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第54話 双頭の虎

お久しぶりです。

ほぼ更新に1ヶ月かかってしまいました。


なかなか思うように書けなくて……。


今話からまたトシフミ達の話になります。

よろしくお願いします。

「ここらで少し馬を休ませようか」

 敏文は後ろを振り返って声を掛ける。

「そうね。馬だけじゃなくて、サラに無理はさせない方がいいわね」

 ミサキが敏文のすぐ横で馬を止めて愛馬を労りながらそう言う。


 敏文達は王都を出発するに際して、それまでの馬車ではなく、騎馬に一人ずつ跨がっていた。

 いざ個別行動に機動力が必要になったとき、馬車では動きが取りにくいと考えたからだった。

 その為、敏文はカマタ男爵邸で厩番のゴンゾとナナミから5頭の馬を用立ててもらっていた。


 ミサキ達は元々自分達で馬を持っており、ハルやアヤメ、ブンゾーも乗馬のスキルに問題はなかった。

 ただひとりサラだけは旅が出来るほどの乗馬のスキルがなく、馬の揺れに体を合わせるのに苦労していた。今も馬上でクッタリしている。


「ずるいよ……。トシフミにはタクミくんがついてるから何でも出来ちゃうじゃない……」

 馬の首に体を預けてサラは恨めしそうに言う。


「いや、サラが乗馬の経験あるって言うから未経験が俺だけならタクミに頼めばいいと思ったんだが、まさか観光乗馬の経験だけだったとは……」

「だって、トシフミは乗馬の経験ある? としか聞かなかったじゃない……」

 サラは弱々しく反論するが、かなり疲れているようだ。

「お尻が痛い……」


 アヤメとシオリの助けを借りてやっとのことで馬から降りたサラにシオリが《土癒》の魔法で体力回復を行う。


 お尻をつきだした姿で木陰で突っ伏してシオリの介抱を受けるサラから目線を反らしつつ敏文は呟く。

「慣れてもらうしかないな……」


 木陰でぐったりするサラをシオリに任せて、アヤメとハルはアオイとカオリを相手に剣の稽古を始める。

 ミサキとトシフミはそれを眺めていた。アオイとカオリの動きにまだ2人はついていけず、剣を一振りしては、その振り方を直されていた。


 ミサキが呟く。

「1日や2日でどうにかなるものでもないしね。少しずつやるしかないわね」

「そうだな。手間をかけてすまないな」

「これも依頼のうちに入ると思ってるから……」

 

 その時、敏文はふとアヤメ達とは別の今まで辿って来た街道の方を見る。

「まだ、ついて来てるか……」


 敏文は王都を出発してから、ずっと一定の距離をついて来ている存在に気がついていた。その気配には悪意は感じられない。


(まあ、今は何かされたわけじゃないし、しばらくは様子を見るとするか……)




 敏文達はミサキの提案もあり、アヤメやハル、サラの訓練も兼ねてあえて街中の宿を取らずに野営しながら進んでいる。そしてその日も街道から少し外れた大木の陰でテントを張り、交代で見張りをしていた。明日には陽光の祭殿に到着する予定だ。


 夜も遅くなり0時を過ぎたところだった。その時間の見張り当番は、敏文とミサキが務めていた。

 焚き火の薪を絶やさないようにくべながら、野営時に使う折りたたみの椅子を出して2人で座っていた。

 空は雲ひとつなく、満天の星空だ。ただ新月でもあり、あの大きな青い月も今夜は見当たらない。この場所には自分たち以外周りにいないこともあり、街中でみる星空よりも見える星の密度が濃い。

「やはりすごいな」

「ん?」

「いや、見える星の量がね」

「そんなに珍しいこと?」

「いや、俺が暮らしていた世界では、街中は夜でも明るくてね。星がこんなに見えることはなかったんだよ。もちろん郊外の山や海に行けばそれなりに見えるんだけどね。ここまで密度が濃い見え方にはならない」

「そうなの? トシフミが暮らしていた世界って、みんなそんな夜遅くまで明るくして何をしてたの?」

「仕事をしている人もいれば、飲み屋で朝まで飲んでいる人もいるし、いろいろかな。家にいても明かりをつけて夜更かしする人はわりと多いしね。だから、そんな人たちを相手に24時間開いているコンビニってお店もあるんだ」

