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第58話 紅い瞳

「トシフミたち遅いね」

 アヤメは落付かなく自分の席で立ったり座ったりしている。とっくに時間は午後を回り、夕方になろうとしていた。


「どうしたの? アヤメ。別に戦いに行ったわけじゃないよ」

 サラがアヤメの様子を不思議そうに見ている。

「うん。そうなんだけどね。2人だけ呼ばれるって、どんな話をしてるんだろうって思って」

「闇の魔力のこととか、いろいろ教えてもらってるんじゃない?」

「だったら、私たちが居てもいいじゃない。どうして2人なんだろう」

 アヤメは2人だけが呼ばれたのが腹落ちしていなかった。


「うーん。何かこの国の王家の事と、関係あるのかもしれないよ。大丈夫だよ。もうすぐ帰ってくるよ」

 サラは一向に気にしていない様子だ。

「でも……」


 すると、がちゃりという音と共にようやく会議室の扉が開かれる。

 そしてミコルを先頭に、敏文とナツキが部屋に入ってきた。それに、何人か当初は居なかった司祭達が一緒に入ってくる。


「トシフミっ」

 アヤメは敏文に向かって駆け出したが、その傍に近づいたところで敏文とナツキの2人が部屋を出る前とどこか雰囲気が違うことに気が付いた。なんだか、淡い光を纏っているようにアヤメには見える。


「あれ、なんか……違う。何かあったの?」

 アヤメは敏文に尋ねる。


 すると敏文ではなく、ミコルが会議室を見渡して言った。

「皆様、席にお着きください。これから先ほどあった出来事についてご説明いたします」


 司祭達がミコルの後ろに立ち、敏文を含めた全員が席に着くと、ミコルは話し始めた。


「私がお二方をこの場からお連れしたのは、この祭殿に祭られている陽光の精霊より、このローメリアでおきている出来事の原因となっていることについて直接お話をしたいという意思を伝えられたからです。そして、あの方から伺えた話はこうです」


 ミコルはその場に居る全員に陽光の精霊が話したことを伝えていった。




 ミコルの話を聞いた敏文とナツキを除く全員があまりの事に言葉を失う。


 ようやくのことでブンゾーが言葉を搾り出す。

「なんてこった……。シャハーブの親玉のエグバートの王だけじゃなくて、さらにその上にサルターンていう化け物までいるって言う事か。それに、それを倒す為には南海の嵐を越えてその先にあるカジュガルって大陸まで行って、どこに居るかもわからないそいつを光の下に引きずり出さなきゃなんないってことか!」



「で、その役目を精霊を宿せるということでトシフミにやってほしいと……」

 サラがそう言うと、ミサキが後を継ぐ。

「しかも今宿している精霊だけでは力不足だから、対抗できるように宿ってくれる精霊を探す旅にでなければいけないっていうこと?」

「そんな……。そんな簡単な話じゃないよねそれっ! 今のトシフミの力でもダメだっていうのっ!」

 カオリも呻く。


「……それで、陽光の精霊はその為に力を貸してくれたの?」

 アヤメが敏文に尋ねた。

「ああ、陽光の精霊が直接俺に宿ることは今の俺の魔力や精神力ではまだ無理らしい。だから俺が精霊たちを求めて旅するのに力添えにとその眷属となる光の精霊が5人、俺に宿ることになった」

「「「「「「5人も!」」」」」」

 皆驚いている。

「星輝、銀月、日溜、透光、望光の精霊だ。皆出てきてくれ」

 敏文が立ち上がって少し下がってそう言うと、敏文の前に5人の精霊たちが現れる。


「これはっ! 童女様たちではありませんか!」

 ミサキが叫ぶ。

「ああ、彼女達は本来、光属性の精霊なのだそうだ。修行のために精霊力を封じて街中に出ていたらしい。俺に宿ってもらうにあたって、それぞれに新しく名を贈らせてもらった。キョウ、モチヅキ、ヒナタ、サトリ、ノゾミと言う。皆もよろしく頼む」


