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第31話 ヌマンシア ※

2014.4.18 話を大きく修正しました。

 康司はヌマンシアの街へ向かって歩いていたのだが、身体中が泥だらけな状態なのに気が付いた。


「やっぱり、このままじゃ街に入れないよな……。どこか水浴びできそうな場所を探さないと」


 そう思って近くを流れる川を見たのだが、さっきの雨で増水しているようだ。

 ちょっと水浴びって感じじゃない濁流になっていた。


「こりゃ、むりだな」


 他を探さないと、そう思っていた時、近くの森の中に湧き水からできた泉があることを思いつく。


「そっか、野盗か29号かどっちかの知識か。そこなら濁って無さそうだな」


 康司はそこに向かうことにした。


 15分ぐらい歩いたところで、森の中に泉を見つけることができた。泉と言うよりはちょっとした池ぐらいの大きさだ。

 湧き水が水源なだけに濁ったり澱んだりはしていない。割と澄んだ水だ。

 手にすくってみたが冷たくて気持ちいい。

 康司はそのまま顔を泉に突っ込んだ。目を開けると泉の底まで見える。

 どれぐらい先まで見えるんだろうと、少し頭を上げて水の中の先を見渡そうとした時だった。


 何かが光ったように見えた康司は、とっさに頭を水から上げて、体を横に倒す。

 するとたった今、康司の頭があった場所を何かが突き抜けたと思ったら、すぐに水の中に引っ込んだ。


(あれは何だっ!)


 身構える康司に対して水中から姿を現したのは蛙だった。ただし巨大な。

 康司の背の倍以上の大きさがある。康司はすぐさまバックステップで水辺から飛び下がる。そこへ巨大蛙の舌が矢継ぎ早に襲ってきた。

「くそっ、足場が悪くて、うまく避けられない」

 あんなのに捕まったら、逃げられないかもしれない。なんとか避けているのだが、岩が多くて脚にも負担がでかい。ちょっと限界かもしれない。


 その時、康司は閃いた。

「マルコっ!」

 康司はマルコを呼び出す。

(そうだ、蛙には蛇がいいんじゃないか。“蛇ににらまれた蛙”だ!)


『な~に?』

 マルコは眠そうだ。

「あいつ、なんとかできるか!」

『ん? んん~っ? あっ、ごちそうだっ!』

 マルコの動きがしゃきっとする。そしてシャーっと巨大蛙を威嚇した。すると、今まで康司に向かって舌をしゅっしゅっと伸ばしていた蛙のその口が開いた状態で固まって動かなくなった。


『いただきま~~す』

 そう言うとマルコは大きな口をあけて、巨大蛙に飛び掛った。


 大きな水しぶきがあがり、周囲は豪雨があったかのように水浸しだ。そしてそこには巨大蛙の姿はなくなり、おなかを大きく膨らませたマルコがいた。


『うーん。久しぶりぃ~。やっぱり、美味しい物は一飲みに限るね~』


(お前はどこのオヤジだ……)

 そう思う康司をよそにマルコは生き生きとしている。

『ねぇ、コージ。この泉、あ、池? 他にも美味しそうなのがいるんだけど、ちょっと食べにいっててもいい?』

 まだ、食うのか。

「ああ、いいぞ。ただし、この泉の範囲にしてくれよ」

『は~い』


 康司はファナを呼び出して警戒を頼むと、さっきの水しぶきでずぶぬれになったもののまだ汚れている体や服を、マルコが「食事」をしている間にきれいにしようと思い、泉に体ごと入った。

 本当は危険な行為なんだろうが、マルコが騒いでいる間は大丈夫だろう。多分。


 康司が体を洗い、頭についた泥を落としている間に、泉の反対側ではマルコが嬉しそうにはしゃいでいた。

『ひゃっほー。あ、美味い物みっけ!』ざっぱーん。

『あ、こっちにも!』ざぶーん。

 水面から小魚たちが跳ねている。泉の生き物たちにとってはとんでもない災厄だ。


(そのうち、この泉の生き物いなくなるんじゃないだろうか……)


 康司は体を洗い終ると、更に魔法で服を洗濯して乾かす。


 そしてその辺にあった木の枝などを集めて、炎の魔法ファイヤボールを使って火を起こし、体を暖め始めると、マルコがようやく戻ってきた。


「うっ!」

 康司が見るとマルコの口から何か生えている。よく見ると虫の脚のようだ。


『え、なに、これほしいの? しょうがないなぁ。 コージになら分けてあげるよ』

「いや、いらねぇ」

『遠慮しなくてもいいのに。おいしいんだから』

「いや、まじでいらねぇ」

『そう、じゃ食べちゃおうっと』


 康司は視界から虫の脚が消えると少しほっとした。あまり子供のころから、虫が好きではなかったからだ。

(特に甲殻類のあの茶色とか黒っぽい脚がてかてかしてるのは……。ああっ考えただけで……)

