第40話 王都騒乱 其の四
2014.4.18 話を大きく修正しました。
「よし、行こう」
敏文は《火球》の魔法を4つほど作り出すと、自分達を囲むように宙に浮かべる。そして、練兵場の方へ向かって歩き出した。
その時、シンジローが敏文に話しかけてきた。
「申し訳ない。対魔獣用の武器で予備を持ってはおられないだろうか」
「ん、どうしたんだ?」
「今、実は対人用の剣しか持っていなくて。先程のビグチュラとの戦闘の際に使いものにならなくなってしまったのです」
確かに普通に考えたら街中で要人警護するのに対魔獣用の武器を持ち歩く事はないだろう。
「シンジローは戦斧や鎚は扱えるか?」
「ええ、大丈夫です」
「ならばこれを貸そう。使ってみてくれ」
敏文はバッグから《粉砕の大鎚》を取り出した。
《粉砕の大鎚》は緑鋼の鎗の穂先の左右に斧と大きな鎚がつけられているもので、対人にも使えるが、対魔獣用の武器でもある。
シンジローは2、3度柄を振り回して感触を確かめると明るい表情になる。
「これはいい。これで何とか役にたてそうです」
「じゃあ、改めて行こうか」
敏文達[ミスティック]が前を、前後をシンジローとカズミに挟まれたナツキが中央に、そして後方に[純白の朝顔]の4人がつく。空洞はだんだんと下りになってきており、この先どこまで下りるのか想像も付かない。
「来たな」
しばらくすると、敏文は前方から魔獣の気配を強く感じた。体がぞわぞわと近づく物の気配を感じ取っているのだ。
現れたのは、腰の高さぐらいの黒い甲虫の群れだ。20匹ほどいるだろうか。
「あれは……」
敏文の呟きにトモエが反応する。
『あれは、スカラービという魔獣よ。顎の牙の威力は強力で腕ぐらい簡単に折られてしまうわ。それと早く始末しないと仲間を呼んでしまう!』
その時、後ろにいた[純白の朝顔]が揃って前に出てきて直ぐに攻撃を始める。
ミサキが叫びながら《風刃》の魔法を続けざまに放つ。
「スカラービよっ! 急いで片付けないとっ!」
シンジローもして前に出て《粉砕の大鎚》を振るってスカラービの甲と頭の間を切り落とす。
アオイは《雷矢》、カオリは《氷刃》を連続して放つ。そしてシオリは外套の中から二つの金属の輪を取りだし、両手を交差させつつ前方にそれを投げた。二つの輪はスカラービ数匹を切り裂くと、シオリの手元に戻って来る。それをシオリは再び投げた。
敏文達も攻撃しようとしたその時だった。後方にいた1匹が、尻を震わせて音を出した。
“カシャカシャカシャカシャカシャカシャ”
「しまった! 間に合わなかった!」
ミサキが叫ぶ。
「ナツキ様を囲んで、周囲を固めてっ! 奴等が大挙して来るはずよっ!」
ミサキはそう言うとナツキの前に構え、少し離れて妹達が周囲に警戒をしながら構える。シンジローとカズミはミサキと一緒にナツキの側に付いた。敏文達は妹達と動きを合わせて周囲を警戒する。
すると前方から、さっきと同じ気配が大量にやって来る。
敏文はさっきと同じ事を繰り返す訳にもいかないと考え、セイランに呼び掛ける。
『セイラン! 俺が声をかけたら、あいつらのいる範囲に限定して《豪風》を! そしてその内側に《嵐刃》で攻撃を! 壁と天井には触れるなよ!』
『わかったわ』
敏文はスカラービがある程度近付いて来るまで待つ。皆に緊張が走る。
そして敏文は気配探知で奴等の最後尾がわかったところで叫ぶ。
「セイランッ!」
すると現れたスカラービの先頭を境に突然強い風が吹き荒れる。そしてその中ではセイランの精霊魔法のひとつ《嵐刃》により《風刃》よりも強烈な風の刃がスカラービ達を切り刻んでいる。
「な、何が起こっているの?」
シオリがそう言い、そして[純白の朝顔]の皆が驚いている。
そして奴等を包んでいた風が止むと、そこには生きたスカラービは存在していなかった。
「トシフミ。あなたの仕業かしら?」
「ああそうだ。詳しい話は終わってからにしてくれるとありがたい」
敏文は近付いてきたミサキの言葉に、それだけを返した。ミサキも今のタイミングで色々聞こうとは思っていないようだ。
「判りましたわ。後程説明をお願いします」
ミサキもそう言って引き下がる。
その時だった。敏文は地面の下から何かが猛烈な勢いで上がって来るのを感じた。敏文とミサキの真下だ!
