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第41話 王都騒乱 其の五

2014.4.18 話を大きく修正しました。

 敏文達が目の当たりにしたのは、広大な地下空間に数千、いやそれ以上の虫系の魔獣達がウゾウゾと蠢く姿だった。


 野球場が二つは入ろうかという大きさだ。そこ一杯に地面が見えないほど折り重なる様に魔獣がいる。


 ビッグファングアントやビグチュラ、スカラービだけではない。ギガスワームや、キングクラストもいる。それに今まで遭遇していなかった羽虫のようなものや、芋虫みたいなもの、キングクラストより小さいが背中に羽を生やして空中に浮かぶムカデのようなものまでいる。


 それが周囲の壁につけられているトーチや、天井に浮いている何かの光源に照らされていた。


「うわっ、気持ち悪い……」

 そう言うアヤメにしがみつくようにしてサラが震えている。

「もう、虫やだ………………」


「何てこった。こんな数の魔獣が地下にいたのか!」

「これが地上に現れたら王都は…………」

 ブンゾーとシンジローの言葉にダイカクが返す。

「間違いなく蹂躙されて壊滅だな。王都だけじゃない。この国自体が持つかどうか」



「こんな数、私達だけではとても……」

「姉さん、どうすれば……」

 ミサキ達もあまりの数に茫然としている。



 その時だった。

「我がしもべ達よ! 鎮まれーい!」

 一際大きな野太い男の声が空洞内に響きわたる。


 すると今までモゾモゾ、ゾワゾワしていた魔獣どもがピタッとその動きを止める。そして中央が二つに別れるようにサッと引き下がり、反対側までの一本の道が出来上がった。

 その奥には、一段上がった場所に祭壇の様なものがあり、奥に巨大な石のオブジェがある。そしてその前に頭を覆うフードが付いた黒いローブの人間が一人立っていた。


 その男がこちらに向かって歩いてくる。そして、敏文達から顔がわかるくらいまで近づいた。

 フードの中のその顔は半分を眼と鼻と口だけが開いた白い面で隠し、残りの半分には黒い紋様の刺青が入っている男のものだった。


「漸くここにたどり着いたか。この国は精霊が住む国だと聞いていたから、もっと早くに誰か気がついてここにたどり着くと思ってたんだがな。俺が買い被っていたのか?」


「魔獣達に王都を襲わせているのはお前か!」

 敏文はその男に尋ねる。

「ああ、そうだ。俺以外にいるわけがないだろう。我が名はシャハーブ。偉大なるエグバートの王シダーグ様に使える者にてマフナーズ様の弟子だ!」


「何でこんなことをするっ!」

 ダイカクの問いにシャハーブは答える。


「私はマフナーズ様の御意志に従い、肥沃な土地で怠惰な暮らしをする者達に鉄槌を下すためにここに来た!」


「この国のどこを持って怠惰だと言うのだ! 皆その日その日を懸命に生きている!」

 ダイカクが叫ぶ。 


「温いな。俺は3ヶ月前からここで準備を始め、そしてこの国を回ってその様子を見たが、食べ物は溢れ、夜遅くまで出歩く者がおり、街道や通りを歩いても身の危険を感じる事など一度もなかったわ! このような環境でぬくぬくと暮らしており、魔獣が現れれば逃げ惑うことしか出来ぬ者達を怠惰と呼ばずして何と呼ぶと言うのか!」


 シャハーブは敏文達を見渡すと話を続ける。

「シダーグ様はこのローメリア全土を強き者の土地とするために立ち上がる事を決められた。まずは手始めにこのホーエンを力のある者のみ生き残る土地に変えてくれようぞ。この者達を使ってな!」