「24時間! お店の人はいつ休むの? そんな夜遅くまで店を開けてお客さん来るものなの? それにそんな時間になに買うの?」

 ミサキは目を見開いて驚いている。


「もちろんお店の人は3交代とかするんだよ。俺たちが見張りをするのと同じさ。どの家にもスイッチひとつで明かりをつけることができるし、テレビやパソコンなんかで映像を24時間楽しむこともできるからね。夜更かしする人がちょっと小腹がすいたりして食べ物を買ったり、翌日に必要なものを夜遅くに買ったり、意外にコンビニって夜でもお客がいるんだよ」

「てれ? ぱそ……? ふーん。私たちの世界とは時間の使い方が違うのね……」


「でも、こっちの世界のほうが人間の体に対しては健康的かもしれないな。ただ向こうの世界には人間の生存を脅かすような魔獣がでることはないし。どっちが暮らしやすいかっていわれれば、一長一短だな」

「そっか。でも、どんな世界なんだろう。トシフミが住んでいたところに行って見たい気もするわ」

「戻る方法があればな……」

 少し表情に翳りをつくりながら、敏文が答える。


「ごめんなさい。私、気がつかなくって……」

「いや、いいんだ。今日の明日ですぐに方法がわかるわけじゃないしな。すまないな、こっちのほうが気を使わせてしまった」


 2人の間に沈黙が訪れる。


「「あの……」」

 間を保つことができなくて、お互いの話がかぶってしまった。

「あ、そっちからいいよ」

「いえ、トシフミからどうぞ」


 敏文が話し始めようとしたその時だった。


 うねりながら登ってきた街道をコーベン方向に2キルほど戻った山の中から、突然、爆発音がして炎が燃え上がるのが見える。

「何? 火魔法のように見えたけど」

「ああ、誰かが魔物と戦っているのかもしれない。皆を起こそうっ」


 敏文とミサキはそれぞれテントに入り、皆を起こす。

「おい、起きてくれ! 近くで、誰かが戦っているようだ。巻き込まれる可能性もあるから備えたい」


「わかった」「ええ」「はいっ」「ふぇ?」

 それぞれブンゾー、アヤメ、ハル、サラの反応だ。若干1名寝ぼけているが、気にせず敏文は皆に無理やり起きてもらう。


「トシフミっ! こっちに向かってくるわっ!」

 ミサキの声にテントの外を見ると【純白の朝顔】の4人はすでに準備が整っている。爆発音でアオイ達もすぐに起きて準備していたようだ。



 敏文が気配を探るとどうも人間がひとり、30匹程度の魔獣か獣に追われているようだ。


「誰か人が追われているようだ。俺が先行する。ハルを中心に固めてくれ」

 まだ構えが整わない【ミスティック】のテントを見て敏文はミサキ達にそう頼む。


「ええ、気を付けて」

 ミサキのその言葉を受けて、敏文は《暗視》と《神速》を使って争いの気配へ向かって走り出した。



◇◇◇◇◇



(失敗したわっ。あんなところでうたた寝してしまうなんて!)


 暗闇の街道を《風防》の魔法を張りつつ彼女は走っていた。


 目覚めるとここまで乗って来ていた馬が狼の群れに襲われていた。


 暴れる馬の嘶きで漸く目を覚ました彼女の眠りを普通はうたた寝とは言わないのだが、彼女にそんなことを考える余裕はない。

 街道そばの大木の根元で少し休憩をするつもりが、うっかり野獣・魔獣の対策を施さないまま眠ってしまっていた。

 目覚めると周囲を狼に囲まれている状況に冷静さを失った彼女は、森のなかで攻撃用の火魔法を使うという、他にも手段があるはずの上級魔法士としてはタブーを犯しながらもそうやって囲みを突破するしかなかった。


 幅の広い街道に出て少し冷静さを取り戻した彼女は、《風刃》や《岩弾》の魔法で襲いかかる狼たちを次々に仕留めていく。飛び掛かって来た1頭にはその開いた牙剥き出しの口目掛けて右手から《岩弾》を飛ばす。口から入った《岩弾》はその後頭部を突き抜け、喰らった狼は脳しょうをまきちらしながら後ろに吹き飛ぶ。左手からは《風刃》が続けざまに放たれ、狼達の首が飛び、脚がちぎれ飛ぶ。

