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第44話 一代男爵

2014.4.18 話を大きく修正しました。

 それから1週間がたった。

 敏文の穴埋め作業も漸く終わり、コーベンの街もほとんどの建物の復旧が終わった。


 建物や街並みは元に戻りつつあるが、元に戻せないものもある。

 王都には約30万人の人口があったが、その内、住民・国軍・探検者合わせて6千人以上の命が喪われた。魔獣が地上に現れた時に近くに探検者や国軍がいなかった西エリアの庶民街、特に下町となる地区の被害が最も多かった。


 今、敏文が穴埋めし整地した練兵場では、王家主催の追悼式が行われようとしていた。練兵場を見下ろす小高い場所には犠牲者の慰霊碑も土魔法士達により建造されている。


 宰相の宣言と共に開始された追悼式は、国王の騒乱の収束宣言と被害者への追悼の言葉で締め括られる。

 亡くなった人々の思いを胸にこれからも生きるとする国王の言葉が出たときは会場からすすり泣く声も聞こえたが、犯人は断固追及するとの宣言によりそれは雄叫びとも歓声とも言えるものに変わる。

 そして、国家の斉唱をもって追悼式典は閉幕した。




(俺達はこれからどう進もうか……)

最近敏文はそう考えることが多くなった。今までの行動は起きた出来事に対するリアクションだった。


 でも、[ミスティック]のリーダーとして、これから4人でどう活動していくかを考えないといけない。

 帰る手段を探すためにまずは空間の精霊を探す必要がある。でも、それは敏文とサラの目的であってチームの目的ではない。


(では通常の依頼を受けてこの国を旅をする?

 それとも、シャハーブを追うことに手を貸す?

 空間の精霊の手がかりはどこに?)


 まだまだ、結論を出すことは出来なさそうだ。


 今日は夜には王宮で今回の騒乱解決に貢献した者に対する論功行賞を兼ねた式典が行われる。そこに敏文達も呼ばれていた。

 今回の事で敏文は、シャハーブを取り逃がしたこと、王都に数多くの死傷者がでたことを考えると素直に「頑張りました! 褒めて褒めて!」という気分にはならない。

 タイガ達の最後についてはケイジから聞いた。他にも住民を守って命を落としたものも多くいる。探検者だけではない。国軍の兵だって多くの者が命を落とした。


 素直に喜べない敏文にダイカクは言う。

「喪われた者達への思いは語り継ぐ必要がある。だが、いつまでも下を向いていることもできない。その為に解決に尽力した者を讃え、区切りをつけることは必要なことなのさ。背筋を真っ直ぐに伸ばして受け止めろ。それだけの事をお前はしたのだ。お前があの地下の魔獣を退けなければ王都は今頃無くなっていた。それは事実なのだ。皆の感謝の気持ちは拒絶すべきものではない。わかるな」


「…………解りました。ありがとうございます」


 夜の式典までは時間があるが、それまでの時間に敏文達はドーセツに呼ばれていた。まだ、今回の評価の結果を聞いていない。だから腕輪は黄色のままだ。


「これから、皆と探検者組合に行ってきます」

「ああ、じゃあまた夜にな」




探検者組合についた敏文達は受付にドーセツへの取次ぎを頼むと、その指示で腕輪を預けることになった。

「黄色も卒業かな」

「そうだね……。結構長くつけていたような気もするけど、1ヶ月ぐらいなんだね。いろいろあったしね」

敏文の言葉にサラも少し思うところがあるようだ。


そして、敏文達は組合長室に入った。

「よう、どうだ。調子は?」

「答えにくい質問ですね……。体調は復活しました。精神的には少し不安定ですかね」

敏文は笑って言う。

「そうか。まあ座ってくれ」


敏文達が席に着くとドーセツは話し始める。

「今回の評価については、俺や組合の評価員たちも相当悩まされた。良い悩みではあるがな」


ドーセツは敏文達を見渡すと告げる。

「まず、トシフミ。お前は青のクラス5に昇格だ」

「え? 青の5?」

「本当は倒した魔獣の評価を合計すると紫のクラス3くらいにはなってしまうんだが、何せ探検者になってから日が経っていない。一発でそこまで引き上げた場合、現在のランク紫の探検者との軋轢が発生する可能性もあるからな。次に手柄を立てたら紫にということだな。だが、王都蹂躙を防いだ功績は他の何物にも代えられない。その分は討伐報酬で上乗せする。この件については、依頼主である国からも了解を得ている」


