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第32話 初めてのギルド依頼 ※

2014.4.18 話を大きく修正しました。

 康司はぐったりして[双子のイルカ亭]に戻ってきた。


 そんな康司にマリベルが声をかける。

「おや、フェル。お帰り。早かったね。冒険者の登録は済んだのかい?」

「いや、まだだ。街を見て歩くだけで疲れた」

「あんた、そんなんで冒険者としてやってけるのかい? もっと鍛えないと!」

 マリベルは腰に手を当ててあきれた表情をしている。


「腹が減っててさ。夕飯ってもうできるの?」

「露店がいっぱいあるんだから、腹減ったんなら何か買えばよかったのに」

「いや、ここのメシが旨いって聞いて来たんだから、ここで食わねえと……」

「なんだい、嬉しいこと言ってくれるじゃないの。じゃ、そのテーブルで待ってな」

 にっこり笑ったマリベルはキッチンに入っていた。


 康司がテーブルに突っ伏してだらだらしていると、美味しそうな薫りが漂ってくる。

「はいよ。冒険者は体が資本だからね。しっかり食べな! どれもおかわりしていいからね」

「うおっ、まじで!」

 マリベルがテーブルに料理を並べていく。

 並べられたのは、たっぷりのマッシュポテトが乗ったサラダ、厚切りの豚肉のソテー、油で素揚げされた白身魚にトマトソースがかけられたもの、魚介のスープにバスケットいっぱいに乗った丸いパンだ。

「酒はどうする? 一杯やるかい?」

「じゃ、一杯だけビールを。このあとやりたいことがあるから」

「はいよ」


「く~っ、このメシの匂い! たまんねぇ!」 

 康司はテーブルの上の料理と戦闘を始めた。


 マリベルの旨いメシを堪能したあと、康司は宿の自分の部屋に入って、今日42号から奪った擬態の能力を試すことにした。

 この能力は誰かに似せて体を変えることも出来れば、自分の好きなようにアレンジもできるようだ。

 部屋には小さな鏡が置かれていたので、それで自分の姿を確認しながら、少しずつ試してみる。


 まずは髪の毛の色を金髪や銀髪、赤毛なんかに変えてみた。長さや髪型も変えて試す。

「なるほど、長さ、形、色は自由に出来るんだな」


 次は目の色を試す。淡い青や緑、赤など次々に変えてみた。

「赤は目立つから、自分の普段の変装には向かないな……」


 次は顔の形だ。康司はイメージ出来る父親や高校の時のクラスメイトの顔に変えてみる。

「お~、出来る出来る」

 一緒に髪型も変えるが問題無さそうだ。


 体つきも痩せたり太らせたり、筋肉ムキムキにしたり、背の高さも変えたり、色々試したがどれも上手く出来た。ただ、手足の長さを変えた時は、動きの感覚がちょっと違ったので、擬態したまま戦闘なんかになったら戸惑うかもしれない。


 色々試したが、自分にイメージ出来る相手があれば、その人間には自由に変えられるようだ。声も変えられている。


「あ、そう言えば、女性にも擬態できるのか?」


 康司は恐る恐るまずは一番記憶が新しいマリベルの姿に擬態してみる。


「お~、出来た~」

 擬態の時は服装まで一緒に変えられるようだ。鏡の中にはさっき会ったときそっくりのマリベルがいた。

 康司は、顔や体を触って確める。確かに触ってみても、ふくよかなマリベルの体つきだ。

 股間についていたはずのものもないし、胸も大きく出ている。

「あ、やべぇ。なんか、変な気分になってきた」


(これって、好きなグラドルの姿とかにもなれるってこと?)

 康司の頭の中に変な妄想がモヤモヤとし始めたその時だった。


 ドアをノックする音がして、マリベルの声がする。

「フェル、ちょっといいかい?」


(やべぇっ! このまま、マリベルに見られたら不味すぎる!)