(……なんとかなりそうね……)


 《風防》の魔法のお陰で返り血を意識しないで済んでいるせいか、遠慮なく《風刃》や《岩弾》を飛ばしまくる彼女。


 周囲は狼達の血の臭いが充満し始めている。


 狼達がそれほど脅威と感じられなくなってきた事に少しホッとした彼女は自分のうたた寝?を棚に上げて愚痴をこぼし始める。

(まったく、何で野営の連続なのよぅ。女子がほとんどなんだから、宿に泊まるのがセオリーじゃないのぉ! 獣避けの魔道具だって十分に準備する時間なかったし……。お陰で馬は無くしちゃうし……。歩きで追わなきゃいけないなんて……。はぁ、もおぅっ!)


 そして最後の1頭を倒した所で彼女は《風防》を解いて街道の真ん中でへたりこんだ。


「はぁ、疲れた。眠いなぁ……」

 そう呟いた彼女はなんと街道の真ん中でうとうととし始める。


 夜の暗がりの中、いくら街道の真ん中とはいえ不用心極まりないのだが、連日の追跡に慣れない野営で彼女の疲労はピークに達していた。



 そんな彼女に近づく物があるのに彼女は気がついていない。

 それは静かに音を立てずに彼女に忍び寄る。

 

 森の暗がりの中に2対のきらりと光る物が蠢いている。それは次第に街道に近づき、そして姿を現した。


 それは虎だった。だが、ただの虎ではない。

 その身体は一般の虎の2倍以上あり、その前後の脚は強靭だ。そして何よりも普通の虎とかけ離れているのはその頭だ。

 ひとつの身体に頭が2つついていた。つまり2対の光るものは2頭の虎ではなく2頭を持つ虎の瞳だったのだ。


 それは、自分の縄張りで狩りをした狼にも、それを全て倒した者にも怒りを感じていた。

 自分の縄張りで自分以外の物が血の臭いを撒き散らすのが堪えられなかったのだ。そして彼の後方で燃え上がっている森の樹々を見て唸り声をあげる。


 今や当事者の片方は全滅している。ならばもう片方に自分の怒りを理解させるだけのこと。


 そう考えたのだろうか、低い唸り声をあげ続けながら、ゆっくりと街道の中央へ近づいていく。


 そして、体を低く屈めてそれはまさに今、彼女に向かって飛びかかった。




 バキッ!


 その虎の意図は突然横から現れた者によってその片方の頭を殴られ挫かれる。

 虎は街道を横に転がりながらすぐさま跳ね起きてその行動の主を睨み付けた。

 怒りも加わり、牙をむき出しにして威嚇している。

 

「お前には悪いが、それをやらせる訳にはいかないなっ!」


 そこに現れたのは敏文だった。今まさに街道に座り込んでいる彼女が虎に襲われようとしているのが視界に入り、《神速》で加速、得物を出す時間が無かったので、とっさに素手で虎を殴りとばしたのだ。


「おいっ! 大丈夫かっ!」

 敏文は背後で地面に座り込んでいる彼女に呼びかける。だが反応がない。

 そして虎を睨みつつ手で彼女の肩をゆする。すると彼女は目覚めることなくそのままそこに崩れ落ちた。

「なっ……」

「すぅ……」

 敏文は一瞬死んだのかと驚いた様子を見せたが、彼女が寝息を立てながら眠っているだけなのを理解して呟いた。 

「おいおい。なんでこんな状況で寝てられるんだ? こいつミシェルは……」


 ひとまず、地面に突っ伏しているミシェルを置いて、敏文は虎の方に意識を向ける。

『トモエっ! こいつは何だ? 頭が2つってただの虎じゃないよな!』

『これは、双頭虎デュアルヘッドタイガーよ。“デュアルヘッド”って呼ばれているわ。何でこんなところに……。これは厄介よ。強靭な体な上にとても俊敏だし、知能も高い。ほぼ人間に近い思考能力があると言われているわ。そして、魔法も扱える。そしてその身体は魔法攻撃への耐性もあるわ』