敏文は驚きを隠せなかった。敏文だけではない、ブンゾーやサラ、アヤメもそうだ。

「凄いね」とサラ。

「青のクラス5かあ」とアヤメ。

「まあ、あれだけ派手にやればな。でもまあ、当然ともいえるか」ブンゾーも頷いている。


「つぎに、サラ。お前は赤のクラス5、ブンゾー、アヤメの二人は赤のクラス4だ」

ドーセツの言葉に3人は驚く。

「え、私達もそんなに上がるの?」


「お前たちは直接の戦闘では、サラは魔獣を二百以上、後の二人は数十単位で排除してくれている。それで言った場合はそれぞれ赤のクラス3と2というところだ」


「なるほど。サラはビッグファングアントを《水流》で流した時とセイランで空から地上のを潰した時の……」

敏文の話にサラは思い出したように言う。

「ああ、あれかあ」


「通常同じチームのメンバーが倒した功績はそのチームの補助あってとの考え方から、その5~10%は加算されるのが通常なんだが、今回のトシフミの掃討数が異常なため、そのままお前たちに上乗せしてしまうと、本来のお前たちのレベルから掛け離れたクラスになってしまう。従ってだ。お前たちのランクだが、それぞれ赤のクラス5と4とすることに決まった。無論、クラスを抑える部分は討伐報酬の上乗せで対応する」


3人はそれでも驚いていた。

「いきなり、クラスが5つや4つも上がるんですか?」

「大丈夫なのかしら?」

「積み上げがない俺達に、赤の5や4の仕事が務まるのか?」


ドーセツは説明する。

「その辺は俺達も考えた。だから、条件を付けさせて貰う。ポイント通りにはランクは上げられないが赤の依頼を数多く受けてくれ。その分は報酬に色を付ける。次に上がるときは、通常のクラスを1つ上がる場合より、相応に高い功績を立ててもらうことになる」


「「「はい」」」


その時、ドアをノックする音がして、秘書と担当者が腕輪と袋を持ってきた。

「それでは、まずは腕輪を」

敏文は青の、3人は赤の腕輪をつける。

「これで、お前たちはチームランク青の[ミスティック]となった。これからも活躍を期待する」


「はい。ありがとうございます」

敏文は代表してドーセツと握手する。


「次に討伐報酬だ」

ドーセツはそう言うと敏文達それぞれに袋と書類を渡す。


書類には倒した魔獣の名前と数、それぞれの報酬、そして上乗せされた金額が書かれていた。

 ビッグファングアント 

  ……7325×1万イェン

 ビグチュラ 

  ……2753×2万イェン

 スカラービ 

  ……3350×2万イェン

 キングクラスト 

  ……825×10万イェン

 ギガスワーム………………などなど


 魔獣討伐報酬計 3億4328万イェン

 特別加算報酬    1500万イェン

 支払報酬計   3億5828万イェン


(ちょ、3億5千万イェン? え、日本の金額にしたら35億円ってこと?)

