第61話 ダイカクの思い
皆様、だいぶ間が開いてしまいすみません。
ストーリーに詰まって悶えて?いました……。
「さて、今日はここまでにしようかの」
オズーノは腰を叩きつつ、目を通していた書類を机に置く。その隣ではダイカクが彼専用におかれた机に同じように書類を山積みにして、考え事をしている途中だった。
「あまり根を詰めると、体に毒じゃぞ。ダイカク」
その言葉にダイカクもようやく顔を上げて、ふうっと息をつく。
「そうですね。ここで今日はやめにしましょうか」
「なかなか難しいものじゃな。シャハーブ達が次にどのような手を打って来るかがわからない以上、何に対して防御策をとればよいのかがとんとわからん」
「今回は王都の地下からの攻撃でした。それまでの8回の攻撃も踏まえれば、何が起きてもおかしくないでしょう。ただ、闇の魔法の力の流れを捕捉することができれば、彼らが何かを準備している段階で対応をとることができるかもしれません」
ダイカクの言葉にオズーノは頷く。
「そうじゃな。まずは我々がすべきはそこからじゃろうな。陽光の祭殿の方からも、ホーエン各地の分殿での闇の魔力の探知について協力を申し出てくれておる。我々はそれでカバーできない部分の探知方法を考えねばならん」
「闇の魔法でなくとも、先日の魔導樹の地下の魔力の流れの異常のような、それまでと異なる兆候を捉えられれば違ってくるのでしょうが……」
そう呟くダイカクにグラスがひとつ差し出された。
「少し付き合わんか」
「はい」
ダイカクが受け取ったグラスが琥珀色で満たされる。
「お主が手を貸してくれて本当に助かっておるよ」
チンとグラスを合わせて、2人はそれを口に運ぶ。
「また、以前のようにお主の新しい発想で、いろいろなものを見せてくれるとうれしいのじゃがな」
「……」
「やはり、まだ拘りがあるようじゃな」
「ええ。民を救うために働くことにはいささかも躊躇いはありませんが、現王家のお抱えとなることは私にはできません」
「サユリは本当に得がたい女性だった。それにお主のそばにいることを常に幸せじゃと言うておった。わしがあの時、あの役目をお主に頼んでおらねば、違う結果になっておったのかもしれん」
「いえ、それは仰らないでください。あのような展開は仕組んだものしか予想できなかったでしょうから」
そう言って、ダイカクは天井を仰いで、大きく息をついた。
今から34年前。
ホーエン王家は宴で盛り上がっていた。時の第一王子マサノブとミナミー島の領主キドー公爵の娘クロエとの婚礼が執り行われたのだ。そのとき、マサノブ25歳、クロエ19歳。そしてクロエの傍には当時まだ13歳のサユリという娘が侍女の一人としてついていた。
このときのキドー公爵は、先代であり、現キドー公爵はこのクロエの兄にあたる。
クロエは灰色のストレートの髪に時折見せる物憂げな表情が深窓の令嬢という雰囲気をかもし出している美しい女性だった。亜麻色の瞳に優しさを湛え、少し控えめな態度は人によってはおとなしい印象を与えるかもしれない。
サユリはキドー公爵家でクロエ付の侍女として、そしてクロエの遊び友達として、時には妹として接し、クロエにはなくてはならない存在であった。
まだ見ぬ王家へ嫁ぐにあたり、キドー公爵は不安を隠せない表情の娘に配慮して、普段から傍にいたサユリを一緒に行かせることにした。
サユリは13歳という年齢ながら、その愛くるしい笑顔と利発な頭で、王宮の先輩侍女たちからも非常に可愛がられ、クロエと元々王宮仕えであった人々との間をうまく取り持っていた。
そのようなサユリの心配りもあり、マサノブとクロエの仲は睦まじく、婚礼の2年後、待望の長男が誕生する。それが現在のキヨノブである。
その翌年には、現在キタノダ島を治めるモノーノベ公爵の夫人となる第一王女フユミも誕生した。
そしてそれから4年がたった。
サユリは19歳になり、少女からかわいらしさを残しつつも美しい娘に成長していた。
そして、クロエが再び懐妊。まもなく出産を迎えるということもあり、王宮ではその準備が始まろうとしていた。
