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第45話 青天の霹靂

皆さん約1ヶ月ぶりの投稿になります。

間を開けてしまいすみませんでした。


今回の投稿を前に44話までの全てについて内容に修正を入れています。


どうしても人物の描写や感情の表現が淡白だと自分でも、頂いた感想でも、知人からも指摘を受けたからです。


既に44話まで読んで頂いたからこそこの話をご覧頂いていると思います。

本当に作者のわがままで申し訳なく思っています。


ご容赦頂けるのでしたら、新たに手を加えた部分も含めてお読み頂けると大変嬉しいです。


引き続きよろしくお願いいたします。

 結局、舞踏会はそのまま終了となり、貴族達や参加者達は三々五々会場を去っていった。


 敏文達は、王宮の一室に集まっている。

 そこには国王以下、ヨシトモ、文武の重臣達もいた。通常そのような国王臨席の会議に探検者が加わることはないのだが、今回、叙勲の対象となっていた5つのチームのリーダーは宰相の要請により会議に加わっていた。オズーノ、ダイカク、ミシェルもいる。


「あのように神出鬼没な者、どうやって今後陛下やご家族をお守りしたらよいのか」

 そう言ったのは近衛兵団の団長であるトーヤマ子爵だった。

 彼は36歳。183セルの背をもつ。長い前髪を左右に分けた赤い髪に口髭を蓄えている。細いが鋭く見えるその瞳は髪と同じ赤い色をしている。


「いくら近衛が優秀でも、あのような現れ方ができるのであれば、防ぎ様などないに等しいではないかっ!」

 オイワ伯爵も机を叩きながら言う。


「しかも、奴はまた仕掛けるといっておった。今回のようなことがまた起こってはこの国はとんでもないことになってしまう。どうすればよいかの」

 キジマール宰相もつぶやいた。


「そもそも、奴等の国エグバートがどこにあるか分からんでは、一方的にやられ続けなければならん。これをどうにかせねばな」

 タチバナ伯爵が言うと、キジマール宰相が意見を言う。先日の騒乱直後にも言っていたことだ。

「サヘール、シナドールの両大陸周辺にはそのような国はない。すると可能性は北海あるいは南海の向こう側ではないか」


「トシフミ、どう思うか」

 国王は敏文に意見を求めた。


 敏文は会議が始まるまでにトモエや他の精霊達と話していた。


「精霊達の話では、南海の向こう、また北海の氷の大地には、人が住んでいる国があるということです。または、どこかの地下ということもありえると考えます。あくまで個人的な推測でしかありませんが、使役した魔獣の傾向から、北海の氷の大地ではなく、南海あるいは地下の可能性が高いのではないかと私は考えます」


「南海か……」

 タチバナ伯爵が溜息をつく。

「あそこは、荒れ狂う海のせいで入ることが困難な場所だ。どうやって対抗すればいいのだ……」


「他にはどうか」

 国王はさらに敏文に話を促す。

「シャハーブは自分はマフナーズという者の弟子でその意思を果たそうとしていると言っておりました。ということは彼よりも力のあるものがおり、奴は指示に従う立場と言うことです。他にも指示を受ける弟子がいる可能性も高い。また、彼らの目的がローメリア全体の攪乱であることを考えると、ホーエンだけに仕掛けて満足するはずがありません。当然他の国々にも同様の攻撃をかけるのではないでしょうか?」


「なるほどな」

 宰相が言う。

「南海へ向かう方法について、他国には情報はないのか?」

 ヨシトモが周囲の人間に聞いた。

「たとえばサウザン=ユナイトとか、トリアード、その周辺国などに南海の向こうとの接点がある可能性はないかということなんだが」


「公になっていないだけで、あるかもしれませんな」

 ガトー子爵がつぶやく。それを聞いてヨシトモが意見を言う。

「ホーエンと同様の攻撃をうける可能性があることを各国に伝えて警告する必要もあると思うのだが。その上で協力体制をつくることはできないか」


 ヨシトモの提案にトモナリが言う。

「両国が信じるかな? 特にトリアードは200年前の大戦のおり、激しく戦った相手でもある。それ以降修好を結んだとは言え、国民感情的にはあまりまだいい関係ではない。我々の警告に耳を貸すだろうか?」