「危ないっ!」
敏文はとっさにミサキを抱き抱えてその場から飛び退く。
「きゃっ。何を!」
ミサキがそう叫んだその瞬間、二人が立っていた場所の地面が割れて巨大なものが飛び出してきた。
敏文が振り返って見上げると、そこには巨大なミミズが沢山の牙が付いた大きな口を開けて敏文達を見下ろしていた。
「ギガスワーム……」
呟くミサキ。
「トシフミッ!」
サラが駆け寄ってくる。
「サラッ! 《氷霧》だっ!」
敏文はそう叫ぶと自分でも《氷霧》を発生させる。《氷霧》は氷の霧を発生させるだけでなく密度を濃くすると相手を凍らせる事もできる魔法だ。二人で吹き付けるうちに、ギガスワームの体がカチコチの氷漬けになっていった。
そして氷漬けとなったギガスワームに対してシンジローが《粉砕の大鎚》を叩きつける。それによってギガスワームは粉々に砕け散っていった。
◇◇◇◇◇
ダイカクとミシェルは第12区の通りを街中へ向かって戻る。すると国軍兵達が大きな穴の前に集まっているのが見えた。
「あそこかっ」
ダイカク達がたどり着くと国軍兵達は不安そうに穴の中を覗きこんでいる。
「魔法・生物研究所の者よ。探検者の[純白の朝顔]と[ミスティック]が、入ったのはこの穴かしら?」
ミシェルが国軍兵に尋ねる。
「ああ、この穴だ。まさか、あなたたちも入るつもりか?」
その問いにミシェルは答える。
「ええ、そのつもり」
その答えに国軍兵達は驚く。
「よせ、止めておけっ! 探検者達が入った直後にも大量の魔獣が彼等を襲ったんだ。いくら彼等が先行していると言ってもあなた達二人だけで追うつもりか!」
ざわつく国軍兵達に後から声がかかる。
「なんだ、どうした?」
「あっ隊長っ! 彼等が二人だけでこの穴に入ると言うので止めていたのです! 隊長からも言ってください!」
「おおっ、ダイカク殿にミシェル殿ではありませんか! お前達! このお二人なら大丈夫だ。知らんのか? 王宮魔法士……あ、今は元でしたか、元王宮魔法士のダイカク殿と魔法・生物研究所のオズーノ様の高弟ミシェル殿だ。お通ししろっ!」
隊長の一言で国軍兵達は道を開ける。
「ありがとう。隊長」
ダイカクは礼を言うと、ミシェルと二人、地面に開いた大穴を下まで下りる。
「こいつは……あいつらが片付けたのか」
周囲にはビッグファングアントの残骸が山積みになっていた。
「急いで追いましょう!」
「ああ」
ダイカクはミシェルの言葉に頷いて走り出した。
◇◇◇◇◇
道を急ぐ敏文達の前に次に前方から現れたのはさっきとは比較にならない数のビッグファングアントだ。それに天井側には、ビグチュラもいる。
「くそっ、なんて数だ」
ブンゾーがつぶやく。
「トシフミっ。さすがにこれを1匹ずつ片付けるのは無理があるよっ!」
アヤメも叫ぶ。
敏文は後ろを振り返り叫ぶ。
「[純白の朝顔]のメンバーで水魔法をそれも上級まで使える人間はいるか?」
すると、アオイとシオリが前に出る。
「私達が使える」
アオイが言う。
「私も使えます」
ナツキも前に出てきた。
「サラ。お前も含めて、《水流》が使えるなら、それで一気に流してしまおう。この先は下りになっている。上ってきているやつらを下までな」
「「「「はいっ!」」」」
奴等が近づいてくる。
「いいか、一気にいくぞっ! 3、2、1、今だっ!」
4人は敏文の合図で一斉に《水流》を前方に発動させる。もちろん敏文も。すると、敏文達の前方3メートルから突然大量の水が湧いて出て、怒涛の洪水となって奴等を襲う。
「「「「「キシャーーーーッ!」」」」」
魔獣たちは、天井まで届く大量の水に流されて一気に敏文達の目の前から掃除されていく。
(なんだか、余計なもんを流してスッキリした感じだ。気分爽快!)
