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第52話 心の闇 ※

皆さん、2週間ぶりに投稿します。

仕事が立て込んでいたのと、ちょっと体調を崩していまして……。


また少しずつ書いていこうと思います。

よろしくお願いします。

 クラウはベッドから跳ね起きて周囲の気配を探る。すると、パオラのカフェの周りには50人近い気配があるのがわかった。すっかり周囲を囲まれている。


「くそっ、油断したっ! いつの間にこんなに集まったんだ! 狙いはオレか!」


 クラウは素早く装備を確認するとレスティに呼びかけた。

『レスティ! 起きているかっ!』


 するとすぐにレスティからも反応があった。

『クラウっ! なんだかここの周りに人が集まって……』

『いそいで下りるんだ! アレハンドロさんにもそう伝えてすぐにっ!』

『わかったわっ! お父さんっ……』


 レスティがアレハンドロに呼びかけるのを聞いたクラウはパオラに知らせるために階段をできるだけ音を立てずに急いで下りる。クラウはリビングを見てそしてパオラの部屋に向かったが、気配探知をしても部屋の中からパオラの気配がしなかった。1階も真っ暗の状態だ。


「まさか……外に……」

 そう考えたクラウは気配探知の範囲を広げる。パオラのカフェの建物の外には大勢の男の気配があるが、その中に数人の女性のものらしい気配があった。

「くそっ、やっぱり外か! 捕まっているのか……」


 その時、着替えを済ませたアレハンドロとレスティが階段を静かに下りてくる。

「外に大勢の人間がいるのか?」

 アレハンドロの問いにクラウは黙って頷く。

「多勢に無勢か……。君は防御の魔法は使えるか?」

 クラウは正直悲しげに首を振った。


「そうか。レスティから君は人の能力や記憶をコピーする力があると聞いた。私の魔法の能力をコピーしておきなさい。私は水と風、そして治療関係の魔法を使うことができる。今覚えておいて損はないはずだ」