「童女様たちは精霊だったのかっ!」

 今まで事情を知らなかったと思われる司祭や殿士達も驚いている。


「あと、それにナツキに陽光の精霊の祝福が与えられたんだ。これでナツキは光の特殊属性魔法を使えるようになった」

 敏文のその言葉に部屋にいる人間がさらに驚く。


「おおっ、この時代でミコル様以外に初めて祝福がされたのか!」

「それがナツキ様であるとはっ!」

「なんとふさわしいっ。これも日頃から民への慈しみを示しておられたからかっ!」

 司祭達がざわざわと騒いでいる。


「よかったねっ! すごいじゃないっ!」

「ナツキ、おめでとう!」

 サラやミサキ達はナツキを祝福する。



 そんな中、一人思いつめた表情で敏文に疑問を投げかけたのはアヤメだった。

「ねぇ。トシフミ。陽光の精霊の祝福は他の皆にはもらえないの? これから闇の魔力と戦うんでしょ。そしたら、私達も光の特殊属性魔法が使えればもっとトシフミを助けられる……。このままじゃトシフミ一人に負担がっ」


「あ、そっかそうだよね。どうなのトシフミ?」

 サラがその言葉に大きく頷く。そして他の仲間たちも。


「それが……。俺も聞いてみたんだが、光の属性の祝福っていうのが適性がある人にしか授けられないんだそうだ。それで、今の俺たちの中では俺とナツキにしかその適性がなかったと……」

「そんなっ!」

 アヤメは今にも泣き出しそうなくらいとても悲しげな表情になる。  


「すまない。俺にはどうにも……。ただ、陽光の精霊はこう言っていた。これは、その人の人間性や善良さを否定するものでは決してないんだと。あくまで光の魔法を行使する上での適性の問題だけなんだと」

 その場が沈黙に包まれる。


「それと、サラ」

「なに?」

 サラは真っ直ぐに敏文を見つめる。

「君にこの場で伝えておきたいことがある。俺は陽光の精霊に聞いてみたんだ。俺に地球に戻って家族と再び会える可能性はあるかと」

「……それで?」

「彼女の答えはこうだった。無理だとしか考えられないと。唯一の可能性は空間の精霊の力だが、時間までは操れないだろうと。だからもう、同じ時代には帰れないと」

「!!」

 サラは両手を口に当てて、目を大きく見開いている。そしてその目からは大粒の涙が零れ落ちた。


「だから、サラ。ここが、俺たちの生きる世界だ。ローメリアは俺たちの世界になった。そして今、この世界はサルターンを頂点とする闇の勢力に、その将来を危うくされている。そして、そのサルターンの力からこの世界を守るための手段として、今の俺の力が可能性を持っているのであれば、俺はやらなければならないと思うんだ」

「トシフミ……」

「最初は思ったよ。なんで俺なんだって。でも、もう原因なんてどうでもいい。俺たちが生きるこの世界を守るために出来る事をやろうと思う。ただね、俺も元々英雄でもなんでもないんだよ。地球じゃただの一般人だったんだから」

「うん」

「今カッコつけて言ったような事、これからの道程を最後まで貫けるのかわからない。怖くないわけないんだ。怖いよ正直。だから……」

「だから?」

「もし、君がホーエンで待っていたいというのなら、コーベンの俺の屋敷で待っていてほしい。皆もそうだ。これからは今までとは違う。絶対に守れるっていう自信は今の俺にはまだない。だから……」


 サラは俯いていた。他の皆も黙っている。


 少しの間、沈黙が部屋を包む。そしてその沈黙を最初に破ったのはサラだった。

「いやよ。誰が待ってあげるもんですかっ!」

「サラ?」

 ブンゾーが驚く。

「だって、私一緒についていくもの。絶対に待ったりしないんだからっ! 私前から言ってるよね。もしこの世界で生きることを決めたときはずっと傍にいるって。だから離れたりしないっ!」

 サラはそう言い切った。


 すると、ナツキが敏文を見て言った。

「私は陽光の精霊から、光の属性魔法を授かったのです。トシフミを支えるようにと。その期待に背くわけにはいきません。私も最後までついて行きます」


 ミサキ達4人はそれを聞いて顔を見合わせた。

「じゃあ、私たちもついて行かなきゃね。だってそれが依頼だし。でも、それだけじゃないよっ! 私たちだって何かトシフミの力になれるはずだもの」

 カオリのその言葉に、ミサキ達も頷く。

「トシフミ。私たちにも手伝わせてください。元々この国の、いやこの世界の方でなかったあなたにそのような重荷が背負わされているのです。私たちが何もしないわけにはいきません」

