第60話 繋がっていく点と点
今回、前の話より更に短いですが、切りよさの関係でここで投稿させていただきます。
敏文達の姿はコーヤに向かう街道の途上にあった。
「ハル、大丈夫か?」
敏文が柔らかな声で尋ねると、ハルは笑みを浮かべて頷く。
(よかった。少しは落ち着いたようだな……)
敏文はホッと一息つく。あの後、ハルは激しく取り乱していたからだ。
敏文達は、サイ達との一戦のあと、ナーラの探検者組合に探検者の腕輪で連絡を入れ、今回の襲撃者たちの緊急の引き取りを要請した。
襲撃者は結局大人の男性が47人、子供たちが14人いたのだが、そのうち魔石による生命力の喪失で大人5人、子供はキト、サトヤたち一緒にテントで休んだ5人を含む11人が死亡した。
生き残った大人については、消耗している者もいたが、襲撃を受けたという事情も踏まえて一応拘束させてもらっている。本人たちにも事情は説明し、納得していた。どうやら襲撃している間も本人の意識はあり、口々に襲ったことについて敏文たちに詫びていた。
子供たちは3人だけが生き残ったのだが、衰弱が激しく、敏文たちの治癒魔法で辛うじて生命を保った状態で、安静が必要な状況だった。
ハルはキト達を守れなかったことが相当にショックだったらしく、しばらくは大声を上げて泣き叫んでいた。今までのハルには見られなかった姿だった。直前に親しくした子供たちだったこともその原因だろう。
それについては敏文ももう少し早く対応できていればという気持ちがない訳ではなかった。
しばらく、感情を顕にしていたが、初めて光属性の魔法を行使したことなど精神的負担も大きかったのだろう。サラとミサキにフォローされつつ、カオリ達が使っていたテントで暫く体を休めることになった。
「あのサイって何者なんだろうね」
カオリがやってきて敏文に話しかけてきた。アオイ、ブンゾー、アヤメも集まってくる。
シオリとミシェルは傷ついた子供たちや、拘束した男たちの治療と見張りをしている。
「ある程度の事情は把握できたが、今の状態のハルに聞かせるのはちょっと酷な内容でな」
敏文がそう言うと、アオイが頷く。
「どう考えても狙われたのはハルだよね。あえて反撃しづらい子供たちが全員ハルを狙っていたし」
「詳しい話は、ハルが落ち着いてから、9人みんなに話したい。おそらく、今回の襲撃犯たちをナーラの探検者組合に引き渡すとすると、俺たちも一旦ナーラに戻って説明しなければいけないだろう。またジュンケイさんのところにお世話にならざるを得なくなりそうだ。アオイ、明日の夜の宿泊を頼めるだろうか?」
「たぶん、大丈夫ね。今、ジュンケイさん本人に連絡しておくわ」
「ああ、すまない。そこで皆には事情を説明することにしよう」
「ええ、お願いね」
アオイはそう言うと、少し距離をとって《遠話の腕輪》で連絡を取り始めた。
翌日、朝日が上って暫くしてから、夜を徹してナーラから駆けてきた探検者組合職員たちが馬車を連ねてその場に到着した。
簡単な事情を敏文から聞いた職員は、襲撃者たちを馬車に分乗させ、ナーラに向かって戻ることになった。敏文達も事情を説明するために結果的にやはりナーラに戻ることにした。子供たちの回復が十分でないため、子供たちが運ばれた馬車には一緒にシオリとミシェルが引き続き付いている。
探検者組合に到着すると、敏文達は組合の支部長キジトと数人の職員に対して事情説明を行った。
キジトは、中肉中背の初老の男で、白髪交じりの黒髪をした穏やかな男だった。
「君たちがなぜ襲われたかについて、心当たりはあるのかね?」
敏文の説明の後に発せられたそのキジトの質問については、敏文達は首を振る。キジトには申し訳ないが、今ナツキの事情を説明するわけにはいかなかった。
キジト暫くじっと敏文とそれからハルの様子を確認していたが、それ以上何も言わなかった。本心では納得はしていないが、それ以上の追求を避ける判断をしたようだ。
(もしかしたらドーセツから何か事情について連絡が入っているのかもしれない)
敏文はそう考えていた。
その日夜遅くにジュンケイの宿を訪ねた敏文達は、いささか驚いた表情のジュンケイに迎えられつつつい2日前まで使っていた離れに再び世話になることになった。
その夜、遅い食事を終えた後、敏文は皆を一室に集めた。若干やつれた表情のハルを気にかけつつも、口を開く。
「みんな聞いてくれ。昨日の襲撃犯についてだが、話しておきたいことがある」
そして敏文は皆を見渡しながら話し始めた。
「俺はサイが爆死する直前まで、サトリの《記憶読取》の力でサイの記憶を探っていた。時間も短かったのであまり多くの情報は取れなかったが、いくつかわかったことがある」
9人は全員敏文の顔を見てその話に聞き入る。
「今回の襲撃犯の狙いは、ハル、いやナツキ。君だった」
ハルは判っていたのだろう。少し項垂れる。
