第59話 ハル悲哀
今回少し短めですが、切りがいいかなと思ったのでここで投稿します。
その紅く妖しく光る瞳は敏文たちを不気味に見据える。そしてじわり、じわりと間を詰めて来た。槍や弓、斧や幅の広い大剣を持つものなど、それぞれに異なる武器を構えている。
そして全員に声をかけたサイは素早い身のこなしで他の男たちの背後に回る。サイだけは他の人間と違って瞳が紅くなってはいなかった。
「ずっと攻撃を弾き続ける魔道具なんて聞いた事ねぇからな。どうせ回数制限あんだろ。だったら、手数を掛けるしかねぇってこった。そうだろ? トシフミさんよっ!」
そのサイの言葉に、敏文は表情を変えずに行動を起こす。敏文とアオイはまずハル、それにミサキがいたテントの位置に駆け戻った。
敏文はサイドポーチから、《魔調の旋棍》を引き抜くと両手に構える。これはナーラの武具店で買い求めたもので、自身の魔力を通すことで、その属性の打撃を付与したり、相手に与える打撃の強弱を調整できるものだ。
相手にはキトたちが含まれている。普通に武器を使って彼らを殺してしまいたくはない、敏文はそう考えていた。
「サイっ! お前この子達に、この人達に何をしたんだっ! この紅い瞳はなんだっ!」
敏文はハルを背後にかばいながら、サイに向かって叫ぶ。
「あ、やっぱり気になるよなぁ、そんな目立つ瞳をしてりゃあよぉ。こいつらは普通の人間とは違うぜぇ。お前ら上位の探検者といっても、簡単にやれるとは思わねぇこったな」
「こんな幼い子供たちの体をいじって、武器を持たせてあなたたちは何を考えているんですかっ!」
ハルが叫ぶ。
「ああ? 俺たちは子供だろうが、じじぃだろうが関係ないんだよ。俺たちの目的を果たすためにちょうどいいって思えば使えるもんは使うのが俺たちの流儀だ。それをお前らに理解してもらおうとは思わねぇな」
サイはハルの叫びを適当にあしらっている。
「この子達を争いの道具にするなんてっ!」
ハルは怒りのあまりぎりぎりと歯を食いしばっている。
「まあ、せっかくお前たちを仕留めるために準備したんだ。さっきので終わりじゃお前たちもつまんねぇだろ?」
サイはにやりと笑うと、片手を振り下ろして合図する。
「おい、手筈通りにやっちまえっ!」
「みんなっ!」
ミサキの声に全員が自分の武器を抜き放ち、魔法を放つ準備をする。
サイの掛け声と共に、紅い瞳の男たちと、キトやノリ達は一斉に動き出した。
紅い瞳の男たちは猛然とダッシュして間合いを詰めてくる。その速度は敏文たちの予想をはるかに超えて速かった。
「なにっ!」
敏文は正面にいた男の速度に驚く。
その手斧を持った男は、まっすぐに敏文に向かって突っ込み、その手斧を振り下ろしてきた。
敏文はとっさに、右手の《魔調の旋棍》を使って手斧の柄を弾き返す。
一瞬その強力な反撃に、その男はたたらを踏むが、全く表情を変えずに再び手斧を構えて突っ込んできた。
今度は敏文は明確に威力を込めて手斧を持っている右手を《魔調の旋棍》で打ち据える。
ばきゃっと鈍い音がして、その男の手首の骨が折れ、あらぬ方向へ曲がる。同時に男が持っていた手斧はその後方へ飛び去って行った。
「おい、目を覚ましてくれっ」
敏文はそう叫ぶが、男は意に介していない。そして手に持っていた武器がなくなったことに気が付くと、無事である左手を使って腰につけた鉈を抜き放って敏文に向かって切りかかる。
まるで右手の痛みを全く感じていないのか、表情ひとつ変えずにいるその男に、敏文は戦慄を覚える。
「こいつら、痛みを全く感じてないのかっ! みんな気をつけろっ! こいつら痛覚がない! 油断するなよっ!」
「ええっ。わかったわっ!」「おう!」「はいっ!」
アオイやブンゾー、シオリが敏文の言葉に反応して、そして相手に向かっていく。
敏文は目の前の男をできれば殺さずに無力化するべく、《神速5》を使うと、左手、両脚を狙って《魔調の旋棍》を打ち込んでいった。
「ぐぉおおおおおっ!」
両脚を打ち据えたところで、男は初めて声を出して崩れ落ちる。
だがすぐに別の男が右手から槍を突き出してきた。
敏文はとっさにそれを体をひねってかわすと、そのひねりの勢いのままに《魔調の旋棍》を槍の柄に打ち付けて槍を叩き折る。そして左手の《旋棍》をその鳩尾に突き入れた。
