トモエがトシフミの中からアオイに語りかける。

『白い髪の女性? アオイ、その人の姿覚えてる?』


「ええ、はっきり覚えてるけど」

アオイの返事を聞いたトモエは思い当たる節があるようだ。

『ねえ、サトリの《記憶読取ブレインスキャン》でアオイの記憶にあるその女性を私に見せてくれないかしら?』


トシフミがアオイに《記憶読取》をかけると、トモエが反応した。

『彼女は常闇トコヤミっ!』


「常闇? ってまさか闇の精霊かっ!」

『ええ、間違いないわ。恐らくアヤメは常闇に唆されたのよ。力を欲しながら力が与えられずに落ち込んでいたアヤメに取り入ったんだわ』


「そんなっ!」

右手で口許を覆って驚くサラと、へたりこむハル。


「トモエっ! 常闇の精霊がアヤメを連れていく可能性がある場所に心当たりはあるかっ!」

『ええ。恐らくはオソレッド山』


「オソレッド山ですってっ!」

ミサキが声を上げる。

「あそこはホーエンで最も闇の瘴気が強いところ。紫の探検者がチームであたっても無事が保障されない場所です。そんなところにアヤメが……」


「よし、迷ってもいられない。俺がセイランの背に乗って追う。皆は一旦王都に……」


トシフミがそこまでいいかけたところで、トシフミとミサキの探検者の腕輪が通信の到着を告げる。


トシフミとミサキがそれぞれ腕輪に応答をする。


それは王都の探検者組合長、ドーセツからの緊急通信だった。

「トシフミっ! ミサキっ! シャハーブの第2波が来やがったっ!」

最後まで読んでくださってありがとうございます。


世の中クリスマスイブですね~。


日頃の行いが良すぎたのか、何故か私は急性胃腸炎で入院中……。


先日の身内の不幸といい、アヤメじゃありませんが、私の何がいけなかったのか…………。


皆様良いクリスマスをお過ごしください。

くれぐれも手洗いうがいを忘れずに~。

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