『なんだって! どんな属性の魔法を扱うんだ!』

『それが、個体によって違うのよ! しかも頭1つに1つの属性を持っているから2属性を使うわ。デュアルヘッドがその魔法を行使するまで、どの属性を扱うのかはわからないのっ! それに、通常の武器では傷をつけられないほど防御力も高いそうよ。だから、デュアルヘッドを討伐しなければならない時は紫のチーム複数への依頼が出るというわ』


 すると低く暗闇に響く声が聞こえた。

「我はこの森を縄張りに加えた。我の縄張りで無法をするものは、いかなるものも許すことはできぬ」


「なっ! こいつ話せるのかっ!」

 敏文は驚きをもって双頭虎を見つめる。


「我が話せるのがそんなに驚くことか? 人間共は我らを見るとただの魔獣として討伐をしようとする」

 向かって右側の頭の口が動いている。

 すると左側の頭がその後を受けて話始めた。

「そう。実に矮小な考えしかもっていない。そして森を荒らし、我が物顔で森から得られるものを持ち去っていく。我らがそれを快く思うとでも?」

 こちらは女の声だ。


「確かにそう言う動きや考えを持つものがいないとは言えない。ただ全ての人間がそうだとは思わない。そこは理解して欲しい」


「だがな、その座り込んでおる女が行ったことははいそうですかと許せるものではないぞ。我の後ろを見ろ」

 右の頭が頸を振って後方に注意を向ける。

 双頭虎の後ろの方には先程ミシェルが放ったと思われる火魔法の残り火が森の樹々を焼いていた。

 そしてその周囲には狼達の死骸が散らばっているのが見える。


「自らを守るために戦うことは致し方あるまい。だがな、他にその身を守る手段が無いならともかく、この女は風や土の魔法も扱えたようだ」

 右の頭が忌々しそうにミシェルを睨む。

「にも関わらず火魔法を用いて森を危険に晒してる。このまま捨て置いたら森の被害は言わずもがなよね」

 左の頭はそう言うと牙を剥いた。


「恐らく周囲を狼達に囲まれてとっさに使ってしまったんじゃ……」

 敏文はミシェルの状況を考えてそう推測を口にする。


「仮にそうだとしても、この女は敵である狼どもを全て倒した後も、この火の始末をしないどころかそこで寝込んでいる。この森がどうなろうと構わないということであろう?」

 左の頭が敏文に問いかける。


 敏文は双頭虎に対して言い返すことが出来ないでいた。ミシェルが森をどうでもいいと思った訳ではないだろうが、一方で火の始末をしていないのも事実だ。


 どう説得しようかと敏文が考えていると後ろからやって来る気配を感じた。双頭虎も気がついているようだ。

「お前の仲間か?」

「ああ」



「トシフミっ!」

「あれはデュアルヘッドっ!」

 ミサキとカオリが走ってきていた。ミサキは剣を抜き放ち、カオリは《火風輪》を手に取る。


「待てっ! 2人とも手を出すなっ!」

 敏文は2人が双頭虎を攻撃しないよう声をあげる。


 彼女達は手に《無火の松明》を持っている。意図的に自分達が援護に来ていることを敵に意識させるつもりだったのだろう。


 そして倒れている女性の姿を見て2人は慌てる。

「間に合わなかったのっ! 怪我をしているなら治療をって、ミシェルじゃない! なんでっ?!」

 そう言うカオリにミサキが叫ぶ。

「それより、治療をっ!」


 慌てる2人に敏文は答える。

「いや、いらないよ。寝てるんだ……ミシェル……」

「え?」「へ?」



 そして揺すってもつついても起きないミシェルに呆れる二人。


「森の樹々が燃えている件は済まない。今から俺に消させてくれ」

 敏文は双頭虎に頭を下げる。


「お前、水魔法を扱えるのか?」

「ああ。だから、俺が戻るまで彼女達に手出しをしないで欲しい」

「……よかろう」


 双頭虎の同意を得た敏文はミサキ達に声をかける。

「ちょっと今からミシェルの火の後始末をしてくる。だから、ここで待っててくれないか。デュアルヘッドなら大丈夫だ。俺が戻るまでは手出しをしないと言ってくれている」


「解ったわ。いいわねカオリ」

「うん。でもさ、なんでミシェルは寝てんだろう?」

「さあな。事情を聞くのは後だ。頼んだぞ」


 敏文はそう言うと山火事となりかけていた場所に向かって走っていった。




 敏文は10分程で消火を終えて戻ってきた。その時にはアヤメとハル、アオイにシオリもそこにいた。彼女たちも手に《無火の松明》を持っており幾らか街道を照らすことが出来ている。