 康司は寒気がして、体をぶるぶる震わせる。

『ダイジョウブ?』

 ファナが心配してくれる。

「ああ、大丈夫だ」

『そんな格好だと風邪引くよ』

 マルコはマイペースだ。

(いや、この寒気はマルコ、お前のせいだから……)


「よく、喰うなあ」

「あんたと同じでしょ」

 アヴァとグーラがそんな感想を漏らす。康司も同感だ。


『あれ、今誰か喋ったよね』

「ああ、そうか。まだ紹介してなかったな。マルコ、オレの両腕は魔生物なんだ。右腕がグーラ。左腕がアヴァリティア、アヴァって呼んでる。二人とも頼りになるんだぜ」


 グーラとアヴァが話し出す。

「そうさ。おいらたちは頼りになる宿主の相棒なのさ。おいらたちが先に宿主についてるから、ま、先輩ってとこかな。よろしく頼むぜ」

「何先輩風吹かせてるのよ。私はアヴァよ。よろしくね」


 その夜、康司はそのまま泉の側で野宿した。4人と今できることやそれぞれの特徴などについて情報を交換して過ごす。

 もし人の気配がした場合は、ファナとマルコは影に隠す用意はしつつ、遅くまで語り合った。


 翌日、日が上ると康司はヌマンシアを目指して歩きだした。


◇◇◇◇◇


 ヌマンシアの街は湊町で城壁がなく、なだらかな丘陵に沿って家々が立ち並ぶ街だ。家は白い石で作られていて、海の青とのコントラストが美しい。


 康司は街を望む丘の上から、海岸に沿って立ち並ぶ街並みを眺めた。

「けっこう綺麗だな」


 街中に入っていくと、より活気を感じる。通りを行き交う人々は、楽しげに大きな声で会話している。


 まずは宿を探す。街の人に聞いた安くて手頃という、冒険者がよく泊まるという宿屋街を目指した。


 宿屋街に着くと、恰幅のいいおばちゃん達が通りを歩く冒険者達に対して客引きをしていた。

「兄ちゃん、今日の宿は決まったかい? うちの宿は飯が旨いよ。損はしないから泊まっといで!」

「うちは、ゆったりとした部屋とベッドでゆっくり休めるよ。物は試しだよ! ぜひ泊まっとくれ!」


 康司は安いが飯が旨いと評判の[双子のイルカ亭]に宿を取ることにした。


 [双子のイルカ亭]はマリベルという切符のいい女将さんが仕切っている宿だ

 1泊40ユールで2食付きで泊まることができる。


 マリベルは33歳。宿をやっていた旦那とは死に別れて今は独身だ。1人で宿を切り盛りしている。背は168セル。全体にふくよかな体つきをしていて金髪の長い髪を紐でまとめている。腰から下に前掛けをして、てきぱきと働き者だ。


 康司は今、7人の野盗から奪った金を持っている。銀や銅の貨幣でそれぞれ大きさが違うものがあり、銀貨が10枚、小さい銀貨が15枚、銅貨が70枚、小さい銅貨が沢山あった。


 シャンハールの通貨ユールは、小銅貨、銅貨、小銀貨、銀貨、金貨で、

1ユール=1小銅貨

10ユール=1銅貨

100ユール=1小銀貨

1千ユール=1銀貨

1万ユール=1金貨

になっている。


 つまり、1万2千2百ユール以上はある。宿泊の値段から考えて、大きな買い物をしない限りは、暫くは大丈夫だろう。


(とは言ってもこれからどうすればいいのか……。おっと、その前にコージ以外の名前を考えないと)

 追われている身で宿に本名で泊まるのはまずいだろうと考えた康司は考え込む。


 今までこの世界で聞いた名前はラテン系っぽい名前が多いと感じていた。

 そこでフェルナンドって言う名前を思い付いたが、少し考え直してあまり難しくない名前を名乗ることにした。


 康司は、マリベルにフェルと名乗り、宿代を払って泊まることを伝える。

「あんた冒険者になりに来たのかい?」

「何でそう思うんだ?」

「だって、腰に剣をさげて、背中に弓を背負ってたら、商人ですはないだろう? でも、冒険者にしては、武器はともかくそのなりはねぇ。冒険者になるために故郷から出て来ましたって格好だからさ」

