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第42話 騒乱の後始末

2014.4.18 話を大きく修正しました。

 敏文は今、練兵場の地下にいた。何をやろうとしているかと言うと、一言で言えば“穴埋め”だ。


 そう。あのシャハーブや虫魔獣てんこ盛りと戦ったあの場所を元通りにする作業を始めようとしていた。

 穴の大きさは縦横の直径が大体150メル、高さが100メルぐらいだ。シャハーブがいた地下空洞の高さが大体30メルぐらいあったから、70メル分の土砂があの爆発でふきとんだことになる。

 それを敏文一人で元に戻さなければいけなくなった。



 何で一人でやっているかと言うと、生き残った土魔法士達や騒乱後に各地から応援に駆けつけた土魔法士達は、壊された家々や道路、橋などの修復作業を行っていたからだ。


 王都の建築物は石造りや土煉瓦造りの物がほとんどなため、土魔法で修復が出来た。


 敏文も最初は王都の地下に縦横に作られてしまった魔獣達の通り道を埋める作業についていたのだが、粗方目処がついた所で、早く避難民をそれぞれの家に戻すため、壊された家々の再建に着手することになった。


 敏文も手伝おうとしたのだが、微妙な家の作りについては、やはりこういう作業の経験がある土魔法士がいいらしく、敏文はお役御免となった。


 そこで陸軍卿直々に仰せつかったのが今やろうとしている練兵場の修復だった。要は自分で大穴開けたんだから自分でかたづけるようにと言うことだろう。


(陸軍卿直々に言われてはな。た、確かに開けたのは俺だけどさ……。どれくらい作業にかかるんだろう)

 敏文は些か愚痴りたくなるところをぐっと堪える。


「なあ、タクミ。大穴を一気に埋める技とかな……」

『ないよ!』


「あ、そう……」


『今回は僕達手伝いたくても出来る事ないから、温かく見守る事にするよ』

 コウが言う。

「え、見てるだけ?」

『ええ』

『頑張ってね~』

 セイランとトモエもそのつもりのようだ。


「はあ、仕方ないか」


 敏文はうなだれながら土魔法を使い始めた。



◇◇◇◇◇



 時を遡ること5日。魔獣掃討を終えた後、敏文は最初に探検者組合に連絡を入れ、自分の探知であり確定ではないがと前置きした上で、王都内に魔獣の気配が感じられなくなったことを伝えた。