 ブンゾーとサラは馬を守るため野営地に残っているという。


 その時、ミサキに土魔法で体力を回復してもらったミシェルは漸く目を覚ましていた。


「さて、戻ったか。これ以上の延焼を防いでくれたことには礼を言おう。ただその女の罪は問わねばなるまい」

 双頭虎はミシェルを睨んで一歩前に踏み出す。


「あの、わ、わたし……」

 ミサキから現在の状況について聞いたミシェルは自分が原因で起こった出来事にどうしていいのか判らずオロオロしている。


「待ってくれ」

 敏文はミシェルと双頭虎の間に入る。

「確かにミシェルが森の中で火魔法を使ったにも拘らず延焼を食い止めないまま眠ってしまったのは彼女の落ち度かも知れない。だが彼女に悪意があった訳では決してない。どうか許してやってはもらえないだろうか」


「ほう、何もなかったことにして許せと」


「もし彼女に手を掛けると言うのであれば、俺たちは全力で阻止することになる。俺は無闇にお前たちを傷つけたくはない」


「偉く自信があるようね」

 意外そうな声で左の頭が言う。


「全力であたればお前が勝つとでも? ふふ、ならばこうしよう。先程顔に一発貰った事でもあるしな。その女の代わりにお前が我らと戦え。そうだな。ここでお互いに魔法を無としてお前と闘うこととしよう。それでお前が勝ったらその女には何もせず許すとしよう。だが、我らが勝たばお前の命を貰い受けよう」


「そんなっ!」

 右の頭の提案にミシェルが震えている。


「最初はその女の命で償わせるつもりだったが今はそんな気も失せたわ。それより我に拳を喰らわせしお主の力がどれ程のものか興味が湧いたな」


 その言葉にミサキ達が反応する。

「デュアルヘッド相手に魔法も無しで一人で戦えって無茶よっ!」


「ここで盛大に魔法を打ち放しては森にも被害が出るからな。まあ、お主か我らのどちらかが倒れるかもしれんがな。ククク。さあ、どうする?」


 敏文は考える。

(普通は紫が複数のチームで掛からないと相手に出来ない魔獣か。俺でやれるか? 魔法を封じられたら……)


『体術とかなら伝えられるけど……』

 そうタクミが言ってくる。

『そうだな。頼むよ』

『あらゆる《体術》をトシフミに!』



「その話受けよう」


「トシフミっ!」

 敏文の言葉にアヤメが叫ぶ。

「そんな、わたしのせいで……、わたしどうしたら……」

 ミシェルはへたりこんでしまう。

「トシフミっ! そんな話受けずに全員で戦えばっ! みんな構えてっ!」

 ミサキが腰の剣を抜き放って叫ぶ。



「大丈夫だ。ミサキ。だから、任せてくれないか」

「でもっ!」

「大丈夫だ」


 ミサキは剣を持つ両手を震わせている。


「信じてるから! だから勝って!」

 そう叫んだのはアヤメだ。


「ああ。皆は自分達の防御をしてくれ。周りに気を使う余裕が無さそうだ」

 敏文はそう言うと双頭虎に向き直る。


 敏文はサイドポーチから《ムラサメ》を取り出し腰に差した。そして《剛力の籠手》を両腕に装着する。


 王都でキングクラストとやり合った時に刃を傷めた《ムラサメ》だが、サイドポーチと共に手に入れた《万具の修床》によって元の切れ味を取り戻していた。


 双頭虎が極めて俊敏であるならば扱いなれた《ムラサメ》の方がいい、そう考えたのだ。そして拳を武器に変えるために自身の力を数倍に増強するとヒョーゴの手紙に書かれていた《剛力の籠手》をはめた。


