第47話 新たな旅立ち
敏文の姿を見た4人は立ち上がる。
「は~い。トシフミ。あ、今は男爵様だったわね」
ラフな挨拶をするカオリに対して、残りの3人はキチンと腰を折る。
「宰相府からの指命依頼を受け、私達[純白の朝顔]の4名、任につかせて頂きます。宜しくお願いいたします」
ミサキが挨拶をする。
「女性4人とだけ聞いていたのでまさか君達が来るとは思っていなかったよ」
敏文は苦笑いをする。
「私達も緊急の指命依頼だと組合長に呼ばれてみれば、王宮退去となったナツキ様の護衛とトシフミ殿の支援と言われて最初は訳が分からなかったのです。でもこちらに来てみて納得しました。まさかナツキ様がこちらにご滞在とは」
ミサキがそう言うと、アオイが続ける。
「ナツキ様への命令の内容を聞いたときにはナツキ様どうなるんだろうと心配したけど、ここにいるのなら、まあ安心だな」
「私達にとっても願ったり叶ったりだしね」
カオリがそう言うとアオイがげんこつを喰らわせていた。
「いったーい。アオイ姉さん酷い!」
「カオリはいつも一言多い!」
「そうだよっ!」
シオリもカオリを詰めていた。
そんな姉妹のやり取りを敏文は不思議そうに首を傾げて見ている。
「何の話だ?」
「な、何でもありません。こちらの話ですっ」
慌てて弁解するシオリをミサキが苦笑いしながら見ていた。
「まあ、いいさ。ところで組合からは具体的にどういう依頼を受けているんだ? 依頼の期限は?」
敏文のその問いにミサキが答えた。
「期限はナツキ様の王宮退去命令が解除されるまで。それまでの間、ナツキ様の護衛とトシフミ殿の探検者活動の支援ということです。具体的な指示はトシフミ殿から仰げと」
「随分とアバウトだな。紫ランクを無期限なんかで雇ったら、幾らかかるか解らないだろうに……。あ、国が払うからいいのか……」
敏文は独り言のように呟く。
「私達に支援の依頼が来るということは、近々探検者の活動で王都を離れるということかしら?」
ミサキの問いに敏文は頷く。
「ああ、[ミスティック]は近々王都から出る」
「それで私達はどうすればいいの? このままこのお屋敷でナツキ様の護衛をすればいいのかしら?」
ミサキは敏文に尋ねる。
「いや、ナツキ様は今回[ミスティック]に加わることになった。だから、依頼の内容を果たすのであれば、君達にも俺達と行動を共にしてもらう」
「そう。分かりました。それで[ミスティック]はどういう動きをするのですか?」
「シャハーブ、そしてエグバートの攻撃に対応するため、俺は今宿している以外の精霊とコンタクトして情報を得ようと思っているんだ。それでまずはナーラの陽光の精霊の祭殿に向かうつもりでいる」
「なるほど。それでいつ出発するのですか?」
アオイが尋ねた。
「当初は直ぐにでも出るつもりだったんだが、ナツキ様が加わることになったからな。登録や準備が必要だと思っている。それに1、2度はナツキ様に依頼を受けてみてもらって本当に探検者として続ける事が出来そうか見てから出発しようと考えている」
「それで無理だと思われた時はどうするんですか?」
シオリが質問する。
「そうだな、その時は君達の護衛でここに残ってもらうしかないな」
「え~、じゃあ、頑張って貰わないと」
カオリが言う。
「そうじゃないと私達がお留守番になってしまう」
「君達は王都を出るのに準備は必要ないのか?」
「大丈夫です。それも想定して準備していますから」
ミサキが腰のバッグをぽんと叩いて答える。
「よし、じゃあ、護衛するお方にご挨拶して頂こうか」
そう言うと敏文は[純白の朝顔]の4人を3階の一室に案内した。
扉をノックして敏文は呼び掛ける。
「ナツキ様。今宜しいでしょうか?」
「あ、トシフミ様。はい、どうぞ!」
敏文が扉を開けて入るとそこにはナツキの他にサラとアヤメがいた。
「あれ、ミサキさん達どうしてここに?」