 ドーセツ達は歓声を上げたが、敏文の念押しに最後の確認は国軍と協力して探検者組合でも行うと約束した。


「後で報告に来いよ。お前達が何をやったのかぜひ教えてくれ」

 そう言うドーセツに敏文は疲れもあるので翌日報告に行く旨を伝えて通信を切った。


 その後敏文は大変な思いをすることになる。


 まず港前でケイジ達と話しているときに、ナツキが一緒にいることで騒ぎが発生した。

「おい、あそこにいるのはナツキ様じゃないのか?」

「まさかぁ。ナツキ様は今王宮にいるんじゃないのか?」

「いや、俺ナツキ様のファンなんだよ。見間違えるはずはねえ!」

 そう言って近付いて来た探検者が、しげしげとナツキを見つめて叫んだ。

「やっぱりナツキ様だ! こんなに近くでお顔を見れるなんてっ!」

 そう言って凄い顔をして突進してくる。

「何だってっ! どこだ、どこにいらっしゃる!」

 他の探検者達も20人ほど走ってくる。その顔はとても殺気立っている。


「ひっ!」

 あまりの勢いにナツキは引きつった顔をして慌てて敏文の後ろに隠れた。


 すると、探検者達が騒ぎ出したのだ。

「あの、ナツキ様のお姿を遮っている奴は誰だ!」

「おい、あいつ黄色だぞ。なんだってあんな奴がナツキ様と一緒に……」

「お前なんだよ! そこどけよ!」


 ケイジも一緒に宥めにかかったのだが、だんだん人数が増えてくる。

 敏文はアイドルのファンにもみくちゃにされる警備員の心境が少しだけ判ったような気がした。殺気立っている男達は全く言うことを聞かない。


 すると騒ぎを聞きつけて鎮めに来た国軍兵が、敏文をナツキの誘拐犯だと勘違いして連行しようとしたのだ。


「何故、このような場所にナツキ様が……さては、お前ナツキ様を誘拐したな! おい、この不届きな男をひっ捕らえろ! ナツキ様をお守りするんだっ!!」

「おう!!」


 国軍の兵までが自分に向かって殺到してくる状況に敏文は混乱する。

「いや、違うから。誘拐してないって! 誤解だ誤解! ちょっ、話を聞けって!」


「違います! みんな落ち着いて!」

 サラが叫ぶ。


「皆さん聞いてください……」

 後ろから、ナツキも兵士達を宥めようとしたのだが、声が通らなくて一向に探検者達や兵士達の殺気と行動は収まらない。


 そこにシンジローやダイカク達が到着した。

「ナツキ様っ! 何事です!」とシンジロー。

「おい、どうしたんだ! なんで騒ぎになっている!」とダイカク。

「え、トシフミなんでこんなことに? ちょっとあんた達トシフミに何すんの!」

 アヤメは、敏文を捕まえようとしてコートの袖をつかんでいる兵士に向かって突っかかっていく。


 更に騒ぎを聞き付けた近衛兵の部隊が入り交じって阿鼻叫喚な状況になってしまった。

「おい! あの騒ぎからナツキ様をお守りしろ!!」


 国軍兵や探検者達と敏文達の間に割って入ろうとする。もう何がなんだかめちゃくちゃだ。


 その時だ。

 ザッパーーーーーーーーーーン。

 騒いでいる兵士や探検者達の上に大量の水がぶっ掛けられる。敏文やケイジ、アヤメやダイカクまでがずぶぬれになってしまった。《水流》の魔法のようだ。


 そして、その行動の主は、怒りにプルプル震えながら、さっきとは比べ物にならない大きな声で叫んだ。

「いいかんげんしてっ! 私の話が聞けないというのっ!」


 その瞬間、皆ピタリと動きを止めて、恐る恐るナツキの方を見る。

「まず、国軍の兵の皆さん! ここにいるトシフミ様は誘拐犯ではありませんっ! だから捕らえることは私が許しませんっ! この隊の隊長はだれですっ!」

 国軍兵達がじぃーっと一人の兵士の方を見る。見られた兵士はナツキの怒りにかちこちになってシャチホコばった。

「は、はい。しょ、小官が、た、隊長であります……」

「あなたがトシフミ様を誘拐犯にしたのですか……いいですねっ!」

「は、はいっ!」

 隊長はカチコチのままだ。


 次にナツキは探検者たちに向かって、自分を見て喜んでくれるのは嬉しいが、突進されるととても怖いのでやめてほしいと訴える。

 探検者達もしぶしぶ了解した。


 そして、近衛兵達には、自分達が王宮に帰る手はずを整えるよう命令する。

 何人かの近衛兵が走っていく中、残った近衛はシンジローの指示に従い、ナツキの警護につく。


「ふう、助かった……」

 敏文はまさか国軍兵や同業の探検者をぶっとばすわけにも行かず、困り果てていたのでホッとしていた。


 魔法で濡れた服を乾かしているとナツキが謝ってきた。

「すみません。私がついてきたばかりに……」

「いえ、ナツキ様のせいではありませんよ。それだけ国民に人気があるってことじゃないですか。この国のお姫様なんだから当然ですよ」

 敏文はそう言って宥める。


 少しすると王宮から近衛の馬車が到着した。

 ナツキとシンジロー、カズミは王宮に帰るということなのでそれを見送り、敏文達は何処かで休憩をしようとダイカクやミサキ達も交えて話していると、近衛兵が敏文達のところにやってきて別立てで用意された馬車に敏文達も乗るように言う。