そのような時、ミヤザからその優秀さ故に高等学校を繰り上がりで17歳になったばかりで卒業し、当時からオズーノが所長をしてた魔法・生物研究所に働き学ぶために王都にやって来たのがダイカクであった。
ダイカクは親元を離れて一人で上京し、その他の研究所配属の新人研究員たちと共に、国王に拝謁し、宰相の訓示をうけるために王宮に来ていた。
「やっぱりすごいもんだな」
宰相訓示を受領後、待機となっていた新人研究員の控え室から、トイレのために抜け出したダイカクは王宮内の天井絵の豪華さに見ほれながら歩いていた。
あまりに夢中になって見ていたため、すでに自分がどこにいるのかわからなくなっているのだが、それすらも忘れて天井絵に見入っていた。その為、廊下の途中の部屋から出てきた15、6歳の少女の姿に全く気が付いていなかった。
「きゃあっ」
その少女も、洗濯物を山と積んだ籠を両手に抱えていたためよく前が見えていなかったようだ。盛大に声を上げてひっくり返った。
「もうっ、どこ見て歩いてるのっ!」
「ああっ。ごめん。僕が前を見ていなかったから……」
ダイカクはその少女に手を差し伸べると共に、散らばった衣類などを一緒に集める。
すると、ダイカクの後ろから声がかかる。
「あらあら。モエ、あなたが両手に荷物を抱えすぎていたんじゃないの?」
「あ、サユリ様。でもこの人が前を見ていないのがいけないんですっ」
「モエ。聞いてくれるかしら? 今はぶつかったのがこの子だからいいけど、もし陛下だったら、どうなってたと思う?」
「あっ」
モエははっとして、それから理解したのだろう。素直にダイカクに謝った。
「ごめんなさい。前を見えないほど荷物を抱えちゃいけないって言われていたんでした」
「あ、いや。天井を見ていた僕も悪いし……」
「そう。じゃあ、お互い様ってことで。フフフ」
そしてすぐ後ろに立って微笑むサユリの姿を見たダイカクはすぐに恋に落ちていた。
(なんて、笑顔の素敵な人なんだ……。それに人を安らかにするこの雰囲気……。こんな人にはもうあえないかもしれない……)
それから、ダイカクは魔法・生物研究所で死に物狂いで研究していた。
一介の新人研究員の立場では王宮に自由に出入りすることは認められない。ましてや、市中に出歩くことのほとんどない第一王子夫人の侍女に会うことなど出来ようはずもない。
だが、ダイカクはサユリの姿が忘れられなかった。あのにこやかなそして安らぎを湛えた美しい笑顔にもう一度会いたい、そう思っていた。
そして考え付いたのは、魔法・生物研究所で新しい研究で名を上げて、国王拝謁を賜ること。
(そうすれば王宮に入ることができ、もしかしたらサユリさんに会えるかもしれない……)
かなり動機が不純だが、もともと極めて高い才能があり、数少ない3属性の魔法適正を持っていたダイカクは必死に研究した。高等学校の時から持っていたアイデアを次々と研究し、実用化を考える。そして1年の不眠不休の研究の末、完成させたのがあの【検魔鏡】だった。
当時としては、画期的な魔力適正を把握する魔道具の発明が公表されたとき、当時のナガノブ王や宰相は大層喜んだ。これで、幼いうちから魔法適正が高いものを集めてより高い教育を施すことができる。それはホーエンの魔法士界にとっては、将来に明るい光を指す発明だったのだ。
それまでは、魔法を行使して初めてわかるものだったし、本人にその気がなく適正を理解していなければ、高い魔力適正を持っている人材がいても埋もれたままだった可能性があるのだ。
そして、この魔道具をすべての学校に配備することがその場で即決された。
そして、この発明という功績をあげた魔法・生物研究所とその発明者でもあるダイカクは晴れて王宮に召しだされて国王拝謁を賜ることとなった。
(ようやく、これでサユリさんに会える)
そう意気込んでダイカクは、王宮に乗り込んだ。
だが、国王拝謁にあたり、控えの間に導かれたダイカクたちは、控えの間から出ることを許されなかった。
(くそっ。このために頑張ったのにサユリさんに会えないのか?)