「お前の国の境遇がどうあれ、お前達の思惑に従ってそれを我が国の者達が味わわなければいけない理由などない!」

 ダイカクはシャハーブを睨みながら叫んだ。


「このところホーエンで起こっていた魔道具を使った九つの事件はお前の仕業か!」

 敏文の問いにシャハーブは答える。

「ん、九つだと? 私の手の者に指示をしたのは八つだな。九つどこであったか言ってみろ」

 敏文が九つの事件を話すとシャハーブは笑いながら言った。

「最後の船を襲ったというのは知らんな。だが、私の仕掛けを利用するようなしたたか者がこの国にもおるとはな。面白いではないか」


「面白いだと……。ふざけるなぁっ!」

 その声と同時に矢継ぎ早に3本の矢がシャハーブを襲う。

 その矢は正確にシャハーブを捉えていたが、シャハーブに当たろうかという直前にシャハーブの面前でピタリと動かなくなった。


「はっはっはっ。その感情を面に出す姿はよいが、この程度の威力ではな」

 シャハーブがそう言うと3本の矢が地面に落ちる。


「くそっ。ならばこれならどうだっ。キクエの仇っ!」

 ブンゾーはそう叫ぶと《風刃》の魔法をシャハーブに叩きつける。


 ところがシャハーブを目掛けて飛んだ風の刃は、シャハーブが腕を一振りすると掻き消されてしまった。


「ならばっ!」

 ブンゾーは風の上級魔法《風巻》を放つ。シャハーブを取り囲むように発生した風の渦は次第に強さを増し、シャハーブが見えなくなった。


「よしっ。これならっ。やったか!」

 ブンゾーがこぶしを握る。


「はっ!」

 すると一声の気合いと共に風の渦はかき消されてしまう。


「なっ!」

 ブンゾーは驚きを隠せない。

 消えた渦の中から全く無傷のシャハーブが現れたからだ。


「こんなものか……」

 シャハーブが笑う。


「くそっ、俺はキクエの仇を打つことも出来ないのか……」

 ブンゾーはがっくりと膝を折って両手を地面に付いた。

「ブンゾー……」



「所詮惰弱なものの攻撃などこの程度のものか……」

 そのシャハーブの言葉に、ミサキが反応した。

「ならば、この剣を受けて見るがいい!」


 ミサキは斜面を駆け下り、左右の腰から細身のレイピアを両手で抜き放つと、シャハーブに切りかかる。

「はあっ!」

「ふん」

 シャハーブが右手を天にかざすとその手に杖が現れた。


 ミサキの鋭い剣を一閃、二閃と受け止める。

「ほう。ちょっとはやるようだな」

「嘗めないで!」

 ミサキは左手の剣をシャハーブの胴に打ち込みつつ、杖で剣を押さえられている状態のまま右手の人差し指から、《風刃》の魔法を打ち込む。


「はっ!」

 シャハーブは杖を両手で回転させて左右の長剣を弾き飛ばし、《風刃》をかがんでかわしつつ、ミサキの鳩尾に右の拳を叩き込む。

「きゃあっ!」


 鳩尾に拳を喰らったミサキは後ろに飛びずさった。だが、手で鳩尾を押さえながら苦しそうにしており、少し足元がふらついている。

「「「姉さん!」」」

 アオイ達は斜面を駆け下り、姉の元へたどり着くと、シオリが《水癒》の魔法で治療をしつつ、アオイとカオリは自分の武器を構える。


「さて、どうする?」

 そのシャハーブの言葉に、カオリがあの刃のついた輪状の武器《火風輪》を投擲し、アオイは戟でシャハーブに切りかかった。

「はああああっ!」


 シャハーブは笑いながらカオリの投げた《火風輪》をかわし、そして戻ってきたそれに対して、杖を回転させて叩きつけ、輪をそれぞれ左右に飛ばしてしまう。

 そしてちょうどその時打ちかかったアオイと戟と杖で打ち合いを演じている。シャハーブは巧みにアオイの戟の柄の部分を杖で打ち付けていてアオイの攻撃を無効化している。

 するとアオイの戟が重い分、アオイの攻撃のスピードが遅くなってくる。だんだんとシャハーブの杖の攻撃に押され始め、最後には杖で戟ごと後ろに弾き飛ばされてしまった。


「はあっ、はあっ、はあっ」

 アオイは肩で息をしながら、シャハーブを睨み付けている。


「まあ、ここまでだろう。お前たちでは無理だな。おい、そこのコートの男」

 シャハーブは敏文を指差す。