「ありがとうございます。でもいいのですか?」

 そのクラウの返事にアレハンドロは表情を険しくして言う。

「時間がないはずだ。急ぎたまえ」

「……わかりました」

 クラウはそう言うとアレハンドロの肩に左手を置いて、アヴァに呼びかける。

『頼んだアヴァっ!』


 クラウが心の中で叫ぶと左手からアレハンドロの能力がコピーされて流れ込んできた。

「これで戦いの幅が広がる……。ありがとうございます」


 クラウが感謝の言葉を言った時だった。建物の隙間から煙が流れ込んでくる。一方向からではなく、周囲全体からだ。

「くそっ! 燻し出す気かっ! ゴホッ!」

 クラウが咳き込むとアレハンドロは周囲の様子を見据えながら言った。

「風の魔法が使えるなら、こんな煙を気にする必要はないはずだっ。体の周囲に風を纏わせるのだ! 薄い防御の膜を回転させるように。そうすれば煙は気になるまい」

「あ、なるほどっ!」


 クラウもアレハンドロに習い、風の膜を周囲に張った。

「よしっ! これで煙に巻かれる心配はなくなった。さてどうするか……」

「おそらく奴らは私たちが煙に巻かれて出てくると考えているだろう。だが、私たちが出なかったらどうなる?」

 アレハンドロの問いに、クラウは考える。

「煙を入れるのを止めて、中を確認しに来るんじゃ……」


 アレハンドロは頷く。

「恐らくな。それまではこのまま待機だ」

「わかりました」


「あと、済まないが君は予備の剣は持ってはいないか?」

「はい、これでよければ……」

 クラウがグーラの中から一振りの剣を取り出す。アレハンドロはそれを受け取ると鞘から抜き放った。2、3度振るとまた鞘に戻し腰に装備する。

「あまり手入れがされていないな。まあ、贅沢は言えないか……」


 その様子を見ていたクラウは、アレハンドロに問いたださずにはいられなかった。

「あなたはもしかして以前は軍人か冒険者をやっていたのですか?」


 その問いにアレハンドロは苦笑いをしながら答える。

「もう昔の話だ。レスティが生まれる前は冒険者だったのさ」


『えっ、そうなの? お父さんが冒険者なんて……知らなかった!』

 レスティは驚いていた。


 その時、煙の量が少なくなってきた。クラウが気配を探知すると5人の男が家に近づいて来るようだ。キッチン兼食堂の勝手口の方から入るつもりのようだ。


「奴等が来ます。勝手口の方から5人」

 クラウは2人にそう伝える。

「よし、じゃあカフェの方で待ち伏せよう」

 アレハンドロはそう言うと、身を屈めたまま、カフェの方に移動する。


『レスティ。頼みがある。奴等が入口から少し入った所で5人の声を奪って動きを封じてくれ。出来るか?』

 そう問いながらクラウはアレハンドロの後を追ってカフェに移る。


『わかったわ。やってみる』


 クラウ達はカフェで身を屈めて男たちがくるのを待った。


 勝手口の扉が開く。


 男たちは手に抜き身の剣を持っているのがわかる。扉の外からもれてくる月明かりが剣に反射しているのだ。


 男たちは勝手口から入ると、向かって右手に2人、同じく左手に2人が少しずつあたりを探りながら奥に入ってくる。残る1人はクラウ達を逃がさないように勝手口の前に立っている。その後ろで勝手口の扉が閉まる音がした。


 向かって左側の男たちは、廊下に入り階段を上って2階に向かうようだ。クラウは階段を上っていく気配を感じていた。

 残った2人の男たちがカフェのほうに近づいてきた時、クラウはレスティに指示を出した。

『レスティ。勝手口の男をまず最初に。そして両側の男たちを頼む。今だ!』

『わかった!』


 レスティはそう返事をすると、勝手口のそばにいた男の声を奪う。そしてすぐに体を金縛り状態にしてしまう。

 カフェに近づく男たちはまだ気がついていない。

『よし、次はこちら側の2人を!』

 

 ちょうどカフェに入ったところだった男たちは、突然動かなくなった体に声を上げようとしたが、その声も出ないことに気がついて身もだえを始める。


『よし、じゃあ次は2階に上った奴等を黙らせよう。いいかレスティやつらはすぐに降りてくる、廊下のところで待ち伏せて同じように声と動きを封じてくれ。オレとアレハンドロさんはこいつらを調べる』

 クラウがそう言うと、レスティは黙って頷いてそのまま、廊下の影に隠れている。


 入ってきて既に動きを奪われていた男たちは、ふわふわと移動するレスティの様子を唯一自分で動かすことができる眼で見て驚いていた。 

 

 はたして2階から男たちが下りてきた。

「くそっ、2階にはいねえぞ! そっちじゃねぇのかセザール!」

 そう言ってキッチンとカフェを見回して男たちは驚く。

「おいっ! なんだこりゃっ!」

 

 その瞬間、レスティが男たちの動きを封じた。

「ごっ、がっ……」

 

 下りてきた2人の男たちもその動きを封じられて身動きが取れなくなった。


 それを見たクラウとアレハンドロが立ち上がる。

「よし、じゃあ。この男たちから事情を見せてもらうことにしましょうか」

 クラウはカフェに入ってきた男の1人ところに行くと、脂汗をたらしながら何とか体を動かそうとしている男の方に左手を置く。

『アヴァっ!』


 その男から読み取れたのはこういうことだった。

 外にいるのは、闇のギルド「黒カラス」に集められた男47人と女5人の52人。すべてが1つの組織ではなく、今回の働きのために集められた人間だということだった。

 そして闇のギルドの人間で指揮をしている人間がいるようだ。

 ただ、建物に入ってきた5人は直接指揮を受けているわけではないのでそれが誰であるのかは知らないらしい。

 彼らの目的はアレハンドロとクラウの殺害。理由は聞かされていない。

 