 さすがに敏文も固まった。ドーセツは敏文の様子を見て苦笑いしている。


「ねえ、サラは幾ら貰ったの?」

アヤメがサラの書類を覗きこんでいる。

「え、440万イェン。凄い金額。これでお買い物がたくさん出来る!」

「いいなあ。私も水魔法使えたらなあ」

「アヤメは幾らなの?」

「187万イェン。でも一晩でだもんね。凄い金額だよこれでも」

アヤメは納得していた。

「俺も似たようなもんだな。ま、お前達ほど買い物に使わないからこれでも充分だよ」

ブンゾーが二人に向かって言う。


そして3人の視線がこちらを向く。

「で、トシフミは?」

アヤメはそう言うと、敏文が手に持つ書類を覗き込む。

「え゛……」


「何どうしたの?」

固まるアヤメを見てサラも覗き込んだ。

「何これ! 桁が二つ違う!」


敏文が袋を覗くとそこには小袋が3つあり、それぞれには白金貨、金貨、銀貨が入っていた。


以前と違い敏文達は安全な収納としての魔収納のバッグをそれぞれに持っている。受け取った報酬は自分のバッグにしまう事にした。ただ白金貨については敏文はチームの共同管理口座に入れてもらう事にした。チームのお金として明確にするためだ。

「これからもお前達には期待している。頼んだぞ」

ドーセツがそう言い、敏文達は順にしっかりと握手して組合長室を後にした。



敏文達は一旦男爵邸に戻って着替える事になった。前回の拝謁と違い今回は予め予定されていたものだ。流石に普段の服装では不味いのだろう。

敏文達は何を着ればよいのか解らない。そこで男爵に頼んで御用達の店を紹介してもらいそこで揃いの礼装を調えた。

淡い藍色の礼服に濃い藍色のマントを肩で留める形のものだ。


そして男爵、ダイカクと共に馬車で王宮に向かった。


「似合うじゃないか」

ニヤリと笑う男爵に敏文は苦笑いで返す。

「堅苦しい服装は疲れます。早く終わって逃げ出したい感じですよ」


「でも、ある意味今日の式典の主役だからなお前は。我慢するんだな」

そう言ってダイカクも笑う。


「でもつい1ヶ月前に探検者になったばかりのお前が、青のクラス5とはな。驚きだな。今回の件では王都を救い、ミヤザの件も含め犯人を突き止めてくれた。感謝するぞ」

「男爵様。でもまだ犯人を捕らえた訳でも倒した訳でもありません。まだ、終わっていない……」

「そうだな。そのシャハーブという男、自在に出没出来るようだ。いつどこに現れるかわからん。気を付けねばな」

ダイカクも呟く。



馬車は王宮に到着し、敏文達は控え室に通された。ここで式典の時間までは待つようだ。



◇◇◇◇◇



「おっと、もうこんな時間か。式典がもうすぐ始まるな」


宰相執務室では、キジマール宰相が紅茶を口にしながら書類の決裁を行っていた。


先程、秘書官から褒賞を受ける者達が順次到着しているとの連絡があった。


キジマール宰相は敏文を自分の部屋に呼ぶように近衛に伝えると、彼がやって来るまで秘書が入れてくれたハーブティーを堪能する。



先日キジマール宰相はマサノブ王、オズーノと[ミスティック]特にトシフミの扱いについて相談した。


「陛下。今回の騒乱における叙勲・褒賞の対象の者はそちらにお示した通りです」

「どれ。うむ、特に違和感はない。ただ、トシフミの横だけ叙勲褒賞の内容が記載されておらんが」

「はい、その件がご相談致したい点でございます。彼が今回の騒乱解決の勲功第一であることに疑いの余地はありません。しかし、既に魔獣の討伐報酬で相当の大金を手にしており、そこにまた褒美として金銭を充てるのは余り効果が薄いのではないかと」


「何を与えれば彼に報い、かつこれからもこの国の為に働いてくれるか……」

マサノブ王は顎髭に手をあてて考えている。


「彼はこの国の人間ではないですからの。今は良いですが、我々との関係が悪くなれば他の国に行くという選択肢を持っております。エグバートという正体不明の敵が現れた以上、彼との関係を失うことは危険ですしの。現にシャハーブなるものに対抗出来たのは彼だけじゃったし」

オズーノの言うことにマサノブ王が頷く。

「彼とは友好な関係を築きたいものだな」


「金銭でない褒賞と言えば爵位、領地、勲章、魔道具、女性……」

キジマール宰相は考える。

(しかしあの男どういう考えの持ち主か未だはっきりせん。物欲で動く男では無さそうだ。もしそうであれば今回の件もっと自分の手柄を主張するだろう。が、それはなかった)