 それを聞いたカオリが呟く。

「素直じゃないなぁ。あなたと行きたいのってハッキリ言えばいいのに……」


 ブンゾーはそれを見ながら苦笑いして言う。

「まあ、俺が居ても大して役に立つとは思わねぇけどよ。俺はキクエを亡くしてからは、いつあいつの傍に行ってもいいって思ってるんだ。ただ、キクエの仇には一発喰らわせてやらねぇとな。だから俺もついてくぜ」


 そしてミシェルは周りを見渡して話始めた。

「私はこの国の人間ではありません。でも、トシフミがしようとしていることはホーエンだけの話じゃありません。私はそれに、デュアルヘッドの恩も返せていない。もし、許してもらえるのならあなたのチームに加わって私にもなにか手伝わせてほしい」


 そして最後に皆がアヤメを見る。

「私はっ……。私、風魔法ぐらいしか使えないし、トシフミは全部できるし、それにブンゾーやミサキ、ミシェルだって風魔法使える……。私なんかついて行ってトシフミの役に立てるのかな……」

 するとサラが言う。

「前に2人で約束したじゃない。トシフミを一緒に支えようって。ここにいる皆、トシフミより魔法の力はないよ。誰一人だってトシフミより強くない。でも、何かできることがあるかもしれないから、少しでもトシフミを支えられたらって思ってる。だから、アヤメ。一緒に行こう。これから出会う精霊に祝福もらえるかもしれないしっ、ねっ。今、役に立てないなんて決めることないもの」


「……そう、ね……。ごめんなさい。トシフミ。私何だか少し自分に自信がなくなってきちゃって。でも、こんな私でも何か役に立つなら、お願いっ! 一緒に連れてって! 一緒に居させてっ!」

 アヤメは涙を流しながら、そう敏文に頼み込んだ。



「みんな……。ありがとう。俺全力でがんばるから。皆の力、貸してくれ」

「ああ!」「「「「「「「「ええっ!」」」」」」」」


「どうやら、皆さんお心を決められたようですね。そうですね、ではこれからの事を話す必要もありますし、これから夕食を皆さんと共にいかがでしょうか」

 ミコルはそう言うと、敏文たちの返答を聞くことなくマユたちに指示をし始めた。







 翌日、敏文達はナーラのギルドにいた。コーヤへ向かうにあたって、道中の情報を得るためと、ミシェルの【ミスティック】への加入の手続きをするためだ。

 ミシェルは既に探検者としてランク赤のクラス2の資格を持っていた。たまにではあるが訓練を兼ねて魔法・生物研究所の研究生たちと臨時にチームを組んで依頼を受けていたのだった。


「オズーノ様からの了解が取れたからいいようなものの、ダメ出しされたらどうする積もりだったんだ?」

 敏文は苦笑いしながらミシェルに尋ねる。


 ミシェルはほぼ事後承諾ながら、オズーノに連絡を取り、精霊の研究の為として【ミスティック】への加入の了解を取り付けていた。予想していたとは言え、無断で研究所を空けたことをオズーノからきつく叱られた上でだったが。

「う~ん。考えてなかった……。今、飛び出さないと精霊の事を知る機会が無くなる気がして……」

 ミシェルはポリポリと人差し指で頬を掻いている。


「おいおい……」


 そして、敏文はここでそこにいる全員にナーラの街の魔道具店で手に入れた《加護の足飾》を渡す。

「みなこれを足首につけといてくれ。」

「これは?」

 サラの問いに敏文が答える。

「ああ、これは意識がなかったり、眠っていたりと本人が反応できないような状況で襲われたときにその攻撃を武器だろうが魔法だろうが3回だけはじくという機能があるんだそうだ。一昨日ナーラを散策していたときに魔道具店で見つけてな。足首に巻くものだそうだ」


