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第57話 光と闇

皆さんお盆休みいかがお過ごしですか?


今回は説明が多い話になっています。少し読みづらいかもしれません。


 敏文とナツキは壇上の柔らかなそして暖かな光に見とれている。

「……なんだか、心地いいな……」

「体が楽になっていく気がします」


「ふふふ。少し緊張をほぐせたでしょうか」

 そう言って陽光の精霊は微笑んでいる。


「ありがとうございます。落ち着きました」

 敏文の言葉に、ニコリとすると陽光の精霊は話を始めた。


「あなた方をここにお招きしたのは、先ほどミコルと話していた内容について、私からお話をしたいと思ったからです。あなた方は今、ローメリア全土を争いに巻き込もうとしている闇の力に対抗するためにその知識が欲しくてやって来たのですね」

「その通りです。今得られている情報からでは、事が起きたときにそれに後追いで対応することしかできません。相手を知らなければより効果的な防御も攻撃もできないと考えております。また、あなたはこのローメリア全体の光を司るお方と伺っています。ですから闇のことだけではなく、エグバートのこともなにかご存知ではないかと考えたのです」

 敏文はそう答えた。


「そうですか。では、まず何からお話しましょうか」

「ではまず闇の力について教えてください。さきほどミコル様より、光が届かない場所で澱むさまざまな生き物の瘴気が混ざり合って空気中の魔力を取り込んで変化した力が闇の力だと伺っています。光がなくとも存在しえるのが闇の力であり、それは地中や海中だけでなく人の心にも存在すると」


「そうですね。光と闇はこのローメリアの大地ができた時から存在するものです。それは数億年の昔に遡ります。地上に太陽の光が注ぐ一方、地中や海中には深い闇がありました。その時はただの光と闇でしかなかったのです。しかし、ローメリアに生物があらわれ、その活動が始まるとそれは互いに影響を及ぼし始めます。光は生物の成長を促し、進化を促進し、恵みを与えるものに。闇は生物を休め、大地の力を取り戻すものに。最初は交互にそれが繰り返されることにより、このローメリアの大地が活発に活動し、また生物を育む源となっていました」


「なるほど、闇はただ悪というわけではなく、生物を育む上で光と両輪となっていたのですね」

 敏文は頷く。


「そうです。本来は今もそうなのですよ。この世界には昼と夜があり、それが交互に訪れることで動物や植物などの生物は自分を保っていられるのです。ところが、地が変動しさまざまに形作られていくなかで、あるいは生物が単細胞の生物から自我を持つある程度高等な生物になっていくにつれて、光が届かない場所がそれまで以上に現れるようになってきました。特に生物がより高度になり、それぞれの自我に基づいて欲求を満たそうとすると、当然生物間で利害が一致しない状況が発生します。それが闇の存在を助長するひとつの原因となってきました」


「人や動物が自分が生きるために争うことは、本能のようなものといいます。すると、やはり闇を完全に断ち切ることは難しいと考えないといけないのですね」

 敏文がそう言う横でナツキが考え込んでいる。そして口を開いた。

「でも、断ち切れないからと言って、それを受け入れることもできないと思います。闇に支配されることをよしとしない、善良な人間だって多くいると思います」


「そうですね。ただ、生物の中でも特に人間は生きるだけでなく、自分の快楽のため、感情を満足させるために行動を起こす傾向が強い。それは生物として発展していく中で勝ち取った貴重な特性である一方でそれ自体が他を排しても自己を優先させようとして軋轢を生む土壌となっていることも否めません」

「では、人はこの大地にとって有害なものということなのですか?」

 陽光の精霊の言葉にナツキは納得いかない表情で問いかける。


「いえ、そういうことではないのです。人は自分の力で大地を豊かにすることもできれば、枯らすこともある功罪両方を持っています。豊かにすれば大地は恵みを返し、荒らすようなまねをすれば災害などによってしっぺ返しをうける。そうやってローメリアのバランスが取られていたのです」