 煙に巻かれて出てくると考えていたが、なかなか出てこないので5人が探りを入れに来た。もちろん見つけ次第殺すように言われていた。


 クラウはアレハンドロとレスティにこのことを話す。


「通常の冒険者ギルド以外に金で汚い仕事も引き受けるというギルドの存在は噂はあった。でも本当にそんな組織があるとはな」

 アレハンドロは苦虫を噛み潰したような顔をしている。

「どうしてアレハンドロさんが……。心当たりはあるのですか?」

「いや、ないな。といっても、どこで恨まれるかなんてわかりようもないが……」


 2人がそんな会話をしている時だった。盛大に窓ガラスが割れる音がして、カフェの外から石が投げ込まれた。魔法か何かを打ち込まれたと思った2人は思わず伏せるが、特に何も起こらない。


「なんだ? 何も起きないのか?」

 クラウがそう呟くと外から声が聞こえてきた。

「おい、そこにいるんだろう! 5人が出てこないってことは、始末しちまったのか。いいか! こっちには人質がいる。パオラとかいう女だ! そいつを殺されたくなかったら、今すぐ出てくるんだ!」

 続けて別の男の声がする。

「おいしゃべらせろ」


「クラウ! 出てきちゃだめだよっ! 外にはたくさんの待ち伏せが……きゃぁっ!」

 頬を張る音が聞こえてくる。

 クラウはアレハンドロを見る。アレハンドロとレスティは大きく頷いた。

「わかった! 今から出て行くから彼女に乱暴するのはよせっ!」


 クラウはレスティに向かって言った。

「レスティ。君がそのまま外に出るのはまずいだろう。オレの影に入ってくれ」

「ええ。わかったわ」

 そう言うとレスティは、クラウの影に入っていた。


「今から行く。いいな、彼女にそれ以上乱暴はするな!」

「早く出てきやがれ!」


 クラウとアレハンドロは煙に巻かれないように先ほどかけた風の防御魔法である《レフーヒオ》を再び展開する。そして、カフェの扉の両側に立ちその扉をゆっくり開いた。


 開いたとたん何か攻撃があるかと思っていたが、それはない。

 少し拍子抜けしつつもクラウは外の気配を探る。カフェを取り囲む男達の位置はほとんど動いていない。


 意を決してクラウとアレハンドロは扉の外に体を晒した。そして、カフェの前の通りへ進んでいく。


「ようやく出てきやがったか。そこで止まれ! 手に持ってる剣を捨てな! でないとパオラが死ぬことになるぜっ!」

 集団の中から男の声がする。一瞬2人は躊躇ったが、それぞれ持っていた剣を足元に放った。すばやく男の仲間が放られた剣を拾い上げて持っていってしまう。

 

「おい、セザール達はどうした。殺しちまったのか?」

 口の周りにひげを生やした大柄な男が2人に尋ねる。クラウが侵入者から読み取った記憶ではドミンゴと呼ばれるこの集団のリーダーだ。


「いや、建物の中で動きを封じさせてもらった。もし、あんた達がこの家を燃やしたりしたら、中にいるお仲間は焼け死ぬことになるぜ」

 クラウは一応脅しをかけたつもりだった。


 だが、ドミンゴは大きな声で笑い出す。

「はっはっはっ、関係ねえよ。そいつらはこの件だけのために集められた奴等だ。どうなろうと知らねえな」


「薄情なやつらだな……」

 クラウとアレハンドロは顔を見合わせる。つまるところ中にいる男達を盾にすることは無駄だと言う事だ。


「クラウっ、アレハンドロっ!」

 男達の中に両手を後ろ手に縛られたパオラがいた。

「パオラっ!」

 アレハンドロが叫ぶ。


「ドミンゴっ! お前何者だっ! こんなことしてどうするつもりだっ! オレ達に何の恨みがあるって言うんだ!」

 クラウは叫ぶ。

(まだ、オレがコージやフェルであるってことはこいつらにはわからないはずだ……。それでもオレ達を狙う理由は何なんだ……)


 ドミンゴが吐き捨てるように話し出す。

「ちっ、セザールがばらしちまったのか……。これだから口の軽いやつは信用できねぇ……。俺が誰かなんてどうでもいいことさ。俺は依頼を受けてお前達を殺す。ただそれだけだ」