 康司は慌てて擬態を解くと返事をした。

「ちょっと待って!」


 息を整え、鏡で問題ないかを確認してから入って貰う。


「明日の朝食のことと、明日以降の泊まりをどうするかなんだけど……って、なんか顔が赤いけどどうしたんだい?」

「い、いや、大丈夫だから……」

 康司はさっきまで触っていたのと同じマリベルがそこにいるのに、恥ずかしいやら、後ろめたいやらで、まともにマリベルが見れなくなっていた。


「で、朝食は日が上ったら出せるけど、もし、なんか事情があってもっと早くに出さなきゃいけないんだったら、あらかじめ言っとくれ。あと、明日も泊まるかい?」


「朝食は普通の時間で構わない。あと明日はまだわからないから、もし、明日も泊まる時は改めてお願いするよ」


「わかったよ。もし、明日もこの街で泊まるんなら、またよろしく頼むよ」

「ああ」

「そうかい。ありがとよ。じゃあ、邪魔したね。また明日。お休み」

「ありがとう」


 部屋の扉が閉まると康司はベッドに座り込む。

「ふう、危ない危ない」

 気をつけないとあんなところを見られたら不味いことになる所だ。


 その時、呟く声が聞こえる。

「宿主も男だな……」

「溜まってるんじゃない?」

「若い男なら、仕方ないか」

 影にいる2人も会話に入ってきた。

『…………シカタナイ?』

『ねぇ、何が溜まるの? どうして仕方ないの? ねぇ、教えてよ』

『「「…………」」』


(くっ、くそっ。これじゃ一人で抜いたり、変なこと迂闊に出来ないじゃねえか。)

 康司は動揺を隠せない。誰もいない部屋で一人挙動不審になっていた。


『ねぇ、教えてよ。え、何でみんな黙っちゃうの?』

「マルコ、聞かないであげて。コージが哀れになるから」

『ふーん、そうなんだ。コージって可哀想なの?』


(も、もうやめてくれ。擬態を変なことに使わないようにするから……)

 康司はがっくりとうなだれていた。 


 その後、康司はもう一度、明日冒険者登録するときに使う姿を考えるために擬態を始める。フェル以外の名前も考えないといけない。


「今の容姿はじいさん達にばれている。幾つか容姿や名前を使い分けれれば、足取りを追いにくくできるかもしれない」


 その日夜遅くまで康司は試行錯誤を繰り返して、新しい自分の姿を決めていった。


◇◇◇◇◇


 翌朝、これまた旨い朝食を頂いた後、康司は[双子のイルカ亭]を出て冒険者ギルドに向かう。

 途中で脇道にそれて路地裏の誰もいない所で擬態をする。


 そして康司は赤茶色の長髪を後ろで束ね、碧い瞳に少し彫りを深くした顔立ちに変えていた。背はそのままだ。


 街中を歩いても、そんなに気にされないのを確認すると、冒険者ギルドへ向かう。


 行ってみると朝の冒険者ギルドは、冒険者達で溢れていた。

 ちょっとその中には入りづらいので、しばらく近くの武器、防具、道具等が売っている店を見て回る。

 康司はそこで新しい剣と、初心者が使う事が多いとされる防具、服装、靴、回復薬や解毒剤、旅に必要な道具等が入った腰に付けるポーチ等を買った。

 今まで使っていた盗賊の剣はグーラに喰わせることにする。


 1時間少したっただろうか。冒険者ギルドを改めて訪ねてみると、さっきの喧騒が嘘のように人がいなくなっていた。


 康司はギルドの中に入り、カウンターに向かう。

 ちょうど一息ついた状態なのか、手持ちぶさたそうにしていた女性に声をかけた。

「すいません。冒険者の登録をしたいんですが、どこにいけばいいですか?」


 カウンターの女性は康司の格好を見てにっこり笑うと手順を案内する。

「それでは、こちらの用紙に必要なことを記入してください。もし、読み書きが難しければ代筆しますから」


 ブルネットのカールした長い髪が綺麗な淡い緑色の瞳をした優しい顔立ちの女性だ。


 用紙に書いてあることは何とか読めるし、書けそうだったので、紙を貰って記入台で申込書に記入する。

 名前はクラウディオ、通称クラウとした。


 書ける所を書いてカウンターに提出すると、受付の女性から質問される。

「すいません、あなたはシャンハール教徒ではないのでしょうか?」

「違うけど」

「そうですか。あちらで少しお待ちください。手続きが終わるまでの間こちらの規約を読んでおいてください」

 そう言って表裏に説明が書かれた紙を一枚渡される。


(シャンハール教徒かどうかで何か違うのだろうか……)