「やってみなければわかるまい。どうせ此度の騒動は他国には知れておろう。何故このようなことになったのかは知りたがっておるのではないか?」

 国王が言う。


「わかりました。各国に駐在させている外交部の者にコンタクトを取らせます」

 そう言うとキジマール宰相は一礼した。



「して、目前の危機についてはどう対処するかじゃな」

 オズーノが言う。


「シャハーブの事だな。この場におるもので直接相対したのはトシフミとミサキか。ミサキ、まずはそなたから見た奴について話を聞かせてくれ」

 宰相はミサキに意見を求めた。


「はい。一言で申し上げればとても強い。そして速い。私の剣は子供扱いされました。シャハーブは杖術を使いますが、相手の攻撃を受け流す技術は凄まじく、私や妹達の攻撃は全く通らないばかりか、軽くあしらわれました」


 隣にいた[獅子の咆哮]のリーダー、サジローが驚いて口を挟む。

「なんだと? お前達ほどの使い手がか」


 サジローはランク紫のクラス3。王国内でも、指折りの探検者だ。

 42歳。身長は186セル、胸板や上腕など体のパーツはいずれも極厚・極太だ。

 ミサキとは何度か仕合をしたことがありその実力を認めていた。


「ええ。それに魔獣を使役する力があります。1万6千匹以上の魔獣が彼の一喝で騒ぐのを止めるほどです。それ以外にもどのような力を持っているかわかりません」 

 ミサキの言葉にほぼ全員が溜め息をつく。


「ミサキよ。奴が速いと言うがどれ程のものなのか? 聞くところによるとトシフミはシャハーブをその速さと力で押し込んだと言うことだが」

 国王の問いにミサキは答える。

「私には二人の動きが辛うじて見えた程度です。少しでも気を抜けば見失うほどのスピードでした」


「トシフミよ。どれくらいの速さなのか説明出来るか?」

 宰相が敏文に尋ねた。

「私は今、精霊の助けを借りて自分の通常の速さの10倍までは動きの速度をあげることが可能です。最後に奴を押し込んだ時はその速度まで上げておりました」


「な、10倍だと!」

 チーム[槍無双]のリーダー、インエンが驚きの声を上げる。


 インエンは35歳。頭髪は全くない。背は188セルと長身でがっしりした体つきをしている。首から大きな珠の数珠のような首飾りを下げていて十字槍の使い手だ。


「そこまで……では俺とやった時はどの程度だったんだ?」

 そのケイジの問いに敏文は少し言いにくそうに答えた。

「あの時は2.5倍くらいだったと思う。あの時点ではまだ技を使い慣れていなくて3倍までしか出せなかったんだ」


「そんな、あれで2.5倍……」

 ケイジはそれ以上の言葉が出ない。


「それではシャハーブはどの程度だと言うのか」

 タチバナ伯爵が問う。

「恐らく8倍位で互角にやりあえるかと」



 サジローや他の参加者達は声を荒げる。

「常人の8倍だと! そんな人間おらんわっ。トシフミと言ったな。本当にそんな速度出せるんだろうな!」

「そうだ! いいかげんなことを言っておるのではないのか!」


 それを聞いた敏文は、一瞬で4つ離れた席に座っていたサジローの背後に立ち、その肩に手を置いた。

「これでどうでしょうか」


「なっ!」

 サジローは驚きのあまり言葉に詰まる。


 会議室は騒然とする。

「失礼だろう!」

「しかし、今の見えたか?」

「あのようなものが敵におると言うのか」

「あれは常人のなせる業ではない」

「では、どうやってシャハーブとやらに対抗するのか!」


「静まらんか! 陛下の御前であるぞ!」

 宰相の一喝でざわめきは収まる。


「これはトシフミ以外の者をシャハーブなるものに宛てるのは厳しいということかの……」

 オズーノはそう呟いている。


「お気を悪くしてしまい申し訳ありません。非礼をお詫びさせてください」