「わしはあの男は物では釣れんような気はするの。女でも難しいかも知れん。向こうの世界に残した家族への思いが強いようじゃ」

オズーノが言う。


「まずは救国紫冠勲章は必要だろうな。ただ、今少しあの男の人となりを知ってみたいとも思っておる」

「畏まりました陛下。では、式典前に私が彼と会いましょう。陛下は隣室で様子をご覧になられますか?」

「そうだな。そうしてくれるか」




(さて、陛下に隣室に起こし頂こうかの……)

キジマール宰相はゆっくりと立ち上がった。


◇◇◇◇◇



敏文達が控え室で待っていると、一人の近衛兵がやって来た。

「[ミスティック]のトシフミ様ですね。宰相閣下がお話があるので、執務室まで起こし頂きたいとのことです」


敏文は皆を残し近衛兵の案内で宰相執務室を訪ねる。

宰相は自分のデスクで書類の決裁をしていた。


「お呼びだと伺い参上しました」

「おお、式典前に済まないの。座ってくれ」


敏文はソファに座る。宰相は立ち上がり敏文の向かいに腰を下ろした。

「さて、今日はよく来てくれた。練兵場の方も綺麗に整備してくれて助かった。お陰で無事に今日の追悼式を行うことが出来た」

「いえ、経緯はどうあれあの穴を開けたのは私ですから」

「そうか。ところでランク青のクラス5になったようじゃな。まずはおめでとうと言うておこうかの」

敏文は少し苦笑いしながら答えた。

「黄色の5からですからね。いきなり10もクラスが上がって本当に大丈夫か? と思っています。私は小心者ですので他の探検者のやっかみが怖いのですよ。また、私自身の力と言うより殆ど宿っている精霊のお陰ですから」


すると、宰相は精霊について聞いてくる。

「お主はこちらに来て1ヶ月程で4人もの精霊を宿したと聞く。これからもまだ増える可能性があるのかの?」

「それは解りません。精霊が宿るにはかなりの量の魔力量と精神力量が必要でありまたその精霊との相性もあるようです」


「此度の犯人であるシャハーブじゃが、また現れた場合、お主以外の者で退ける事が可能じゃろうか」

「申し訳ありませんが、私には解りかねます。私はこの国にどのような力のある人間がいるのか殆ど知りません。紫の中にはもしかしたら対抗出来る方がおられるかも知れない」


「ではお主ではどうじゃ?」

「解りません。ただ、ある程度はやれるとは思います」

すると宰相は笑って言う。

「そこは任せてくれと言って欲しいところじゃがの」

「絶対はありませんよ」


「ところでお主は何故探検者になったのじゃ?」


(何故式典前にこのようなやり取りをしているのだろうか……)

敏文は疑問に思っていた。


「ご存知の通り、私はこの世界の住人ではありません。元の世界に戻れさえすれば、魔法も精霊の力も必要としなくなるでしょう。私はそれでいいのです。ところが何の因果か、私には膨大な魔力と魔法、精霊を宿すという幸運に恵まれました。この力をどの様に使うべきなのか迷っているのも事実です」


敏文は一息つく。宰相の表情は話の続きを促している。

「正直なところ、私が探検者になったのはこの世界で暮らす伝を得るため、それに元の世界に戻る方法を探すためです。それだけ満たされればそれ以上望んではいません。ただ、目の前で罪のない人間が不当な死を迎えるのを黙って見ていられるほど強くもない。出来ることがあるのならやろうとは思っています」


「そうか。だがお主程の力があればこの国で思うままに振る舞うことも出来るであろう。金も栄華も女も簡単に手に入るじゃろう。それは望まんのか?」


キジマール宰相の目がすっと細くなる。

(ああ、なるほど。俺がこの国にとって安全な存在か危険な野獣なのかを探りたいと言うところなのか)

敏文はそう思った。


「私は聖人君子ではありません。美味しいものが食べられれば嬉しいし、誉められれば喜びもします。ですが、今領地に縛られたり、権力を求めたりするつもりはありません。今は元の世界に戻る方法の方が余程大事です。それを探す手段として探検者をやらせてもらえれば」