「ぐぼぉっ!」
男は後方にのけぞりながら吹き飛んでいく。
そして、敏文は1人、1人と相手を無力化しながら、後ろを振り返ると、そこには子供たちに囲まれたハルとミサキ、サラとアヤメの姿があった。
その表情は、焦りと困惑で満たされている。
「この子達のこと、攻撃なんてできないよっ」
アヤメが子供たちの攻撃を避けながら、手に構えた《風刃》の魔法を使うのを躊躇っている。
「くっ。このままでは……」
ミサキも同じだ。とっさに両腰のレイピアを抜き放ったものの、子供たちに向けて使うことができずに、ただその攻撃を弾き返しているだけだ。
どうやら子供たちはハルを狙って集まってきているようだ。キト達5人以外にも周囲から現れた数人の子供たちが、ハルの周りに集まってきた。
「トシフミっ! どうすればっ! 私この子たちを傷つけたくないっ!」
ハルが叫ぶ。
その声にサイの嘲笑が重なって響く。
「ははははっ! そうやって甘いことを言ってると、そいつらに殺られちまうぞ! おい、お前たち遊んでんじゃねぇ。早く殺っちまえっ!」
「くそっ! どうすればっ! そうか。あれを使えばっ!」
敏文は以前サイドポーチを買った際に一緒に入っていた魔道具の中に入っていた《麻痺の投玉》を子供の一人に向けて投げつける。
《麻痺の投玉》はピンポン玉ぐらいの黄色い玉でそれを投げつけられた対象のみが一定時間麻痺に陥るという魔道具だ。相手にけがを負わせずに無力化するときなどに使う。
ぼんっと音がして《麻痺の投玉》が手前にいた女の子の背中に当たる。
敏文はその聞いていた効果から、女の子が崩れ落ちることを想像していた。
が、そうはならなかった。
女の子は敏文のほうを一瞥するが、また何事もなかったかのように、ハル達を囲む輪に加わって攻撃を始める。
「な、なんで……」
「ひゃあはっはっ。そんな攻撃があるなんてことはお見通しよっ! そいつらに麻痺や眠りの魔道具は効かねぇぜっ!」
サイが腹を押さえて笑っている。
「ならばっ!」
ミサキが風の魔法の《風弾》を威力を弱くして、手数を多くして打ち込み始めた。
一人の男の子の肩や、脚、武器を持っている手首などを中心にそれを打ち込んでいく。
男の子が両肩に《風弾》を受けたことでバランスを崩し倒れこむと共に、持っていたナイフが弾き飛ばされたのを見た皆は、それならばと、《風弾》や《水弾》などを使って、武器を持っている手首や肩を狙って打ち始める。
子供たちの武器が弾き飛ばされるに従って、少し皆の表情も和らいだのだが、それもつかの間だった。
周囲にいる紅い瞳の男たちが、子供たちにすぐに予備の武器を渡してしまうのだ。それを受け取った子供たちはすぐにハルを包囲する輪に加わる。
「なんで、減らないっ!」
敏文は周囲の男たちの無力化を急いでいたが、既に10人以上倒しているのに数が減った感じがしない。敏文が周囲の気配を探ると、まだ30人近くが戦闘に加わらずに周囲に待機していて、倒れるものがでると次々に現れては攻撃に加わっていることに気が付いた。
「これじゃ、きりがないっ!」
敏文は紅い瞳の男たちの間を素早く起ち回りながら、この状況の打開策を考えていた。
すると、頭の中に声が響く。
『私の《解析》使ってみる?』
そういって来たのはサトリだった。
『サトリか? それでどんなことがわかるんだっ?』
そういいながら敏文は左から切りかかってきた男を脚で蹴飛ばす。
『うん。……彼ら紅い瞳をしているじゃない。……たぶん何かで操られているんだと思うんだよね。でも外からの魔法って感じがしない……。だから体の中に何かあると思うの』
普段あまりしゃべらないサトリがその場の雰囲気に合わない速度でつとつとと話す。
『よしっ。じゃあ頼むっ!』
『うん、……任せて』
すると、敏文の右手の甲、片方の瞳の紋章が明るく光る。
そして敏文の頭の中にサトリの声が入ってきた。
『やっぱり……。トシフミ、彼らの体の中……。魔石が埋め込まれてる……』
『なにっ!』
『それで、操られているみたい……。それはそれぞれ人によって違う場所にあって、脳幹にある人もいれば、心臓脇にある人もいる。……おなかにある人もいるよ』
『子供たちもそうなのかっ!』
『ええ……。そう。そして、その魔石はその人間の生命力を糧にしてその力を発揮しているみたい……』