 敏文はサジローに対してその場で頭を下げる。

 すると、サジローは漸く驚愕から立ち直り、敏文に対して逆に非礼を詫びた。

「いや、元はと言えば、俺が疑ったからだ。すまなかった」


 敏文が席に着くと、オイワ伯爵が尋ねる。

「お主のその力、他の者にも宿させることはできないのか」


「残念ながら精霊達の話では難しいようです。精霊を宿すためには相当の量の魔力量と精霊魔法に対する耐性としての精神力量が必要なのだそうです。それはオズーノ様の力でも足りないということでした」

「なんだと! オズーノ殿でもダメだというのか! いったいどれほどの魔力が必要だというのか!」

 トーヤマ子爵が叫んだ。


「オズーノよ。トシフミは魔法士の認定を受けていたな。その魔力と精神力の総量はいかほどなのだ」

 国王の質問にオズーノは会議室を見渡しながら答えた。

「トシフミの魔力総量は2万5千、精神力総量は6千3百でございます。そうであったなトシフミ」

「はい」


 実はあの日の戦闘で極限ギリギリまで魔力を使ったことにより、敏文の魔力総量と精神力総量は成長を遂げ、魔力総量2万8千、精神力総量7千まで膨らんでいたのだが敢えてここで曝して騒ぎを大きくする必要もないと考えて黙っていた敏文だった。


 オズーノの答えに会議室は再び騒然とする。

「オズーノ殿が4千の魔力であったか。そうするとトシフミはその6倍以上の力を持っているというのか!!」

 タチバナ伯爵までもが驚き叫んでいた。


「そんなになければ、宿せないものなのか精霊は……」

 トモナリが呟いていた。


 ざわつく会場の中で、宰相が会議を纏めようとしていた。

「その力、他者に伝えることが難しいのであれば、トシフミ、すまないがシャヤーブにはお主に対応してもらうしかないの。よいか」

「……畏まりました。」


 さらに宰相は続けた。

「他の者達は、前回のような魔獣が現れた際に対処できるよう、装備の強化、自分の力量の向上を図ることとする。国としては、破魔武装の拡充と配備を急がせるとともに、手薄になった王都警備の強化と、ホーエン全土の警備強化を図る」

 宰相が国王を見ると、国王は大きく頷いている。


「当面はそうするしかあるまい。各員は引き続き情報収集を徹底し、少しでも不審な事象や者をみかけた場合には、宰相府に情報が集まるように手配せよ」

「「「「「「「「はっ」」」」」」」」


 そして会議は終了した。



 会議室を出た敏文は、オズーノの元に走り寄った。

「オズーノ様。ご相談があるのですがよろしいでしょうか」

「よかろう。どこか別室のほうがよいのかな」

 頷く敏文にオズーノはついてくるように伝える。


 別室に入ったオズーノと敏文はソファーに腰を下ろして向かい合った。

「で、相談というのは?」


「私は今の力でシャハーブがこれから仕掛けてくることや、エグバートが仕掛けてくることに対抗できるのかよくわかりません。そこでもっと闇の魔法についても詳しく知っておきたいのです。オズーノ様やダイカクさんの兄弟子の方なら闇の魔法についてお分かりになることがあるのではないかと思ったのですが」

「光と対極にあり影や闇から沸き起こる力を利用して光を遮り、魔獣や生物を操る力を持ったものじゃ。弟子のジョウはその辺研究しておるが、生憎と調査のために出ておってな」


「では、精霊の所在についてご存知なことはありませんでしょうか。情報を得るためにもあるいは闇の魔法への対抗をする意味でも、別の精霊とのコンタクトを図ってみたいのです」

「いま、この国で精霊と接点を持ったことがあるのは、わしとナーラの陽光の精霊の祭殿におる大司祭ミコル、それにミナミー島の刀匠、鍛冶であるクニミツの3人じゃな。それぞれにたずねるしかあるまい……。そうじゃな。2人に宛ててわしが手紙を書いてお主に持たせよう」