敏文の後ろにいる4人を見てアヤメが驚いている。
敏文はアヤメの疑問は置いて、ナツキに説明を始めた。
「ナツキ様。あなたの[ミスティック]に入られたいというご要望は宰相府とも相談いたしましたが許可されました」
「本当ですか!」
「よかったね、ナツキ様」
「はいっ!」
サラの言葉に嬉しそうに反応するナツキを見ながら敏文は説明を続ける。
「[ミスティック]は近日中に王都を出発し、ナーラにある陽光の精霊の祭殿に向かいます。エグバートに対抗する為の情報等を得るためです」
「はいっ!」
立ち上がったナツキは意気込んでいる。
「そこで、今のお立場上、近衛を警護に充てることが出来ない為に、ナツキ様の警護を担うべく[純白の朝顔]が指名により派遣されました。旅の中で私が付けない時間が多くありましょう。そういう部分を彼女達に補ってもらいます」
「えっ?!」
ナツキは驚く。
「対外的には王族資格停止になっておられますが、陛下のご息女であることには変わりありません。宰相殿の配慮だとお考えください」
そう言う敏文に、ナツキは恐る恐る言った。
「あの……、私は[ミスティック]の一員として皆さんと一緒に行動したいのですが……。私だけ護衛つきなのでしょうか……」
(過保護に扱われることを気にしているのだろうか……。彼女らしいな)
そう考えた敏文は説明する。
「大丈夫です。[ミスティック]の一員としての仕事はちゃんとして頂きます。最初は一番ランク、クラスの近いアヤメにサポートしてもらおうと思っています。当面[純白の朝顔]の4人にはナツキ様の身にかなりの危険が迫った時だけ手助けして貰う事とし、後は相応の距離から見守るだけにして頂きますから」
ナツキはそれでも納得行かないようだ。
「それに4人からは、探検者としての戦い方を習って頂けると良いと考えます。私と違ってキチンと段階を踏んで紫にまでなった4人です。良い師匠となるのではないかと思いますが」
敏文はミサキ達を見て確認する。
「いいよな?」
「ええ、もちろん。私達にお教え出来ることは惜しみません」
ミサキはそう言うとナツキに提案する。
「ナツキ様。トシフミ殿の在り方はかなり特殊です。そこから学ぶ、真似る事は難しいでしょう。ですので旅の間は私達と訓練されては如何でしょうか。魔法以外にも戦う手段をお持ちの方がより[ミスティック]に貢献できるのでは? 守られると思わないでください。一緒に行動する以上、[ミスティック]も[純白の朝顔]もありません。一つのチームです」
ミサキの言葉にナツキは漸く納得したようだ。
「わかりました。宜しくお願いします。是非私を鍛えてください」
するとアヤメが言い出した。
「あの、それ私も一緒にお願いしてはダメですか?」
「アヤメも?」
「うん。私はサラと違って魔力がたくさんあるわけではないわ。だから今は魔力切れが即戦力外に繋がってしまう。武器の扱いは学校の授業で少しやったくらいだし、風魔法が効かない相手だっているかも知れないから」
「なら、ついでに私も」
サラも手を挙げた。
「いいわ。3人纏めて訓練しましょう」
「「「はいっ!」」」
「その代わりと言っては何ですけど、私達の修練にトシフミ殿にお付き合いいただきたいんですけど。宜しいかしら?」
ミサキが敏文を見てそう言う。
「ああ、もちろんだ」
そして敏文はナツキに向かって言った。
「まずは明日、ナツキ様には探検者組合で探検者登録をして貰いましょう。そしてそのまま最初の依頼を受けてください。私はその間に、オズーノ殿とお会いするつもりです」
「わかりました」
ナツキは頷く。
「依頼を受ける間、ナツキ様の事をお願いしてもいいか? アヤメ。それにミサキ達も」
アヤメとミサキ達も頷いた。
「じゃあ、私はその間、ブンゾーさんと別の依頼を受けることにするわ」
サラが言う。
「負けてらんないもの。私も頑張らなきゃ」