「いた? 過去形ですか?」

 敏文が尋ねると陽光の精霊は静かに答える。

「いえ、現状もかろうじてバランスが保たれてはいますが、闇の力が増してきています。しかもこれは自然な形ではありません」


「つまり何者かの力が働いている、そういうことでしょうか?」

「エグバートの人たちが意図的に闇の力を増しているということですか?」

 敏文とナツキがそう言うと、陽光の精霊は首を振った。


「いえ、エグバートだけではありません。神聖シャンハールやシン王国、そしてこのホーエンにおいても、更にはローメリア全土において闇の力は増してきているのです。エグバートの人間が動いていることで闇の力が増しているのは事実ですが、それ以外でも人の闇の部分が増すことでそれが悪意のある行動につながって起きている出来事が増えています。このままでは、近いうちにさまざまな場所で騒乱となり、多くのものが失われることになりましょう」


「なぜそんなことに……。では、我々は近々エグバートだけじゃなくて、それらにも対応しなければいけないということなのですか?」

「そうですね。そうなります」

「そんなっ」

 陽光の精霊の回答にナツキが困惑する。


「どこにあるかもわからないエグバートだけじゃなくて、他にもいるのか……。どうすればいいんだ」

 敏文の言葉に、陽光の精霊が話を続ける。

「エグバートですがその場所はあなたが予想している通り、南海の向こうです。そこには痩せたそして荒れた大陸であるカジュガルがあります。その大地は瘴気を強く含んでおり、魔獣も強力で巨大なものが多く、そこに住む人々は一瞬に生死をかける思いで暮らしている人ばかりです。そしてその大地には精霊とは異なる、闇の瘴気から生まれた強大な物が強い影響を及ぼしているのです。恐らくはそれがエグバート王にも影響を与えているのでしょう」


「それは何なのです?」

「……深闇の狂神 サルターン」

 陽光の精霊は悲しげな表情でそう言う。


「サルターン……、それこそが真の敵だというのですか……」

 敏文とナツキは顔を見合わせる。そして敏文は尋ねた。

「狂神というからには神なのですか?」


「いえ、実際には神ではありません。精霊たちでも抗することが難しい強大な力を持つものという意味でそう呼ばれているのです」

「それは光の力では倒すことはできないのでしょうか?」

 そこでミコルが陽光の精霊に尋ねた。


「サルターンはカジュガルのいずこか光が全く届かない場所にいます。ですので、ただカジュガルに光を注ぐだけではその力を削ぐことができないのです」

 その言葉にナツキが力なくつぶやく。

「ではどうすればいいのでしょう」


 少し考え込んでいた敏文が言う。

「……そのサルターンを光が届く場所に引きずりだせば、倒すことはできるのですか?」

「滅し切ることは出来ずとも、力を削いで、カジュガルやローメリア全体への影響を弱めることはできるかもしれません」


「どうやって引きずり出すの?」

 ナツキは困惑顔だ。


「サルターンが今いる場所にいられなくするのか、あるいはサルターンがいる場所に光が射すようにできれば。いずれかの精霊の力でできないものでしょうか」


「あるいは可能かもしれません。ただ、闇以外の精霊達にとって、カジュガルの瘴気の強さは、その自我を維持するのを非常に困難にするのです。精霊は瘴気の影響を受けやすい存在です。瘴気に呑み込まれてしまえばその精霊が闇の精霊の一部と化してしまうでしょう。ですから精霊が単独であの土地に渡ることは極めて危険です。カジュガルの瘴気が他に拡がることを恐れた過去の精霊たちはカジュガルの周囲に強い風の結界を張り、海流を操り、それを維持することで瘴気が外に漏れ出すことを防いできました」

 敏文の言葉に陽光の精霊は辛そうにそう語った。


「なるほど。そういうことだったのですか。だから南海には人が越える事が困難な嵐が吹き荒れているのですね」

 ミコルは大きく頷く。


「ただ、そのことでエグバートの人間は外に逃げ出したくても逃げられなくなった。だから中で闇の瘴気に耐えながら生き抜くしかなくなったということか。……ん? ならばシャハーブはどうやってホーエンに現れたんですか?」

 敏文は陽光の精霊に尋ねる。

「カジュガル全体を囲む結界を維持することは大変な作業です。極めて一瞬ですが結界を維持する精霊が交代するためにその力が弱まる瞬間があります。ほんの一瞬ですので、漏れ出す瘴気はごくわずかなのですがその際に、結界の一部に回廊が開くことがあるのです。おそらくはその回廊を通ってきたのでしょう」