「ありがとうございます」


「ではわしが精霊と出会った場所の話をしようかの。わしが出会った精霊は万命の精霊という。生命の発する力、並びに生命を支える力を司るものじゃ。出会った場所はコーヤの山中の清龍の滝じゃ。そこの滝壷で瞑想しているときに出会った。場所にふさわしく、龍の姿をしておっての」

「わかりました。コーヤの清龍の滝ですね」

「そうじゃ。おお、ナーラの陽光の祭殿もその通り道にある。まずはそちらに向かってはどうかの」

「そうですか。ではそうさせていただきます」


「じゃが……」

 オズーノの表情が曇る。

「お主が王都を離れておる間にやつらが事を起こすことも考えられるのではないかの。そうするととお主が王都から離れるわけには……」


「心配はご無用です。私が持っている魔道具の中に、《転移の大図》というものがございます。これを使えばすぐに王都に戻ることができますので」

「ほう」


 《転移の大図》は持ち主の記憶に従って、その地図に触れた者を持ち主が指定した場所に転移させるものだ。これを使えば王都の特定の場所に一瞬でもどることができる。


「いろいろと教えていただきありがとうございました。俺達は足元落ち着き次第、王都を出発してナーラへ向かうことにします」

「そうか。無理をしすぎぬようにな」

「はい」


 そして敏文は別室で待っていたダイカク達と一緒にノーギ男爵の屋敷に帰っていった。



◇◇◇◇◇



 翌日、敏文達が遅めの朝食をとり、リビングでくつろいでいたときのことだった。ノーギ男爵家のメイドが敏文に来訪者があることを伝える。

 敏文とサラ、アヤメの3人が来訪者の応接用の部屋に入ると、そこには上下整った服装の男性と女性が座っていた。2人とも詰襟のスーツに、白いシャツ、スカーフタイをしている。敏文が部屋に入ると2人は立ち上がる。


「私が敏文ですが」

「これは、カマタ男爵様。お時間を頂きまして有難うございます。私はマサル=フジカワと申します。そしてこちらがメグミ=イイヅカでございます」

「メグミ=イイヅカでございます。よろしくお願い致します」

 2人深々と礼をする。


 マサルは黒髪をしっかりと整髪料で固め、オールバックにしている。年齢は28歳。背は175セル、中背中肉ではあるが、背筋がピンと張った男だ。濃い茶色の目で真っ直ぐ敏文の目を見ながら話すところなど、所作からしてしっかりとした教育を受けているように見える。

 一方、メグミは銀色の紙を後ろでアップに纏めており、向かって右側の前髪だけが一房まっすぐに垂らされている。眼鏡の奥にはシャンパンゴールドの瞳がある。年齢は26歳。背は166セル。少しキツメの表情に見えるが、こちらも真っ直ぐに敏文の目を見据えている。



「どうぞ掛けてください」

 敏文は2人に座るように勧め、向かいのソファに腰を下ろす。サラとアヤメは敏文の後ろに立っていた。

「今日はどのようなご用件ですか?」

 敏文が尋ねると、マサルが話し出した。


「私ども2人は、キジマール宰相の命により、本日よりカマタ男爵様付の執事ならびに秘書を勤めさせていただくことになりました。そこでご挨拶に伺ったのです」

「え? 執事と秘書?」

「はい。執事と秘書です。お聞きにはなっておられませんでしたか?」 


 敏文は考え込んだ。

(そう言えば……、宰相が叙勲のあのゴタゴタの後、会議が始まる前に、男爵となったからには男爵家として必要な人材を手配せねばの……って言っていた気がする)

「昨日の叙勲の時に、確かにキジマール宰相が必要な人材の手配をとおっしゃっていたような……」

「はい。我々も昨日、宰相府付からカマタ男爵家付へと異動を命ぜられました」


「すごいね。トシフミ。執事と秘書が付いちゃったよ」

 アヤメは驚いていた。

「うんうん。なんか社長さんみたい」

 サラも笑っている。


「我々のことは、マサル、メグミとお呼びくださいませ」

「はあ」


「「これから、よろしくお願いいたします」」

 そう言うと2人は立ち上がって腰を折った。

 