『なんだって! それじゃ、このまま戦っていると……』
『そう。いずれ生命力が尽きて私たちが殺さなくても、その人たちは死んでしま』
『そんなっ! どうすればっ!』
敏文の眼には子供たちがハルやミサキに執拗な攻撃を続ける様子が映っている。
その時、ヒナタとモチヅキが提案してきた。
『ねぇトシフミ、こういうのはどう? 私とモチヅキで協力して対応するわ。私が《極光閃》の魔法であいつら全員の視界を一時的に奪うわ。そのあとモチヅキの《月光針》でその魔石を破壊するというのは? モチヅキできるよね』
『うん。サトリの《解析》で魔石の場所を特定してそれを伝えてもらって、あと、魔石を照準するのに少し時間を貰えれば』
『それで仲間の眼は守れるのか?』
『大丈夫。仲間の眼には閃光を防御する膜を張るから』
ヒナタのその言葉に敏文は決断する。
『そうかっ。じゃあすぐにかかってくれっ!』
敏文は《旋棍》で男の顎を水平に殴って沈黙させてつつ、そう心の中で叫ぶ。
『わかったモチヅキ。じゃ私から《解析》の情報伝えるね』
その時、モチヅキの紋章、片目の瞳からモチヅキの紋章、満月まで光の線が描かれ、モチヅキの紋章が光り始める。
『頼むぞっ!』
そう言って、敏文はまた紅い瞳の男たちにその《旋棍》を振りかざしていった。
その時、ハルは混乱の一歩手前にいた。
「お願いっ! 目を覚ましてっ! キトっ! サトヤっ! カイトっ! ミエっ! ノリもお願いっ!」
ハルは陽光の精霊の祝福で魔力が増加しているといっても、無限に打ち続けるわけにもいかず、次第に自分の魔力がじりじりと削られているを感じていた。
(このままじゃっ!)
周囲の皆も防戦一方だ。
その時、サラがサトヤの攻撃に腕に傷を負う。
「つっ!」
サラは子供たちの攻撃をいくつか避けきれずに《加護の足飾》の効果が切れて傷をおってしまったのだ。
その時ハルは子供達の眼から涙がとめどなく流れているのに気が付いた。
(この子達、もしかして今も意識があるのっ?)
ハルは何とも言いきれない辛さを感じて、そしてサイのことをにらみつける。
(絶対ゆるさないっ!)
そう思ったふとハルが横を見ると、アヤメも頬と、左脚の太ももから血を流している。
「そんなっ! ……でも冷静にならないとっ」
そして頭の中に浮かんだのはつい先日使い方をミコルに教えてもらっていた、《光小盾》だった。
「なんでもっと早くに気が付かないのっ!」
そう自分を責めつつ、ハルは、その光の魔法を唱える。
すると、自分以外に、全員の周囲に光のはがきぐらいの大きさの盾が2枚ずつ浮かび上がった。それは皆がそれぞれ相手の攻撃を防ぎきれないとなった時に、素早くその場所に空中を移動して、相手の攻撃を防御して消え去る。そして1つが消え去るともう1枚が現れるという形で常に2枚の光の盾が対象を守るというものだった。
「おおっ! 助かるっ!」
ブンゾーの声に、ミサキが叫ぶ。
「もう少しみんな持ちこたえてっ!」
「あんな芸当もできんのか。仕方ねぇ。こっちもそろそろ片付けないといけねぇか。おい、バックアップの全員も攻撃に参加しろっ!」
サイは薄ら笑いを浮かべながらその場を見渡して命令を出した。それに呼応して周囲の残り20人程度が攻撃に加わる。
その時、ハルやミサキ達は敏文の指示が《遠話の腕輪》から頭の中に流れ込んでくるのを聞いた。
『みんな聞いてくれっ! 今から10数えたら、こちらが相手の眼を眩ませる光の魔法を使う。みんなの眼は大丈夫だ。ヒナタが魔法で守ってくれる! だから、くれぐれもそれに驚いて攻撃を受けないようにその直前の相手の動きをよく見てなっ!』
皆その言葉を聞いて大きく頷く。
『いいなっ! 10、9……、……3、2、1、《極光閃》!』
敏文のその言葉と同時にその場は真夜中とは思えない程の閃光に包まれた。
「うおおっ、目が目がぁっ!」
「ぐおおおおっ!」
「きゃあっ!」
サイや周囲の紅い瞳の男たち、それにキトたち子供達はその閃光をまともに見てしまい、その視界を奪われる。
そしてそれを見た敏文はモチヅキに向かって叫んだ。
「モチヅキっ! やってくれっ!」
「《月光針》!」
敏文の右手からそのような叫びが聞こえたかと思うと、空の上から無数の細く蒼い光が敏文たちを襲っている者たちの体に突き刺さっていく。