「それは決まった場所にあるのですか? いつ開くか決まっているのですか?」

「特定の場所にあるわけではないのですが、回廊が開く前兆として周囲の精霊の力が若干弱くなることがあります。この結界はあくまで瘴気の大量の流出を防ぐことを目的に維持されているものです。今まではそれで十分に役割を果たしていたのです」

 敏文の問いに陽光の精霊は答える。


「では、逆にその回廊を使えば、カジュガルに入ることも可能というわけですか」

「そういうことになりますね」


 敏文はそこで考え込む。

「トシフミ?」

 ナツキの問いに敏文は顔を上げて陽光の精霊に問いかけた。

「さきほどあなたは精霊単独であれば、瘴気に呑まれる可能性があると言われた。では瘴気に呑まれずに精霊がカジュガルで自分を保つ方法があるのでしょうか?」


「……」

 陽光の精霊は沈黙している。敏文には何かを話すことを逡巡しているようにも見えた。


 長い沈黙のあと、陽光の精霊は辛そうに答えた。

「それは精霊が、自分の維持に協力し、いざというときに自我を引き戻してくれる存在と共に歩むことができれば、彼の地でも自分を保つことができましょう。……精霊を宿すことができるあなたのような存在とです」


「……」

 今度は敏文が長い沈黙をする番だった。



「トシフミ……」

 ナツキが心配そうに敏文を見る。


 しばらくの沈黙の後、敏文は顔を上げて陽光の精霊に問いただす。

「……なぜ、なぜ俺なんです」


 敏文は徐々に感情が高ぶっていく。

「どうしてこの世界、このローメリアと全く関わりがなかった俺にその役割が回ってくるんですか!」


 陽光の精霊を相手に高ぶる敏文にミコルもナツキも驚く。


「俺は地球で、日本で家族と4人、平凡に暮らしていた庶民でしかなかったんだ。それが、何の因果かローメリアという魔獣が跋扈するような知らない世界に突然放り込まれて、でも何とか生きなきゃって。この世界のこと何も知らなかった俺やサラに力を貸してくれたブンゾーやダイカク、それに一緒に旅をしてくれている皆、それに俺に宿ってくれた精霊達には感謝の言葉もない。でもどうして俺なんですっ! この世界にいる人の誰かに精霊を宿す力があってもいいんじゃないですか? いないんですか本当にっ!」


「トシフミ……」

「トシフミさん……」


「残念ながら、現在のローメリアに精霊をその身に宿せるほど、魔力、それに精神力の大きさを持っている人はあなたの他にはいません。あなたに次ぐのはサラですが、それでもあなたの半分もないと思います。あなたがこの世界に来てしまったのは偶然なのだと思います。あなたの世界をつむぐ螺旋とローメリアをつむぐ螺旋が本当に偶然に交わってしまった時、その瞬間に偶然にあなたの身に尋常でない何かが起こったのです。あなたがいた世界であなたとサラになにが起きたのかは私には判りませんが……」


 陽光の精霊のその話に敏文はふうっと息をつく。


「……感情的になってしまってすいませんでした。螺旋の事はトモエに聞いています。こっちに来る直前、向こうで俺たちが乗っていた空を飛ぶ乗り物が墜落したのです。それが引き金なんでしょう」