「さあ、始めようか」

 敏文は腰を僅かに落とし両脚を拡げて左手を《ムラサメ》の鞘に宛てる。


「その余裕がいつまで持つかな。参ろうかっ!」


 その瞬間、あふれ出した2人の気迫がドンという音と共に周りの空気を変える。


 そして双頭虎と敏文の姿がその場からかき消えた。


「トシフミっ!」

 ミサキが悲鳴をあげる。


 敏文は《身体強化》を自分の体に施すといきなり《神速10》で双頭虎の正面に突進する。

 双頭虎は同じく正面から突っ込み、その強靭な右脚を降り下ろして叩き潰そうとしたが、敏文は一瞬体を揺らしてかわすと《ムラサメ》を抜き放ち一閃する。

 だが双頭虎は左前脚を跳ね上げ、《ムラサメ》を弾く。


 敏文は弾かれた勢いを利用して双頭虎に向かって右側に移動すると《ムラサメ》を双頭虎の胴目掛けて降り下ろす。


 だが、双頭虎は猫科?の柔軟さで胴を捻りそれをかわす。

 敏文の一撃は空を切り街道に大穴を穿った。


 ここまでわずか1秒。シュッ、キン、ドンで、再び双頭虎と敏文が現れる。


「面白いな。お主の速さはその辺の人間どもとは違うようだ」

「まだこんなものじゃ無いんだろう?」

「それじゃあ、続けましょうか!」


 双頭虎と敏文は再びかき消えた。



「トシフミっ!」

 アヤメの叫ぶ声が響く。


 ミサキ達は固唾を飲んで見守っていた。双頭虎と敏文は彼女たちがかろうじて見ることができる速度で手数を出し合っていた。

「凄い……」


 ハルは両手を胸の前で合わせている。

「お願い、勝って……」


 双頭虎と敏文の戦闘は激しさを増す。


 敏文が後脚を狙って踏み込んだ時だった。双頭虎の2尾の尻尾が角度を変えて敏文を襲う。

「なにっ!」

 咄嗟に1つをかわすともう1つを《ムラサメ》で受けようとしたのだが、その瞬間尻尾が急激に角度を変えて《ムラサメ》の鍔の部分を強烈な力で弾き飛ばした。

「くそっ!」


「きゃっ!」

 弾かれた《ムラサメ》は敏文の手を離れ、ミサキの張った《風防》に弾かれて街道の横にあった樹の幹に突き刺さる。


「あれはトシフミの……。じゃあ、敏文は今武器を持たずに?」

 まだ続いている攻防を見ながらカオリが呟く。

「そんなっ!」

 ハルが青ざめてその場にへたりこんだ。


「大丈夫、トシフミなら……」

 敏文を信じてそう呟くアヤメ。



 その時敏文は《魔賦の剛鎗》をサイドポーチから出そうと考えたのだが、双頭虎の動きがその隙を与えてくれない。

「ならばっ!」


 敏文はタクミが伝えてくれた体術のうち、“闘気術”という技を選択した。闘気術は自分の精神力を糧に体に闘気を纏わせるもので、その闘気の形や密度により、攻防どちらでも対応できるものだ。


 敏文は双頭虎の攻撃をかわしながら体全体に防御の膜を張ると共に両手を手刀を切るように指を伸ばした状態で、日本刀のような形に闘気を纏める。そしてその密度を自分に考えられる極限まで高め、鋭い刃に変える。


「ほう、お主闘気術を使えるのか。魔法、剣、闘気術、お主の引き出しは思ったより多いようだな」

 右の頭が攻撃を加えながらも感心している。


「これからが第二ラウンドだ」

 敏文はそう言うと突進、双頭虎に接近戦を仕掛けた。


 それに対して双頭虎の左の頭が口を大きく開けるとその呼気を収束させて吐き出す。

「はああああっ!」


 それはバスケットボールぐらいの大きさになると、敏文めがけてものすごい速度で飛び出した。至近距離で放たれたその気弾に対して敏文はとっさに、両手の刃を胸の前で交差させ、受け止める体制をとる。

「こなくそっ!」

 両脚を踏ん張り、その膨大な威力を凌ぐ敏文。

 そして、一拍の気合と共に、両腕でその気弾を切り裂いた。


「ほう」

「やるじゃない」

 双頭虎は面白がっているようだ。


「今度はこっちの番だな」

 敏文は左手を双頭虎に向けるとその闘気を刃の先から、弾丸のように連射する。


 双頭虎は少し驚いた表情をしたが、2つの頭が共に口を開け、先ほどより小型の野球のボールくらいの呼気の弾丸を次々に吐き出し、それを迎え撃つ。


 お互いの打ち合う「気」が乱れ飛び、正面からぶつかり合う度、小さな爆発を繰り返し起こす。


 そして、お互いの視界を一時的に遮った。


 その瞬間だった。

 敏文が《神速》をさらに2段引き上げる。《神速12》は自身の速度を通常の20倍に引き上げるものだ。もはや人間業を通り越していた。常人ではない精神力総量と《身体強化》《闘気術》により、自分の体に対する負荷を凌げる状態で初めてそこまで引き上げることができたのだ。