「え、俺達もですか?」

「そうだ。宰相閣下よりのご命令でな。「この度の事情につき、詳細を説明せよ」とのことだ。ちなみにこの度の事情とは、魔獣との戦闘のこともさることながら、練兵場が火に包まれ大穴が開いた件、並びにナツキ様が貴殿達とご一緒であった点もあわせて説明するようにとの仰せであった」

「え゛、それ俺が説明するの?」

「というわけなので、[ミスティック]、[純白の朝顔]とダイカク殿、ミシェル殿は同行願おう」


 敏文達はそう言う近衛兵に馬車に押し込まれ、王宮へと連れて行かれることになってしまった。


(休ませてくれないのか……。宰相になんて言い訳を、もとい説明をすればいいんだろうか……)

 敏文はみんなを見渡すが、誰も顔を合わせない。


 敏文はひとつ大きな溜め息をついた。


◇◇◇◇◇


 敏文達は王宮に着くと、まず控え室に通された。だが、すぐに呼び出しを受ける。

 そして連れて行かれたのは、玉座が置かれた少し小さめの部屋だった。


(え、玉座があるということは宰相だけじゃなくて王様にも説明するってこと?)

 敏文はたじろぐ。


「ダイカクさん。俺どうすれば……」

「自分で考えろ。俺は最初からかかわっているわけではない。全部など説明出来んし、そもそも、ナツキ様の件は俺は預かり知らんことだ」


(ダイカク冷たい……。針の筵じゃないか……。どうしてこうなる……)


 そして敏文達が控える部屋の扉が開かれた。


 入って来たのは国王や宰相だけではなく、陸軍卿や海軍卿、第一王子のキヨノブ、第二王子のヨシトモ、副宰相、宰相補トモナリ、財務卿、工務卿、オズーノそれにナツキだった。ナツキの後ろにはシンジローとカズミも控えている。


 敏文達は発言が許可されるまで頭を垂れて控えていた。


 そして扉が閉まる音がした時、国王から声がかかった。

「皆の者、面を上げよ」


 敏文が顔を上げると、国王がゆったりと玉座に座っていた。前回王室専用船を守りきったことで褒美を受けた時は、あまりしっかり見ることも出来ずに下がることになったが、よく見ると恰幅がよいが少し小柄な人物だ。蓄えた髭は立派で、一般的に日本人が物語でイメージする王様そのものの雰囲気ではある。


「今回そなた達を呼んだのは他でもない。昨日から王都で発生した魔獣による襲撃について、そなた達が見知った事を伝えてもらうためだ」

 国王が敏文を見ながらそう言った。


「トシフミよ、説明してくれ」

 キジマール宰相が敏文に求めた。


「畏まりました」

 敏文はふうっと一息つくと話を始める。

「私達はこの度の一連の出来事を起こした男に練兵場の地下にあった空洞で遭遇しました」

「なんと! まことか! してその男は!」

「残念ながら討ち果たすこと出来ず、取り逃がしました」

「そうか……」

 国王は残念そうだ。


「その男の名はシャハーブ。エグバートという国のシダーグという王に仕える者でマフナーズの弟子だと名乗りました」

「エグバート? 誰か聞いたことのある者はおるか?」


 国王の言葉に皆首を傾げる。

 国王の視線を受けた宰相が考えを話し始める。

「サヘール、シナドールの両大陸並びにその周辺にそのような国はありません。そうなれば北海か南海の我らが未到と考えている場所に有るのかも知れませぬな」


「シャハーブはこの国の食糧が溢れ、治安が良い状況について怠惰だと叫んでおりました。その裏を返せば恐らくエグバートは食糧に乏しく、治安が悪いのでしょう。今回現れた様な魔獣が跳梁跋扈する国なのかも知れません」

 敏文はシャハーブが叫んでいた光景を思い出しながら答えた。


「他には何か言っておったか?」

 宰相は敏文に尋ねる。

「彼の仕える王シダーグは、このローメリア全土を彼らの考える強きものが生きる土地に変えると。その為にまずは手始めにホーエンに魔獣を放ち、この国を怠惰な状況から変えるのだということを言っておりました。そしてホーエンで起こった9つの魔道具関連の事件のうち、1つ、王室専用船の事件を除いた8つは奴とその手の者によるものだそうです」