敏文はその後、周囲の壁と天井が崩れないように、《土壁》の魔法を応用して上下左右を固定する。
それからしばらく敏文達は空洞が崩れないように慎重に壁を固めながら進んでいた。ただ空洞の傾斜もだんだんとついてきていて進む事が難しくなって来ていた。
「ねえ、トシフミ。これ以上歩いて下りるのは無理じゃないかしら」
サラが言う。
それに対してアヤメが提案する。
「この前、二人で乗せてもらったときみたいにセイランに大きくなってもらって乗せてもらうのは?」
「いや、ここは空の上じゃない。ただ降りるだけの動きは……」
敏文はセイランに聞いてみる。
『どうだ? 皆を乗せて降りることができるか?』
『ちょっと、この人数はね。それにもう2人増えたみたいだし』
セイランの言葉に後ろを振り返ると、空洞の向こうからダイカクとミシェルがやってくるのが見えた。
「やっと追いついたか」
ダイカクは苦笑いしながら、敏文のところにやってくる。
「ダイカクさんにミシェルさんじゃありませんか! 2人でここまで?」
ミサキが驚く。
「なに、お前たちが掃除を済ませていたのでな。戦闘なんぞしておらん。それより、ナツキ様たちがなぜここにいるのだ?」
ダイカクが敏文に問いかける。
「生誕祭の中でお会いしまして。詳しい事は話せば長くなるので、終わった後に説明します」
敏文の言葉にダイカクは仕方ないという表情をして、続けて問う。
「わかった。ところで、こんなところに止まっているのはどうしてだ?」
ダイカクの質問に敏文は答えた。
「下りの傾斜がきつくなってきました。降りるだけならもう少し進めますが、戦闘になった場合、おそらく耐えられないだろうと思いまして」
「なるほどな」
『セイラン、方法はあるか?』
『そうね。こういうのはどうかしら。トシフミに皆の足元に《風防》を水平に張ってもらって、それに乗ったまま、私が《浮揚》の魔法を使って下まで降りるというのは』
《浮揚》は風の力を使って行使者の体を浮かせることができる精霊魔法だとセイランから聞いていた。
(要は《風防》で作った床板を《浮揚》で浮かせながら下に降りるということか……)
『わかった。それでいこう』
「皆、済まないが俺が今から《風防》の魔法を地面に水平に張るから、それに乗ってくれるか?」
「え、そういうことできるの?」
サラの疑問に敏文は頷く。
「大丈夫だ。ナツキ様達も、[純白の朝顔]の皆も乗ってくれ。もちろん、ダイカクさん達も」
そういいながら敏文は《風防》の魔法を円形に水平に張る。
そして、まずは敏文が乗って見せた。少しふわっとする感じだが大丈夫なようだ。
「な、大丈夫だろう。ほら、サラ、アヤメ、ブンゾーも」
皆おそるおそるだが、《風防》の上に載る。
「で、どうするの?」
アヤメの言葉に、敏文は答える。
「こうするのさ。セイラン! 頼む!」
敏文が叫ぶと、《風防》の床はふわりと浮かび上がる。
「「「ええっ!」」」
ナツキとシオリ、カオリが声をあげる!