 そして、双頭虎が想定していたタイミングよりも数段早く双頭虎の背後をとる。

「なっ!」「なにっ!」

 双頭虎は咄嗟に自身の2つの尻尾で敏文を迎撃するが、敏文はその2つの尻尾を右腕の闘気術の刃で切飛ばすと、さらに双頭虎が繰り出した強靭な後脚の蹴りを交わしてその左脇に回る。

 そして、闘気の刃を拳の前面に纏わせる形に変えて、その胴に叩き込もうとした。

「くらえっ!」


「なんだとっ!」

 双頭虎は身の危険を感じて無意識に風の魔法の防御膜をその体に張ってしまう。

 

 敏文の拳と双頭虎の防御膜が激突し、大音響とともに爆発を起こした。

「うぉっ!」

「きゃぁっ!」

「おわっ!」

 双頭虎と敏文はお互いに街道の反対側に吹き飛ばされ、転がっていく。

 だが、敏文は転がりながら跳ね起きると、そのまま闘気を再度纏わせ駆け出した。


 その時、双頭虎が叫ぶ。

「待てっ! 勝負はついたっ!」


 敏文は急停止する。

「何だって!」


「我はお主の拳に耐えるため、無意識のうちに風の魔法で防御をとってしまった。だから我らの負けだ……」

 双頭虎は2つの頭がお互いに首を振りながら意識をはっきりさせようとしていた。


「改めて言う。お主の勝ちだ。我らはその女の罪は問うまい」


 双頭虎のその声に、敏文はしばらく呆然としてたが、漸く状況に頭が追いついたのか、その纏っていた闘気を解いた。

「そうか、許してくれるか。よかった……」

 敏文は力が抜けたためか、その場に膝をつく。

「ああ、我らも久しぶりに血がたぎるような気持ちにさせて貰った。お主には感謝しよう」

「そうね。楽しかったわ」

 双頭虎の2つの頭がそう言った。そして、敏文の前にやってきて、その前に腰を落として座った。



「「トシフミっ!」」

 その時、アヤメとミサキが泣きながら駆け寄ってきて、2人同時に敏文に抱きついた。


「ぐえっ!」

 不意をつかれ、さらに双頭虎との戦いでかなり消耗していた敏文は抱きつかれたことで両腕を封じられた状態でそのまま顔面から地面に激突した。

「ああっ! トシフミごめん!」

「ごめんなさい! そんなつもりじゃっ!」


 そして、アオイとカオリがにやにやしながら近づいてきた。

「アヤメはともかくミサキ姉さんまで。何やってんだか……」

 ミサキは敏文に抱きついてた腕を解くと顔を真っ赤にしてオロオロしている。

「いや、あの、そんなつもりじゃ、でも、あ、ごめんなさいっ!」

 ミサキはペコペコと謝っている。


 そして、その後ろからハルとシオリに両脇を抱えられたミシェルがやって来た。

 ハルとシオリはなんだか羨ましそうにアヤメとミサキを見ている。

「出遅れましたね……」

「ううっ、私も行けばよかった……」


 そしてミシェルは、双頭虎に近づくと、深々と頭を下げた。

「私の不注意から貴方たちを不快にさせてしまったこと、本当にごめんなさい。あやうく森を燃やしてしまう所でした。本当に、本当にごめんなさい……」


 そういうミシェルに対して双頭虎は語りかける。

「そこのトシフミという男に感謝するのだな。お前や仲間を守り、そして森の延焼も止めてくれた」


 ミシェルは、敏文の前でペタンと座り込むと、大粒の涙を流しながら謝った。

「ごめんなさい。勝手に着いてきたわたしの為にデュアルヘッドと1人で戦ってもらうことになるなんて……。本当に迷惑……かけて……ごめんなさい。わたしどうしたらいいの……。どうやったら償えるの?」