 敏文がそう答えると、宰相が呟いた。

「なんと。そのシャハーブが一連の事件の犯人であったのか。では、ナツキ様を襲ったのは誰の仕業なのだ?」


 そこでオイワ伯爵が言う。

「それ程大層なことを言ったが、奴が準備した魔獣では王都を落とす事も出来なかった。なんとか国軍と探検者達の活躍で退けることができたようだな」


「その点ですが……」

 ナツキが話し始める。

「練兵場の地下深く、私達がそのシャハーブに出会った地下空洞には、物凄い数の虫魔獣が蠢いていて、まさにこれから王都を蹂躙しようとしているところだったのです」


「何だと!」

 国王が驚きの声をあげる。

「トシフミ、どの位の数の魔獣がいたのだ?」

 タチバナ伯爵の問いに敏文は答える。

「おそらく、1万は軽く超えていたと思われます」


「なんじゃと!」

「それは真か!」

 国王だけではなく閣僚達もみな全員が驚きの声をあげた。


 オズーノはミシェルに聞く。

「間違いないのじゃな」

「ええ、私もそれくらいいたと考えます」



「そんな数が地上に現れていれば……」

 ガトー子爵の呟きに、オイワ伯爵はため息をついて続ける。

「王都駐留の国軍ではとても対応できん。魔獣に蹂躙されるな」


「そなた達どうやってそんな数の魔獣を始末したのじゃ?」

 国王が敏文に問いかける。


 敏文は宰相の顔を見る。すると、宰相は国王に向かってこう言った。

「先日、王室専用船が襲われた際、ここにいるチーム[ミスティック]が、ナツキ様をお救いした件についてご報告申し上げたと存じます」

「おお、何でも大きな蒼い鳥で現れ、炎の魔法で魔獣たちを退治したというておったな」

「はい、そのチームリーダーであるこのトシフミは精霊を宿しておる者にございます」

「なんと精霊を宿しておるのか。なるほど、そうか。その精霊の力で……」

 国王は感心したように敏文の顔を見る。


「空洞内でシャハーブ本人と戦った私は後少しというところで奴に逃げられました。そして奴は魔獣達に王都を蹂躙するよう指示して姿を消したのです。魔獣達が地上に上がろうと蠢き始めましたので、今使うことの出来る最強の魔法を行使し魔獣の殲滅を図りました。その結果が…………」

 敏文が言いにくそうに話すとオイワ伯爵が後を継いだ。

「あの練兵場の炎の柱と言うわけか」

「はい」


 その時オズーノがミサキに問いかける。

「[純白の朝顔]としてはその魔法を見てどうであった?」

 ミサキは少しうつむき加減に話す。

「正直、驚きの一言です。炎と風の二つの龍が荒れ狂い、魔獣達を切り裂き、焼き尽くす様を見て呆然とさせられました。あのような威力の魔法は初めて目にいたしました」

「ほう、お前達から見てもそうであったか」

「はい、お父様。それに私達が4人で全くかなわなかったシャハーブという男。それにそのシャハーブを私達がほとんど見えない程の物凄い速さと槍さばきで追い詰めたトシフミ殿の力を見て私達がまだまだであることを実感させられました」