「ありがとうトシフミ。早速つけさせてもらったわ」

 ミサキ達【純白の朝顔】の4人は効果も判っていたようですでに足首に巻いていた。



 そしてギルドを出た後、ミシェルは自分用の馬を調達。晴れてサラの敏文再独占計画は頓挫した。

「やっぱり一人で乗らなきゃダメ?」

 ため息をつくサラ。

 そして同じ様にため息をつくハル、ミサキ、シオリ。


「当たり前だ。……なぜそこでミサキ達までため息をついてる?」

 敏文の言葉に4人はもう一度ため息をつく。


「はい、行くよ~っ!」

 その様子を見ていたカオリがニヤニヤしながら、大きな声をあげた。





 敏文達はナーラの南門をくぐり、街道に出ていく。

 すると、敏文には童女達の寂しげな感情が伝わって来た。

『ナーラを離れることが寂しいのか?』


 するとキョウが答える。

『わたくし達はナーラから出たことがありませんでしたから』

『そうだったんだ。街の人達に挨拶していかなくてよかったのか?』

『それも考えましたけど、街の人全部に挨拶するわけにもいかないですから』

『そうか。君たちがいいなら、俺は構わないんだが』

『もっと成長した姿になって戻ってきてから挨拶することにします』

『わかった』

 敏文はそう伝えると、馬を前に進めて行った。




 ナーラからコーヤへ進む道は、南門から出た後、森の中の街道を進んでいく。だいたい3日の行程となる。その間には特に街や村はなく、コーヤの山の麓にコーヤ巡礼客のための山荘などが並ぶ小さな集落が2つあるだけだ。

 その日敏文たちは街道を進みつつ、日が傾き始めたので野営に適した場所がないか探していた。


 すると、前方で争う気配がする。

「なんだ?」

 敏文がその気配を感じて怪訝な表情をする。山賊と旅人があらそっているのかと最初は考えた敏文だったが、どうもその中に子供っぽい気配も感じられる。

「おい、みんなこの先でちょっと揉め事が起きているようだ。注意して進んでくれ」


 敏文たちは、前方に注意を向けながら馬を進めていくと、曲がりくねった街道のカーブのところで、数人の子供達を背後にかばった男が一人、12、3人の山賊のような集団に襲われていた。


「おい、あれはっ。……はっ!」

 敏文はそういうと馬の腹を蹴って急がせる。


「お前ら何をやってるっ!」

 敏文はあえて声をあげて山賊たちの注意をこちらに向ける。ミサキ達も後ろに続いていた。


「ちっ。じゃまが入ったか。お前ら引くぞっ!」

 山賊たちはそういうと、近くにまとめていた馬にそれぞれ次々と跨りその場を去っていった。


 まだ、山賊たちの馬の立てた土煙が残る中、敏文たちは子供達と1人の男のそばに近づいていく。

「おい、大丈夫かっ!」


「ああ、すまない助かったよ」

 男は剣を杖代わりにその場に座り込んだ。

「何があったんだ?」

 敏文は馬を下りながらその男に尋ねた。


「俺はコーヤの町の探検者で、サイという。実はコーヤの町で何人かの子供たちが山へ薬草を取りに行くと周りに伝えて行方不明になったと騒ぎになっていてな。手分けして探していたところだったんだ。やっと見つけたって思ったら、山賊に見つかって囲まれちまって」


「そうか。でも、それにしちゃ、ずいぶんとコーヤから離れてるんじゃねえか? まだ、2日以上かかるはずだが……」

 サイの言葉に、ブンゾーが疑問を投げかける。確かに今いる場所は、コーヤからはまだずいぶんと距離があった。その為ブンゾーが疑問に思ったのも無理はない。


「ああ、俺もまさかこんな場所まで子供たちが来てるとは思わなかったよ。子供たちの話じゃ、薬草取りに夢中になっている間に、森の中で迷ってしまったらしくてな。結局コーヤとはぜんぜん見当違いの方向に歩いて来ちまったらしい。この子達が町をでてからもう3日たっているんだ」

 サイは疲れた表情を見せながらも、敏文たちに説明をする。


「おじさん、ごめんなさい。僕たちこのサトヤのお母ちゃんが病気になっていて、森にあるスリメニ草という薬草がそれによく効くってきいたから、友達と5人で取りに行こうって。まさか道に迷うなんて思ってなかったんだ」