 クラウはそういう男を睨み付ける。


「と言っても、何で殺されるかわからないってのも、不憫なもんか。いいだろう。教えてやる。その件については、もう1人ご対面いただいてからにしようか。おい、連れて来いっ!」

 ドミンゴが後ろに向かって叫ぶ。



 男2人に連れられてそこに現れたのは、キュカだった。 

「な、キュカ……。なんで君がここに……」

「キュカじゃないか! どうして君がっ!」

 アレハンドロも驚いている。

「クラウ! それにアレハンドロさん! 生きてらっしゃったんですか!」

 キュカも驚いた顔をしている。


「どうしてこの娘がここにいるか知りたいか? クラウ。いや、フェルというのかな? いやそれともコージだったかな?」

 ドミンゴがニヤリと笑う。


(くそっ! こいつらどうしてオレの事を! クラウの姿でいることがばれたって事か!)

 クラウは動揺を隠せない。


 ドミンゴはニヤニヤしながら続ける。

「なに、ちょっとお願いして俺達のためにこの娘には冒険者ギルドの情報を流させていたのさ。いろいろ役に立ったぜぇ。そして今回ちょっとこの娘の親父さんを預からせてもらって、賞金首であるお前の事を割り出させるのにも働いてもらったのさ。なぁ、キュカ」

 キュカは涙を流しながらドミンゴを睨んでいる。

「人でなし……」


「なにせ、コージまたの名をフェルというお前の賞金はもう200万ユールに跳ね上がっているからなぁ。お前を捕らえれば、俺の名も上がるし、しばらくはいい思いができるってもんだ」

 ドミンゴがクラウに向かって指をさしながら話す。


「200万ユールの賞金首なのか君は……」

 アレハンドロは驚いて目を見開いている。 


 クラウはドミンゴを睨みつけながら叫ぶ。

「お前達の狙いはオレなんだろ! キュカやパオラ、アレハンドロさんは関係ないじゃねぇか! なんで巻き込むんだよっ!」


「お前の事は情報が伝わっていてな。知り合いを抑えられるとのこのこ現れるって話だからな」

 ドミンゴの言葉にクラウは唇を噛む。

「それにそのアレハンドロって奴にはもし見つかったら始末してくれって依頼が入っていてなぁ。まあちょっとは稼ぎになるのさ」


「誰がそんなことを……」

 アレハンドロはドミンゴを見ながら呟く。

「そいつは知らねえ方が身のためさ。さて、へんな真似したら、パオラとキュカの命はねえぞ。おい、キュカ。そこの紐でこいつらの腕を縛るんだ。お前もギルドのもんなら、人の縛り方ぐらい知ってんだろ」

 ドミンゴが部下に合図すると、キュカにロープが2つ渡される。少しの間、キュカはそのロープを眺めていた。

「おい、キュカ! 早くしやがれっ!」


 キュカはびくっと怯えながらクラウ達に近づいてくる。そして、2人の前に立つと涙を流しながら謝った。

「ご、ごめんなさい。私のせいで……」


「キュカ……」

 涙ながらに謝りつつとぼとぼと2人のそばにやってくるキュカ。

 クラウはそれを見ると何も言えなくなっていた。


 キュカは2人の後ろに回ると、その手首を縛っていく。なかなか縛りなれているようだ。結構きつく縛られている。


(でも、グーラを剣に変えれば、こんな縄すぐにも解けちまうからな。今はおとなしく従っておこう)

 クラウはそう考えて冷静でいることができた。


 キュカが2人を縛り終わると、クラウはドミンゴに向かって叫ぶ。

「オレ達をどうするつもりだ!」


 すると、突然後ろからクラウの首に何かが嵌められた。横を見るとアレハンドロの首にもだ。


「なっ。なんだっ!?」

 クラウは後ろを振り返る。

 すると、そこには先ほどとは打って変わってニマニマとクラウを見つめるキュカの姿があった。

「こんなのはどうかしら? クラウ。 いや、コージ」


 クラウは体に力が入らないことに気がつく。

『宿主っ、まずいぜっ。これは《魔封の首輪》だっ。これが嵌められていると魔力が使えなくなる。つまり、おいらやアヴァが変化したり動けなくなるのはもちろん、影からファナ達を呼び出すこともできねえぜっ!』