「お前が来い。お前が一番まともそうだからな。私を少しは楽しませてくれんか!」


 敏文はダイカクと顔を見合わせ頷くと、《魔賦の剛鎗》を脇に抱えて斜面を駆け下りた。


 敏文がシャハーブの前に立つとにやっと笑うシャハーブは敏文に言った。

「お前この国の人間にしては感じられる魔力の量が桁違いに多そうだな。面白い。名は何と言う」

「トシフミだ」

 敏文はそう言うと《魔賦の剛鎗》に火の魔力を通す。すると穂先と石突に赤い炎が揺らめいた。


 敏文は腰を落として身構える。


「それじゃあ始めようかっ!」

 シャハーブはそう言うとその場で直ぐに視界から消える。敏文も《神速5(3倍)》を発動して応戦する。

 一瞬でシャハーブは敏文の背後に回ってその杖を敏文の背中に打ち込もうとしたのだが、敏文は更にその後ろに回り込み《魔賦の剛鎗》をシャハーブ目掛けて振り下ろす。


 敏文の《魔賦の剛鎗》はシャハーブを捉えられず地面を抉る。


「思ったより速いな」

 敏文の呟きにシャハーブは嬉しそうに答える。

「面白い。面白いではないか。こうでなくてはな!」


 そして杖を構え直してシャハーブは言った。

「ここからは本気で行くとしようか」


 それを見た敏文は後ろを振り返り、ミサキ達やさらに後ろにいるダイカク達に呼び掛ける。

「済まないが、ここからは加減が出来ないかもしれない。下がって《洞》魔法でしっかり防御しておいてくれ」


 ミサキ達は急いで元の場所に戻る。


 そしてアヤメから《遠話の腕輪》に連絡が入る。

「トシフミっ! こっちは大丈夫。思いっきりやって!」


 それを聞いた敏文はシャハーブに言う。

「待たせたなっ!」


 そして敏文とシャハーブとの死闘が始まった。



◇◇◇◇◇



「何なのあれ……」

 カオリが呟く。


 ミサキはただ必死に目の前の戦闘を追うことしか出来ない。

 ミサキのランク紫としての矜持はズタズタになっていた。彼女は探検者になって8年の間、一生懸命に研鑽を積んで今にたどり着いたつもりだった。この1年はホーエン国内の名だたる剣士とも手合わせをしてもひけをとった記憶もないくらいになっていた。


 でもあのシャハーブと言う男のスピードと技に全く歯が立たなかった。

「こんなことって……」


 今目の前で戦っているシャハーブとトシフミの戦闘がかろうじて見えるが、それが余計に彼女の驚きと悔しさを増す。その時の敏文の《神速》はすでに10まで上がっている。


「どうやったら、あんな域までいけると言うの…………」

 ミサキの呟きに近くで《風洞》を張っているダイカクが言う。

「彼は特別なんだ。普通のローメリア人はあんなこと簡単に出来るはずはない」

「ダイカクさん、それはどういうことです?」

「彼は[異邦の人]だ。この世界の人間ではない。そして彼にはとてつもない力がある。ミサキ、お前達だけではない。私だってランク紫だがお前と同じような状況さ。だから驚くことはあっても悲観する必要はない」

「ダイカクさん…………」

「ただ、お前達を圧倒し退けた上に、トシフミと互角にやり合っているあの男。シャハーブと言ったか。あいつの方に驚いている。それにエグバートと言う奴等の国がどこにあるかもわからん。そんな奴等にどうやって対抗していけばいいのか……。それに今はおとなしくしているが、もし、トシフミがシャハーブを倒してもその統制が消えたら、あの魔獣どもがどう動くか…………」

「そんな! じゃあ私達はどうすれば!」

「トシフミが勝ったとしても負けたとしてもあの魔獣達と戦う覚悟は必要なようだ」

「…………」


 ミサキは改めて敏文とシャハーブの戦いを追う。

(私は、私は、この王都を守りたい。あの数の魔物と対峙することになったとしても…………)



◇◇◇◇◇



 敏文はシャハーブと何十、いや何百回と魔法を交えつつ打ち合っていた。

 シャハーブは敏文のスピードと互角に対応している。


(このまま続けるのは…………。どう決着をつける……)


 ただ打ち合い続けているうちに、敏文はシャハーブが相当に無理をしている様に感じられていた。

(奴の表情がきつくなってきた。もう一押しかっ!)