「そうか。もし私がシャハーブの捕縛ないしは討つことを依頼した場合それを受けてくれるか?」

「それは、国からの命令ですか? それとも探検者への依頼でしょうか?」

「探検者への依頼じゃ」

「そうですか。厳しいとは思いますがお受けするでしょう。彼はこの国の罪のない住民を数千人も死に追いやった人間です。私としても許しがたい」

「そうか。解った」


その時執務室のドアをノックする音がした。

「なんじゃ?」

その声に対してトモナリとは違う補佐官が部屋に入ってきた。


「閣下。そろそろお時間かと」

「おお、そうか。わかった。ではトシフミ。後程、式典での」

「はい」


敏文は退室すると、控え室に戻るため歩きだした。

(宰相の心配も最もだ。俺が敵になったり、権力を狙うような男なら力を与えるわけには行かないし、気を許す事も出来ないだろうからな。シャハーブの件は受けざるを得ないだろうか)



◇◇◇◇◇



「御苦労であった。宰相」

「陛下はどうご覧になられましたか?」

「うむ。今の所は我が国に仇を為すようには見えないな。あくまで今の所はだがな」

「で、彼への褒賞はいかがされますか」

「そうだな、今トシフミを元の世界に戻らせるわけにはいかんな。直ぐに翻意は難しいかもしれんがこの国を離れる事を躊躇うようなしがらみを作る必要があろう……。そのためには致し方ないか。こういうのはどうか…………」


その考えにキジマール宰相の表情が驚きに包まれる。

(なんと陛下も大胆かつ手の込んだことをお考えになるものよ)


「畏まりました。ではそのように手配致します」


(さて、敏文が青になってしまった以上、当初の目論見とは違うがこの国の為にますます働いて貰わねばの)



◇◇◇◇◇



式典はきらびやかなものだった。

殆どの貴族が列席し、貴婦人達は雅に着飾っている。


謁見の間には玉座に向かって左右に貴族や軍属が立ち並び、一段上がった玉座の左右には王族達が並んでいた。その中には初めて見る王妃や、ヨシトモやナツキの姿もあった。


今回の式典で褒賞・叙勲の対象となったのは敏文達を含めて10のチームあるいは組織だ。


 チームランク青[ミスティック]

 チームランク紫[純白の朝顔]

 チームランク紫[獅子の咆哮]

 チームランク青[漆黒の猟犬]

 チームランク青[槍無双]


後は陸海軍の中隊や小隊、最も多くの負傷者の救助にあたった民間の病院だった。


魔法・生物研究所は褒賞は受けているが叙勲まではされない為にこの場で表彰はされない。だが、ダイカクやミシェル、それにオズーノは参列者としてこの場にいる。


貴族たちが並ぶ中を名前を呼ばれた者達が順に玉座の前に進み、作法に従って褒賞を受けていく。


次はケイジ達だった。

彼等は地上戦で当時のランク青の中では最も魔獣を倒し、住民の救助にも貢献したことが叙勲の理由だった。ケイジ自身は今回の評価で紫のクラス1になっていた。


続いて[獅子の咆哮]だ。肩までの長い髪の髭をはやした男がリーダーだ。紫としては[純白の朝顔]より全体のクラスが上になる。


そして[純白の朝顔]が呼ばれた。彼女達は敏文達と出会う前に相当の魔獣を倒していたようだ。それに一緒にいたときのものを含め敏文達以外では最も多くの魔獣を倒している。


「続いてチーム[ミスティック]前へ!」


敏文達が国王の玉座の前にひざまづくと、宰相が評価理由を読み上げる。

「チームミスティックは本件の犯人を突き止め、王都への最終攻撃を防ぐことに多大な功績があった。よって全員に敢闘黄綬勲章を授ける。更に報酬として各自に百万イェンを賜るものとする」