「ナツキ様。探検者として活動する際は、先日お貸しした《変化の首飾》を使ってください。そして名前も変えて登録をして貰いましょう。また探検者に囲まれるような事があってはいけませんし、その方が周囲の人が王女という立場を意識せずに接してくれましょう」
「そうですね。わかりました」
敏文の依頼にナツキはこころよく応諾した。
「よし、じゃあ、今日は結束固めの為に皆で夕食を取ろう! メグミ! キハチロー達に腕を振るって貰ってくれ」
「畏まりました」
◇◇◇◇◇
翌日、2日続いた雨も上がり快晴となった。ナツキを加えた[ミスティック]は午前中少し遅めの時間にナツキの登録の為、探検者組合に向かう。
敏文の屋敷の玄関前でナツキは《変化の首飾》を使った。
「結局名前はなんと変えるんですか?」
敏文の問いにナツキは笑顔で答える。
「はい。結局、ハルにすることにしました。一度その名前で姿を変えていますし、その方が間違えなさそうなので」
ハルの姿になったナツキは髪や眉毛は銀髪に、瞳の色は淡い翠色になっていた。
「あの、それでお願いがあるのですが」
ハルが言う。
「なんでしょう?」
「皆さんの私への話し方なのですが、普通に皆さんと同じようにして頂けないでしょうか。何となく私だけ違う扱いなのが……」
(そうか、仲間だしな……)
そう思った敏文は皆に言う。
「皆もいいか。ここにいるのはナツキ様ではなくて[ミスティック]の新人探検者ハルだ。それに探検者であるときは俺の男爵の肩書も関係ない。皆、名前で呼び会うこと。いいか?」
「ええ」
「ハルよろしくね」
ミサキや、シオリもそう言っている。
「はいっ!」
ハルの姿のナツキはとても嬉しそうだ。
実際、ナツキはとても嬉しかった。
(ああっ、やっと皆に仲間にしてもらえた感じがするっ)
そして、敏文達は探検者組合に向かった。
探検者組合が近付くとミサキが言う。
「私達は少しの間別行動を取りましょう。私達が一緒では目立ちすぎますから」
「そうだな。すまない。登録が済み次第連絡をするから」
「じゃ、後でね」
カオリが手を上げる。
「はいっ!」
ハルは元気よく返事をした。
[ミスティック]の5人は探検者組合のカウンターに向かう。
そして受付の女性にハルの新規登録と[ミスティック]へのチーム登録を依頼した。
すると受付の女性は、手早く手続きを済ませるとハルに魔道具の小箱に指を入れさせる。
そして無事手続きが終了した。
黄色い腕輪をしたハルは嬉しそうだ。
「これで私も[ミスティック]なんですよね」
「ああ、そうだな」
「これから宜しくね」
アヤメの言葉にハルは大きく頷く。
敏文達がハルの初依頼を選ぼうと掲示板に向かおうとしたときだった。受付の女性が敏文達に組合長が会いたいと言っていると伝えてきた。
「それは[ミスティック]全員を呼んでいるのか?」
「いえ、トシフミ様と新人の方だけでよいそうです」
「そうか。アヤメ。ハルが受けるのに良さそうな黄色の依頼を探しておいてくれるか? サラとブンゾーは自分の依頼を探しておいてくれ。長くなるかも知れないから、自分のタイミングで出発してくれ」
「わかったわ」
「じゃあ、後でね」
「行ってくる」
そんな3人に敏文は伝える。
「何かあったら《遠話の腕輪》で呼んでくれ。出来るだけ早く向かうから」
そして、敏文とハルは組合長室へ向かった。
「よう、トシフミ。まあ、座ってくれ。ナ……いや、ハルだったか、ハルもこちらに」
そうやってドーセツは二人をソファに座らせる。
「ハル……探検者の登録おめでとう。これから大変だとは思うがめげずに頑張ってくれ」
「はい」
「今日、俺のところに寄って貰ったのは2つ話しておきたいことがあったからだ」
敏文は頷いてドーセツに先を促す。
「ひとつ目は宰相府より[ミスティック]への指名依頼だ。エグバートに対抗する為に必要な情報をこの国に住まう精霊達と接して得ること。前払いで200万イェン、得られた情報や結果によって追加の報酬が払われる」