「男爵様。本日この後、ご予定がございましょうか?」

 メグミがそう尋ねる。

「いや、特に今日は予定はないけど」

(なんだか、男爵様とか呼ばれると落ち着かないな。)


「では、これからもしよろしければ、陛下より拝領されましたカマタ男爵様のお屋敷をご覧になられてはいかがでしょうか。現在、お屋敷内は一部家具の搬入等が行われておりますが、もうまもなく終わる刻限でございます。こちらから近いところにございますので、すぐにご案内できるかと思いますが」


「あ、そうか。お屋敷を拝領したんだったな。忘れてた。今からでもいいのか?」

「少しお待ちください」

 メグミは《遠話の腕輪》で誰かと連絡を取っている。

「確認が取れました。準備が整ったようでございます。このお屋敷の表に馬車を待たせております。早速向かいましょう」


「あの、私達も行ってもいいんでしょうか……」

 サラが恐る恐るメグミに聞いている。

「男爵様のご指示であれば」

 メグミはそう言うと敏文の方を見た。


「馬車には何人乗れる?」

「はい、男爵様、我々以外にあと3人ほど乗ることができますが。」

 マサルがそう答えた。


「おい、アヤメ。ブンゾーを呼んできてくれ。頂いた屋敷に行ってみよう」

「うん!」



◇◇◇◇◇



「おい、嘘だろ」

 敏文達が貴族街東第3区にある屋敷に到着し、馬車を降りるとそこには3階建ての豪奢な洋館が建っていた。コーベンの屋敷として統一の外観である碧い屋根と白い壁は同じだが、ノーギ男爵の屋敷とは雰囲気が違っていた。また、庭も広い。

「すごーい」

「ほんとにお屋敷だぁ~」

 アヤメとサラははしゃいでいるし、ブンゾーは口を開けて屋敷を見上げていた。

 

 そして、屋敷の玄関の前には、18人の人間が整列していた。

 グレーのスーツの男性が2人。

 着物の女性が1人とメイド姿の女性が4人。

 料理人の男性が3人。

 馬車の馭者が1人。

 庭師兼厩番が男女あわせて2人。

 警備担当の男が3人と女性が2人の計5人。


「お待ちしておりました。男爵様。本日からこちらが男爵様のお屋敷となります。我々は誠心誠意お仕えさせていただきますのでよろしくお願いいたします」


 そう言って挨拶をしたのは、白髪の年配の男だ。

「わたくしは、マサル様ご不在時にこの屋敷を取り仕切らせていただきますショウノスケと申します。男爵様が快適に過ごせますよう、何なりとお申し付けくださりませ」

「わたくしはショウノスケを補佐するもので、タイジロウと申します。よろしくお願いいたします」

 グレーのスーツの男性が2人続けて挨拶をした。


 ショウノスケは65歳。背は175セル。執事として鍛えられているのだろう、年齢の割りに背筋は伸びており、立ち姿が美しい。

 タイジロウは38歳。背は178セル。ショウノスケと同じように姿勢が整った男だ。長い黒髪を首の後ろで細く束ねている。


「私はメイド長を勤めさせていただきますタミコと申します。そしてこちらに控えているのが、ノリコ、ヒカリ、マヤ、サクラと申します。よろしくお願い致します」

「「「「よろしくお願い致します」」」」

 5人は揃って挨拶をする。


 タミコは恰幅のいい婦人だ。年齢は46歳。ウェーブの掛かった髪を後ろでシュシュでまとめ、濃い藍色の着物を着ている。背は少し低めの155セルぐらいだ。お宿の女将さんという雰囲気がある。

 あとの4人は10代後半~20代の若い女性達だ。緊張しているようにも見える。


「私が料理長をさせていただきます、キハチローと申します。お好みの料理を何でもお申し付けください。腕によりを掛けますので。おなじく料理全般を担当しますショウヘイとアツロウです」