「「「「はっ。有り難く」」」」


敏文達が勲章を胸につけられ、報酬を受け取った所で下がろうとしたところ、敏文だけが呼び止められた。


「[ミスティック]リーダーのトシフミはその場に残るように。後の者は下がってよい」

敏文は3人と顔を見合わせるが、仕方なくその場に残った。

式典会場はざわついている。


国王がその場を鎮めるような大きな声を出す。

「皆の者、静まれい。まだ叙勲は終わっておらん。宰相、続けよ」


「畏まりました。陛下」

宰相は敏文に向き直る。

「[ミスティック]リーダー、トシフミ。汝は今回の騒乱において、犯人を突き止め、撃退し逃亡に至らしめたこと、並びに犯人が王都に放とうとした魔獣1万6千5百匹をその一人の力にて葬り、王都を魔獣の蹂躙から救いしこと誠にあっぱれ至極。よってここに救国紫冠勲章を授けると共に一代男爵の爵位を授ける。尚、爵位に伴う所領は与えぬが王都に屋敷を遣わす」


「へっ?」

敏文は間の抜けた返事をしてしまう。


会場は騒然とした。

「1万6千5百もの魔獣を一人でなど本当なのか?」

「探検者からいきなり一代男爵とは!」

「救国紫冠勲章は先代の国王の際でさえなかった筈だぞ。それを探検者に与えると言うのか!」


「静まれぃ!」

国王の一喝で会場は静まり返る。

「この者が魔獣を撃退した記録は探検者組合で確認されておる。その記録が1万6千5百と示しておるのじゃ!」

宰相が説明する。


「どうやってそんな数の魔獣を一人で倒すと言うのです! そんな話が簡単に信じられますか!」

「噂ではそのトシフミなるもの精霊使いと言うことじゃが本当なのじゃろうか? 胡散臭くはないか。」


その言葉にナツキが叫んだ。

「あなた達は、何も知らないくせに何故そのような無責任な物言いが出来るのです! あの練兵場に上がった炎の柱が見えなかったのですか? あの地下空洞にいた虫の魔獣達の気味悪さ、あの膨大な数が王都を襲っていれば今あなた方はここにはいられなかったはずです! それを除いてくれた恩人に対して失礼ではありませんか!」


その時、キドー公爵が口を挟んだ。

「落ち着きなさいませナツキ様。お前たちも発言を慎むのだ」

会場は静かになった。

キドー公爵はナツキに向かって話しかける。

「ところでナツキ様。先程のお話些か腑に落ちぬ事がございます。まるで地下空洞の魔獣とやらを貴女ご自身でご覧になったかのような口振りでした。あの時は確か陛下の生誕を祝って王族は全てここで舞踏会に出席されていたはず。どういうことですか? まさか舞踏会に参加されておられなかったとでも?」


「ナツキ、どういうことですか!」

王妃がナツキを詰問する。


「あ、いえ、それは…………」


(これは下手に口を挟めない。どうすればいい……)

敏文もとっさに反応ができない。


すると、国王が溜め息をつきながら言った。

「ナツキ、生誕祭の舞踏会は王室の公式行事だ。もし無断で身代わりを立てて欠席したのであれば厳罰は免れぬな。後程事情を聞かせてもらおう。下がっておれ」


「……はい」

ナツキは青ざめた顔で退室した。


(内々の時は笑っていた国王も公の場での話になってしまってはああ言うしかないか。ナツキが時間通りに帰れなかった責任は俺にもある。どうすれば……)


「さて晴れの式典に水を挿してしまったな。改めて伝えるがこの者の偉業は間近で見ておったものの証言が多数ある。かつ、その魔獣の討伐数は探検者組合でも確認している。従って余はこの褒賞を決めたのだ。これに異があるものは申して見よ!」


会場は静まりかえったままだ。

(これじゃ、爵位を受けなければ国王の面子を潰してしまうじゃないか。引くに引けない)

