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第27話 魔法士認定

2014.4.18 話を大きく修正しました。

「宰相殿ではありませんか。ええ、構いませんわ」

 ナツキがにこやかに答える。


(これはとても帰るとは言えないな)

 敏文はそう考えた。


 キジマール宰相は62歳。襟足に届くぐらいの銀髪のオールバックで口髭を生やしている。背は170センチ半ば、背筋は真っ直ぐで少し緑色かかった茶色い瞳をしている。


「ありがとうございます。どのような話が聞けるか楽しみじゃな」


 敏文達はヨシトモとナツキの主催で王宮で夕食を頂くことになった。



 王宮内の会食が出来る一室に通される。用意されていたのは円卓で、敏文の正面にヨシトモ、それから右にナツキ、トモナリ、タチバナ伯爵、サラ。ヨシトモの左から、キジマール宰相、ノーギ男爵、アヤメ、ブンゾーが座る。


 最初にシャンパンが各自のグラスに注がれる。全員のグラスに注がれると、ヨシトモが発した。

「ナツキの無事の帰還を祝して、それとそれを助けてくれた[ミスティック]の今後の活躍を祈念して、乾杯!」

「乾杯!」

 全員が唱和してグラスに口をつける。

「美味しい!」

 サラが直ぐに声をあげる。


 すると、ウエイターたちが新たなグラスにワインを注ぎ、次々に料理を運んで来る。


 料理を食べながら、会話が進む。

「アヤメとこうしてゆっくり話すのは、いつ以来かしら」

「そうね。私が王都を離れたのが3年前ですから、それ以来ですね」

「そうか、二人は同じ学校に通っていたのだったな」ヨシトモが言う。


「私は、市井の人々の事をよく知りたくて、無理を言って、庶民の子弟が通う高等学校に通いました。ところが私が王女であるためか、打ち解けた話をしてくれる同級生はいなかった。そんな中、アヤメだけは他の生徒と別け隔てなく、私と向き合ってくれたのです。私はとても嬉しかった。初めて友人と呼べる人に出会ったのです」

「私は、ナツキ様が一生懸命に溶け込もうとされていたのを見て、一緒にいて差し上げなければと思ったのです」

 敏文はアヤメの他人の為に一生懸命になるところは素晴らしいと思っている。顔を少し赤くしているアヤメを皆微笑ましく思っているようだ。


「アヤメは真っ直ぐなところがあってね。学校でいじめがあって苦しんでいる子がいると、放っておけなくて、1人でいじめっ子の所に乗り込んで行ったりしてたわね」

 ナツキが笑いながら話す。

「それは今も変わらないな」

 敏文がそう言うと、アヤメが膨れる。

「それじゃ、私がまるで成長してないみたいじゃない」

「ついこの間、ミヤザでも1人で突っ込んでいってダイカクさんに叱られたばかりじゃなかったっけ?」

「うぐっ」

 アヤメがその一言でへこむ。


「まあ、でも一昨日はそのアヤメが一緒に行くと言い張って来てくれたお陰で、俺も攻撃に専念出来て本当に助かった」

「でしょ。私だって頑張ってるんだから」

 立ち直りが早いのは彼女のいいところでもある。


「その件についてなのじゃが、食事の途中ではあるが、一体何が起きたのかをわし達に聞かせてはくれまいか」

 キジマール宰相がそう尋ねてきたので、まずナツキが船が襲われて敏文達が助けに入るまでの話をした。


「数百のバットエイプか……。確かに近衛の1個小隊だけでは対処のしようがないかもしれないな」

 ヨシトモが言う。


「確かバットエイプは火を嫌うのではなかったか? 何故それが火で王室専用船を攻撃出来るのだ?」

 トモナリの問いに、敏文が答える。

「3匹のバットエイプが火魔法の魔道具を持っておりました。それを使って攻撃をしたのです。その3匹は群れのボスの様で他のものに指示をしていました。何者かが使役していたとしか思えません」


「と言うことは、何者かがナツキ様を狙ってバットエイプに船を攻撃させたと見るべきだということか」

 キジマール宰相が髭に手を当てつつ呟く。


 敏文は自分の考えを話す。

「ええ、私はそう考えます。バットエイプを排除した後に白い大きな鯨が襲って来たのですが、その頭部に魔石がはまった杭のようなものが刺さっておりました。襲うタイミングを考慮しても恐らくは謀られたものです。バットエイプが持っていた魔道具と鯨に刺さっていた杭は、戦闘艦ヒューガのダイゴ艦長にお預けしております」


「それで、お主は数百ものバットエイプからどうやってナツキ様をお助けしたのじゃ? 専用船に乗船していた近衛兵の話では鳥に乗ってやって来たとか、見たこともない火の魔法を使うと聞いたが、実際はどうなのじゃ」