「トモエ?」

 陽光の精霊が首をかしげる。

「ああ、俺に宿ってくれている天智の精霊のことです。俺はそう呼んでいます。そうか、忘れていたな。皆今までの話聞いてたんだよな。出てきてくれないか」

 敏文がそう言うと、トモエたち4人が姿を現した。


「あなたは天智の……、久しぶりですね。600年ぶりですか。ディリコの時以来ですね」

 陽光の精霊は表情を変えずにトモエに語りかける。


「ええ。あの時はあなたには本当に申し訳ないことをしたと思っています。私のわがままであなたの望みをディリコが拒むことになってしまって……」

「この600年の間にあなたは少し変わったようですね」

「本当にごめんなさい。今は少しは冷静になれたつもりではいます」

「そうですか。私はそのことであなたを責めようとは思いません。あれはディリコの選択なのですから。でも、もうあの時のように他の精霊を拒んだりはしていないようですね」

 陽光の精霊はニコリと微笑んだ。


「そんなことをしたら、僕たち許さないし」

「それは認めないよっ!」

「断固反対します」

 3人は前と同じようにその意思を示す。


「あらあら、えっと、紅炎に、神技に、薫風ね。トシフミといることがそれほど良いということですか」

「うん!」「そうだね」「ええ」


 3人の反応に、陽光の精霊は微笑みをたたえている。


 すると敏文が陽光の精霊に向けて話し出した。

「先ほどは本当にすみませんでした」

「いえ。あなたの境遇を思えば無理もないでしょう」

「ひとつ教えてください。俺自身、今のこの状況に納得がいっているわけではありません。本心を言えば、元の地球に戻り、家族と平凡な暮らしを取り戻したい。俺にその可能性は残されているのでしょうか?」


「正直に申し上げれば、難しいでしょう。唯一の可能性は空間の精霊にその力があるかですが、いちど流れてしまった時間を戻す方法がないのではないかと思います。螺旋の流れは様々です。あなたの家族のいる時代・場所に戻ることは私には無理だとしか考えられません」

 陽光の精霊はとても言い辛そうにそう話した。


「……そうですか……。もう、妻や娘たちには会えませんか……」

「トシフミ……」

 がっくりと肩を落とす敏文にナツキは悲しげな表情で声をかける。


 敏文はしばらくの間、肩を震わせながら下を向いていたが、やがて顔を上げる。

「……わかりました。であれば、俺はローメリアの人間として生きるしかないわけですね。ならば、エグバートのこともカジュガルのことも、サルターンのことも俺が生きている世界の話になります。俺が生きる場所が危機に曝されていて、そして俺にしかできないことがあるのなら、俺は仲間を守るためにできることをやります!」


 その表情には吹っ切れて力強い決意が宿っている。


「そうですか。ありがとう、トシフミ。あなたのその気持ちとても嬉しく思います」

 陽光の精霊はにこやかに敏文を見つめる。

「本当であれば、私自身あなたと共に歩みたいのですが、私が宿ることによるあなたの負荷を考えるとまだ今はその時ではないと思います。あなたの力が更に増してからの方がよいでしょう。それに失礼ながらあなたに宿る4人の精霊だけではカジュガルで闇に組する勢力を撥ね退け、サルターンに挑むことは困難でしょう。まずはこのホーエンを、そしてローメリアを回ってあなたを手助けしてくれる精霊たちを探しなさい。恐らくあなたが近くにいれば精霊たちの方から近寄ってくるでしょう」


「わかりました。そうします。ただ、いつシャハーブ達の攻撃が始まるか判らない中で、あちこちに行っていていいのでしょうか?」


 敏文のその疑問に陽光の精霊が答えた。


「であれば、こうしましょう。私の眷属の精霊からあなたに力を貸すものを共に行かせましょう。そうすればこのローメリアの世界で闇の魔力が高まった時、どこに行けばいいか指し示してくれましょうし、少しは光の力であなたを助けることもできましょう」