《風防》の床はそのまま、傾斜がきつい空洞の斜面を緩やかに下っていく。
「なるほどな。こういう使い方もあったのか」
ダイカクが感心している。
《風防》の床は風の力でできているせいで半透明の状態になっていた。敏文は《火球》を《風防》の床の少し下に移して、先を見通せる状態で降りていく。下のほうが透けているので、アヤメやサラは少し怖がっているようだ。
「済まない、少しの間辛抱してくれ。もし怖いんだったら下を見ないようにしてくれ」
そういいつつ、敏文は気配探知を空洞の上下に広げつつ、魔獣が現れないか警戒しながら降りていった。
◇◇◇◇◇
「おい、ハヤト! 大丈夫かっ!」
治療を受けているハヤトを見てケイジは声をかける。
「大丈夫! それより港へ急ごうよ!」
ケイジ達[漆黒の猟犬]は、西第18区の捜索を終えた後、最後に救出した住民や18区を担当していた国軍兵達と港に向かって撤退している途中だ。
道脇から現れたビッグファングアントを退けたところだが、ハヤトが足を負傷していた。レイカが《水癒》の魔法で表面の怪我を塞いでいる。
「よし、いつ現れるかわからないからな。急ぐぞ」
ケイジ達は国軍兵と一緒に住民を守りながら、港への道を急いだ。
ケイジ達が港の広場に着いたとき、そこはたくさんの人でごった返していた。
海軍の兵士達が順番に接岸している船への誘導を行い、陸軍の兵達と、捜索の任務を終えた探検者達が港に接した通りの警護を行っている。港と通りの境には一部を除き、バリケードのようにテーブルなどを積み重ねていた。また、港の広場の周囲には馬車が連なり避難してきた人達を乗せようとしていた。
「気休めだな」
ジョウジの感想にケイジは言う。
「ないよりはましってぐらいか」
その時だった。ケイジは後ろから声をかけられた。
「よう、[漆黒の猟犬]じゃねぇか。まだ王都にいたんだな」
そこに現れたのは[虎の庵]の連中だった。
「お前達無事だったんだな」
「当たり前だろ。西第6区の担当を割り振られたんでな。それほど遠くまでは出張ってはいないのさ」
「そうか」
ケイジは港の状況を見渡して、ため息をつく。
「この分だと、皆が避難できるまで、まだかなり時間がかかりそうだな」
「そらそうだ。王都の西半分のほとんどを船と馬車で避難させようっていうんだからな。全部で15万人ぐらいになるんだろ。戦闘艦と定期船だと1隻に500人から1000人ってところか。それでも、200隻は必要だぜ」
「東半分の庶民街の住民は陸軍が馬車で運んだり自力で王都を脱出させているんだったな」
「ああ」
(自力でどれくらい脱出できるんだ? そう遠い距離は無理だろう。年寄りや子供もいるだろうしな)
ケイジはそう考えていた。
「今、港にどれくらい船が入っているんだ?」
ケイジはタイガに尋ねる。
「海軍兵の話だと、戦闘艦、定期船合わせて120ってとこだそうだ。ただ、実際に1度に接岸出来るのは20隻程度だかな。それで、東側に山ひとつ向こうの海軍基地と、西側のヒメギの街に避難民をいったん降ろして、戻ってくる算段になっているそうだ」
「間に合うのだろうか?」
ケイジのその呟きにタイガが腕に力瘤を作りながら笑って言う。
「それは俺達の踏ん張り具合にかかっているんだろうな。どうせ俺達は最後かあるいは船に乗れずに自力で脱出しろって言われるのがオチだからな」
その時、国軍兵から声がかかる。
「[漆黒の猟犬]と[虎の庵]か?」
「ああ、そうだが」「おう」
「済まないが、西庶民街との境の守りに協力してくれ。またいつやつらが襲ってくるとも限らないのでな」
「わかった」「おーい、ゲキ、クウネン、ソウネン! 仕事だ!」
ケイジ達は陸軍兵に言われた中央のエリアと西第6区の間の通りで待機する。
しばらくした時だった。
「おい、あれは……」
小さな子供を抱えた母親がこちらに向かって小走りに走ってきていた。
「しまった。まだ第6区に人が残ってたのか!」
タイガが叫ぶ。
すると、不味い事に向こうからビッグファングアントが10匹ほど現れる。
「おい、ゲキ! クウネン! ソウネン! 行くぞっ!」
タイガはバリケードを乗り越えて母親の所に駆けつけるつもりのようだ。
「俺達も行くぞっ!」
ケイジは国軍兵に後を頼みつつ、仲間と一緒にバリケードを乗り越える。するとさらに不味い事に横手の通りから別のビッグファングアントの群れが現れた。40匹ほどいるようだ。
「タイガ! 済まないっ! 俺達はこっちをやる!」
「頼んだっ! 俺達は自分の不始末を片付けて来るっ!」