 宰相が聞いてきた。


「大変申し訳ございませんが、少しの間お人払いをお願いします」

 それを聞いたヨシトモが頷いて、ウエイター達に指示を出す。

「こちらが指示をするまで退出してくれ。そして誰も入れるな」

 すると皆一礼して退出していった。


 敏文は覚悟を決めて話し始める。

「その近衛兵の話は間違いではございません。私は定期船の甲板で王室専用船が攻撃されている状況を見て、定期船の護衛の為ブンゾー、サラの二人に残って貰う一方で、私とアヤメで王室専用船の援護と魔獣を排除すべく専用船に向かいました。私に宿る精霊の力を借りて」


「精霊だと!」

 ヨシトモとトモナリが立ち上がって驚く。

「あの蒼い鳥は精霊だったのですか」

 ナツキは口元に両手をあててびっくりした様子だ。


 敏文は立ち上がり少し後ろに下がる。

「セイラン、済まないが姿を見せてくれないか」

 敏文がそう言うと、その肩にセイランが現れた。


「おおっ!」

 [ミスティック]以外は皆驚いている。


「私は精霊を宿し、精霊の力を直接借りて行使する精霊魔法を使うことが出来ます。ここにいるセイランは薫風の精霊といい、風を司る精霊です。今はこの大きさですが、大きさを変えることも出来ます。私とアヤメはこのセイランに乗り、専用船に向かったのです」


 敏文は立ち上がったままのヨシトモとトモナリに席に座るように促した。

「ヨシトモ様、トモナリ様、どうぞお掛けください。驚かせてしまい申し訳ございません」


「精霊を直接宿すなど、今まで聞いたことがないぞ。宰相殿はご存じか?」

 トモナリがキジマール宰相に尋ねる。


「いえ。精霊から祝福を受けたと言われるオズーノ殿のような特殊属性魔法の使い手の話しか存じませぬな」

 宰相は首を傾げながら言う。


 敏文はセイランを元に戻したあと、席について話を続ける。

「専用船の近くについた私達は、まずバットエイプ達の動きを止めるため、セイランの力で強い風を起こし、バットエイプを混乱させました。そしてその間に専用船の甲板に降りたのです。その時既にかなり魔力をお使いだったのでしょう。ナツキ様の《水洞》の魔法は消えかかっておりました。そこで私はアヤメにナツキ様に代わって《風洞》を張って、ナツキ様の護衛をしてもらいつつ、バットエイプと対峙したのです」


「わたくしが覚えているのは、そこまでですわね」

 ナツキが残念そうに言う。


「数も多く、バットエイプが火に弱いと知った私は、私に宿る別の精霊である紅炎の精霊の力を使って、《炎雨》という炎の弾の雨を広範に降らせる精霊魔法を使ったのです。無論、船を防御するため《水洞》の魔法をかけた状態で」


 敏文がそう言うと、キジマール宰相が頷きながら言った。

「なるほど、近衛兵が見たこともない火の魔法とはそれのことか。その後、白い鯨が襲って来たのじゃったな。」

「ええ、非常に大きな鯨でしたので、船に追突されれば沈没することは間違いありませんでした。ですので、まずは《岩壁》の魔法で海底の岩盤を隆起させ、鯨の進行をくい止め、[通魔の投網]と言う魔道具を使い、雷の魔法を使って鯨を気絶させたのです」


「ほう。面白い手段を使うのだな」

 タチバナ伯爵が言う。

「ハカタンの街で手にいれまして。その時です。鯨の頭に杭が刺さっているのに気が付いたのは。それで、それを取り除くと鯨は去って行きました」

 敏文はグラスのワインを口にすると一息つく。


「どうも、最近国内で起きている不穏な動きには魔道具が絡んでいるものが多いようだ。明後日の会議でもその辺はよく確認し、調査を継続させねばな。そう言えばタチバナ伯爵、ノーギ男爵、お二人のご領地でも魔道具に絡んだ事件が起きていたな」

 ヨシトモが二人に話を向けた。


「はい、タバルーの山中の強盗団が魔道具を使用して悪事を働いておりました。当方の討伐隊や、青や赤の探検者チームも討伐に手を焼いていたところ、それを全員捕縛したのが彼ら[ミスティック]なのです」