 そして、陽光の精霊は額に手を当ててなにかを念じた。


 すると、敏文の後ろに何かが現れる。


 それは5つの淡い光であり、次第に人の形を象っていった。


 そこに現れたのは……。


「あるじ様お呼びでしょうかっ!」

 西の大市で見かけた、アルとウーを含む5人の童女達が膝まづいていた。



「え? この娘達?」「童女様たち?」

 敏文とナツキは驚きを隠せない。

「あの、この娘達は精霊だったのですか?」

 敏文は陽光の精霊に尋ねる。


「ええ。この娘達はまだ一般の精霊ではありますが、私の眷属です。あなた達自己紹介をしなさい」


 すると一番右にいた金髪で濃紺の瞳をした5人の中で一番年長と思われる15、6歳に見える少女が立ち上がる。アルやウーと同じデザインの赤いチョーカーを首にしている。

「わたくしはイー、星輝の精霊。わたくしは夜空に煌めく星の光で人々に道を示すのが役目」


 次にその左隣にいる銀髪のアルが立ち上がる。

「私はアル、銀月の精霊。私はローメリアの蒼い大きな月の光で人々に安らぎと癒しを与えるのが役目」


 次に真ん中にいる金髪でツンツンとがった髪をしている紅い瞳の少女が立ち上がる。首には緑色のチョーカーがされている。

「ボクはサン、日溜の精霊。ボクはローメリアに降り注ぐ太陽の光で大地に実りと成長を与えるのが役目」


 次に左から二番目にいる銀髪で髪と同じ銀色の瞳の少女が立ち上がる。首にはピンク色のチョーカーがあった。

「わたしはスー、透光の精霊。わたしは不可視の光で物事を見透すのが役目」


 最後に一番左にいた一番小さなウーが立ち上がった。

「あたいはウー、望光の精霊。ウーは希望の光で人々が立ち上がることを助けるのが役目」


「5人揃って、光の巫女戦士ドージョーズ、ただいまさんじょーっ!」

 そう言ってびしっとポーズを決めたのは、5人ではなく左端のウーだけだった。

 他の4人は黙って陽光の精霊の指示を待っている。


「えーっ。何でやってくれないのーっ! 次にいっしょに誰かにあいさつするときいっしょにやろうっていったじゃなーい」

 ウーは4人にプンスカ抗議している。

「いやよ。そんな恥ずかしいこと」

「はぁ、あなたって」

「ボクあまりそういうの好きじゃない」

「わたし、そんな約束してないもの」

 4人4様で却下していた。



「あの、この娘達本当に精霊でいいんですよね?」

 敏文は苦笑いしながら陽光の精霊に問いかける。

「そうですが、どうしてそう思うのですか?」

「いえ、今まで俺が接してきた精霊には、その気配というか精霊らしい雰囲気というものがあったのですが、この娘達には……」


 すると陽光の精霊はにっこり笑って答える。

「ああ、なるほど。実はその娘達にはナーラの街でいろいろと学ばせるために精霊の力を封じていたのです。あなた達、首のチョーカーをはずしなさい」

 5人がそれぞれにチョーカーをはずすと、5人の雰囲気が変わる。見た目5,6歳ほど年齢が上がったように見え、そしてその体からはそれぞれに感じの異なるやわらかな光を発している。


「これで解っていただけたでしょうか?」

 大人になりたての女性のような姿になったイーが静かに敏文にそう伝えた。

「ああ。よくわかったよ」


 その様子を見ていた陽光の精霊が5人に伝える。

「あなたたちは今からこのトシフミに従って、このホーエンそしてローメリアにいる精霊たちの力を借りるための手助けをしなさい。トシフミの指示は私の指示として受け取ること。よいですね」


「かしこまりました。それで私たちはただともに行けばよろしいのでしょうか。それともこの人間に宿るようにすればよろしいでしょうか」

 イーがそう陽光の精霊に尋ねる。

「あなたはどうしたいですか?」


 イーは敏文をじっと見る。そしてこう言った。

「この人間からは居心地のよい魔力を感じます。宿ったほうが良いようですね」

「私もそう思います」

「そうだね。じゃあ、ボクも」

「イー達がそうするなら、わたしもそうする」

 アル、サン、スーはそう言う。

「えー、人間に宿るの?」

 ウーだけは、少し乗り気ではないようだ。


「そうですか、ではウーはこの街で童女として修行を続けなさい」

 にこにこしながら陽光の精霊が言うと、ウーがあわてて前言撤回した。

「えっ、いえっ、ウーも行きますっ! ウーだけお留守番はいやーっ!」


「ではトシフミ。この娘達があなたに宿るにあたって、彼女たちに名前をつけてあげてください」

 陽光の精霊の言葉に敏文は驚く。


「えっ、今呼んでいるのが名ではないのですか?」


「ええ。今の名は仮のものです。この娘達が街に出るに際して、名が必要と考えたのである方につけてもらったものです」

「ある方とは?」

「200年前にこちらを訪ねてきた空間の精霊です。その時はまだイー、アル、サンだけがいたのですが、その後に生まれる精霊がいた場合はスー、ウーというようにつけるとよいと言っていましてね。何でも彼が過去に回ったことのある、ある世界で使われている言葉で大事な意味があると言っていましたが」