 敏文は地面に激突した際にできた額の擦り傷を擦りながら笑って言う。

「みな無事だったんだ。それでいいじゃないか。そうだろう」

「ありが……とう……。本当にありが……とう」

 ミシェルは泣き止むことができなかった。


 その時敏文が立ち上がる。

「あ、すまない、お前たちの尻尾、俺が切り飛ばしちまった。悪い、治療させてくれ。すまない、みんな尻尾探してくれ、尻尾」


「それには及ばん」

 双頭虎はそう言うと、立ち上がり、自分の体を淡い光で包む。すると敏文から受けた傷が癒え、切り飛ばされたはずの尻尾が再び生えてきた。


「そんな、あの攻撃力に再生能力まであるのかよ。反則じゃねぇか。紫のチーム複数じゃないとムリっていうのは本当なんだな。苦労してあそこまで持ってったのに……。もしかして手加減されてた? 俺」

 そう言いながら若干へこむ敏文。


「いや、手加減はしておらん」

「そう。全力だったわ」

 

「そうか……」

 そして敏文は立ち上がる。

「夜中に森を騒がせてすまなかった」


「いや、よい。お主のような者に出会えたのは僥倖であった」

「そうね。そろそろ森へもどるとするわ」

「トシフミと言ったか、これを受け取れ」

 双頭虎がそう言うと右の頭の牙が2本、コロンと転がり落ちた。そして左の頭の牙もそこに転がる。


「おい、お前、牙なんか抜いちまって大丈夫なのか?」

 敏文は驚く。


「お前、物忘れが激しいな。我の再生能力をもう忘れたのか?」

「あ。そうか」


「この牙を持って、この森で我を呼ぶように念じれば、我はお主の前に姿をあらわそう。我らの力が必要な時はそれで呼べばよい。1つ以外は売れば相応の金になるだろう。あるいは、身に着ければ我らの力の一部でその身の守りとすることもできよう。好きに使えばよい」


「ありがとう。金にはあまり困っていない。だが、お前たちと連絡をとり、身の守りとできるのならありがたく受け取らせてもらおう」

 そう言うと敏文は双頭虎の牙を拾う。


「そうか。ならば、またいずれ会おう」

「楽しみにしているわ」

 そう言うと双頭虎は森の中に消えていった。



「さて、騒々しい夜になっちまったが、サラやブンゾーも待ってるし、テントに戻ろう」

「ええ」「さ、戻ろう」

 敏文がそう言うと彼女たちは皆頷いた。


 ところが、一人だけ俯いたまま、立ち尽くしていた。ミシェルだ。 

「わたし……」


 そんなミシェルに対して、敏文は笑って言う。

「何そんなところに立ってんだ。置いてくぞ。また狼に襲われちまってもいいのか?」

「え、でも……私が一緒に行ってもいいの?」

 ミシェルは驚いて尋ねる。


「いやなのか?」


 敏文のその言葉にミシェルは大きくかぶりを振る。

「そんなっ。嫌な訳が……。でも、たくさん迷惑かけたし、私、精霊たちから嫌われてるみたいだし……」


「精霊たちはね、騒がしい環境が落ち着かないだけなんだよ。ミシェルが前みたいに精霊たちを見ても取り乱したり、やたらと触ったりせずに、普通にしてくれれば、嫌ったりはしないと思うぞ。なあ、そうだろう?」

 敏文はコウ達、精霊に問いかける。


「そうだね」

「仕方ないかな。ついてきてもいいよ」

「そのかわりやたらと触るのは勘弁ね」

「やかましいのもなしで」

 4人の精霊達はその姿を現して、ミシェルにそう答えた。


「ありがとう……、本当にありがとう」

 ミシェルはそう言うとまた泣きだした。


「おーい。本当に置いてくぞ」

「ミシェル、ほら早く!」

「ああ、ああ、そんなに泣いちゃって。黙ってればクールビューティなのに、いろいろ台無しよ」

 敏文やカオリ、アヤメに言われてミシェルは顔を上げる。そして今度は素敵な笑顔にその表情を変えてこう言った。


「まって、置いてかないで~~~」

最後まで読んでくださりありがとうございました。


正直6月ごろから、どう進めるかで悩んでしまって……。

でもエタることだけはしたくなくて。


また、書き始めたいと思いますのでよろしくお願いします。

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