 敏文は《魔賦の剛鎗》に火の魔法の代わりにコウの力を借りて炎の精霊魔法を通す。すると穂先の炎がそれまでの倍の長さになった。それで奴目掛けて下から《魔賦の剛鎗》を振り上げる。

「何っ!」

 シャハーブは仰け反ってかわしたが、穂先が長くなっている分の目測を誤ったようだ。かわしきれずにその顔の半面を覆う白い面に亀裂が入る。


「くっ、遊びすぎたか……」

 シャハーブはヒビが入った白い面を押さえつつ敏文に向かって言った。

「トシフミよ! 俺はマフナーズ様の御意志を果たさねばならん。残念だがここまでにしよう。我がしもべ達よ! 我が命を果たせっ!」

 シャハーブがそう言うと魔獣達が一斉に動き始める。

「シャハーブ、貴様っ!」

 そう言う敏文にシャハーブは言い放つ。

「さらばだっ!」

 そして突然姿を消し去った。

「何っ! シャハーブめっ! ちきしょうっ!」


 敏文はまだダイカク達が《風洞》を張っているのを確認するとセイランに《豪風》で魔獣達が外に出るのを防いでもらう。

「ギャーッ!」「キシャーッ!」

 魔獣達は《豪風》の外に出ることが出来ずにギシャギシャと騒いでいる。


 するとダイカクから《遠話の腕輪》に連絡が入る。

「トシフミっ! どうするつもりだっ!」


「今からこいつらを始末します。何が起こるか解らないので《洞》の魔法を出来るだけ重ねてしっかり防御してください! 重ね終わったら連絡を!」

「判った!」


 そしてダイカクからの次の連絡を受けた敏文はコウとセイランに伝える。

「正直これからやることでどうなるか解らん。でもやるしかない。頼むぞ二人とも!」

『うん!』『ええ!』

「よしっ! セイラン! あの《豪風》の中に《嵐龍》を! コウ! あの中に《炎龍》を!」

『りょーかい!』『わかったわ!』


 すると《豪風》の中に風と炎の龍が現れて魔獣達を飲み込み切り裂き始める。

 魔獣達は切り裂かれ焼き尽くされて断末魔の声をあげている。


 そのあまりの力に地面は激しく揺れ、敏文は立っているのも辛くなってきた。それに《豪風》を維持するのもかなりしんどい状況だ。ただ、敏文にはだんだん感じられる魔獣の気配も少なくなってきているのがわかる。

(もう少しだ…………)


 その時だった。風と炎の力が合わさった為か《豪風》の中の風と炎が渦を巻きその圧力が膨らみ始める。

「くっ、不味いっ! これ以上は抑え切れない…………」

 敏文がコウとセイランに二つの龍の動きを止める様に言おうとしたその時だった。一気に中の圧力が高まった。

「しまっ……」

 同時に敏文の眼前で強烈な光が発生した。



◇◇◇◇◇



「な、何が起こっているの…………」

 あまりの地面の揺れにアヤメ達は立っているのもやっとだ。

 ダイカクが叫んでいる。

「皆《洞》の魔法の維持に集中するんだっ! トシフミがあいつらを始末するために頑張っているんだっ! お前達も負けるなっ!」

 アヤメは《風洞》を歯を食いしばって維持する。

 顔を上げて敏文の方を見ると魔獣達の中を二つの龍が飛び回っている。

「お父様! あれは!」

「ああ、トシフミが精霊の力でやっているんだろう。あれならば魔獣達を地上に出さずに始末出来るかも知れん。だから、俺達はもう少し踏ん張るんだ!」


 アヤメが周りを見るとナツキ、ミサキ達も驚きを隠せていない。

「す、凄い……」

「あんな魔法があるなんて……」


 隣を見るとサラが涙を流しながら、呟いている。

「トシフミ……、お願い……無事でいてっ!」


 その時ダイカクが叫ぶ。

「ん、これは不味いっ! 皆眼をつぶるんだ! 向こうを見るなっ!」


 すると、強烈な光が発生したと思うととてつもない地響きと揺れが起こった。

「なっ!」

「トシフミっ! いやーーーっ!」

 轟音の中、サラの叫びがかすかに聞こえた。

「トシフミっ! お願い無事でいてっ!」

 アヤメは必死に揺れに耐えながら叫んでいた。




 轟音が収まって、ブンゾーは漸く眼を開ける事ができた。

 すると目の前がぼんやりと明るい。

「この光はなんだ?」


 そして正面を見たブンゾーは驚愕した。

 あれだけいた魔獣達は切り裂かれ、焼かれて、動いているものは1匹もいない。そして魔獣達がいた場所の中心には大きな穴があき、そして上を見上げるとそこには明け方の空が広がっていた。