「ほう、ランク紫のそなた達でもかなわなかったのか。そのシャハーブという男に。それは追跡をさせるのに余程の者を充てねばならんな」

 トモナリが顎に手を当てて言う。


 敏文にはさっきなにか聞き捨てならない一言が聞こえた気がする。

「お父様?」

 敏文のその反応にトモナリが笑い出す。

「知らなかったのですか。オズーノ殿の娘達で構成されているのが[純白の朝顔]であることを」


 敏文は驚いてサラと顔を見合せる。


「正直、失礼ながら昨日の夜までチームの名前すら。国軍の兵からはそれでモグリの探検者だと言われまして」


「その実力に加えて、皆あの美貌なのでな。オズーノ殿の娘達であることもあって探検者達でなくとも有名なのさ」

 タチバナ伯爵が補足した。

「そうでしたか……」


 そこでキヨノブが、突然発言した。

「皆はそのトシフミなる者の話を鵜呑みにしている様だか、本当に信用出来る者なのか? 父上、私は精霊を使えるというこの男の話が眉唾に聞こえるのですが」


 これが以前ダイカクや男爵が言っていた闇雲に突撃を命じて兵を危険に晒した上に手柄だけはさらっていったという第一王子だった。


 ダイカクも苦笑いしているな。


 敏文はコウ達に4人とも姿を現すように頼んだ。

 突然現れた4人の姿に、国王やキヨノブを始め、今までコウ達の姿を見たことがなかった者達が驚く。

「キヨノブ様。これでご信用頂けないでしょうか?」

 敏文の話にキヨノブはまだ食い下がる。

「いや、この度の事がこの者の自作自演の可能性も…………」


 その言葉にアヤメが反応しかけるが敏文が手で抑える。しかしナツキが反応した。


「お兄様! 犯人であるシャハーブの姿は私やダイカク様、ミシェル様、[純白の朝顔]の皆さんも見ているのですよ! お兄様はそれでも王都を守って下さったトシフミ様を犯人扱いされるのですか! 私も含めて信用出来ないとでも仰りたいのですか!」

 ナツキは怒りのあまり小刻みに震えている。


「落ち着きなさいナツキ。そしてキヨノブは言葉を慎め。今までの話を聞き、精霊の姿を見て、それだけの数の者が目撃したものがおるのだ」


 一礼をしたキヨノブはそれ以上発言はしなかったが、何だかこちらを睨んでいる。何だか気を付けた方が良さそうな気がしてきた。


「ところで何故練兵場の地下に、そのような者達がおるとわかったのだ?」

 国王が俺達に問う。


 敏文は地下の異常な魔力の流れを追っていたダイカクから連絡を受けて練兵場へ向かうことにしたことを話した。 

 宰相がオズーノに向かって尋ねる。

「その魔力の流れの異常はいつから出ておったのか?」

「兆候が出たのは2ヶ月程前からじゃ。ホーエン各地で魔道具の事件が出始めたころと一致しておりますな。魔導樹が地中に取り込む魔力の量が異常に増えたのじゃ。ただ、それが強くなったのはこの数日でな。そこで、研究所の者達だけではなく、王都におったダイカクにも手伝ってもらったというわけじゃ」

「そうか」


「その原因はシャハーブでした。その地下空洞の中に祭壇のようなものがあり、そこには巨大な散魔石が置かれていました。恐らくその散魔石が地中の魔力を吸いとっていたものと考えます。そしてその魔力が闇の力となって魔獣を作り上げたのではないかと考えます。そう言えばシャハーブは3ヶ月前からこの準備を始めたと言っておりました」

 敏文の報告に皆驚きを隠せない。


「僅か3ヶ月でそのような数の魔獣を生み出せるというのか。次にいつシャハーブが仕掛けてくるか判らんということだな」

 ヨシトモが言ったその言葉にタチバナ伯爵やオイワ伯爵らが頷いている。


「皆、早急に対策を考えねばな」

「「「「「はっ!」」」」」

 国王の言葉に宰相達が返答する。


「ところで、最後に聞かせてくれ。そなた達はどうしてナツキを連れておったのか?」

 国王が敏文に向かって聞いてきた。


 敏文が困った顔をしてヨシトモを見ると、国王が大声で笑い出す。

「はっはっはっ! そう困った顔をするな。ここにはあえて身内に近いものしか呼んでおらん。であるからして体面は気にせずともよい。ここにおる者達はここで話されることをわしが許すまでは口外無用とすることに同意しておる。それに既に大体はヨシトモが白状してわかっておるしの」