「「よろしくお願いします」」


 キハチローは口ひげとあごひげを生やした男で、少しふっくらしている。年齢は48歳。背は172セル。少し小柄だが、愛嬌のある顔をしていた。笑うとこちらが朗らかにさせられる。

 ショウヘイとアツロウもそれなりに経験をつんでいるのだろう。料理人の衣装が板についていた。


「男爵様の馬車をお預かりしますトヨゾーでございます。よろしくお願いします」

 

 トヨゾーは52歳。背は167セル。黒の正装をしている。馬車の扱いは丁寧で先ほどここに来るまでの間も乗っていて安心感があった。馭者としての腕はいいようだ。


「庭師兼厩番のゴンゾとナナミです。庭や馬のことなど何なりとお申し付けください。必要なものがあれば簡単な家具などでもすぐに作ってご覧に入れます」

 

 ゴンゾとナナミは兄妹だった。兄のゴンゾが31歳。短く刈り上げた頭によく日に焼けた顔をしている。妹のナナミが22歳。オレンジ色のショートカットでこちらも小麦色の肌をしていた。背はそれぞれ177セル、164セルだ。


 最後に警備担当の5人が挨拶する。

「我々がお屋敷の警備を担当します、タカ、ケン、ユージ、ユキ、フウです。男爵様は非常にお強いと伺っております。ですが我々も安心して男爵様方がお暮らしいただけますよう、しっかり仕事をさせていただきます。よろしくお願い致します」

「「お願い致します」」


 この5人は、国軍上がりだということだった。それぞれ剣の腕が立つようだ。タカとユージは細身で素早そうだし、ケンはがっしりした体で大きな両刃の剣を扱うのを得意としていた。ユキとフウの2人の女性も腕は立つようだ。タカが28歳、ケンが25歳、ユージが27歳、ユキが25歳、フウは24歳だ。タカがまとめ役をやっていた。


「そして、私達マサル、メグミの2名を加えて20名がカマタ男爵家にお仕えさせていただきます。どうぞよろしくお願い致します」

「「「「「お願いいたします」」」」」

 20人全員が深々と挨拶する。


「……」

 敏文は正直面喰っていた。

「よ、よろしく。正直男爵っていっても、なりたてのほやほやでまだ実感がないんだ。作法やしきたりもわからないし、人に仕えてもらったこともないから、ちょっと戸惑ってる。できればフランクにやってほしい。そうだな、男爵様とかよばれるとこっちがカチコチになりそうで」

 