そう言うとタイガは、仲間を連れて母親の所に向かった。
「よし、早いとここいつらを片付けて、タイガ達の援護に行くぞっ!」
「おう!(ええ!)」
ケイジ達はビッグファングアントを魔法と弓で片付けて行く。
(あと30匹……あと25匹……あと……)
その時だった。
「しまった! クウネンッ!」
聞こえたタイガの声にケイジが振り替えるとその先ではクウネンがビッグファングアントの顎に腰をとらわれ体ごと持ち上げられていた。
足元には転んでしまった母娘が両手を地面について両膝をついた状態で後ろを振り向いていた。
◇◇◇◇◇
「早く……母娘を……安全なところに……」
クウネンが途切れ途切れの声でソウネンに頼んでいる。
「ク、クウネン……」
「早く……」
そして、クウネンの胴と足は血飛沫を上げながら二つになった。
ソウネンは動けない。
「馬鹿野郎っ! クウネンの働きを無駄にするつもりかっ!」
ゲキがそう叫ぶと、母娘を抱きかかえて、港へ向かって走り出す。
「ちきしょうっ! こいつら全部やってやるぞっ! 絶対だっ!」
タイガはソウネンを引きずり起こすと、港の方に放り投げて剣を構えた。
(あと、3匹残っている。こいつらは俺が……)
◇◇◇◇◇
クウネンの最期が遠目に見えたケイジはハヤトとサリナに向かって叫ぶ。
「なんてこった。おいっ! ハヤト! サリナと一緒に彼らを援護してくれっ! 俺達は急いでこっちを片付けるっ!」
ケイジはその間にビッグファングアントを長剣で切り裂きつつ、《火刃》を飛ばして2匹を吹き飛ばす。
「わかった! サリナ! 行こうっ!」
「ええ!」
「ハヤト、サリナ頼んだぞ!」
◇◇◇◇◇
「ちきしょう、力がでねぇ。ドジっちまったぜ」
ビッグファングアント3匹を倒すのと引き換えにタイガは左肩を負傷していた。
タイガが振り返ると走ってきた[漆黒の猟犬]の2人にゲキが母娘を預けている。
「早く2人を安全なところに! 俺達は自分のケツを拭きにいかなきゃならん!」
「でもっ!」
「頼んだぞっ!」
ゲキはハヤトに叫ぶ。
そしてゲキはタイガの側に戻ってきた。
ようやくソウネンも自分を取り戻しつつあるようだ。体を起こしてタイガの肩を治療している。
「よしっ。タイガ、もう、大丈夫だ」
ソウネンの治療でタイガの左肩は動かせそうだ。
ところが正面からまたビッグファングアントが20匹以上現れた。
「元はと言えば、しっかりとこの区の住民を避難させられなかった俺たちの不始末だ。こいつらをきっちり潰して、あの母娘に謝らなきゃな」
タイガはゲキとソウネンに話しかける。
「おう、クウネンの敵もとろうぜっ!」
「兄さんの、カタキ、おれが、とるっ!」
タイガ達はビッグファングアントの群れに雄たけびを上げながら突っ込んでいった。
◇◇◇◇◇
(あと、15匹!)
その時、長剣を振り下ろしたケイジの背後からタイガ達の雄たけびが聞こえた。
「くそっ。間に合えっ!」
ケイジは《火刃》の魔法を放ちつつ長剣を振るい続けた。
そしてケイジたちがすべてのビッグファングアントを始末して戻ってきた時、母娘を国軍に預けてその場に戻ったハヤトとサリナが立ち尽くしていた。
「ケイジ、ごめんよ。間に合わなかった。母娘を国軍に預けて急いで戻ったんだけど……。ゲキはどうしても母娘の安全を優先してくれって、自分たちの不始末は自分たちで責任をとるって、聞いてくれなかったんだ。ごめん…………」
「あなたのせいじゃないわよ。ハヤト……」
そこには、ビッグファングアントと相打ちになって横たわっているタイガとすでに血だらけになって事切れているゲキとソウネンの姿があった。
「タイガ……。ちきしょうっ」
ケイジは自分の力のなさに、この状況の理不尽さに、怒りをどこにぶつけたらいいのかわからないでいた。
◇◇◇◇◇
敏文達はかなりの深さに進んでいた。途中で現れたビグチュラやスカラービは敏文が《嵐刃》で吹き飛ばして先へ進んだ。もう、どれくらい降りたのか敏文自身もわからない。
「どこまで降りればいいの……」
アヤメもつぶやいている。
そして、ようやく底にたどり着くことができた。
敏文達は《風防》から降りると、正面を見据える。
(この先に何があるのだろうか)
皆と周囲を確認しつつ先へ進むと、視界が開けてくる。そしてその先が何故か明るくなっていた。
「なにがあるのか……」
ダイカクの言葉に、空洞を抜けた敏文達が見たものは………… 。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
よろしくお願いいたします。




