閑話2 その頃のマリカ
今日は敏文がナーラにいる頃のマリカのお話です。
「マリカくんっ。そうじゃない。引き金を引くときは顎をひくんだ。そして脇を閉める。そう、そうだっ」
マリカはそのイチロウタの声に静かに頷く。
ここはミヤザの高等学校にある弓道場。本来ならば、弓を習う生徒たちが静かにその所作を極めるべく修練している場所だ。
バシュッ!
だが、今ここでは普段とは異なる修練が行われていた。
マリカがいま両手で抱えているものは、持ち手から金属の細長い筒が延びているものだ。トシフミが見たらそれをこういうだろう。
「この世界にも銃があったのか」
マリカは30メルほど離れた先に歩いていき、そこにおかれていた的を新しいものに置き換える。
「だいぶ、良くなってきたな」
イチロウタはそういってにこりと微笑んだ。
マリカは王都から戻ったあと、出来るだけ早く高校を繰り上げ卒業すべく、勉学に励むとともに、今の雷魔法士の力だけでは、探検者として戦えないとも考えていた。
王都のあの混乱の中、彼女は自分と2人の友人の身を守るので精一杯だったのだ。
【ミスティック】はその時、街にあふれようとしてた魔獣を殲滅すべく最前線にいた。周囲に【純白の朝顔】や、もはやその力がいい意味でも悪い意味でもこの国で突出してしまったトシフミがいたにしても、自分のライバルと考える姉はその戦いを経験している。
そして意外に聡いこの娘には自分の魔力が、1対1で中位程度の魔獣と戦うことは出来ても、上位の魔獣や多数の魔獣との乱戦になれば、すぐに力尽きてしまうだろうことは容易に想像ができていた。
そこで、高校在学中ではあったが、探検者組合に登録し、ミヤザの探検者組合の支部長モンドノジョーに相談したり、高校の戦闘術の講師の意見を聞きつつ、自分に向いた戦い方について模索していた。
その日、マリカは授業を終え、高校の図書館で戦う術について、調べていたものの、思うようにピンとくるものを見つけられずに、ため息をつきつつも自宅に帰ろうとしていた。
そしてたまたま、弓道場の前を通りかかった時だった。
バシュッ! バシュッ!
マリカの耳に聞きなれない音が響いてくる。弓が放たれる音とは異なるその音に興味が沸いたマリカは物音を立てないように気をつけつつ、弓道場の中に入っていった。
そっと、柱の陰から中をのぞくと、そこには一人の男が立っていた。手には見慣れないものを構えている。
「(あれは何?)」
じっと見つめるその先で、男は手のひじから先ぐらいの長さの金属で出来たそのものを構え、そして人差し指を何かに引きかけてぐっと絞り込んだ。
バシュッ!
その瞬間30メルほど先におかれていた陶器の壷に目掛けて何かが放たれ、すぐに壷は粉々に砕け飛んでいた。
「(あれはっ!)」
再び男がその指を絞り込んだ時、今度はその筒の先から、ゴォッっという音と共に炎の弾丸が飛び出して行き、同じく30メルほど先におかれていた木製の椀が瞬時に炎に包まれて、すぐに消し炭のように崩れ去る。
その様子を見ていた、マリカは自分が隠れて覗いていたことも忘れて、フラフラと弓道場の中に入っていった。
マリカが近づく足音に気がついたその男は手に持っていたものをそこにおかれたテーブルの上に置くと、少しばつの悪そうな顔をしたあと、頭をかきながら言った。
「あらら、見られてしまいましたか」
「あなた、誰? この学校で見たことのない顔」
マリカはその男にそう尋ねる。
「ああ、これはすいません。自己紹介が遅れましたね。私はこの高校に来月から赴任する予定の教師でイチロウタというものです。まだ、正式に着任していないので皆さんにはご挨拶をしていなくて。ところで君はここの生徒ですか?」
「そう。魔法科3年のマリカ」
「そうか。君はマリカくんというのかい。これからよろしくお願いするよ」
イチロウタはにこやかにその右手を差し出した。
マリカはその手を軽く握り握手をすると、自分が聞きたいことを切り出した。
「その武器は何? 私今までそんな武器見たことがない」
するとイチロウタはテーブルの上にあるそれを手にとって、マリカに見せる。
「これかい? これはね、魔導銃って言うんだ」
「マドウジュウ?」
マリカは首をかしげる。
「ああ、そうか、この辺ではあまり見かけないかもしれないね。これはね、あらかじめ属性のある魔法をこめておいた弾を装填してこの銃とこめられた魔力の力で弾き出す武器なのさ。これだと魔力が少ない人間でもある程度の威力を持った、しかも魔法の属性がついた攻撃を放つことができるんだ。その威力は弾にこめた魔力次第。りんご1個を吹き飛ばす威力のものから、人家を1軒こなごなに吹き飛ばすぐらいのものまで」
そのイチロウタの説明にマリカは眼をキラキラとさせてイチロウタに肉薄しながら叫んだ。
「これだわっ! ねぇっ、イチロウタ先生っ! その銃の使い方を教えてっ! それにその銃ってどこで手に入るのっ!」