「やっぱりそうですか。子供たちがみんな私を狙っていたのでたぶんそうだろうとは思っていたのですが……」
「みな覚えているか? あの、魔獣たちが蠢いていた地下の空洞でシャハーブは、ホーエン国内で起きていた闇の魔法が関連しているとされていた9つの事件について、8つは自分が絡んでいると言っていた。そしてもう1つは……」
その敏文の言葉の後を、アヤメが継ぐ。
「自分には関係ないと……。それはナツキが襲われた王室専用船の事件だった。あ、そうか! 今回の襲撃犯も、もしかして……」
「ああ、そうだ。どうやら、シャハーブたちエグバートの連中以外に、もう1つ闇の魔法を扱う連中がこの国に入り込んでいるようだ」
「……入り込んでいる?」
敏文のその言葉に、ミサキが反応する。
「ああ、サイの正体は、闇のギルド【黒カラス】の構成員だった」
「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」
9人は一様に驚く。
「闇のギルドって……そんなものがこの国に?」
そう首を傾げるハルにミシェルが話し始める。
「私は聞いたことがあるわ。探検者組合のような表のギルドではなくて、金次第で汚い仕事を引き受けるそういうギルドがあると。そのギルドの仕事は、殺人・誘拐・襲撃・放火・煽動などありとあらゆる表では罪に問われるようなことを金で引き受けるそうよ。そして、一旦引き受けた依頼は何が何でも遂行するというのを信条としているようだわ」
「そんな組織があったなんて……。」
ハルは驚いた表情をしている。敏文は話をつづける。
「そしてサイは今回ホーエン国内のある人物からの依頼を請け負った【黒カラス】の現場責任者として神聖シャンハール帝国から密かに入国していたらしい。そして、ホーエン国内であちこちから人を攫い、攻撃要員を作り上げたようだ」
「つまり、ホーエンの誰かがそんな奴らに“ナツキ”の殺害を依頼したと……」
敏文の説明にブンゾーが呟く。
「ああ。つまり、彼らにはハルがナツキだってことが判って襲撃しているってことだ。それにサイの仕事はナツキの襲撃だけに留まらず、ホーエン国内を攪乱することも含まれていたようだ。だから、今回の襲撃犯であいつらが攫った人間が全てとは限らないってことだ。つまり……」
「つまり?」
一旦言葉を切った敏文にカオリが先を促す。
「【黒カラス】はサイ以外にも相当な人員をホーエン国内で動かしている可能性がある」
「そんな……。今まで全くそんな話聞いたことないと思うんですけど、何時からそんな人たちがこの国に……」
シオリが疑問を投げかける。
「サイは、どうも半年ほど前にこの国にやってきたようだ。だが、それ以前にも入り込んでいたと考えるほうが妥当だろう。アヤメは覚えているか? ミヤザで子供たちが借金のかたに取られそうになっていたことを」
「わ、忘れるわけないじゃない! え、あ! もしかしてあの連中も!」
頷く敏文にアヤメははっとする。
「ミヤザでなにがあったの?」
そう尋ねるミサキに敏文は説明する。
「ああ、シーバの魔獣襲撃事件でミヤザに避難していた住民の子供たちが詐欺のような形である高利貸しに攫われそうになっていた事件があったんだ。その時、黒い衣装をまとった手練れが裏で動いていた。最後にはアヤメも攫われそうになったんだが、それは何とか喰い止めた。だが、あの男も【黒カラス】だったようだ。サイの記憶の中にあの男の顔があったからな」
「つまり、その【黒カラス】はホーエン国内の誰かの依頼で、この国で闇の魔法を使って暗躍していると。誰がそんなことをっ!」
サラの言葉に敏文は首を振る。
「それは判らなかった。サイにも知らされていなかったようだ。サイは【黒カラス】の直接の指示に従って動いていたようだ」
「なにそれっ! それじゃ、エグバートだけ対応していてもダメってこと?」
カオリのその言葉に、ブンゾーがつぶやく。
「内憂外患ってことか……」
「それで私たちはどうするの?」
ミサキが敏文に今後の対応について尋ねる。
「ああ、そうは言っても、俺たちは今まで通り対応するしかない。精霊たちの協力を得るために動く。ただ、ハルがナツキだと【黒カラス】の連中に知れている以上、折に触れて奴らはハルを狙ってくるだろう。襲撃してくるところを逆撃して、情報を集めるしかないと思う。ただ、今までに判っている事はダイカクさん、ドーセツさん、オズーノ様、マサノブ王やキジマール宰相、そしてあとはミコル様には耳に入れておくべきだろうな。ハルを狙っているのが誰なのかがわからない以上、それ以外の人間に伝えることは避けるべきだと思う」
敏文のその言葉に9人は頷く。
「それじゃ、明日俺のほうから、それぞれの方々に報告することにするよ。マサノブ王にはキジマール宰相から直に報告してもらうようにお願いしよう」
「父には私から報告しましょう」
「そうかミサキ、すまない。ではオズーノ様への説明は頼んでもいいか?」