『なんだって!』


『クラウっ! 擬態も解けてしまっているわ。』

 そのアヴァの指摘にクラウは愕然とする。


「その首輪の着け心地はどうかしら? 今までできたことができなくなるって辛いわよね~。クラウは姿まで変わっちゃって。ふーん。あんたの本当の姿はそんな顔なのね。なるほど、黒髪に凹凸の少ない顔立ちってこういうことなんだ」

 キュカは楽しそうにも見える。


「お嬢。首尾よくやったじゃねぇか」

 ドミンゴも満足そうに笑っている。ドミンゴの後ろから屈強な男たちがやって来て、クラウとアレハンドロの足を払うと倒れた2人にのしかかって動きを封じる。

「さて、これで身動き取れなくなったし、攻撃を受けることもねぇな。はっはっはっ!」


「これは《魔封の首輪》かっ。キュカ、君はもしかして……」

 アレハンドロが後ろを振り向いて言う。


「そう。私は闇のギルド黒カラスのメンバーなのよ。表は冒険者ギルドの受付嬢をしているけどね」


「「なんだって!」」

 キュカの告白にコージの姿に戻ったクラウとアレハンドロは驚く。


「どうして君がそんなことを……。君はレスティとも親しくしていてそんな危ない稼業にかかわるような娘じゃなかったはずじゃ……」

 そのアレハンドロの言葉をキュカは鼻で笑う。

「あなたが私の何を知っていたというのかしら?」


「君はロドリゴやイヴァン達と話すときはとても素直そうな普通の娘だった。どうしてこんなことをするんだ。なぜ闇のギルドなんかに……」


「なぜ? それはあなたの娘が悪いのよ」

 そう言ってキュカはニヤリとした。

『!』

 クラウの中でレスティが驚いているのがわかる。


「私も最初はレスティとも仲良くやってたわ。それで、あなたの家にも訪ねるようにもなったしね。そしてあなたの弟子たち、ロドリゴやイヴァンとも仲良くなった。そして何度か訪ねる内にロドリゴの患者に一生懸命な姿を見て、私は彼に惹かれていった。だから、私は思い切ってロドリゴに告白したの。そしたらロドリゴはなんて言ったと思う?」

 キュカは険しい顔をしてアレハンドロに尋ねる。

「……」

 アレハンドロは予想は出来たが口には出さない。ロドリゴは正直な男だ。恐らくキュカに対して正直に自分の気持ちを話しただろうとアレハンドロは考えていた。だとすれば、キュカにとってはショックな話だっただろうということも判っていたからだ。


「あなたの病院とあなた、それにレスティを支えていくことが僕のやるべきことだと考えているから君には応えられない、だって」

 キュカは悲しげな表情になっていた。

「要はレスティが好きだから私とは付き合えないってことでしょ」

 キュカは吐き捨てるように言う。


「そして、イヴァンも。彼は最初からレスティしか目に入っていないのは見え見えだった。それに私の気持ちも知らないで、レスティと付き合うにはどうしたらいいかって真顔で相談するんだもの。呆れたわ」

 キュカはしょうがないという風に両手を広げる。


「そして、トドメを刺したのは病院に来ていた子供たちの会話だった。ある日あなたの家を訪ねた私は子供たちが話しているのを偶然聞いてしまった。子供って正直よね……。だから尚の事私には赦せなかった。その時、子供たちはね、誰のことが大好きか議論していたの。ほとんどの子供たちはレスティが大好きだって答えてた。そこまでだったら、私もしょうがないって思えたわ。でもね、ある男の子が私の事を話題にしたの。キュカ姉ちゃんも優しそうだよね、ってね。そしたら別の男の子が言ったのよ」