「キト。そのことはもう言うな。とりあえず、お前たちが無事な姿でコーヤに戻れば町の人たちも安心するさ」

 キトと言われた少年は、山の中をさまよっていたせいか、脚のあちこちに擦り傷を作り、体は土で汚れている。そしてサトヤと呼ばれた少年の手にはとても青々とした葉が細長い草があった。


「それがスリメニ草かい? よく見つけたな」

 敏文が尋ねるとキトは大きく頷く。

「うん。森に入ったその日に見つけたんだ。これでサトヤのお母ちゃんも助かると思うんだ。でも、道に迷っちゃって……」


『トモエ、スリメニ草って何の病気に効くんだ?』

 敏文はトモエに確認する。

『そうね、肺が悪い人にお茶のように煮出して飲ませると症状を和らげる効果があると言われているわ。ただ、治療までは無理だと思うけど……。本格的に治療するなら水魔法が必要ね』

『それなら私の月の光の力も使えると思うわ』

 モチヅキが声をあげる。

『そうか。ありがとう。二人とも』


 敏文は二人に礼を言うと、キトの頭を撫でて言う。

「そうか、遠いところまで友達のために頑張ったんだな。すごいじゃないか。おじさんたちはこれからコーヤの町に行くつもりなんだ。もし良かったら、おじさんたちと一緒にいかないか?」


「おい、いいのか?」

 サイが驚いたように敏文を見る。

「もう少ししたら夕暮れになる。サイ、お前だけでこの子達をコーヤまで今から送り届けるのは大変なんじゃないか? そろそろ俺たちも野営の場所を探していたところだったんだ。気にすることはないさ。なあ、構わないよな?」

 敏文が後ろを振り返ってそう言うと、サラ達も頷く。


「ありがてぇ。助かる。良かったなお前たち」

 サイはそう言うと、子供達に声を掛けた。


 子供たちは守ってくれる大人が増えたせいかとても嬉しそうにしていた。


 子供達は、純白の朝顔の4人とブンゾーが馬の後ろに乗せている。サイは自分の足で歩いてついてきていた。その為そんなに歩みは速くはない。ただ、しばらく街道を進んだところで街道脇に野営ができそうな少し開けた場所が見つかった。以前に誰かが野営をしたのだろう、焚き火の跡もある。


「じゃあ、ここでテントを張ろう。ミサキ達とミシェルは食事の準備を頼んでいいか? ハルとサラ、アヤメは子供達の相手を。ブンゾーとサイはテント張るのを手伝ってくれ」

 皆が敏文の指示で動き出す。



 そして野営の準備が整い、食事が出来上がった。子供達は山の中を歩いていたせいでお腹をすかせていたのだろう。ミサキ達がつくる具沢山のスープのにおいが漂い始めたころからソワソワしていた。

「よし、じゃあ食べよう」

 敏文の声で皆食事を始める。


「慌てなくてもいいよ。おかわりたくさんあるから」

 カオリがそう言う横で、キトやサトヤだけでなく、残りの3人、カイトと女の子のミエ、ノリも椀に入った具を無心に口に運んでいる。

「お前達本当によかったなぁ。山賊に囲まれたときは本当にもうダメだって思ったよ」

 サイがほっとしたようにスープに口をつける。


「なぁ、お前達、この森にはよく入るのか? よくスリメニ草が生えている場所がわかったな。それにそれって他の雑草と見分けがつきにくいだろう?」

 敏文はキトに向かって尋ねた。


「うん。僕には兄ちゃんがいてね。行商で薬を扱ってるんだ。それで兄ちゃんに時々どの薬草が何に効くのか教えてもらってたんだ。スリメニ草が生えている場所も兄ちゃんが教えてくれたんだよ。でも、今は行商に出ちゃってて、コーヤにいないから……」

「それで自分で探そうって思ったのか」

「うん」


「すごいねぇ。えらいえらい」

 ハルがキトの頭をそう言って撫でている。キトは顔を真っ赤にしながら照れていた。



 その夜は敏文とブンゾーのテントにサイが入ることになり、子供達は遊んでもらっていたハルになついたのか、ハルやアヤメと一緒のテントを希望した。

 それでハルとミサキがキト、サクヤ、カイトの男の子供達3人と、アヤメとサラがミエ、ノリの女の子2人と一緒のテントに入り、アオイ、カオリ、シオリ、ミシェルが予備のテントに休むことになった。