敏文は動揺していた。万一身に余る褒章を受けた場合は辞退しようと思っていたのだ。だが、ここで辞退しては、国王の立場がない。


「トシフミ。受けてくれるな」

国王が言う。

「…………謹んでお引き受け致します」

敏文はそう答えるしか選択肢がなかった。



式典が終わった直後、会場を変えて舞踏会が開かれた。

こういった場に慣れない敏文にはあまり居心地がいい場所ではない。

場慣れした貴族たちは、流れる音楽に合わせてダンスを始める。敏文は会場の端で皆とその様子を眺めていた。


「何だかトシフミ元気がないね」

「やっぱりナツキ様があんなことになったからかな。私のせいだよね。私が夜のパレードの話をしなければ……」

アヤメが落ち込む。

「いや、アヤメのせいではない。国王だって内輪の時はそんなに怒った素振りではなかった。ただ、公の場であの話はしてはいけなかったのだ。そこをナツキ様は誤った」

ダイカクがアヤメの頭に手を置きながら言った。


そこにケイジ達が現れた。

「よう男爵。随分と元気がないじゃないか」

ケイジの言葉に敏文は溜め息をつく。

「物事は思うようにはいかないのものだな。こんな展開になろうとは」


ミサキ達もやって来た。

「トシフミ、男爵就任おめでとうございます」

「祝ってくれるのはありがたいけど、いきなりなんで実感ないよ」

「実感なんてそのうち湧くんじゃない?」

カオリが言う。

「そうかも知れないな。ありがとう」



「もしよろしければ1曲踊っていただけないかしら」

流れている曲が切れた瞬間、ミサキが誘ってきた。敏文はあまり気乗りはしなかったが断るのも失礼だ。にこやかに微笑むミサキを見て思う。

(俺はダンスなんて……あ、そうか)

『タクミ』

『あるよ。トシフミにダンス全般の技を!』


「お受けします。不慣れだがよろしく」

敏文はそう言うと、ミサキの手を取り会場の中へと進んだ。


ステップを踏みながら敏文の顔をミサキが覗き込む。

「浮かない顔ですね。私とではつまらないでしょうか?」

(しまった。顔に出ていたのか)

「いや、そんなことはない。貴女のような方とダンス出来るなんてとても光栄さ」

ミサキは不安気だ。ステップを踏みながら聞いてくる。

「男爵になったことが不満なのですか?」

「いや」 

「では、ナツキ様の事が心配?」

「気にならないと言えば嘘になるな」

「大丈夫だと思いますわ。父の話では国王はナツキ様の事を常に気にかけています。悪いようにはならないと思いますわ」


ミサキに悪いことをしたと考えた敏文は詫びた。

「済まなかった。君とのダンスに集中しよう。このお詫びはいずれ何かで埋め合わせしよう」

「フフ、お願いします。とっても高く付きますよ。楽しみにしてますわ」



その後、順番に[純白の朝顔]の3人とサラ、アヤメとも踊ることになる。

「意外だね。トシフミ凄く上手いじゃない」とはカオリ。

「リードしてくださってありがとうございました」とシオリは赤い顔で言う。

「トシフミ、ダンスなんて踊れたんだ。あ、そうか。タクミくんの仕業ね」

サラも笑う。


それが終わって飲み物に手をつけようとした時だった。

「見事なお手前ですな。男爵殿。よろしければ、私の娘とも踊っていただけませんかな」

「では、その次に私の娘とも!」

(あ、もしかしてこれは断ってはいけない展開?)


それからは次々と現れる貴族とその娘の名前と顔を覚えるのにトモエの力を借りつつなんとか凌ぐことができた。


何とか一息ついた時だった。

「見事なステップだな。余の娘ともよいかな」

振り返るとそこには国王とナツキがいた。


「ええ、喜んで」


敏文はナツキの手を取ると会場の中心に進む。すると流れる曲が変わり、同時に周りで踊っていた人々がすっと脇へ下がっていく。


(あれ、俺達だけ?)