 疑問に思った康司は規約を読んでみた。

 ざっとこんな感じの事が書いてある。

・依頼内容の守秘義務

・依頼受付は原則ギルドを通す

・ギルドを通さない依頼にはギルドは責任はなく、フォロー、評価もしない

・完了報告の義務と方法

・完了報告後の報酬と評価

・冒険者ランクと昇級

・規約違反時の懲罰

・依頼失敗時のペナルティ

・ギルド緊急依頼の応諾義務

・冒険者の心得


「なるほどね」

 報酬は依頼内容によるが受ける側の冒険者ランクによって最低依頼料が異なるようだ。

 完了した内容とその依頼人評価によって評価ポイントが付与され、そのポイントの合計が基準点を越えると、冒険者ランクが上がるらしい。

 冒険者ランクは、低い方から順に白<黄<黄緑<緑<橙<赤<青<紫<銀<金の10色でランク分けされ、さらに其々の色で成り立ての「1」とそのランクである程度の実績がある「2」に分けられている。


「要はランクが20あるってことか」


 そうしている内に、受付の女性から声がかかる。

「クラウディオさん」

「あ、はい」

「こちらに両手を乗せてください」

 康司は示された金属の枠に其々の手を乗せる。すると、コピー機が原稿をスキャンする時みたいに淡い緑色の光が手首から指の先に向かって走った。

「はい、これでこちらの登録は終了しました。後はこの指輪を利き手と逆の手の人指し指にはめてください」


 康司は何か碧色の宝石が1つ填まった白い指輪を渡される。

「それは、色と填まっている石の数で冒険者ランクを現しています。一度はめるとギルドでしか外すことは出来ません。また、身分証明にもなっていますので、関所や役所で呈示を求められた際は、はめた手のスキャンを受けてください」


 康司は指輪をはめて眺めていてふと思った。

(なんかこれ目当てに指を狩る奴がいそうだな……)


「これって、例えば奪われて他の人に使われる可能性って無いんですか?」

「導入当初は、そんなことを考えた人がいて、冒険者の指が切られたりした事例があるそうですが、本人以外がはめられないようになっていますし、それが広く知れわたっていますので今はそんなことはありません」

「そうなんですか」


「ただ魔獣等に襲われたり、戦闘の結果、指や腕を無くされた場合は、その旨申告が必要です。その指輪からは定期的に戦闘の記録や生存の情報が飛んでギルドに伝わるようになっていますので」

「わかりました」


「あと、報酬についてですが、現金で渡すことの他に、ギルドに口座を作って入れておくこともできますよ。どの街のギルドでも、必要な金額を出すことができます。口座お作りしましょうか?」

「じゃあ、お願いします」


 すると受付の女性はにっこり笑って尋ねる。

「何か他に質問は?」

「さっきシャンハール教徒かどうか聞いたのは何か理由があるのですか?」

「ああ、お気を悪くしたら済みません。依頼をされるお客様がどうしてもシャンハール教徒の冒険者限定でと依頼をされるケースがあるからです。教会からの依頼等もそうですね」

「ああ、そういう事ですか」

「教徒であるかないかは、ギルドは公平中立の立場ですので評価や昇級には影響しないのですが、受けられる依頼に差が出てしまうのでどうしてもシャンハール教徒の冒険者の方が有利になってしまうのです」


(なるほどね。この国は国民の8割がシャンハール教徒らしいからな。熱心なシャンハール教徒だと、同じ教徒の方が安心とかいう人がいるんだろう。これは仕方ないな)

「わかりました。ありがとう」


「依頼は、あちらの掲示板にランク毎に貼ってあります。ソロの方は自分のランクを超える依頼は受けられません。あと、2つ以上低いランクの依頼も受けられませんので。黄緑の冒険者は白の依頼は受けられないということです。低ランクの冒険者の機会を奪うことになりますから」