 そこでキュカの表情が急に変わる。目つきが鋭く恨みのこもった表情に。

「“あんなの、レスティ姉ちゃんと比べちゃいけねえよっ!”ってね」


「もしかして、それを言ったのは……」

 アレハンドロは悲しそうな表情でキュカに問いかける。

「……そう。ピルロよ」


「……では、まさか、ピルロをサンミエールの崖から……」

 アレハンドロは震えている。


「そう。私よ。私がレスティが呼んでいるって言ってピルロを呼び出して崖から落としてやったのよ。私のことを“あんなの”呼ばわりしたあのクソ忌々しいガキをね。レスティが呼んでるって言ったらほいほいついてきたわよ」

『!!』

 レスティがショックを受けていた。

「イヴァンじゃなくて君がやったのか!」

 アレハンドロが叫ぶ。


「そうよ。でもただそれだけじゃつまらない。街に戻った私はイヴァンに入れ知恵したの。“サンミエールの崖から子供が落ちるのを見た。たぶんレスティのお気に入りのピルロのようだ。レスティと一緒に行ってあなたが助ければレスティもあなたに関心を持つかもしれないってね」

 キュカは濁った目つきでアレハンドロを見下ろしながら言う。


「それじゃ、レスティは君の……」

 アレハンドロは驚きに言葉が継げない。


「考えたのは私、手伝ったのはイヴァンってとこかしら。あの男、意外に小心者でね。ピルロを落とした現場に連れて行ったら、足腰震えてたわ。私が何度もレスティの関心が引けるかもって説得して漸く街へレスティを呼びに走ったのよ。まったく、使えない」


 それを聞いたアレハンドロは怒りのあまり唇を噛み、そこから血が流れ出していた。


「そして、崖の下を見たレスティに、イヴァンが言ったわ。“助けたら俺と付き合え!” そこで私は確信した。イヴァンは筋金入りのバカだってことをね。そんなこと言ったら、自分と付き合わせるためにピルロを自分が落としましたって言っているようなもんじゃない。まあ、レスティがそう勘違いしても私は一向に構わなかった。そしたら案の定、怒ったレスティが自分で助けるって言い出した。そしてロープを伝って崖を降り始めたわ」

 キュカはニヤリと笑った。

「私はチャンスが来た、そう思ったわよ。そんな状況になったらもう付き合う目はないっていうのにイヴァンはまだナイフでロープを切るまねをしてレスティに自分と付き合えと言ってたわ。バカみたい。だから私が隠れていた木の陰から出て行ってロープをナイフで切ってあげたの。イヴァンは自分が切ったと思い込んで取り乱してたわ。大笑いよね。それでね。その時のことをね闇のギルドのメンバーに見られていたのよ。私は冒険者ギルドの情報を流す事を条件にこの話を公にしないことにしてもらった。でもね、闇のギルドはいいわっ! 気に食わないものがいればどうにでも出来るってすばらしい組織だもの。私も情報を流した功績でちょっとは幅を利かせられるようになったしね」


『!!!』

 レスティのショックは測り知れない。クラウにもその動揺は伝わってきていた。友達だと思っていたキュカに自分が殺されたことを知ったのだ。ショックでないはずがない。


「キュカ! おまえがレスティをっ! それにピルロまでっ!!」

 アレハンドロの怒りは頂点に達している。何とかして動こうともがくが男たちが押さえ込んでいて身動きがとれない。


「無駄よ。あなたたちもこれでおしまい。私がつけているこの腕輪を壊さない限り、あなた達は魔法が使えないもの。フフフ。ああすっきりしたっ。今まで黙ってたこのことずっと言いたかったのよね。アレハンドロさん。あなたに言えてすっきりしたわ。さあ、じゃあ、ここにいるコージと一緒に首だけになってもらいましょうか」

 左腕の緑色の腕輪に触れながらそう言うとキュカはドミンゴに目配せをする。


「やっとですかいお嬢。話が長すぎますぜ。おいっお前ら出番だっ!」

 ドミンゴが後ろにいた男たちを呼び寄せる。すると幅広の大剣を抜いた男が2人近づいてきた。

「悪く思うなよっ。お前たちのおかげで手に入れた金で俺たちがしばらく楽しく暮らしてやっからよ」


(どうする、どうすればいい! 魔法は使えない、手も縛られてる! 体も動かせない! ちきしょう! こんなところでっ!)