 奥にあった祭壇のようなものも崩れ、置いてあったオブジェのような石も崩れ落ちている。


 その時ブンゾーははっとして辺りを見渡す。

「トシフミはどこだ!」

 最後に見た場所に敏文の姿はない。


 ブンゾーは《遠話の腕輪》に呼び掛ける。

「おいっ! トシフミっ! 無事かっ! 返事をしろっ!」

 周りを見ると、ダイカクやサラ、アヤメ、それにナツキも必死に《遠話の腕輪》に向かって敏文に呼び掛けていた。


 だが返事がない。


 サラとアヤメが泣き崩れる。

「トシフミ……。トシフミーーーっ!」


 皆茫然としたその時だった。

「サラ…………。アヤメ…………。みんな…………」


 敏文の声が《遠話の腕輪》から流れてきた。


 サラとアヤメははっと喜色を浮かべ、そしてまた大声をあげて抱き合って泣き出した。

「トシフミーーっ! 死んじゃったかと思ったんだからぁーーっ! 呼んだらちゃんと返事してよーーっ!」

 アヤメが大声で叫んでいる。

「ごめん。心配かけた。爆発で上空に吹き飛ばされてね。今はセイランの上だ」

「怪我はしてないの?」

 サラの問いに敏文が返す。

「ああ、爆発の寸前に《洞》の魔法を重ね掛けしたからな。何とか大丈夫だ」

 その言葉にほっとしたのかサラはぺたんとへたりこんでまた泣き出した。


「ダイカクさん」

「おう、どうした」

「今から皆を地上に引き上げます。《風防》をまた水平に張るのでそれに皆で乗ってください」

 すると目の前に風《風防》の床が現れる。

 皆がそれに乗った時、ふわりと床が浮かび上がり地上に向かって上って行く。


 そして地上にたどり着くとふわりと地表に皆を運んで《風防》の床は消え去った。


 するとそこにセイランに乗ったトシフミが降りてた。


 サラとアヤメがトシフミに抱きつく。

「「トシフミ~~~」」

 そして人目をはばからす大声で泣き出した。


 二人が落ち着くと敏文がブンゾーとダイカクの所に来た。

 ブンゾーは敏文の肩をポンと叩くと握手をした。

「無事でよかった」

 横でダイカクもニヤリと笑う。

「派手にやりやがって……。こんな所に大穴あけて後始末大変だぞ」

 そう言うダイカクに対して、敏文が真顔で言う。

「まだ、やることが残っています。シャハーブの姿はありませんが、先程空から見た限りではまだ街中に魔獣が残っています。それを排除しなければ。俺はこれからセイランで上空から奴等を始末します。ダイカクさん、皆で地上からの掃討をお願いします」

「お前あんなに魔法を使って魔力は大丈夫なのか?」

「ええ、《充魔の小箱》をつけていましたので。最も5つのうち後2つ分しか残っていませんが。それでもまだ魔力は5千ぐらいは残っていますよ」

「全くお前はどこまで規格外なんだ?」


「じゃあ、後を頼みます」

「「ああ、任せろ!」」

 ダイカクとブンゾーは敏文に向かって言った。


「全くあいつは!」

 ブンゾーとダイカクはセイランを呼び出してそれに乗ろうとする敏文の背中をとても頼もしく感じていた。



 敏文がセイランに乗って飛び立とうとした時、ナツキが声をあげる。

「トシフミ様、待ってください! 私も連れていってください!」


(あ、また凄い目でこっちを見てる。この目をしたナツキはテコでも動かない感じだからなあ……)


 敏文がそう思っているとサラとアヤメも来て乗せろと言い出した。


(4人で乗るのはちょっと…………)