「わかりました。お受けします」
もとよりそのつもりだった敏文はそのまま受諾した。
「そして、もうひとつはハルが加わったことによる対応についてだ」
ドーセツの言葉にハルはぴくっと体を硬直させる。
「赤以上のランクのチームに新人が加わる場合、単純なバランスから言えばチームのランクが下がる状態になることがある」
それを聞いたハルの表情が曇る。
「それじゃ、私が[ミスティック]に入ると……」
ドーセツはそう言うハルを笑って宥める。
「まあ、話を最後まで聞いてくれ。組合としてはな、新人の探検者が自力で這い上がってくるのは素晴らしいと考える一方で、経験のある探検者の元で経験を積みながら成長する事も良い方法だと思っている」
「はい」
ハルは真剣に話に頷いている。
「だから、赤以上のチームに新人が加わる事が不利とならないよう、特例を認めているのだ」
「特例とは?」
敏文が尋ねるとドーセツは続けて説明する。
「1つのチームに2人までは新人が加わってもクラスの引き下げは行わない。ただし、1年間だけだがな。1年の間に新人には経験を積んで貰い、ランクやクラスをあげて貰う。それ以降はそのメンバーのランク、クラスも加味してチームのランクを決めるルールになっているんだ」
「よかった……」
ハルはほっとしているようだ。
「だからと言って、手を抜くようだとチームに迷惑がかかるはずだ。しっかり頑張るのだな」
「はいっ! もちろんですっ」
ドーセツの言葉にハルは大きな声で返事をする。
「よしっ。頑張ってくれ」
ドーセツはそう言うと敏文の方に向き直って聞いた。
「で、直ぐに発つのか?」
「いえ、2、3日はハルに依頼を受けて貰い、慣れてもらってから発つ事にします」
「そうか」
「万一、不在中に王都に何かあった場合は腕輪の緊急連絡を使ってください。《転移の大図》を持っていますので直ぐに王都に戻れると思います」
そう言う敏文にドーセツは握手を求めながら立ち上がった。
「色々すまんが期待している。頼んだぞ。あと[純白の朝顔]とはコンタクト出来ているか?」
「ええ。彼女達にはハルや、うちのアヤメやサラを鍛えるのにも協力して貰います。ご手配ありがとうございました」
敏文が握手をしながら言うとドーセツは笑った。
「なに、宰相府の依頼を受けただけだ。気にするな」
「では、また」
敏文は組合長室をそう言って出ていった。
「頑張ってみます」
ハルはそう言うとドーセツにペコリと礼をして同じく扉から出ていった。
「まさか、ナツキ様が探検者とはな……。トシフミの影響か……。[純白の朝顔]といい、アヤメやサラといい、美女に囲まれて羨ましいと言えばいいのか、大変だと同情すればいいのか……。全く。頑張ってくれよ……」
ドーセツは快晴の空を窓から見ながら呟いていた。
◇◇◇◇◇
1階で3人と合流した敏文は尋ねる。
「アヤメ、適当な依頼は見つかったか?」
「そうね、この時間からだと、採取や害獣の駆除とかかしら。後は荷物の運搬の手伝いかな」
「最初だし無難に採取系の依頼でいいじゃないか? で、何の採取なんだ?」
敏文の質問にアヤメが答える。
「薬の材料になるような薬草や木の実ね。多分どれも王都の東門から出て少し行ったハリマルの森にあると思うんだけど、あそこはいたずら好きな野猿の群れがちょっかいを出して来たり、縄張り意識の強いホーエン鹿がいてたまに襲われたりするんだよね」
「え、そうなの? 王都のすぐそばにそんなところがあるなんて」
ハルは少しおどろいていた。
「でも、その方が訓練にもなるんじゃないの?」
そう言う敏文にアヤメは微妙な表情をしている。
「あまり相性良くないけど仕方ないか……」
「じゃ、アヤメとハルは決まりだな。ブンゾー達はどうするんだ?」
「金ぎつねの毛皮の採取だな」