 敏文たちは子供達もいる手前遅くまで起きているのも憚られたので、少し早めに休むことにした。


 最初の見張りは、敏文とアオイが務めることになった。テントの前にはナーラで買った《休時の防壁》というランタンを置いておいたので、直接魔獣に襲われる心配は少ないとは思われるが、このランタンの効果でどの程度のランクの魔獣を防御できるのか、実際に体験していないため、全面的に信用するわけにはいかなかったのだ。


 敏文とアオイは野営セットの折り畳みイスに腰掛けつつ小声で話を始める。

「よくあの子達この深い森の中で無事だったよね。奇跡的だと思わない?」

「そうだな。3日も道に迷ったって言ってたか……。大した物も食べられなかっただろうに」

「でも、その割には元気がまだ残っていてよかったわ。テントで寝る前には結構ハルやアヤメ達とはしゃいでいたし」 


 敏文はそこで何か違和感を感じる。

(あれ、なんだか引っ掛るな。何が気になるんだ?)


 アオイは敏文のその考え込むような表情を見て、首をかしげる。

「どうしたの?」


「いや、なんだか引っ掛るものを感じてな。なんだろう?」

「ああ、探検者やってると、何かあるときに直感的に感じるものがあるってよく言うよね」

 アオイはそう言うが彼女はそれほど違和感は感じなかったようだ。


(サイはキト達が町をでてから3日たっているって言ってたな。子供達は森の中を歩いたせいか泥だらけだったし。まあ、3日も彷徨えばああもなるか……。スリメニ草は最初の日に見つけたって言ってたな。まあでもよくあんな雑草と見分けがつきにくい青い草を……。青い? 普通、草って抜いて3日もあんなに青いものか? それに子供達の足で森の中を彷徨ったのにコーヤから3日でここまで? それに回復の魔法が必要ないほどにまだ元気があった。3日も森を子供の足で彷徨ったのに? もっとクタクタになっていても……?)


 そう思った瞬間、敏文は立ち上がる。

 その姿を見てアオイが驚いた。

「なに? どうしたの?」

 敏文はアオイに見えるように《遠話の腕輪》を指差す。


『なあ。サイやキトの話はおかしい』

『え? どうして?』

『あんな子供がしかも女の子も2人いて森を3日も彷徨ったんだろ? ここからコーヤまでどれくらいかかる?』

『普通の大人で丸2日は……、あ! しかも街道を通ってじゃないと!』

『だろ? それにキトが持っていたあのスリメニ草。3日前に抜いたにしては青すぎる。まるでついさっき抜いたばかりのようだった』

『確かに。じゃあ、サイやあの子達は私達に嘘を……』

『ああ。彼らに判らないように《遠話の腕輪》で皆を起こそう!』

 

 敏文がそう言って、皆に呼びかけようとしたその時だった。


 4つのテントのうち、3つから閃光が起こるとともに、テントが弾け飛んだ。

「なっ!」「えっ!」


 3つのテントの上部が吹き飛んで、それぞれ別の方角に転がる。そのテントだったものの中には誰かがいるようだ。

 そして、テントが張られていた場所には、驚いた表情のブンゾー、ハル、ミサキ、サラ、アヤメが起き上がっていた。


「大丈夫かっ!」

 敏文のその叫びに、無事だったテントからカオリ達も飛び出してくる。

「何っ! 何が起こったのっ!?」


「ちっ、まさかしくじるとはなっ。 魔道具かなんか填めてやがったのか! ちきしょう! おい、みんな出て来い! こうなったらここでやっちまうしかねぇっ!」

 そう言ってクシャクシャのテントだったものから立ち上がったのは、昼間の人のよさそうな顔からは一変した禍々しい表情に変わったサイだった。

 それに周囲の森から30人以上の武装した上に覆面をし瞳が紅く光る者たちが出てくる。中にはキト達と同じぐらいの背丈の者もいる。


 そして、別の“テントだったもの”からは同じく瞳が不気味に紅く光るキトたち5人の子供がどこから出したのか手にナイフをもって立ち上がっていた。

最後まで読んでくださってありがとうございます。

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