 タチバナ伯爵がヨシトモや宰相に向かって説明する。

「ほう」


 関心を示す宰相に向けてノーギ男爵も補足する。

「加えてミヤザの事例でも魔獣の討伐や散魔石の破壊に協力してくれました」


 そういう二人の話を引き継ぐ形で、敏文はミヤザとタバルーで起きた出来事について話した。


「なるほど、そう言うことだったのか」

 ヨシトモが続けて尋ねる。

「それで君はいくつの精霊を宿しているんだ? それに聞いていると複数の基本属性魔法を使えるようだね」


「はい。今は私は4人の精霊を宿しています。あと基本属性魔法は5属性全て使うことが出来ます」


「5属性全部じゃと!」

「それに加えて4人の精霊だと!」

 [ミスティック]とノーギ男爵以外は、驚いている。


「トシフミ、ミヤザを出たときは精霊2人ではなかったのか?」

 ノーギ男爵が聞いてくる。

「ええ、その通りです。あとの2人と出会ったのは、ミヤザを出た後になります」


「ノーギ男爵、トシフミ様が精霊を宿していること、ご存じだったのですか?」

 ナツキがノーギ男爵に尋ねる。


「ナツキ様、ノーギ男爵をお責めになりませぬよう。ノーギ男爵は私がまだ自分の力や境遇に適応出来ていない状況をおもんばかって下さり、話を伏せていて下さったのです」

「そうでしたか」

 敏文の説明にナツキはひとまず納得する。


「これは驚いた。でも、何故お主のような存在が今まで知られておらんかったのじゃ。我が国の学校制度や魔法士の把握の見直しをせねばならんかの」

 キジマール宰相は首を傾げている。


「いえ、そう言うことでもないと存じます。何せ、私が魔法を使い、精霊を宿すようになったのはこの半月ほどのことなのですから」


「わずか半月? 半月であれだけのことができるようになったというのですか?」

 敏文の話にナツキが驚く。他の面々も頷いている。


 敏文はサラを見る。サラはにっこりと頷いてくれた。

「実は私とそして隣にいるサラは、この世界の人間ではありません」



「なんじゃと!」

「どういうことだ?!」

「説明して頂けますわね」

 ナツキの求めに、敏文は自分とサラがこの世界にやって来た経緯を説明していった。


「なんと、精霊や5属性全部の話でも腹一杯なのに、さらに驚く話が聞けるとはの」

 宰相は苦笑いしている。


「この世界では、そのような人間の事を[異邦の人]と呼んで、歴史の中で例があると聞いております。この国でもかつて居たと伺っておりますが……」

 敏文は皆の反応を伺う。ヨシトモとナツキは顔を見合わせている。トモナリ、タチバナ伯爵、ノーギ男爵は首を傾げている。


「お主、そのような話どこで聞いたのか……」

 宰相は驚いた表情で敏文を見ていた。


「宿っている精霊から教えてもらったものです。この世界にはそのようなものがおり、この国の記録にも2人の人物が[異邦の人]として記録されていると」

 その言葉に宰相はひとつ息をつく。

「そうか、お主には精霊が宿っておるのだったな。確かに過去にこの国でも[異邦の人]であったとされた人物が2人おる。大魔法士ディリコと発明家で魔道具作成士であったパストールと言うな」

 宰相は少し苦虫を噛み潰した表情をしている。


「えっ、お2人ともホーエンに多大な業績を残された方ではありませんか! お2人ともホーエンの方だと学んだのですが……」

 ナツキが驚いている。

「この国の歴史では、2人が[異邦の人]であったことは、敢えて伏せられているでの。皆がご存じないのも無理はない。2人がこの国で成し遂げたことは、そのままホーエンの業績としてこの世界では伝えられておる。当時の国王の判断でしょうな」

 キジマール宰相が説明する。


「私は余計な事を申し上げてしまったようですね。知らなかったとはいえ、申し訳ございません。以後、この話は慎むように致します」

 敏文は宰相に詫びを言う。


「気にされるな。ただ、今のように[異邦の人]については一般には詳しく伝えられていないのが実情でな。話される時は気を付けられると宜しかろう」

「わかりました」


「ところでサラ殿も[異邦の人]であるのならば、同じような精霊魔法とやらが使えるのか?」

 トモナリが尋ねる。


「いえ、私は水と雷の2つの基本属性魔法を上級まで使うことは出来ますが、残念ながら精霊魔法は使えません」

 サラはとても残念そうに言う。


「そうか、でもわずか半月やそこらで2属性を上級まで使いこなすというのは凄いな」

 ヨシトモが感心しながら言った。


「確かにそうですな。ただ、この2人とブンゾーはこの国の高等学校を出ていないため、まだ魔法士としての認定を受けておりません。そこでオズーノ殿のところで明日認定を受けさせようかと考えております」