少し動揺する敏文にナツキが話しかける。

「よろしくお願いいたします」

「ええ」


敏文達は流れる曲に合わせてステップを始める。


「トシフミ様、先程は晴れの舞台に傷をつけてしまい済みませんでした」

「いや、気にしないでください。むしろナツキ様の方が」

「私は大丈夫です。私は今日のこの場であなたと踊れることを楽しみにしていました。とても。ですから楽しく笑顔で踊らせてください」

「ええ、喜んで」


敏文は曲が終るまでただナツキをリードし続け、ナツキは最後まで溢れんばかりの笑顔でそれに応えていた。


そして曲が終わったその時、会場からはため息と拍手が起こっていた。


敏文はナツキと笑顔で型通りの礼を行う。


その時だった。

舞踏会の会場に声が響き渡る。

「美女とダンスとはいい身分になったものだな!」


「その声はっ! シャハーブかっ!」

敏文は叫ぶ。


すると舞踏会会場、敏文とナツキの目の前にシャハーブが現れた。


「なっ、何処から現れた!」

「近衛は何をしていた!」

「陛下をお守りしろっ!」


会場は騒然となる。


敏文はナツキを庇いながら、シャハーブの前に立ちはだかって言う。

「何しにきたっ!」


するとシャハーブは笑いながら言う。

「なに、今日は挨拶と忠告だけだ。この前はお前のせいで俺はマフナーズ様のお叱りを受けるはめになってな。また近いうちに必ずこのホーエンの怠惰を戒める行動を起こす! それまではせいぜいダンスでも楽しんでおればよいさ」


すると、国王が近衛に守られながら近づいてくる。そして叫んだ。

「お前がシャハーブか! お前やお前の王シダーグとやらの目的はなんだっ!」


シャハーブは不敵に笑う。

「これはホーエン国王のお出ましか。我が名はシャハーブ。エグバートの王、シダーグ様に使えるものよ。俺の話は伝わっているか? 俺はシダーグ様の意思を遂行するためにこうしてホーエンくんだりまでやって来ている。我々の目的はローメリア全体の改革だ! 強きものが支配する世界を作るためにな!」


「お前らの好きにはさせん!」

タチバナ伯爵が叫ぶ。


「そもそもエグバートなる国など聞いたこともないわっ! どこにあるというのだ! 戯れ言を申すな!」

オイワ伯爵も叫んだ。


「ほう、エグバートを知らんか。くくくっ、自分で探すのだな。まあ、そのうち嫌でも知ることになるさ」

シャハーブが会場を見回しながら言う。


その時だった。

「賊徒めっ! 覚悟っ!」

そう言ってシャハーブに斬りかかった者がいた。


シャハーブはふんと鼻で笑うとその剣をするりとかわし、斬りかかった男の首筋に手刀を入れる。


その男はシャハーブの足元に崩れ落ちた。

そこに倒れたのはキヨノブだった。

「キヨノブっ!」「お兄様っ!」

国王とナツキが叫ぶ。


「ふん、他愛もない。ん、この男は……。ふふふっ、面白いことを思い付いたわっ」

シャハーブはそう言うと、倒れているキヨノブに向けてその手をかざしてなにやら呟いた。

するとその手から黒い靄のようなものが現れキヨノブを包み込む。

そしてそれが晴れたとき、キヨノブが立ち上がった。

その目は赤く妖しく光り、焦点が合っていない。そしてまた崩れ落ちた。


「ふふふっ、面白くなってきたな。また近いうちにまみえるとしよう。ふははははは」


そう言うとシャハーブは直ぐに姿を消した。


「くそっ! シャハーブっ!」

敏文は靴の踵で床をける。


「……あの男が、あれが敵なのか」

国王が敏文に尋ねる。

「ええ、王都の地下であった騒動の犯人はあの男です」



「キヨノブ様っ!」

「お兄様っ! しっかりしてください!」


近衛やナツキが倒れているキヨノブに駆け寄る。

「おい、魔法医を直ぐに!」

「キヨノブ様をお運びしろっ!」


舞踏会の会場は騒然としたままだ。

国王が会場に向かって叫ぶ。

「済まんが今宵の舞踏会はここまでとする。ここで起こったことは、他言無用とする。破りしものには厳罰が下るものと思ってくれ。よいな!」

「はっ!」

男女問わず会場中の者達が唱和した。

最後まで読んで下さりありがとうございます。

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