唐突に接近したそのキラキラに驚いて仰け反ったイチロウタ。
「いや、この辺じゃ売ってないかも。それにこの武器高いし、属性魔法込めた弾も高いから……」
「なら、王都なら売ってる?」
「あ、ああ。王都なら売ってると思うよ」
「わかった。じゃあ、銃は自分で手に入れるから、撃ち方を教えてっ!」
すべてが唐突なマリカの勢いにタジタジとなるイチロウタ。
「ちょ、ちょっと、待ってくれ。落ち着いて。どうして君はこれの撃ち方を覚えたいんだい? それに手に入れられなければ意味がないと思うんだけど。ほんとに高いよこれ」
そういうイチロウタに対して、マリカは自分の事情を説明していった。
「そうか。君はあのダイカクさんの娘さんで、ここを繰上げで卒業したらあの王都で名を上げている【ミスティック】に入るっていうことなのか」
「そう。だから、今の雷属性だけじゃ力が足りない。私に合う武器をずっと探してた」
「で、これなら、と?」
大きく頷くマリカ。
「大丈夫。銃は手に入れるあてがある」
「ほんとうかい?」
マリカの頭には王都にいる自分の“下僕”の姿が浮かんでいた。
「そうか。僕も来月赴任するまでの間は時間があるし、赴任したあともここの生徒でそういう事情があるのなら、教えてあげられないこともないよ」
「ほんと!」
「ああ。実は僕は以前にダイカクさんに、とてもお世話になったことがあってね。そのダイカクさんの紹介もあってこの高校に赴任することになったんだ。だからダイカクさんの娘さんである君に僕がもっているこの魔導銃の扱い方を教えることは恩返しにもなるのかもしれない」
その答えにマリカは両手をぐっと握りしめて、喜びを表す。
「そうだね。じゃあ、明日この時間にここにおいで。校長先生からは、今は弓道部が全国大会に出場するとかで合宿に出かけていてここは空いているそうだから使ってもいいって言われていたんだ。君が銃を手に入れるまでは僕の持っているものを貸してあげよう」
「わかった。あしたまた来る」
マリカはそう言うと、早速王都に連絡をいれるために急いで自分の家に向かって帰っていった。
その姿を見ていたイチロウタはふっと息をつくと、つぶやいた。
「ダイカクさん。とりあえず、頼まれたとおりにコイツの使い方は教え込んでみますよ。彼女に合うかどうかはわかりませんけどね」
翌日からマリカは授業が終わると同級生たちとの会話もそこそこに、弓道場へ向かう。そこで、魔導銃の構造、用途、取り扱いから習い始めた。
翌々日の夕方、マリカは昨日までしていなかったショルダーポーチを肩にかけて弓道場に現れた。
イチロウタの前に着いたマリカはそのショルダーポーチに手を突っ込むと大きな細長いバッグと四角いトランクのようなものをそこから引っ張り出した。
「マリカくん。そのバッグはどうしたんだい。……まさか……」
「私の銃。今日朝一番で届いた。魔法のポーチに入れてナミに学校に届けてもらった」
マリカから連絡を受けた王都の“下僕”は、感動のあまりとめどなく涙を流すと、しゃかりきに王都の大店トト屋の面子にかけて揃えられるだけかき集め、付属品とともに超特急便で配送したのだった。
「マリカ様のお役に立てたっ!」
そう、ユキノスケは叫んで涙していたという。
バッグを地面に置き、そしてドンとテーブルの上にトランクを置くと、マリカが中から取り出したのは……。
「こ、これはまた……」
イチロウタが驚いて見つめたもの。それは、さまざまな種類の魔導銃と大量の魔導弾だった。
リボルバー、ライフル、護身用と見られる手のひらサイズのもの。そして、肩にかけた紐を使い腰だめに構える小型のガトリングスタイルのものや、最早銃とは呼べないランチャーまで。
そしてそれぞれの銃の用途に合わせた弾丸が入った小箱が5色あり、それが大量にそこに並べられた。
「いや、これ、戦争でもするつもり??」
「短時間で習得しなければいけないし、それには練習あるのみ! この弾は練習用に取り寄せたもの。だから撃ちまくって覚える」
イチロウタは驚きを隠せない。
「いや、でもこんなにぶっぱなしたら、学校大騒ぎになっちゃうよ」
「大丈夫、これ持ってきた。」
そう言って、マリカが取り出したのは《静謐の小箱》。これは、小さなダイヤルがついていて、その目盛りに刻まれた半径の広さと高さだけ、周りに音が漏れないように遮断するという魔道具だった。
「……ああ、これね」
ひとつため息をつくと、イチロウタはマリカに告げる。
「じゃあ、早速始めようか。今日からは遠慮なしの特訓だからね。地面に空いた穴は僕が土魔法で何とかするから、遠慮なくやって!」
「はいっ!」
「(これを身に着けてアヤメ姉ちゃんをびっくりさせるんだからっ!)」
そして2人は魔導銃短期集中講座をスタートさせたのだった。
最後まで読んでくださってありがとうございます。