「わかりました。色々とありがとう」


「また、わからない事があれば遠慮なく聞いてください。私はソニアと言います」

「ありがとう。ソニア」


 康司はソニアに礼を言うと早速掲示板へ向かう。


 掲示板の依頼状は、低ランクのものと高ランクのものが多く残っている。

 低ランクは数が多く、高ランクは受け手が少ないからだろうか。


 白の掲示板には、薬草や食材の採取、引っ越しの手伝い、老人の介護補助、手紙の配達等の雑多な依頼が貼ってあった。

 依頼状にはそれぞれ、期間や募集人数、1人当たりあるいは依頼単位の報酬、基準評価ポイントが書かれてある。

 加えて特記事項として、シャンハール教徒限定の文字があるものがそれなりにある。


「なるほどね。けっこう多いな教徒限定って」

 書いてある基準評価ポイントを見る限り、白の2に上がるためには7、8件ぐらいはこなす必要がありそうだ。


(薬草とかの採取に出るには時間が遅いし、手紙を届けるには土地勘がない。後は引っ越しの手伝い、倉庫整理の手伝い、老人の介護か……)


 康司は掲示板の依頼状の中から、教徒限定の表示がない、老人の介護補助の依頼状をはがしてソニアのところに持っていく。

「これ受けられますか?」

「あら、それを受けてくださるんですか。ええ、大丈夫ですよ。でも、報酬も評価ポイントも低いですけどいいんですか?」

 ソニアは、意外そうな顔をしている。

 依頼料は1日45ユール、評価ポイントは80ポイントとなっていた。

 白の2になるには1000ポイントが必要で、白の1が受ける依頼の平均的な基準評価ポイントは100~150ポイントのようなので確かに低い。


「ええ、最初から難しいことをやるよりはいいと思って。それにこういうことは嫌いじゃないし」


 康司は小さい頃は近所に住んでいた祖母の家に学校から帰るとよく寄っていた。祖母の事が大好きだったし、すごく可愛がって貰ってた。

 康司はなんとなくその時の事を思い出してこの依頼を受けようと考えていた。


「わかりました。じゃあ、お願いします、クラウディオさん。依頼人はロレーヌさんという女性です。ただ少し気難しい人のようですから、そこは気をつけてください。はい、これが完了報告の用紙です。これにサインを貰ってきてください」


「ありがとう。じゃあ、場所を教えてください」


◇◇◇◇◇


 康司はソニアに教えてもらった場所に向かう。そこは、ヌマンシアの街の外れにあった。雑草が庭に生い茂った古い建物だ。

「ここだよな……。人住んでんのかね」


 康司は玄関の扉をノックして声をあげる。

「すいませ~ん、ロレーヌさんの家でしょうかぁ。ギルドからの依頼できたのですが、いらっしゃいますかぁ」


 すると、奥の窓が少し開いて、ロレーヌが返事をしてきた。

「そんなに声をあげなくても聞こえてるよっ。玄関は開いてるから入ってきなっ」


 言われた通り、気難しいようだ。

 康司は玄関から入り、ロレーヌがいるリビングに入った。ロレーヌは窓際の安楽椅子に座っていた。


 ロレーヌは長い白髪を頭の後ろで三つ編みにしていて、杖を手に持っている。丸い毛糸の帽子をかぶり肩には体を冷やさないためだろう。ストールのようなものをかけていた。


「初めまして、クラウディオと言います。クラウと呼んでください。今日はよろしくお願いします」


 ロレーヌはしげしげと康司の頭から足までを眺めて言い出す。

「冒険者にしちゃ華奢だね。ま、いいさね。じゃ、早速働いて貰おうか。先ずは庭の雑草を綺麗にしておくれ」

「え、庭の雑草ですか? ロレーヌさんの介護って聞いたんですけど……」

「何言ってるんだい。あたしゃ足が悪くて庭の手入れなんか出来ないんだから、当然それも介護に入るだろう! ほら、道具は玄関にあるからさっさと始めな」


 何だか釈然としないが、玄関にあった軍手や鎌、シャベル等を持ち出す。

 庭に出ると、膝の高さぐらいに生い茂った雑草が康司を迎える。

「仕方ない、始めるか」


 康司は庭の雑草を手で抜く事にした。風の魔法が使えれば、魔法で刈ってしまうんだが、生憎今の康司は雷と火、治癒の魔法しか使えない。

(庭を燃やすわけにもいかないし、シャベルを使って庭中を穴だらけにするわけにもいかないし……)