「なるほど」

「冒険者ギルドはここを出て宿屋街を右に抜けて行くと、突き当たりにあるよ。あ、登録には500ユールが要るからね。後、防具や武器の店も通り沿いにあるから」

「わかった。登録には500ユール以外に何か要るのか?」

「いや、それだけだよ。そう言えばあんた、字は書けるのかい?」

 康司は29号からの知識でこちらの文字などは解っていた。何とか書けるだろう。

「大丈夫だ。ありがとう」


 康司は勝手に勘違いして色々と教えてくれたマリベルに感謝しつつも、冒険者ギルドに入るって言う選択肢には魅力を感じていた。


(オレは地球に帰りたい。命の危険と隣り合わせのこの世界よりは父親にどやされようが元の世界でやり直す方がよっぽどいい。

 でも、今は戻る方法が解らない。だから解るまではこの世界で生きていかないと。それにじいさん達に追われているし、奴等に殺られないだけの力もつけないと)


◇◇◇◇◇


 宿を出た康司は人ごみの中をギルドへ進む。


(冒険者ギルドに入って、冒険者になる方が色々な情報を集めつつ、金を稼いで、自分を強くするにはいいんじゃないか。ただ逃げ回るよりはその方がいい)


 そんなことを考えながら歩いていると、腹に堪える魅惑の薫りが漂ってきた。康司は昨日から何も食べていない。いろんなことが有りすぎて、すっかりそのことが頭から抜けてしまっていた。


 康司は露店のオヤジから何かの鳥を焼いた串と、魚を焼いた串を買い、歩きながら食べる。 


 その時だった。


 康司はあり得ないものを見た気がした。


(通りの向こうを左に横切ったのは、あれは…………、あれは…………)


「イーリス…………なのか…………」


 康司は思わず走り出していた。

「イーリス……、イーリスっ!」


 だが、その女の子を見失ってしまう。辺りを探したが、見当たらなかった。


 康司は呆然と立ち尽くす。

(幻でも見たんだろうか……。イーリスは、あの試技室で死んだはずだ)


 あの時、イーリスは「どんなことがあっても私の分まで生きてっ!」と言い残してファナを康司に託して死んでいた。


 康司は見間違いだったんだと自分に言い聞かせて冒険者ギルドへ向かう。


 すると、また冒険者ギルドの前であの子を見かけた。やはり康司にはイーリスにしか見えない。康司は彼女を追って走る。


 しばらく走った所で、また見失いかけるが、今度は海岸の方にある小高い丘の方にむかう彼女の姿が見えた。


「何時の間にあんなところに……」

 康司は驚きながらも、追いかけた。


 そして、人気のない丘の上にたどり着いたとき、ようやく彼女に追い付くことができた。


「イーリスなのか……?」


 康司が呼び掛けると彼女はこちらを振り返り答えた。


「ええ、そうよ。ひさしぶりね」

「生きていたのか」

「ええ、あの後心変りした老師から助けてもらったの。お陰であなたに切られた腕もつけてもらったし、目も見えるようになったわ」

「そうか。それはよかった」


 彼女はにっこりと笑うと、話を続ける。

「老師からね、伝言を預かっているわ」

「伝言?」

「「43号よ。わしが悪かった。32号を助けないと言ったのはわしの間違いじゃった。この通り32号には新たな腕と目を与えた。じゃから、戻ってきてはくれまいか」ってものだけど」


 康司は意外だった。

「ふーん。あのじいさんが謝るかねぇ」

「だから、その為に私をこうやってあなたの所に送ってくれたんじゃない」

「そうなのかなぁ。どうも、あのじいさんらしくない気がするけど」

「そうかもしれないね。照れ臭いんじゃない? だから私に伝言させてるんじゃないかしら。直接柄にもないこと言うのが恥ずかしかったのよ、たぶん」

「ふーん」

 康司にはどうもあの老師が照れ臭そうにしている姿が想像出来ない。

 康司が首を傾げていると、彼女が近づいてくる。

「私からもお願い。ねえ、戻ってきてくれない? あなたがいないと淋しいの」

 そして、康司に抱きついた。

「おい……」

「お願い。私と帰って」


 康司は少し迷ったが、彼女に答えた。

「いや、それは出来ないよ」

「どうして?」

 彼女が今にも泣き出しそうな潤んだ目で上目遣いに訴えてくる。

(そんな目をされると決心が鈍りそうだ……)