「ええ」
そして考え込むハルを見て敏文は言う。
「ハル、深く考えすぎるな。今回の件、決してハルのせいじゃない。あくまで誰かが仕組んでいることだ。自分を責めるなよ。俺たちは皆、ハルと一緒にいる。襲撃があっても、俺たちが守る。それに今のハルには光属性の魔法がある。《自立防御》の魔法が使えるんじゃないか? それを常にかけておくといい」
ハルは静かに頷いた。
《自立防御》とは、光の属性魔法の一つで、一度かけると本人が解除しない限りは、物理・魔法の攻撃を防御するシールドが常に張られた状態になるものだ。どんな強力な魔法でも弾き返すとまではいかないが、その防御効果は魔法士本人の能力に左右される。
「さて、今日はもう遅い。明日組合で襲撃犯たちの事情聴取の結果を聞いて、改めてコーヤに出発することにしよう」
敏文の言葉に全員が頷いてそれぞれの部屋に戻っていた。
翌日、敏文たちは改めてジュンケイに礼をいいつつ、コーヤへの出発の準備を整えたうえで組合に向かった。
組合では襲撃者たちの事情聴取の内容について、キジトが直々に説明してくれた。
キジトによると、男たちはホーエン国内の各地で拉致されていた。もちろん子供たちも。強盗に襲われたり、借金のカタに商人に本人の同意なく売られたりと真っ当な方法で集められたものはいなかった。
そして、連行された場所で意識を失わされ、気がついたときには体に魔石を埋め込まれていた。
大人たちは何度か脱走を試みたようだったが、何故かいつも途中で意識がなくなり、気がつくと元の場所に戻っていた。
(つまり、魔石の影響で操られていたってことか……)
今回の襲撃については、囚われていた場所から、目隠しをされ、周囲がまったく見えない馬車に乗せられ、着いた場所があの街道沿いだった。
そして、馬車を降ろされてからは、近くの洞窟に身を潜めるように指示をうけ、夜遅くなった時に急に自分の意思とは無関係にあの場所へ向かっていったということだった。
自分たちをそんな目に合わせた人間が誰なのかはさっぱりわからなかったようだ。
キジトは彼らはしばらくの間問題がないか、ナーラで検査をしたあと、各人の地元の探検者組合に預けられることになったと説明した。子供たちについては、ナーラの病院でしばらく治療を受け、回復してから親元に送られることになるそうだ。
それを聞いた皆は一様にホッとした表情をしていた。
そうしてナーラへの逆戻りの翌日、再びコーヤへの道を進むことができるようになったのだった。
コーヤへの街道を進む途中、敏文はその身に宿る童女たちの中から、ヒナタとモチヅキ、それにキョウに順にハルの馬に同乗して、光の属性魔法についてできる範囲でその使用方法や運用方法を説明するように頼んだ。
少しでも、ハル自身の防御・攻撃の能力を上げておきたかったからだ。
それを見ていた、ミシェルがうらやましそうにしている。そして、アヤメも。
ハルが光の属性魔法を手にした時、アヤメは自分にその力が宿らないことに相当落胆していた。その事を思い出した敏文は、セイランにアヤメの相談に乗るように頼んだ。今使うことのできる風の属性魔法についてその運用や魔力の使い方など、なにか参考になるような話ができればと思ったのだ。
その敏文の提案にアヤメは表情を明るくする。
「うん! ぜひお願い! お願いしますっ!」
すると、ミシェルが頬を膨らませながら、敏文に頼み込んできた。
「トシフミお願い。今度はコウくんと話をさせてほしいんだけど、お願いできないかしら? 私も火の属性についてなにか参考になる話がきけると嬉しいんだけど……」
「コウどうする?」
「え? トシフミがそういうなら別にいいよ」
「え、ほんとに? いいの?」
そう言うとミシェルが嬉しそうに馬を寄せてきたので、敏文はコウを紋章から呼び出してミシェルの体の前の馬上に乗せてあげた。
敏文としても、仲間の魔法の運用能力が上がって、チームの力が増すことは望むところだったからだ。
すると、その様子をジト目で見つめる女性が5人。
「私も風の属性の力を……あげられればなぁ……」とミサキ。
「えっと、これは【ミスティック】じゃないと得られないお話なんでしょうか?」とシオリ。
「私もコウくんと戯れたい」とカオリ。
「光も風も火も使えない……、もしかして私は……ダメ?」とアオイ。
「あ゜ーっ。私【ミスティック】の一員なのに、私だけのけものっ?」とへこむサラ。
「あー、まぁ、順番、な」
頭を掻きながら女性たちに気を使わなければいけない敏文がそこにはいた。
「なんだか、営業してた頃を思い出すなぁ。営業所や取引先の女性たちに順番に気を使ってたっけ……」
そうやって順番に女性たちと、精霊たちの機嫌を取りつつ、コーヤまでの道程を進む敏文の姿がこの3日の間そこにはあった。
最後まで読んでくださってありがとうございます。