そして、国王拝謁が行われる。
ナガノブ王からは、ダイカクに直々に声がかりがあった。
「ダイカク。そちは若いながらに昼夜を問わない研究で【検魔鏡】を作り上げた。誠に重畳。その功に報いるになにか希望するものはあるか?」
「はっ」
ダイカクは迷っていた。もしかしたらこのままサユリと会えないまま帰ることになるのではないか? そうすればこれまで苦労してきたのにすべて水泡と化してしまう。
「余にかなえられるものであればよいがな。まずは望みを申してみよ」
国王のその言葉に、ダイカクは踏ん切りをつけて、こう言った。
「それでは、恐れながら申し上げます。もし、王家にお仕えされているサユリ殿とお話する機会をいただけるのでしたら、わたくしにとって望外の極みにございます」
「は? 誰と話したいと申した?」
「はっ。王宮にお仕えされている侍女のサユリ殿です」
その瞬間、謁見の間はざわめきを起こす。
国王は宰相の顔を見る。
「おそらくは、クロエ様の侍女のサユリのことではないでしょうか」
宰相の言葉に、国王はにやりと笑った。
「そうか。お前の望みはサユリと話すことだというのだな。他には望まないのか?金や地位なども選べるものを」
「いえ、もし叶えていただけるのでしたら、他は望みません」
「ほう」
国王の顔はますますニヤニヤしたものになる。
「おい、サユリをこれへ連れてまいれ!」
「はっ!」
国王の言葉に近衛兵がすぐさま謁見の間から外へ出て行った。
少しの時間がたったあと、近衛兵が戻ってきた。
「サユリ殿をお連れいたしました」
「入るがよい」
近衛兵に連れられて入ってきたのは、2人の女性だった。
「陛下。サユリが何かいたしましたでしょうか?」
そう声をかけたのはクロエだった。
その横でサユリは戸惑った表情をしている。クロエと部屋で談笑していたところに、突然国王から直々の呼び出しを受けたからだ。国王付きの侍女でない限りはまず通常ありえない。
突然のことに心配したクロエが付き添ってきていたのだ。
「いや、なに、この度、国に功績のあった魔法・生物研究所の研究員が、褒美に金も地位もいらないからサユリと話がしたいと言い出してな。あくまで話がしたいというので害もなかろうと思ってな」
「まあ。どなたかしら?」
両手をほほに当てながら興味深そうにクロエが謁見の間で膝まづくダイカクを見る。
「あ、あなたは確か……前に……」
膝まづいているダイカクを見てサユリが思い出す。
「思い出しました。王宮の廊下でモエとぶつかった……」
「はい、その通りです。ダイカクと申します」
その2人の様子を見た国王は、ダイカクに向かって言った。
「よかろう。ダイカクよ。これからしばしの間、王宮のテラスを1つ貸し出そう。そこでサユリと望みどおり話すがよい。ただし、少し遠めにはなるが、近衛兵は立たせるぞ」
「陛下。どうでございましょう。いきなり、2人ではあれでしょうから、私とオズーノ様で最初はご一緒いたしましょう。その後、2人で話してみてはどうかと思うのですが……」
そのクロエの提案に国王はあごに手をあてて考え込む。
「そうか。いきなり2人ではクロエも心配だろうしな。オズーノ、お主もよいか?」
その言葉にそれまで驚いた表情をしていたオズーノがにっこりと笑うと頷いた。
「はい。この者の異常なまでの熱心な研究、何か理由があろうと思っておりましたが、まさかこのような望みがありましょうとは。ほっほっほ。いやいや。若いとはいい物ですなぁ」
「ふむ。そうじゃな。じゃが、これ程の功績に侍女との面会だけでは国王としての矜持にかかわるな。別に報償としての資金は渡すとしよう。どうじゃダイカクそれでよいか」