 敏文は少しだけ安心して、シンジローやカズミの動きを見つけた所から、ヨシトモ、ナツキの二人の姿を変えて祭りを楽しんで頂いたことを話す。

「ほう、そんな魔道具があるとはな。今度わしも使ってみようかな」

「おやめください。警備の近衛の負担になりますれば。もし、マサノブ様になにかあればなんとされます」

 その宰相の言葉に、国王は苦笑いをしながら両手を広げる。

「国王とは不便なものでな」


 そして、ヨシトモが帰ったあとナツキが街の民衆達の様子に感動していたことなどを伝えると国王は呟く。

「そうか。民衆は祝ってくれておったか」

「ええ、国歌を歌いながら国王万歳の言葉が叫ばれるのを聞いてとても感動いたしました」

 ナツキがあの場面を思い出しながら話した。


 敏文は話を続ける。

「最初はナツキ様を王宮にお送りしてから練兵場に向かうつもりでしたが、どうしても王都に被害をもたらした犯人が許せないから一緒にというナツキ様のご要望にお応えする形で一緒にお連れしてしまいました。申し訳のしようもございません」

「成る程な。そなた達はナツキの言葉にやむを得ずというところであったか。さもあろう。この娘は一度言い出したらなかなか自分の主張を曲げぬものでな。困っておるところよ」

 国王がニヤニヤしながらナツキを見ている。少しナツキはむくれているようだ。


「ただなナツキよ。身内とは言え生誕祭の舞踏会は王室の公式な行事だ。それをないがしろにされては困るな。また、お主の身勝手で近衛には迷惑をかけておるようだ」

「すみません。お父様」

「何らかの罰を受けてはもらうぞ」

「はい」


 国王は敏文達の方を向くと言った。

「そなた達の働きには感謝する。王都が落ち着き次第、報いる事としよう。それとダイカク」

 国王は改めてダイカクに言う。

「そなたは王室に思うところがあろうにも関わらず、この度はよく協力してくれた。礼を申す。この件はまだまだ解決には時間がかかりそうだ。済まないが民の安全な暮らしを守る為にも引き続き協力してくれんか」