 クラウはもがく。必死にもがいた。だが、押さえ込んだ男の力は強く、まったく身動きがとれない。


「じゃあな。」

 男が大剣を振り上げる。

(くそっ! くそっ! くそっ!)

 クラウはもうどうにも出来ないと思って目をつぶった。

(親父っ、おふくろっ、すまねぇっ!)



 クラウがそう思った時だった。

 男たちの松明で出来たクラウの影から、何かが立て続けに飛び出す。


「きゃあっ!」

「ぐあっ!」

「ぎあっ!」


 キュカと男たちの悲鳴だ。

 

 クラウが目を開けると、男たちの手首が飛んで、血しぶきを上げ、大剣は地面に転がっていた。そしてキュカを見ると腕輪を嵌めていた手首が切り飛ばされてそこから血が流れ出していた。


「な、な、なんで魔法がっ!」

 ドミンゴがうろたえて叫ぶ。


『クラウっ! 私を外にっ!』

 レスティの声が響いた。


『よしっ、レスティ外にっ! それに、ファナ! ボリス! マルコも外に出ろっ!』

 クラウがそう心で叫ぶと、それぞれから返事があった。

『はいっ!』

『マカセテッ!』

『りょうかいだ。ごしゅじん!』

『あ~、やっと出番だ。久しぶりに外に出れる~』


 クラウの影から4人が飛び出す。


「うおっ! なんだっ!」

「ひえぇぇぇぇ、グレイウルフだぁっ!」

「あ、あれはヒュージボアじゃ……、やべぇにげろっ!」

「なんだこの犬はっ、こら足を噛むな、痛てぇっ、助けてくれっ!」

 クラウとアレハンドロを押さえ込んでいた男やドミンゴは転がるように逃げ出している。


「クラウ、ここは私とお父さんに任せて、パオラのことお願い」

 レスティは振り返って言う。

 跳ね起きたクラウは、仕掛け主の腕輪が壊れたことで外れるようになった《魔封の首輪》を外して投げ捨てると、首を擦りながら言った。

「ああ、まかせろっ!」


 クラウがパオラを捕らえていた男のところに向かっていくと、男が剣をパオラの首に宛ててクラウに向かって叫んだ。

「おいっ! すぐに魔獣どもに攻撃をやめさせろっ! そうしないとこの女の命は……」

 クラウは最後まで聞くほど寛容な気分ではなかった。

 男の足元から茨がまっすぐに天に向かって生え伸びる。

 そして男の体は崩れ落ち、パオラは自由を取り戻した。

「クラウ……」

 そう呟いたパオラはほっとしたのか、その場に崩れ落ちる。

「しっかりしろっ! もう大丈夫だ」


 そしてパオラを抱えつつ、クラウは周囲に残っている闇のギルドの手下どもに、攻撃を浴びせ始めた。



「あ、あ、ああっ、レスティ……、なぜ魔法が……」

 キュカは手首から先がなくなった左腕を右手で自分のシャツを使って抑えながら、レスティの姿を見上げる。

「クラウが魔法を封じられて出られなくはなっていたけど、私は私の魔力が使えるもの」

 レスティは悲しげな目でキュカを見ている。

「私はあなたのおかげで、今はこんな姿になってしまった。自分の部屋だった場所で動けなくなっていたところをクラウが救ってくれたのよ。だからクラウと一緒にいた」


 レスティの腕は震えている。

「あなたの話は聞かせてもらったわ。私はあなたのことを友達だと思っていた。でも、あなたが私やピルロにした仕打ちをたった今聞かせてもらった。赦せないっ! あなたの悲しい思いは判ったけど、お父さんやクラウは私の大事な人たち。その2人を殺させるわけにはいかないわっ!」