「はい。感謝いたします」
そこには、本人の意思とは無関係に予定を変更され、展開についていけないまま顔を真っ赤にしたサユリが佇んでいた。
念願かなって、サユリと話す機会を得たダイカクだったが、その日は緊張しまくりでほとんど満足に話せなかった。しかし、自分の想いをなんとかサユリに伝えることには成功する。
顔を真っ赤にしてダイカクの話を聞くサユリ。
「あの、ダイカク様は18でらっしゃいますよね。わたくしのほうが年上なのですが、わたくしでよいのですか?」
「はい、サユリ殿のことをもっと知りたいのです。もっとお話がしたいのです。いけなかったでしょうか?」
その様子を見ていた、オズーノとクロエは顔を見合わせて笑うと、後日王宮外で2人が会う機会を作ることにした。
そうして、ダイカクとサユリが共に歩む時間が始まった。
ダイカクとサユリはとても仲睦まじい間柄となり、国王の面前で告白したも同然の行為は、宮廷の噂好きの貴婦人たちの格好の的となった。
ダイカクは将来有望な気鋭の魔法士であり、かつ魔法具製作士でもある。将来オズーノに代わる人間になるかもしれないと噂されていた。そのような男から、金も地位も要らないから、ただ会って話をしたいと国王に頼み込んだのだ。噂にならないはずはない。
そうなると周りが余計な気を回し始めた。ダイカクは3属性の適正があり、将来有望。であれば自分の娘をと考えた有力貴族が現れ始めたのだ。オズーノの所にはそのような貴族からの相談やダイカクを自邸のパーティに招待するなどの動きが出始めていた。
オズーノやクロエは、早く身を固めたほうが余計な雑音が消えると考え、2人を説得した。
ダイカクはまだ、研究員になってから期間が短いと考えていたし、サユリはクロエの侍女としての仕事を今辞めることは考えてはいなかった。
「男は早く身を固めるほうがよい仕事ができるというの」
オズーノはそう言ってダイカクを説得した。
そして、クロエもサユリを説得する。
「子供ができるまでは、普通に王宮外からの通いで勤めればよいわ。ダイカクさんが研究で帰れないようなときは王宮で過ごせばいいじゃない。それにもし、2人に子供が出来たら、私の子供たちとお友達になってほしいのよ。王子や王女にお友達なんて作りづらいとも思うけど、あなたたちの子供なら陛下やマサノブ様もよいとおっしゃると思うわ」
そこまで2人に言われ、元より一緒になることには異存がなかった2人は、結婚を決めたのだった。
その後、クロエが第2王女であるアキカを出産した3ヵ月後に長女のキキョウを、第3王女であるナツキを出産した4ヵ月後には次女のアヤメを出産した。その後、キキョウとアヤメは共に幼いころはそれぞれの王女の学友として過ごすことになる。
ダイカクとサユリ。2人の生活は子供や理解ある人々に囲まれて、とても満たされた環境にあった。
だが、そんな2人の望んだ暮らしはずっと続くことはできなかった。
ナツキとアヤメが生まれてから6年後、サユリが後にマリカとなる第三子の出産のため、休暇に入った時。
王宮に忍び寄る暗い影が少しずつその姿を現し始めたのだった。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
少し短いのですが、次話との関係でここで切りました。
この1月 ほど、それまで考えていたストーリーでいいのか、上手く纏めきれずに苦しんで居ました。
何とかエタらずに最後まで頑張りたいと思いますのでこれからもよろしくお願いします。