「畏まりました。オズーノ様のご指示に従わせて頂きます」

 ダイカクは表情を変えずに答えた。


「では我々は為すべき事をするとしよう。先ずは王都の復旧だ。それと並行して事件の調査とシャハーブとやらの捜索を行うように。皆、大儀であった」

 国王は退室し、残された敏文達も近衛の誘導で退出しようとした時だった。


「トシフミ。済まんが話がある」

 呼び止めたのはオイワ伯爵だった。

「街の復旧が優先ではあるがエグバートとやらの戦いに備える為にも兵の訓練は欠かせなくてな」

「はい」

「そこで練兵場なんだが、あのままでは訓練が出来ん。お主土魔法が使えるのであろう。また持っておる魔力も桁違いと聞いておる。あの穴何とかしてくれんか」

「…………はい、畏まりました。ただ魔力が戻るのに3日ほどかかります。それからでよろしいでしょうか」

「ああ、頼んだぞ」

 オイワ伯爵はそう言うと去って行った。


 敏文はダイカクに肩をポンと叩かれた。

「ま、開けちまったんだから、埋めないとな。済まんが土魔法は使えんのでな、頑張ってくれ」

「……はい」



 そうして敏文達は王宮を後にした。


 王宮を出た敏文達は庶民街まで疲れた体を引きずりながら歩いて行く。


 途中、ミサキが敏文に話し掛けてきた。

「トシフミ。私達と《遠話の腕輪》の登録をしてもらえませんか? これからエグバートとの対応だけでなく色々と協力し合えるように」

「ああ。わかった」

 敏文は妹達が少し驚く様子が気になったがは4人とお互いを登録した。サラやアヤメも登録しあっているようだ。


 そして庶民街についたところで[純白の朝顔]とは別れる。

 ミサキは敏文に手を振りながら言った。

「今度私と手合わせを願えませんか。私もまだ修練が足りないようですので」

 すると妹達も自分もやりたいと言い出した。

「解ったよ。王都が落ち着いて俺の作業が終わったらな」


 そう言って敏文と彼女達は別れて歩き出した。


「さ、男爵邸に帰ろうか」

 そう言う敏文にアヤメとサラが剣呑な目を向けてくる。

「なんかトシフミ、鼻の下伸ばしてない?」

「ミサキさん美人だし、妹達も綺麗よね。ほんとに剣の修練だけなのかしら?」


「おいおい。それだけだよ」

 敏文はそう答えるが二人は笑いながら言う。

「「どうだかね~」」


「おい、キキョウやマリカ達も待ってる。早く帰るぞ」

 ダイカクにそう言われ、敏文達は歩き出した。


◇◇◇◇◇


「ねえ、何だかミサキ姉さんの様子おかしくない?」

「あ、カオリもそう思う?」

「自分から《遠話の腕輪》の登録をしようなんて。今までなかったよね」

「今までうざい連中の誘いを断るのばっかりだったからね」


 ミサキは歩きながら自分がいつもの自分と何かが違っている事に戸惑いを感じていた。


(私どうしたのかしら。さっきからトシフミの事が頭から離れない。


 あの戦闘を見たから? 

 ……それだけ?

 ギガスワームが現れた時、身を挺して守ってくれた……。

 紫の私達に普通はどう対処するのか指示を求める人ばかりなのにトシフミは自分の意思で行動し、私達にも逆に指示を出してくれた……。

 あの時、とても心地よさを感じた……。

 誰かを頼りにするってこんなに……。


 私はもっとトシフミの事が知りたい。

 まずは、剣を合わせてみよう。それからもっと…………)


「ミサキ姉さん! 姉さんってば!」

「えっ?」

 妹達3人がミサキの顔を覗き込んでいる。ニヤニヤしながら。

「な、何よ」

「何考えてたのかなぁって思って。だって何度呼んでも返事しないし」

「トシフミの事でも考えてたんじゃないのぉ」

 シオリの言葉にカオリが混ぜかえす。

「ち、違うわよ」

 ミサキ本人は否定したつもりなのだが、アオイまでが話に乗ってしまう。

「ミサキ姉さん、顔赤いよ。ダメだね。丸わかりだよ」


(え、赤いの?)

 思わずミサキは両手で頬を押さえる。


「そうなると敵はあのサラとアヤメの二人か」

「いや、カオリ。もしかするとナツキ様もかも。何だかしきりにトシフミの所に居たがってたし」

「そうかな。アオイ姉さんもやっぱりそう思う?」

「あ、でも私もトシフミに興味あるかも」


(え、シオリもなの…………)

 ミサキは内心驚いた。妹達の中でもっとも奥手なはずのシオリがはっきり興味があると言ったからだ。


「お、シオリも参戦かぁ。ミサキ姉さん、これは頑張らないとねえ!」

「面白そうだし、いっそのこと私達も参戦する?」

「あれ、アオイ姉さんも興味あるの? そっかあ、ん~。まあ、ルックスはまあまあだし、何よりあの強さだしねえ。ありかなあ」

 カオリは顎に手を当てて考え込む。


「え~っ、カオリは好み違うんじゃなかった? もっとがっしりした人が好みだって言ってなかったっけ?」

「あれ、そんなことシオリに言ったっけ? でも、アリ! 私も参戦する!」


「……ちょっとあなた達、何を勝手に……。私は別に……」

 ミサキがそう言うと、カオリは笑いながら言う。

「じゃあいいんだ私達がアタックしても。じゃ遠慮なく」

「え、それはイヤ……」

 そこまで言ってミサキははっと口を押さえる。


「やっと本音が出たわね。やっぱり気になってるんじゃない。ミサキ姉さん」

 アオイがミサキの肩をポンポンと叩く。


「でも、トシフミって5属性持ちで4人も精霊従えてるんでしょ。だったら争わなくてもいいのかも」


 シオリが呟いた言葉にミサキははっとした。

(あ、そうか……。そう言う意味ではお父様以上の存在なんだ)