「!」

 敏文はその言葉に驚きを隠せなかった。


「もしかしてトシフミはこの言葉の意味を知っているのですか?」

「ええ、恐らくは。もしウーの次に生まれた精霊がいた場合はリュー、チー、パー、ジウとつけるようにと言っていませんでしたか?」

「ええ。確かに」

 陽光の精霊は驚く。


「やっぱり。空間の精霊は地球に、俺が住んでいた世界に来たことがあるのでしょう」

「それでこの言葉は……」

「数字です。」

「「「「「「「「えっ?」」」」」」」」

 敏文以外の全員が驚く。


「数字の1~5を指すのですよ。イーが1です。順にいってウーは5を指すのです」


「………………」

 その場に沈黙が訪れる。


「トシフミ。わたくしに早く、直ちに、速やかに、ふさわしい名前をつけることを要求します。そしてその意味も納得のいく説明を求めます」

 イーがふるふると全身を震わせながらそう言う。

「わたくしは200年もの間、番号で呼ばれていたなんて…………」


「私もっ!」

「ボクはサンって名前、結構気に入ってたのになぁ」

「わたしはあまり拘らないけど……」

「ウーはねぇ、よくわからない……」



「これは参ったな。少し時間をくれないか」

 敏文は困惑し、ぶつぶつ呟きながら必死に5人の名前を考え始めた。


 すると童女達は既に敏文に宿っている精霊達の所に行き、その名と名の意味を確認したりしている。


 敏文が更にしゃがみこんで頭を抱えている。

「ええっと、星で導く特性で……」


 その間、陽光の精霊はナツキに話しかける。

「トシフミが頭を悩ませている間に少しあなたと話したいと思うのですが」

「はっ、はい」

「あなたはこの状況の中でこれからどうしたいと思っていますか?」


「私は今、幸か不幸か王族としての資格を停止されています。これは我が身からでたものですので致し方ありません。でも、この機会にホーエンのために、この国のために王族の立場ではできない、今の私にできることをしたい、そう思っていました。でも、正直戸惑っています。先ほどのあなたとトシフミとのお話を考えれば、ホーエンだけの話ではなくなってしまっています。ローメリア全体のことを考えなければいけないのですね」

「そうですね。ホーエンだけでは事を収めることはできないでしょう」

「であれば、今の私に出来る事はトシフミと一緒にあり、彼を支えてその目的を果たすことではないかと思っています。私にできることなんて本当に小さなことですけど、でも何かしたい。これではいけないでしょうか……」

 

「いいでしょう。わかりました。私からあなたに光を司る精霊として祝福をさずけましょう。これであなたはこの国でいう、光の特殊属性魔法を使うことができるでしょう。この祝福によりあなたの魔力や魔法を行使するための精神力は今より向上していくことでしょう。その力を持ってトシフミを支えなさい。どのような魔法が使えるかは自然と理解できるとは思いますが、ミコルに話を聞くとより一層理解が深まりましょう」

 そして、陽光の精霊がナツキに近づいてその両肩に手を置くとお互いの額を合わせる。

 すると、柔らかな光が二人を包み、そしてその光が収まった時には、ナツキの体に今までにない力が宿っていることがナツキ自身にも理解できた。


「ありがとうございますっ! これで少しはトシフミの役に、ローメリアの為に動くことができますっ!」

 ナツキは感動して涙を流しながら、陽光の精霊に向かって大きく腰を折った。

「これからに期待していますよ。ナツキ」

「はいっ!」


 そこで漸く頭を抱える姿勢から立ち上がった敏文が近づいてきて、ナツキの肩をやさしく叩く。

「よかったな。これからもよろしくな」

「はいっ!」

 ナツキは満面の笑みでそれに応えた。



「さて、トシフミ。童女達の名前は決まりましたか?」

「ええ」

 そして敏文はまず、イーの前に立つ。

「君のことは今からキョウ(嚮)と呼ばせてもらおうと思う。これは先に立って人を導く、嚮導きょうどうするという言葉からとったものだ。星の光で俺たちを導いてほしい。どうだろう」

 するとイーは敏文を見つめながら、顎に手をあてて考える。

「わかりました。謹んでその名を頂きます。キョウですね。その名の意味も理解しました。よろしくお願いします」



「次にアル。君は今からモチヅキ(望月)と呼ばせてほしい。これは俺の国の言葉で最大に満ちた満月を指して言う言葉だ。君には最大限、月の光で俺たちを、そしてローメリアを照らしてほしい」