 敏文はひとつ溜め息をつくと危険だと説得しようたのだが、ナツキもサラも一度アヤメと乗っているところを見ているだけに大丈夫だと言って聞かない。


「私は今回守られていただけで民の為に何も出来ていません。少しでも力になりたいのです!」

 ナツキの訴えに続けてサラも叫ぶ。

「私もうトシフミの側を離れるのイヤなの! だから今度は私も連れていって!」


(ううっ、2人でそんな目力で訴えられると断りづらい……。仕方ない)


「アヤメ、悪いが今回は遠慮してくれ。ダイカクさん達と地上の掃討を頼む。まだ街中に魔獣が残っている。くれぐれも気を付けてな」

 すると、アヤメもあきらめたように言う。

「仕方ない。ナツキ様、今回はお譲りします。でも、無理はしないでください」

「ええ!」


 敏文はシンジローとカズミに向かって伝える。

「シンジロー、カズミ。ナツキ様のご要望をお受けする事にするがいいか?」

「……あの様子だとお止めしても無理でしょうね。わかりました。くれぐれもお願いします」

 シンジローが言う。

「済まない。ダイカクさんと行動を共にしてくれていれば、連絡はとれるから」


 敏文は振り返ると、ナツキとサラに言う。

「ナツキ様は俺の前に、サラは後ろに乗ってくれ。いくぞっ!」

「「はいっ!」」


 そして俺達は王都の空に飛び立った。


 敏文は前にいるナツキが落ちないように左手でセイランを掴む一方で右手でナツキの腰を後ろから抱えている。

 その後ろではサラがガッチリ両腕を敏文の腰に巻いてぴったりとくっついてしがみついていた。


 敏文は二人を乗せたことを少しだけ後悔していた。

 前に乗ったナツキの髪がなびいて顔に当たり前が見づらい上にその首筋からはほのかな良い薫りがしているし、抱えている腰の感触も気になってしまう。それに彼女が振り落とされないかずっと気を遣わなければいけなかった。

 一方で背中には後ろにしがみつくサラの豊かな柔らかいものが当たって落ち着かないのだ。


「ふ、2人ともしっかりつかまっていろよっ!」

 そう敏文は雑念を払うように叫ぶ。

「「はいっ!」」


 敏文達は飛び立ってすぐに海沿いの西第20区にいたスカラービの群れを《風刃》で切り裂くと、王都の中心に向かって進んでいく。


 すると、向かって左側西第10区では、5人の探検者達が、キングクラストとビグチュラに退路を絶たれ追い詰められていた。さらに向かって右の海側、西第17区では住民を守りながら逃げる探検者たちにビッグファングアントの群れが襲いかかろうとしていた。


「ナツキ様っ! サラっ! 向かって右、ビッグファングアントの群れを! 俺は左のキングクラストをやるっ!」

「わかりましたっ!」「任せてっ!」

 そう言うとナツキとサラは上空から《氷弾》の雨をビッグファングアントに見舞う。

 ビッグファングアントは次々と体に穴を開けながら倒れていき、住民達はその様子を呆然と見つめている。そしてそれはすぐに歓声に変わった。

「おおっ!」「助かったぞ!」「ありがとう!」


 敏文は、左側のキングクラストやビグチュラに《炎槍》を連射する。《炎槍》を喰らったキングクラストの首が飛んで倒れ、ビグチュラの体の中央に炎で大穴があいて吹き飛んでいく。

 探検者たちは、その様子を見ながら腰から崩れ落ちていった。

「た、助かったのか……」


 敏文達は王都上空を旋回しつつ、地上に残っていた魔獣達を次々と排除していった。


 そして3人は西第6区にさしかかろうとしていた。


◇◇◇◇◇



 一晩中戦い続けていたケイジは疲労困憊の状態だった。

 ケイジだけでなく[漆黒の猟犬]の皆も疲れ切っている。

「くそっ! 魔力も枯渇して魔力回復剤もなくなった。あとどれくらい魔獣と戦えばいいんだ!」

 ケイジは振り返って仲間に確かめる。

「ジョウジ! サリナ! レイカ! ハヤト! 皆まだやれるかっ!」

「ああ。」

「大丈夫よっ!」

 4人もそう返事をしたが、もう限界の状態だった。


 夜も明けて明るくなってきた。

 ケイジは手に持っている自分の剣を見つめる。あとはこれしか残されていない。


 その時だった。

“ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………”