「ん?」

 作業を始めようとした時、康司は雑草の間に薬草が生えているのに気が付いた。奪った誰かの知識に薬草や毒草等の知識があったようだ。42号か、29号辺りだろう。

 よく目を凝らして見ると、結構な数の薬草が混じっている。それに場所によっては畝になっているように見えるところもある。

 確かロレーヌは「雑草を綺麗に」って言ってた。


 一気に魔法とかで作業しなくて正解だったのかもしれない。

 康司は薬草を避けて、雑草だけを片っ端から抜いていった。


 2時間後、庭の雑草を全て抜いた所、やはり綺麗に薬草が一列で植えられていた。

(あのばあちゃん喰えねえ。多分オレを試したんだな)


 康司は雑草を1ヵ所に集めると、ほっと一息ついた。

「ロレーヌさん! 庭の雑草、綺麗にしましたよ」

「そうかい。じゃ、次は家の裏に回って薪割りをしとくれ!」


「……今度は薪割りかよ」

 家の裏に回るとかなりの量の薪用の木が積んである。


 康司はリビングに戻り、ロレーヌに聞く。

「どれくらい必要なんですか?」

「裏に積んである分、纏めてやっといとくれ」

「え、全部?」

「そうじゃ」

「…………」


(あれ全部やんの? ……くそっ、やればいいんだな、やれば)

 康司は裏庭に回り、腕まくりをすると斧を手に格闘を始めた。最初は馴れないせいかミスもあったが、コツを掴むと意外にサクサク進む。

 何とか終わった頃には、昼をとっくに過ぎていた。


「ロレーヌさん、終わりましたよ。目先使う分は暖炉横に置きますね」

「テーブルの上に、お昼があるから食べな。食べ終わったら直ぐに、他の事頼むから」


 テーブルには皿の上に小型の丸パンを2つにして、野菜やベーコンを挟んだものが、幾つか置かれていた。


(くそっ。ここまで来たら、最後まで徹底的にやってやる……)


 康司は、用意されたパンをがっつくと、そのあとも言われるがままに作業を続け、気が付いたら日が暮れようとしていた。


 最後の作業を終えてさすがにヘトヘトになっていると、ロレーヌがこちらを見て言う。

「ほい、今日の所はこんなもんかね。ギルドから紙を貰ってるんだろ。出しな」


 康司が完了報告の用紙を出すと、ロレーヌはそこにサラサラとサインをする。

「ほい、こいつをギルドに持ってきな」

「…………はい。ありがとうございます」

「また、そのうち頼むよ」


(いや、もういいです……。この依頼状剥がすことないと思うし)


 康司はロレーヌに一礼をすると、完了報告を手に冒険者ギルドに向かう。

 着いた時にはもう辺りはすっかり暗くなっていた。

 ふと、入口を見ると扉が閉まっていて、札がぶら下がっている。


「なになに? 本日の業務は終了しました、ですか…………。あれ、窓口って何時までなんだっけ? もしかして、日没までか……」

 康司はがっくりと肩を落とした。


「仕方ない、明日また来るか……」

 ため息をひとつつくと康司は力なく、[双子のイルカ亭]を目指す。


◇◇◇◇◇


「マリベル~。もう一泊お願い!」

 途中、裏路地で擬態を解くのを忘れずに、[双子のイルカ亭]にたどり着いた康司は、入口から宿に入るとそう伝える。


「あら、お帰り。なんだい、ずいぶんお疲れだね」

「夕飯をお願い……」

「あいよ。そこの空いたテーブルで待ってな」


 康司は出てきた料理をがっつくと、部屋に戻り装備を外した途端、そのままベットに力尽きてしまった。


◇◇◇◇◇


 翌朝、少し遅く起きた康司は、寝ぼけ眼で何とか身支度をすると、1階の食堂に降りる。


「フェル、おはよう。疲れは取れたかい?」

「いや、あちこち筋肉痛だ」

「そうかい。今日はどうすんだい?」

「とりあえずギルドに行ってから決めるよ」

「じゃ、朝飯食べな。ゆっくり食べていいから」


 そう言うとマリベルは、さっと朝食を用意してくれた。


(何だかお袋みたいで有り難いな……)