「な、なにが判ったっていうのよっ! あなたはその外見がいいからって、街の男たちがちやほやしてくれる。同じことをやったってあなたのほうがもてはやされる。ええ! 私はブサイクな女よっ! 私の気持ちなんてあなたには一生わからないんだからっ! ああああっ!」

 キュカは今度は本当なのだろうか、嗚咽を漏らしながら地面に突っ伏した。


 そこに、ドミンゴを茨でぐるぐる巻きにして口に蔦を噛ませたクラウが現れる。周囲ではファナたちが手下どもを次々に始末していた。1人たりとも逃すようなヘマはしていない。


 ドミンゴをその場に転がすと、クラウは2人に聞いた。

「こいつらどうする?」


「ここで、殺すこともできるのかもしれないけど、私は償ってほしい。冒険者ギルドに渡しましょう」

 レスティが言う。

「そうだな。ギルドに預けよう」

 アレハンドロもその判断を支持していた。


 するとキュカが突然笑い出した。

「ふふふふふ、ははははは。甘いわねあなたたち。あなたたちは冒険者ギルドの職員に手ひどい怪我を負わせたのよ。あなたたちの方こそ無事じゃすまないわよっ」


「なんだとっ!」

 クラウは叫ぶ。


 すると突然後ろから男の声がした。

「いや、もう君は冒険者ギルドの職員じゃないよ。だからそういうことにはならないね」


 後ろから現れたのは、長身の口ひげをはやした精悍な男だった。

「だれだっ!」

 クラウは身構える。


 男は笑って言う。

「そう怖い顔をしないでくれ。俺は冒険者ギルドの監察官でね。エドアルドっていうものだ。エドって呼んでくれるかな」


 エドアルドは場の雰囲気に似合わない明るい声で話し出す。

「冒険者ギルドの秘匿すべき情報を外部、特に闇のギルドに流しているものがいてね。その他にもギルド資金の横領が行われていることがわかっていて、我々が調査中だったのさ。そして彼女を疑い始めて調べ始めたところで今回の出来事が起こったってわけさ。さっきの話もしっかり聞かせてもらったし、会話も記録に残させてもらった。だからもう言い逃れはできないってことだね」


「そ、そんなっ。ドミンゴっ! 見張りはどうしたのよっ!」

 キュカはドミンゴを睨み付ける。


「監察官を甘く見ないでほしいなぁ。これくらいの包囲簡単に侵入できるし」

 エドアルドは手にした録音用の魔道具を玩びながら、そしてクラウの方を向くと言った。

「ねえ、クラウ。そろそろ、君のペット達に攻撃をやめるように言ってくれないかな。生き残った人間にはいろいろ聞きたいこともあるしねぇ。まあ、死んだほうがましって扱いはうけるかもしれないけど、選択肢は持たせてあげたほうがいいでしょ。冒険者ギルドの人間は周囲に配置済みだし。大丈夫逃がしたりはしないから」

 エドアルドはニコニコしながら言う。


「わかった。ファナ! ボリス! マルコ!」

 クラウが呼びかけると3人はクラウのそばに戻ってきた。

「おおっ! ヒュージボアに、グレイウルフ、それにドーベルのファントムを従えているのかい。すごいねぇ君は。あ、それと彼女もかな」


 そう言ったエドアルドが右手を上げると、どこからともなく男たちが現れて生き残った闇のギルドの手下たちを捕えると共に、転がっている死体を片付け始めた。

「明るくなって住民たちがこの有様を見たら、ここで暮らせなくなってしまうからねぇ。お片づけは迅速にしなきゃね」

 そして、キュカにも手首に治療が施されつつも、縄があてられ自殺しないように猿轡もされて連れて行かれた。


「さて、君たちにも事情を聞かせてもらう必要があるね。申し訳ないけれどロンディールのギルドまで来てもらおうか。あ、馬車は用意するからさ」

 笑いながら話しているがエドアルドの眼はいやを言わせない雰囲気がある。


 クラウはアレハンドロやパオラ、それにレスティと顔を見合わせるとエドアルドに向かって頷いた。

最後まで読んでくださってありがとうございます。


感想などいただけると嬉しいです。



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