「でも、これから他にも寄ってくるのがいるかも知れないし。じゃあ、落ち着いたら、サラやアヤメとご飯でもしながらトシフミの事聞き出そうよ」

 カオリの提案に二人も頷いている。


「ほら、ミサキ姉さん。早く帰ろう!」

 カオリの言葉にミサキはふっと笑って歩き出した。



◇◇◇◇◇



 男爵邸に着くとマリカが涙目でダイカクに飛び付いていた。キキョウも皆の無事を見て安心したようだ。ほっとした表情をしている。


 男爵が事情を聞きたそうだったが、疲れていた敏文達は会話もそこそこにそれぞれの部屋に入り泥の様に眠ってしまった。



 翌日、午後になって起きた敏文達[ミスティック]は、ダイカク達とは別にドーセツの所に顔を出すことにした。


 受付で戦果の確認のため腕輪を預けるとドーセツが組合長室で待っているので上がるように伝えられる。


 敏文達が組合長室を訪ねるとドーセツはデスクチェアに座って待っていた。

「よう、昨日はご苦労だった。まあ、座ってくれ」

 敏文達はデスク手前のソファに座る。そして敏文は昨日住民の救助に回れなかった事を詫びた。

「いや、あれは事情を聞いて俺が許可したのだ。構わんさ。それに王宮からは救助と掃討に参加した探検者達に感謝の言葉と厚く報いるとの通達が来ている。特に功績が高いいくつかのチームには別途王宮で褒賞式を行いたいそうだ。どうやらお前達も入っているらしいな」

「そうですか……」

 そして敏文は頷きながらも気になっていたことを聞いた。

「この件に関わって命を落とした探検者も多いと聞きました。その者達にはどのような……」

「ああ、遺族がいる場合は弔慰金と感状が贈られる予定だ。勿論探検者口座の残金も渡される」

「そうですか」

 ドーセツは苦渋の表情で言った。

「今回の救助と掃討の依頼を受諾して参加したものはチーム、ソロ合わせて516名いた。その内命を落とした者が78名。ほとんどがランク赤の探検者だ。それに仲間を守るために命を落とした青が数名いる。1割5分近い探検者を喪ったことになる。組合にとっても甚大な被害だ。俺が依頼したことではあるがな」

 ドーセツは一息ついて話し出す。

「でも何とか王都を守ることが出来た。命を落とした者にも顔向け位は出来よう」


 そこまで話したとき、ノックの音がする。

「おう、入れ」

 そこには困惑した表情の秘書が担当者数人と一緒に立っていた。


「どうかしたのか?」

 ドーセツが聞くと秘書が近づいてきて耳打ちする。

「何だって! 見せて見ろ。」

 その話を聞いたドーセツは驚いた表情になり秘書から書類をひったくる。

「何だと……」


 書類から顔を上げたドーセツが敏文を見ながら驚きの表情で尋ねた。

「ビッグファングアントが7325匹、ビグチュラが2753匹、スカラービが3350匹、キングクラストが825匹、その他諸々の種類の魔獣を含めて1万6千匹以上だと! 一人でか! トシフミ一体これは…………」


 敏文は昨日の経緯を説明する。

 ドーセツは唸っていた。

「前例がない。これだけの戦果にどれだけの報酬と評価をすればいいのか正直判らん。済まんが少し時間をくれ。他の3人の評価もだ。同じチームの者があげた戦果についてはその5分から1割をチームの協力あっての物として評価に加えるのだが、その評価についても検討せねばならん」


 その日はひとまず元のランクのままの腕輪の返却を受けて後日改めることになった。


「済まんな。トシフミ」

「いえ」

「全く期待はしていたが、お前達はその遥か斜め上を行ってくれるな……」


 敏文達はその日は組合本部から男爵邸に引き上げた。


 既に王都は復旧の為に動き出している。


 敏文は自分達も明日から復旧活動を頑張る事を心に決めてその日は眠りについた。


少しはトシフミハーレムモードになり始めた感じが出ていますでしょうか。


申し訳ありませんが直ぐにウハウハエロエロな展開にはなりません。


最後まで読んで下さりありがとうございます。


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