「オレは元の世界に戻りたいんだ。だから、その方法を自分で探したい。じいさんの所に戻ってもまた実験動物にされるだけだと思うんだ。だったら、自分で方法を見つけたいと思ってるんだ」

「そう、決心は変わらないの? 私がお願いしてもダメなの?」

「ああ、ごめんな」

「そう、じゃあ……」


 その時、ファナの声が聞こえた。

「チガウ! イーリスジャナイ!」


 その声にとっさに康司は体をよじって彼女を振りほどこうとした。

 その瞬間、右の上腕に鋭い痛みが走る!

「くっ!」

 何とか彼女の体を振りほどくと康司は叫んだ。

「お前はイーリス、32号じゃねえな! 何もんだっ!」


 彼女はふっと笑って話し出す。

「あら、もう少しで心臓をひと突きだったのに……。残念」


 そう言うと、彼女の体の輪郭がぼやけ、むくむくと体が大きくなり、全く別人の女性が現れた。

「体のサイズが変わる擬態は疲れるのよねえ。何で私がこんなガキにならなきゃいけないんだか」


 現れたのは、ショートカットの金髪をした青い瞳の女性だった。背は康司と同じくらいだ。20代半ばぐらいだろう。


 彼女は2、3度肩を回すと、ニヤッとしながら話はじめる。

「大人しく、戻りますって言えばよかったのに……。私は42号。あんたの1コ先輩ね。老師からはあんたを生死を問わずに連れてこいって指示を受けてるわ」

「くそっ!」

 康司は右腕に刺さった大きな針のようなものを引き抜いて捨てる。傷は大したことない。

「よりによって、イーリスに擬態しやがって……」

「だって、その方があんたに近付きやすいと思ったからねえ。案の定、こっちの誘いにすっかりのせられちゃって。あんなガキのどこがいいんだか」

「許せねえ」

 康司は42号に向かって、《鉄弾》を撃ち込もうと右腕を上げようとしたが、腕が上がらない。

「なんだっ、くそっ! 右腕が……」


「フフフッ、少しずつ効いてきたわね。あんたが抜いた針には、遅効性の痺れ毒が仕込んであってね。だんだんと体を蝕んで最後は心臓が痺れて止まるまで、じんわりじんわり死の恐怖を味わえるっていう特別製さ。じっくり味わいな」


 その時、周りから男たちが10人ほど現れた。

「姉さん。こいつを運べばいいんで?」

「そう。もうちょっと待ちな。少しすればくたばっちまうから」


(くっ、どうすれば……。イーリスの擬態にだまされるなんて……。擬態……そうか……)


「くはっ」

 康司は力尽きて倒れる。


「あら、意外に早く毒が回ったみたいね」

 そう言うと42号が近づいてきた。男たちも寄ってくる。


『ファナっ!、マルコっ! 頼んだっ!』

 康司の影からファナとマルコが飛び出す。

「何っ!」


 次の瞬間、マルコが42号に巻き付いて彼女の首、腕、両足を締め上げる。ファナは男たちに襲いかかっていった。

「ぎゃあっ! グレイウルフだあっ!」

「やべぇっ! に、逃げろっ!」


 男たちは逃げ惑うが、次々にファナの餌食になっていく。


 康司は、震える足で立ち上がり、マルコが締め上げている42号の側にいく。

「お前の能力と知識もらうぜっ!」

 康司はまだ動く左手を42号の肩に置く。

 彼女の体から力が左手を通じ入ってくる。それと同時に解毒の方法も理解する。


 康司は彼女の腰についている固い革のポーチから、ガラスの小瓶ようなものを取り出す。そしてそれを一気にあおった。


 すると少し体の痺れが楽になっていく。


「失敗……した……わね。でも……、私たちから……は……逃げられ……ない。すぐに……次が……」

 そう言うと、42号は息絶えた。


 男たちを倒し終えたファナが近寄ってくる。

「ふうっ。ありがとうファナ。助かったよ」

『アノオンナカラハ、イーリストチガウニオイガシタノ』

「そうか。本当にありがとう。マルコも」


 康司は二人を影に戻すと、男たちの装備をグーラに食べさせ、腰から財布を頂く。

 ほっといても誰かが持っていくなら、自分が有効に使ってやろう。


 康司はまだ少し痺れる体を引きずりつつ、宿に戻ることにした。


最後まで読んでくださりありがとうございます。


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