 康司は感謝しながら、朝飯を食った。


◇◇◇◇◇


 朝食後、康司はまた路地裏で擬態すると、冒険者ギルドに向かう。起きたのが遅かったせいか、ギルドはそれほど混んではいなかった。ちょうど、ソニアの窓口が空いたようだ。


「ソニア、おはよう」

「あ、クラウディオさん、おはようございます」

「クラウでいいですよ。これ、昨日の依頼完了報告です。遅くなっちゃって、窓口が開いてる時間に間に合いませんでした」

「そうでしたか。大丈夫ですよ、クラウ。確認するので、少し待っていてください」


 そう言うと、ソニアは完了報告を何かにスキャンさせている。

「はい、確認が出来ました。あ、ちょっと待ってください。ギルドマスターから伝言が入っています。今からお会いしたいとの事ですが、宜しいですか?」


「え、あ、はい」

(何でギルドマスターに呼ばれるんだろう。もしかして何かヤバイんだろうか。でも、断る理由がない……)


 康司は、ソニアの案内でギルドマスターの部屋に通される。

「失礼します。クラウディオさんを連れてきました」

「入っていいよ」


(あれ、あの声は……)


 大きな背もたれの椅子がクルリと回るとそこにいたのは、ロレーヌだった。


「あれ、ロレーヌさん?」

「昨日はお疲れさん」

「え、貴女がギルドマスター?」

「そう。私がここのギルドマスターさ。昨日は黙ってて悪かったね。私は時々こうやって新人の事を試させて貰っているのさ」

「え、そうなんですか? あれ、ってことはソニア! もしかして最初からしってたの?」


 ソニアは、にっこりと答える。

「ええ、もちろん。時おり、こうやって幸運な新人さんが、ギルドマスターにお目にかかることになるんです。ある意味恒例行事ですね。フフフ」

「そうだったんだ。どおりで、やたら試されてる感が……」


「そうかい。うすうす気が付いていたようだね」

 ロレーヌがイタズラがばれた子供のようにばつが悪そうに言う。


「いや、あまりに報酬や評価に見合わない労働だったんで、基準ってどうなってるんだろうって。あと、最初の雑草取りの時に薬草が沢山混じっている時点で、試されてるんじゃないかと少し疑いました」


「いや、悪かったね。でも、よく途中で怒り出さなかったね。大抵の新人達はこんなの依頼と合わないって怒り出すんだが。中には途中で帰るものもいてね。クラウ、なぜそうしなかったんだい?」

「いえ、一応ギルドを通して受けた依頼でしたから。報酬を貰った後に割りに合わないってソニアさんに言おうと思ってました」


 すると、ロレーヌは大笑いしながら、言った。

「あっはっは。ソニアを責めんでやってくれ。ギルドは公正な評価が信条だからね。クラウの言う通り、依頼状に書かれたままの報酬や評価ポイントじゃ見合わないね。それに私から見ても、お前さんは非常にいい仕事ぶりだったよ。薬草を残したことも、依頼主にクレームしなかったことも含めてね。だから、今回の報酬と評価ポイントは上積みしてあるから」

「ええ、報酬は45ユールではなく、150ユールに、評価ポイントは80ポイントではなく、250ポイントになっていますわ」

 そうソニアが説明してくれた。


「そうですか。ありがとうございます」

「礼を言われる話でもないさ。むしろこっちが詫びないとね。試して悪かった。これからも、頑張っておくれ」

「はい、ありがとうございます。あ、でも、昨日みたいなのはなしでお願いします」

「解っておるよ」

「フフフ」

 後ろでソニアも笑っている。



 こうして、康司の初めての依頼は完了した。

最後まで読んで下さりありがとうございます。



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