「私はブンゾーに弓を教わろうと思って」
「よし、じゃあ、ここで別行動だ。アヤメ、ミサキ達と連絡を取ってな」
敏文がそう言うと4人は頷いた。
「よしっ。がんばるっ!」
ハルは可愛く両手で握りこぶしを作る。
そして5人は3つに別れて行動を開始した。
◇◇◇◇◇
その30分後、敏文は魔法・生物研究所にオズーノを訪ねていた。
陽光の精霊の祭殿のミコルとミナミー島の刀匠クニミツに宛てた手紙を受けとる為だ。
所長室に通された敏文の前に2通の手紙を置いたオズーノはソファに座って一息ついた。
「最近少し以前に比べると疲れやすくなっての」
「あまり無理をされないでくださいよ。ホーエンにとってあなたの存在は重要なのですから」
敏文は笑って言う。
「そうよの。でもお主には悪いとは思うが、この様なホーエンにとって国難とも言える時期にお主が現れてくれたことには感謝しておる。一歩間違えば国が無くなるところであったからの。わしでは1万6千匹もの魔獣を始末する等出来ぬよ。全く老体に鞭を撃たずにすんでよかったわい」
「オズーノ様はまだまだ現役ですよ。私の事はともかく、この国の魔法士達の先頭に立っておられるのですから」
「いっそのことお主が後を受けてくれれば楽ができるかの。どうじゃ、やってみんか」
「ご冗談を。私は自分の元の世界に帰りたがっている男ですよ。他に相応しい方がいるでしょう。ダイカクさんや、あ、それに4人も娘さん達いるじゃないですか」
その言葉をオズーノは照れ臭そうに否定する。
「4人ではないのじゃ……」
「え?」
「わしには息子が2人と娘が9人おってな……」
「え゛」
「……わしには子供が11人おるのじゃ。ミサキ達の上に息子2人と娘が2人、下に娘が3人じゃな」
「……奥さん大変だったんでしょうね……」
「いや、1人1人にはそんなに負担をかけてはおらんと思うが……」
「それはどういう意味で?」
敏文は驚きつつも尋ねる。
「6人で11人の子供じゃからそれほど1人には負担はかけておらん」
「6人?」
敏文は驚いていた。オズーノの風体からは6人もの女性を侍らせる姿が想像出来なかったからだ。
「奥さん1人に愛人5人?」
「いや、妻が6人」
「………」
「言うておらんかったかの。ホーエンでは国の宝である優秀な魔法士を増やすために上級魔法士はその使える属性の数だけ正式に妻や夫を持つことが認められておってな。国としては推奨しとるのじゃ」
「……いえ、聞いておりません……」
「これは、わしとしてはうっかりしておったわい。すまんかったの。おお、じゃから5属性が使え、更に精霊を4人宿しておるお主は9人貰うてもよいと言うことになるの」
何だかオズーノは楽しそうにしている。
その一方で敏文は少し気まずくなっていた。
「……ホーエンには必要な制度なのかもしれませんね。でも私には元の世界に妻と子供がいますので……。今は戻る方法を探す、それしか考えられません。あ、無論シャハーブの件は手を抜いたりはしませんが」
「そうか、残念じゃの。お主がわしの娘達の誰かあるいは4人ともでもよいが貰うてくれてわしの後を継いでくれれば嬉しかったのじゃが」
オズーノは本当に残念そうだ。
「すいません……」
敏文は何だか自分が悪いことをしているように錯覚させられていた。
「まあ、よい。今は目の前の困難に立ち向かうのが先じゃな。頼んだぞ」
オズーノは敏文に手を差し出す。
「はい、そちらはご期待に応えられるように努力致します」
敏文は立ち上がってその手を握った。
「ところでなトシフミ。ひとつ相談なのじゃが」
「何でしょう」
「今回の旅にミシェルを伴って貰うことは出来まいか?」
すると、敏文の体の中から明確な否の意思表示が4つあった。
『やだ』
『え~』
『ないわね』
『落ち着かないのはキライ』
順にコウ、タクミ、セイラン、トモエの反応だ。
「すいません。精霊たちが落ち着かないのは嫌だと言っているのですが……。やはり先日の……」