 地響きと共に地面が揺れる。

「な、なんだ?」

 ケイジがそう呟いた時、轟音と共に王都の西側から物凄い大きさの火柱が立ち上がった。


「うわあっ!」

「きゃあっ!」

 ハヤトとレイカが声を上げる。


「何が起こったんだっ!」

 ケイジ達は顔を見合わせるが誰も答えられない。

(何かとんでもない事が起こっているのか…………)



 次に何が起きるのか気が気ではなかった5人だが、しばらくしてもその後何も起こっていない。

「さっきのはいったい何だったんだ……」


 ケイジ達がその話をしていると向こうからビッグファングアントの群れがやって来た。

 今日何回目の遭遇かもう数える気力もない。


 だがケイジ達は疲れた体に鞭打って構えを取る。

「くそっ、まだ住民の避難は終っていないんだ! ここは絶対に通さない! この命に代えてもっ!」


 その時、ケイジ達に襲いかかろうとしていたビッグファングアントの群れに空から氷の矢が降り注ぎ次々と倒されて行く。


「誰だ! 上から魔法がやって来るなんて……。そんなことが出来るのはトシフミかっ!」


(何で今頃現れた。どこにいたんだ今まで! あいつがもっと早く現れてくれていればもっと大勢の人が助かったかも知れないのに!)

 ケイジは空からセイランに乗って降りてきた敏文に近づく。


 ケイジはセイランの背中から一緒に降りた二人のことは全く視界に入っていなかった。


「ああ、ケイジ無事だったか。今空から見た限りではこの辺りの…………」

 ケイジは敏文の顔に渾身の拳を一発見舞う。


 ケイジの拳に対して敏文は避けずに顔に受けてふきとんだ。


 ケイジは敏文に向かって叫ぶ!

「今までどこにいたんだ! お前のその力があればもっと大勢の人が助かったはずなのに! [虎の庵]の連中だって死なずに済んだかも知れねえ! 今頃現れてやがってちきしょうっ!」


「そうか、タイガ達が…………」

 敏文は力なく呟く。


 その時ケイジとトシフミの間に割って入った人物がいた。


(まさか、目の錯覚か? いや……。でも……)

 ケイジは目を見開いて驚く。

「待ってください! トシフミ様は今まで大変な思いをされてここまでこられたのです! 私の話を聞いてください!」

(え、な、何故ここにナツキ様が!)


「ナツキ様…………」

 ケイジは呆然としている。


「落ち着いて聞いてください。トシフミ様達は、王都の地下深くにいたこの件の犯人と戦っておられたのです。そこには今地上に現れていたものやそれより更に強力な魔獣達が数千、いや一万を越えるような数蠢いていて、まさに王都を蹂躙する為に地上に向かおうとしていたのです。トシフミ様はその敵と戦い、そしてその魔獣達を全て退治されました。あの大きな炎の柱をご覧になられましたか?」

 ナツキ様の問いにケイジは頷く。

「あれはトシフミ様がそのたくさんの魔獣を討ち果たした時に発生したものなんです! トシフミ様は決して何処かで遊んでいた訳ではない! 皆さんと同様に戦っておられたのです! 王都に我々では対処出来ないほどの魔獣が現れるのを防いで下さったのです!」


「そうだったのか…………。トシフミ、俺は勘違いを…………そんなこととは知らずに…………済まない」

「いや気にするな」

 敏文は起き上がるとケイジの肩をポンと叩いた。



「俺が空から見て、そして気配探知をする限りでは王都に現れた魔獣はさっきので最後だ。ケイジ、本当に無事でよかった。この戦いは終わったんだ。もう気を休めても大丈夫だぞ」

「そうか…………」

 後ろではジョウジ達がその敏文の言葉を聞いて力なく座り込んでいた。

「終わったんだな…………」

「ああ、終わった……。後始末が大変そうだがな」

 敏文とケイジはそれ以上何も話さずに黙って王都の空を見つめていた。



 そうしてようやく敏文達と王都の人々の長い長い夜は終わりを告げた。 

最後まで読んでくださりありがとうございます。



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