「子供たちはだいじょうぶなのっ?」
ハルは目を開いて周囲を見渡し、驚きながらも敏文に向かって叫んだ。
「ぐああああああっ!」
「うわああああっ!」
「きゃあああっ!」
その蒼い光が刺さる度に紅い瞳の人間からのうめき声が聞こえてきた。
そして、その場に静寂が訪れる。
そこに紅い瞳の人間はいなくなっていた。皆目を見開いて気を失っているが、その瞳からは、紅さがなくなっている。
「キトっ! サトヤっ! みんなっ!」
ハルはそういうと自分の目の前に倒れている子供たちのところに駆け寄る。
「しっかりしてっ!」
そして残されている魔力で《水解》の魔法をかけ、体力回復を図っていく。
治癒の力があるメンバーは、倒れている人たちの傍に行き、それぞれが治療を始めた。
「モチヅキっ! これで魔石は全部壊れたのか?」
敏文のその言葉にモチヅキの同意の意思が返ってくる。
『うん。大丈夫。全部壊れたよ。ただ……』
「ただ?」
『全員を救うには間に合わなかったみたい。何人かは生命力がなくなってる。すべて生命力を魔石に吸われて逆に魔石の力で生きていた状態だった子供たちや男が何人か……』
「そんなっ。くそっ」
そして敏文はそこでまだ目を押さえて転がっているサイのところに向かう。
(さて、こいつからハルを襲っている本ボシを聞き出さないと……)
そう考えた敏文にサトリが提案する。
『それなら、私が《記憶読取》する』
サトリがそう言うと、再び右手の甲にある片目の瞳の紋章が光り始める。
その時だった。
今まで目が眩んで悶えていると思っていたサイが腰のバックルから、何かの粒を取り出したと思うとそれを口に入れた。
すると目をカッと見開いたと思った瞬間立ち上がって逃げ出そうとした。
すると突然、閃光がしたかと思うと、再びサイが無様に地面に転がる。
「く、そっ……。何しやがった……」
サイは右足の太ももから血を流していた。
「逃げないで……自分だけ勝手に逃げないでっ!」
その声の主はハルだった。
彼女は右腕を上げていてその人差し指がサイに向けられていた。
《光指弾》の魔法を使ってサイが逃げ出すのを阻止したのだった。
「キョウっ! 《星光牢》をっ!」
敏文はサイに近づきながら、キョウに向かって叫ぶ。
するとサイの真上の空間がキラリと光ったかと思うと24本の光線に別れて地面に突き刺さる。丁度鳥籠のような形だ。これでサイは逃げられなくなった。
その間にもサトリの《記憶読取》は続いている。
「ちきしょうっ。あいつらの魔石を全部破壊しただとっ! あいつらに幾ら金がかかってるって思うんだよ……」
そう呟くサイに、敏文は吐き捨てる様に言う。
「んなこと知るかっ! お前達は人の道に外れたことをやってるんだ。その報いは自分達に絶対に帰ってくる!」
「ちっ、しくじっちまったか。あの人に合わせる顔がねぇ……」
そう言うとサイは仰向けにごろんと転がった。
その瞬間、サイの体が内部から爆発を起こした。
「くっ、しまったっ!」
敏文はぎりっと歯ぎしりすると拳を握りしめる。
「サトリっ。どの程度読取できた?」
『大体はできたよ。……でも、そんなに多くはないかも……』
「そうか……」
そう言うと敏文は辺りを見回す。
すると、ハルの泣き叫ぶ声が聞こえてきた。
「サトヤっ! しっかりしてっ! どうしてっ! どうして《水解》が効かないのっ!」
「ハル、その子達の生命力はもう……」
敏文の言葉にハルは涙でぐしゃぐしゃになった顔で見上げる。
「どうしてこんなことに……。何でこんな子供たちがっ……」
その時、ハルの耳にキトの声が聞こえた。
「おねえ……ちゃん……」
「キト……、キトっ!」
駆け寄るハルや敏文に残された僅な力でキトが話しかける。
「ごめん……ね。お姉……ちゃん。僕も……本当は……こんなことしたく……なかった……でも……あいつに命令されたら……体が言うこと効かなくて……。ほんとに……ごめん……な……さ……い……」
キトはそれだけ言うとガクッと力が無くなった。
「くっ!」
敏文は唇を噛み締める。
「キトっ! ねえっ! 嫌だよ! 目を開けようよ! キトーーーーっ!」
夜の闇のなかにハルの叫びが染みていった。
最後まで読んでくださってありがとうございます。