「「「「……」」」」

 皆から返事はない。


 敏文は汗が流れる。


「では、我々は男爵様のことをどうお呼びしましょう?」

 ショウノスケが困っている。

「できれば、堅苦しくなくトシフミって呼んで欲しいけど……」

「外向きの事もありますので、呼び捨てにはできません。では、皆でトシフミ様とお呼びさせていただくことでいかがでございましょうか」

 マサルが提案する。

「じゃそれで」 


「では、トシフミ様。屋敷をご案内させていただきます」


◇◇◇◇◇


 その日一度ノーギ男爵の屋敷に戻った敏文達は翌日にはカマタ男爵邸に移る事にした。

 ノーギ男爵の屋敷からも近く、往き来は容易だし、せっかく自分の為に色々と準備してくれている使用人達にも悪い。


 ブンゾー、サラ、アヤメはカマタ男爵邸に移る事になった。


 ダイカクは引き続きノーギ男爵の屋敷に留まりオズーノの輔佐をする。

 キキョウ、マリカ、ナミは一旦ミヤザに帰り、2ヶ月後マリカが青の月に高等学校を卒業したら王都に移るという。


 その夜、ノーギ男爵の屋敷では敏文の男爵就任のお祝いをしていた。



「それではカマタ一代男爵の誕生を祝って。乾杯!」

 ノーギ男爵が杯を上げると皆が乾杯の声を上げる。



「どうだトシフミ、男爵になった気分は?」

 ノーギ男爵が聞いてくる。

「男爵と言われてもピンと来ませんよ。ただ、正直重いですね。人に仕えられた事なんてありませんし。今日も突然20人もの家人が出来て面喰らってしまった所です」


「そうか、今日自分の屋敷に行ってみたのだったな。どうだった?」

 ダイカクが尋ねる。

「いや、驚きました。過分なものを頂いたなと」


 するとアヤメが興奮して話し出す。

「凄いんだよ、トシフミのお屋敷。3階建てで、部屋もたくさんあって。庭も広いの。ね~」

 そうサラを見ながら言うアヤメに続いてサラも言う。

「私達も1人ずつお部屋を頂く事になって。明日お部屋に飾るものとかアヤメと買いに行こうって」


 楽しそうに話す2人を見てマリカが羨ましそうに呟いた。

「私も2ヶ月したら、卒業したらっ……」

「そうね。だから頑張って勉強しなさいね」

 キキョウがマリカの頭を撫でている。


「キキョウ達もいずれ王都に移るのか。ミヤザが少し寂しくなるな。アケビも寂しがるだろう」

 ノーギ男爵の言葉にキキョウが言った。

「ミヤザに戻ったら、ちょくちょくアケビ様をお訪ねさせて頂きます」

「ああ、そうしてやってくれ」




「どうしたトシフミ浮かない顔だな」

 ノーギ男爵が敏文の顔を見ながら言う。

「いえ、昨日の今日で男爵って言っても何をすればよいのか分からなくて。色々と貴族のしきたりとかお作法とかあるんでしょうけど、何も知らないので。男爵様、教えて頂けないでしょうか」


「あまり難しく考える必要はないさ。その為に執事がついたんだろう。宰相がつけてくれた執事や秘書ならよくわきまえていると思うが」

 ノーギ男爵はそう言う。


「そうですね。彼らに聞きながら助けてもらうことにします。ありがとうございます男爵様」

 敏文がそう言うとノーギ男爵は苦笑いしながら言う。

「それと、俺に対してその男爵様って言うのは止めてくれ。お前も男爵なのだぞ」

「あ」

「そうだな。俺の事はヨシノリと呼んでくれればいい。ダイカクみたいにな」

「え、でも、急には……」

 ダイカクまでも追い討ちをかける。

「じゃあ俺もダイカクって呼んでもらおう」

 困っている敏文を見て2人はいたずらをした時のようににやにやと笑っている。


「ま、おいおいでいいさ」

「そうだな」

 ノーギ男爵とダイカクはそう言うと笑って酒を交わし始めた。


◇◇◇◇◇


 翌日、敏文達はカマタ男爵邸に引っ越した。

 といっても4人とも魔道具のバッグを持っているため荷物はそれだけで歩いて向かっただけだ。


 カマタ男爵邸の門につくとケンとユージが門番として詰め所にいて門を開けてくれた。

「トシフミ様。ご連絡いただければ馬車で迎えに行かせましたものを」


 そう言いながら2人は4人を門内に迎え入れる。


 玄関に着くと、マサルとメグミが待っていた。

「トシフミ様。これからの件でご説明したいことがありますので、トシフミ様の書斎の方へよろしいでしょうか」


「じゃあ、私達は街へ買い物に行ってくるわね」

「いいかしら?」

 サラとアヤメが言う。


 すると、いつの間にか現れたタイジロウが、貴族街の門の通行証となるカードをサラとアヤメの為に準備してくれていた。

「これをお持ちください。これで、カマタ男爵家の人間であることが証明できますので」


「あ、ありがとう」

「すごい、いつの間に準備をしてくれたんだろう」

 2人は嬉しそうにカードを受け取ると、街へ出かけていった。


「どうぞ、ブンゾー殿もこれを」

 タイジロウはブンゾーにも渡す。

「ああ、すまない。ありがとう」

 ブンゾーはカードを受け取ると、それを自分のバッグに仕舞った。そして2階に割り当てられた自分の部屋に向かった。


 敏文の屋敷は建物の中央に吹き抜けの階段がある。

【1階】

 来客時の応接間や食堂

 パーティー等を開ける大広間

 マサル、メグミ、ショウノスケ、タイジロウが執務をする執事室

 厨房

 ビリヤードのような遊具や寛ぐためのソファが置かれた喫茶室

 通信室

 使用人達の控室

 