 敏文がそう言うとアルはにこりと笑って敏文に応える。

「モチヅキ……。不思議な響きですね。満月のことですか……。わかりました。よろしくお願いします」



「そしてサン。君には2つのうちどちらかを選んでほしい。1つは今までどおりサン(燦)、もう1つはヒナタ(陽向)という名だ。どちらも太陽の光による暖かさや明るさをさすものだ。サンという名も気にいっているといっていたしね。どちらの名でもよいと思う。その光で俺たちを包み共に進んでほしい」

 敏文がそう言うとサンは少し考える様子を見せ始める。

「ん~。どっちにしようかな。これから新しいことするんだし、名前も変えてもいいのかも……。じゃあ、ヒナタでお願い。」



「スー。君にはサトリ(悟)という名でどうかと思っている。君の光は不可視の光で物事を見通す、悟る力があると思っている。その悟りで俺たちに力を与えてくれ」

 スーは敏文の側にとことこと寄ってきてこういった。

「サトリ……。サトリ。じゃあそう言うことで」



「そして最後にウー。君はその精霊名のとおり、ノゾミ(望)と呼ばせてくれ。俺たちはこれから多くの苦難を乗り越えなければいけないと思う。そんな時、俺たちが挫けそうになったとしても、俺たちにその光で力を、前に進む折れない力を与えてほしい」

 敏文の言葉にウーは元気よく答える。

「じゃあ、たった今からあたいはノゾミね。よろしくっ!」



「どうやら5人に異存はないようですね。では童女達、トシフミへの力添え確りと頼みましたよ。特にウー、いや、ノゾミでしたね。あなたは少し思い込みで動いてしまう所があります。トシフミの指示は必ず守るのですよ」

「モチロン!」

 ノゾミは自信満々に応える。


 その姿を見た敏文は西の大市での出来事を思い出して内心少し心配をしていた。

(あれを見てると少しな……)


 すると、くるっと敏文を見たノゾミが言った。

「あ、信用してないでしょ。ノゾミはあるじ様の言いつけは絶対に守るんだからっ!」


「判ったよ。頼りにしてるからな」

「とうぜん!」

 そう言ってノゾミは幼い姿の胸を張った。

 キョウやモチヅキは苦笑いしているし、ヒナタとサトリは無関心というところだ。


 その後、彼女たちを体の何処に宿すのかで揉めることになるが、最終的にはセイランに右の首筋に移ってもらい、右手の甲に5人で五角形の並びで宿る事に決まった。

 

 キョウ、モチヅキ、ヒナタはそれぞれ星、月、太陽を象った紋章で、サトリは片目の瞳を、ノゾミは十字の光を象った紋章になっている。


 最初ノゾミがここがいいとして指差したのは敏文の額だったが、それは敏文が全力で阻止をした。


(そんな、額のど真ん中に紋章が浮かぶなんて勘弁してくれっ!)

 敏文は子供の頃に見た額に文字やマークがあるマスクマンが出てくるマンガを思い出して冷や汗をかいていた。



「ではそろそろお話も終わりにしましょう。もし、旅の途中、あなたが何か私との連絡を必要とするなら、キョウにその事を伝えてください」

 陽光の精霊はそう敏文に伝える。


 すると敏文が言った。

「待ってください。ひとつ教えてください。あなたがナツキに与えて下さった光の祝福、俺の他の仲間にもお与え頂くことは出来ないでしょうか。闇の対極にある魔法です。使い手が多い方が……」


 陽光の精霊は残念そうにそれに答える。

「お気持ちはわかるのですが、祝福はその属性の適性がなければ与えることが出来ないのです。光の祝福に適性を示すことが出来る人間は極めて少ないのです。あなたの今の仲間には残念ですがナツキにしかその適性がありませんでした」

「そうですか……」


 敏文の脳裡には私も一緒にと言っていたアヤメの姿が写っていた。


「光の適性がないからといって、決してその方の人間性や善良さを否定するものではないのです。あくまで光の魔法を行使する上での適性の問題だけなのです。その事は理解してください」

 陽光の精霊の説明に敏文は頷くしかなかった。

「解りました。ありがとうございます。では、我々はもう行くことにします。仲間たちを待たせていますので」


「ええ、よろしくお願いします。ローメリアの事もその娘達の事も。ナツキ、あなたも頼みましたよ」


「はい」「はいっ!」


 そうして3人は陽光の精霊の祭壇を後にした。

最後まで読んでくださってありがとうございます。

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