隣の部屋からガタッと物音がする。
「そうか。残念じゃが仕方あるまいの。精霊との接触が目的の旅にその精霊から嫌だと言われてはの。わかった。今の話は忘れてくれ」
オズーノは苦笑いしている。
「すいません」
敏文はオズーノと隣の物音がした方を見て答える。
「気を付けて行ってきてくれ。ミコルとクニミツに宜しくの」
「はい」
そして、敏文は自分の屋敷に戻ることにした。
◇◇◇◇◇
夕刻、敏文は自分の屋敷の3階の書斎でトモエ達と今回接触を試みる精霊達について話をしていた。
「陽光の精霊ってどんな精霊なんだ? あと、コーヤとミナミー島にいる精霊も知ってたら教えてくれ」
敏文の問いにまずはトモエが答える。
『陽光の精霊は光を司っている精霊よ。ある意味今回の騒動で使われている闇の属性の魔法の対極をなす属性ね』
「なるほど、それは是非会わなければな」
『コーヤの精霊は万命の精霊と言って生の属性、動物や植物の生命力を司っているわ』
「オズーノ様が言っていた精霊だな」
『ミナミー島の精霊は金工の精霊。金属を司っていて、あらゆる金属の加工や取扱いに詳しい精霊ね』
「皆は其々、3人の精霊と会ったことは?」
『僕はないよ』とコウ。
『ぼくもないな』とタクミ。
『私は陽光の精霊とならあるわね』とセイラン。
『……私は3人とも知っているわ。だってディリコに祝福をくれた精霊達ですもの』
「あ、そうだったな」
『あ、その3人がディリコに宿りたいって言ったとき、トモエがダメって言ったんじゃなかった? 大丈夫かな?』
コウが心配する。
『だから、3人には私、謝らないと』
トモエは心配そうにしている。
「そうか、じゃ、俺も一緒にお願いしてみるから。心配せずに行こう」
『ありがとうトシフミ』
その時、扉をノックする音が聞こえ、タイジロウがアヤメ達が帰って来たことを伝えた。
「わかった。直ぐに降りるよ」
敏文は部屋を出ると1階の食堂に向かう。
食堂では、アヤメが大騒ぎしていた。
「ねえ、サラ聞いて! ハリマルの森で私達大変だったんだから!」
「どうしたんだ?」
敏文は食堂に入るとそこにいる皆を見渡しながら尋ねた。
そこには、興奮しているアヤメと力尽きて食堂のテーブルに突っ伏しているハル、それを苦笑いやニコニコと眺めるミサキ達と、アヤメの興奮に少し戸惑うサラとブンゾーがいた。
「あ、トシフミも聞いてよ!」
「わかったから、そう興奮するなよ。立ち話も何だし座って話そうぜ」
ブンゾーがアヤメを宥める。
皆がテーブルの席に着くとアヤメが話し出した。
「私達がハリマルの森に行ったらね…………」
要約すると、こういうことだった。
森に入った2人は依頼されていた薬草や木の実を順調に集めていたのだが、ほぼ集め終わったその時、ハルが子猿を見掛けた。
「あ、かわいいっ」
そう言って近寄ろうとしたハルにアヤメは注意しようとしたのだがハルが不用意に近付いてしまう。
すると子猿はハルが持っていた薬草や木の実を入れた袋をさらって逃げ出した。
「あっ、こらっ!」
慌てて追った2人だったが、子猿を追っている内にいつの間にか群れの猿達も現れ、木の実が飛んできたり、虫を投げつけられたり、はたまた、おしっこを引っかけられたりと散々だった。その上、背中に飛び付かれたり、足にしがみつかれて服が破れたりとひどい目にあった2人は怒り心頭。
「いい加減にしてっ!」
珍しくキレたハルが水魔法の《水弾》を連射。アヤメも風魔法で猿達を懲らしめて漸く袋を取り返した。
ところがほっとしている2人に更なる災難が降りかかった。
猿達が突然逃げ出すので何事かと後ろを振り返るとそこには仁王立ちしているホーエン鹿が2頭。
どうやらその鹿の縄張りにいつの間にか入り込んでいたらしい。
地響きを立てながら突進してくる2頭に2人は慌てて《防》の魔法を張りつつ逃げ出した。