【2階】

 貴族でない庶民の来客用の客室

 使用人達の個室


【3階】

 敏文の寝室と書斎

 貴族の来客があった場合の客室

 敏文が寝室や書斎にいる際の護衛の詰め所


 これ以外に別棟で鍛練の為の建物や馬車小屋や納屋があり、門の横には警備の詰め所がある。


「では、トシフミ様。参りましょう」

 マサルが敏文を3階の書斎へ促した。


 敏文が通された書斎は30畳ほどの広さがあり、敏文用のデスクと応接用のソファの他に、会議ができるような10人ほどが着ける大きなテーブルと椅子が据えられていた。


 敏文は応接用のソファに座る。

「色々と済まない。正直、男爵と言う立場について何も知らないと思って欲しい。だからそのつもりで色々と教えてくれると嬉しい」


「畏まりました。宰相様よりも直々にそのようなご指示を頂戴しております。ご心配なさりませぬよう」

 向かいに座ったマサルが言う。


「ひとつ教えてくれ。君達2人、あるいは使用人達は何処まで知っているんだ? 俺やサラの事情についてだ」

 敏文は2人に尋ねる。


「はい、皆様が探検者としてどのような活動を成されてきたかは勿論、トシフミ様、それにサラ殿の御事情も伺っております。お2人が[異邦の人]であられることも、トシフミ様が精霊を宿されていると言うこともです」

「そうか」


 するとメグミが言う。

「我々20人は、トシフミ様にお仕えするために宰相様直々に指名され、事前に事情等も徹底を受けております。ですので不用意な外部への情報漏洩等は絶対に起こしません。ご信頼いただけると有り難く存じます」


 敏文はほっとした。

「いや、そう言ってもらえると有り難い。勿論信頼させてもらうよ」


「「ありがとうございます」」

 2人は頭を下げた。


「では、ご説明を始めます」


 マサルとメグミはカマタ男爵家が置かれている現状を説明し始めた。


 カマタ男爵家に領地はない。だから、領地からの収入がない。ではどうやって運営していくかというと年1億イェンの資金が国から支給されることになっていた。

 この資金で人件費、食費含めて全ての費用を賄う必要があった。


 爵位を持つ貴族は自前の領地を持つか役職についてその報酬を得るか、あるいはその両方で身代を保っていた。

 敏文の場合は現在そのどちらもない。従って、無役無領の貴族への手当ての基準に沿って支給されたのだ。


「これでやって行けるのか?」

「ええ、領地経営等の無用な経費が掛かりませんのでこの屋敷の維持と使用人達の手当てを戴いても十分にやっていけると思います。ただ……」

「ただ?」

「貴族になられたばかりの方は、交際費がかさむことになる事がよくあるのです。また、貴族の立場に酔われて無駄な見栄を張られた結果支出を増やしてしまうことも」


「なるほどな。俺はあまりそう言う事に興味がないんだが、もし他家から誘いがあったりしたらどうすればいいんだ?」

「もしお許し頂けるのでしたら、我々で事前に対応の要否を整理の上、都度ご裁下を頂くことでいかがでしょうか。無論その内容や判断の根拠は都度ご説明致します」


 敏文は非常に優秀な部下を得たようだ。宰相の配慮に心の中で感謝した。

「わかった。是非そうしてくれ。個別に事情を加えたいときは俺から頼むから」

「「分かりました」」



 その時だった。

「失礼します。ショウノスケでございます。火急のご報告が。宜しいでしょうか」

「ああ、入ってくれ」


 ショウノスケから聞かされたのは敏文に取って、いや、王国の多くの者に取って驚くべきものだった。


「なんだって! そんなばかなっ!」


 それは、「第三王女ナツキ 王族資格の無期限停止と王宮退去命令」というものだったからだ。



 その時、まだ明るかったはずの窓の外が薄暗くなると共に雷鳴が響き、王都には突然大粒の雨が振り出していた。

最後まで読んで下さり本当に本当に感謝します。

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