アヤメの風魔法でいなし、ハルの水魔法で足場を悪くして遅らせたりとか何とか2頭の縄張りを抜けた時には2人はヘトヘトになっていた。
それでも何とか依頼されていた木の実や薬草を集め終えてフラフラな状態で王都の東門をくぐった所で4人のチャラい男達に絡まれてしまった。
「そこのかわいいお嬢さん達。何だか随分お疲れだね~。よかったらそこでお茶でもして休憩していきなよ。おごるからさぁ」
疲れきった2人は無視していたのだが、しつこく絡む男達にハルがまたキレた。
今度は男達の足を水魔法で凍らせてついてこれなくしたのだ。
「おいっ、ちょっとっ、これ解いてくれっ。俺達が悪かったっ」
そう言って謝る男達を放置して2人は漸く組合にたどり着いた。
「ミサキ達酷いよっ。私達が散々な目にあってるとき近くにいたんだよね。助けてくれてもいいじゃない!」
そう言うアヤメをカオリが楽しそうにからかう。
「だって命に関わらない限りはみ・ま・も・るって約束だったじゃない」
「それはそうだけど……」
不満そうなアヤメの横で疲れきったハルは言葉も出ず突っ伏したままだ。
「まあ、それも修行のうちよ。そこで笑ってるカオリとシオリも成り立ての時に全く同じ目にあってるから。フフフ」
「そうだったね。ハハハ。」
ミサキとアオイが笑っている。
カオリとシオリはむくれている。
何となく和んだその時絶妙なタイミングでショウノスケが声をかけてきた。
「間もなく夕食の準備が整います。皆さまお部屋でお召し換えなどされてはいかがでしょうか」
「そうだな。皆着替えて来いよ」
敏文の言葉に皆立ち上がって部屋に戻っていった。
◇◇◇◇◇
翌日から2日の間、動物に会いたくなかったアヤメとハルは王都内で依頼を受けることにする。
ただその前に見送るべき人達がいた。
ノーギ男爵の一行とキキョウ、マリカ、ナミがミヤザに帰るのだ。
争乱後、ノーギ男爵は自前の専用船を避難民の輸送の為に提供していた。その役目が漸く終わったのだった。それで延び延びになっていたミヤザへの帰還ができることになったのだ。
キキョウ達も男爵が帰るのに合わせて帰る事になった。
見送りに来ていたダイカクとアヤメにキキョウは体に気を付けてと言って船に乗り込んだ。
マリカはアヤメと敏文を捕まえて2ヶ月後に[ミスティック]に入りに戻って来ると言っていた。
最後にノーギ男爵がダイカクと敏文と話す。
「色々大変だろうが頑張ってくれ。何か出来ることがあったら遠慮なくな」
「ありがとうございます。ヨシノリさんもお元気で」
「じゃあな。また、飲もう」
「ああ」
ノーギ男爵はそう言うと船に乗り込んだ。
アヤメは何時までも手をふってキキョウとマリカを見送っていた。
その後、アヤメとハルは探検者の依頼を引き受けて動き出した。
家の大掃除の手伝いをして水と風の魔法で綺麗に仕上げた所でその家の老婆に感謝されたり、運んだ荷物が魔法の袋のお陰で鮮度を保ったままだったことで誉められたりと、それなりに充実していたようだ。
ハルも探検者の仕事を楽しいと感じるようになっていた。
それでハルについて探検者として何とかやっていけると判断した敏文は翌日にナーラに向けて出発することにした。
その夜、自室で敏文はスマートフォンを立ち上げる。
そして妻と娘達の写真を眺めた。
「恵美、愛里、愛菜。時間かかっても帰るからな」
敏文は窓から部屋を照す月を見上げていた。
◇◇◇◇◇
そして翌日。
敏文達は屋敷の玄関でマサル達に見送られていた。
「後のこと頼んだぞ。定期的に連絡は入れるから」
マサル、メグミ、ショウノスケ、タイジロウには《遠話の腕輪》を渡してある。
「はい。お任せください」
そう言って使用人達は一斉に頭を下げる。
「よし、じゃあ行こうか!」
そして[ミスティック]と[純白の朝顔]はナーラに向けて出発した。
最後まで読んで下さってありがとうございます。