 ノーギ男爵が言った。


「ブンゾー殿はどの属性をお使いになられるのですか?」

 ナツキが話をブンゾーに向けた。

「はい、私は主に風魔法を。風でしたら上級まではなんとか。あと初級しか使えませんが土魔法を少しだけ。ただどちらかと言えば魔法よりは弓のほうが得意ですね」

「ほう。ブンゾー殿も2属性なのか。このチームは黄色のランクながら凄いのだな」

 トモナリが言う。


「トシフミは剣も使うのだろう。チクシールでは、わずか10秒足らずで17人の盗賊を剣で殲滅したと聞いておるぞ」

 タチバナ伯爵が付け加えた。


「ほう。それは凄いな。そんな早さ聞いたこともない。一度見てみたいものだな」

 ヨシトモが興味深そうに敏文を見ている。


「ところでトシフミ様がいた世界というのはどのような世界なのですか?」

 ナツキが興味深そうに聞いてくる。


「私やサラがいたのは地球という星です。環境はこの世界と似ているのかも知れません。百数十の国に別れ、使われている言葉も様々で数十億の人間が暮らしています。そして私達はその中の日本という国で一庶民として暮らしておりました」

「ほう。お主達ほどの者が一庶民だったのか」

 宰相は驚いていた。


「私達は元の世界では精霊はおろか初級の魔法ですら使えませんでした。こちらに来てからなのです。そもそも元の世界には魔法自体が存在しておりませんでした」

「精霊も存在しないのですか?」

 ナツキが信じられないという表情で聞く。


「精霊という存在を信じる人は多くいると思います。ただそれはもっと精神的な意味合いが強いものだと私は考えています。人や国によっても信じる宗教や神が異なり神や精霊の存在を信じ方も其々です。私としてはいるかもしれないし、いないかもしれない、そんな感じです」

「なるほど」

 トモナリが頷く。


「でも、魔法がないのであれば魔道具もないのであろう。かなり不便な生活をしていたのではないのか?」

 ヨシトモが聞いてきた。

「確かに魔法はありませんでしたが、科学という物事を論理的に解明し、それを応用して様々な物を作り出す技術は非常に発達していました。魔法を使えなくとも一般庶民が快適に暮らせるぐらいの」

「カガク、でよいのか? それでどの様な事が出来るのだ?」

 ヨシトモが興味津々で聞いてくる。


「私がこの世界に来る直前に乗っていた飛行機などはその例かも知れません。一度に数百人を遠くまで運ぶことが出来る空を飛ぶ乗り物ですから。乗り物だけでなく生活の全てにそれら科学が工夫されて使われています。ですから魔法がなくとも十分に快適に過ごせるのです」


「なかなか想像出来んが、凄い世界にいたのだな」

 トモナリが呟く。


 その時、喉が渇いた敏文はグラスからワインを飲もうとして、それが空になっていることに気が付いた。

「あ」


 それを見たヨシトモが笑いながら言った。

「そういえば、料理を止めたままだったな。トシフミの世界の話は興味深いがまた時を改めて聞くとして料理を再開しようか。料理人達がヤキモキしているかもしれんからな」

 ヨシトモは呼び鈴を鳴らして、料理を再開させた。


 その後、食事は進み、ミヤザに行ってからのアヤメの暮らしや、ナツキの慈善活動の様子などの話になった。


 最後のデザートを食べながら、今回ナツキが行っていたホーエン本島北部の大雨災害の救援活動の様子を聞いた。


 ナツキから、地球での災害時の対応等について聞かれた敏文は、自衛隊やボランティアの活動等について説明した。


 皆、国防を担う部隊が災害の救助や原状回復に当たることや、そもそも予めそれを想定した装備を持っていること、給水やお風呂を作って提供すること等に驚いていた。

 また、一般の市民が自らの意思で遠方から災害地を訪れ、後片付けや炊きだし等の支援をする他、全国から食糧や防寒具等の救援物資が集まる話には更に驚いていた。


「なるほど、軍にそう言う機能を持たせることは有効なのかも知れないな。有事以外では力をもて余しているのも確かだ。そう言う時に協力すれば、軍に対する国民の感情も和らぐだろうし、共同作業での組織の運営力向上にも繋がろう。どうでしょうか宰相殿」

 トモナリの言にキジマール宰相が答える。

「そうですな。中には軍の仕事ではないと言う者もおるかも知れませんが、兵の多くは庶民の出である事を考えれば、国民の為に働く事をよしとするものも大勢おりましょう。一考の余地はありそうですな」


「私は、災いに苦しむ同胞の為に、民が自ら物資を送ったり、遠方からでも自費で救援に駆け付けるというその意識に驚きましたわ。この国にはそのような考えは残念ながらまだ有りませんもの」

 ナツキの言葉に敏文は補足を入れる。

「無論全ての民がそのような考えを持っている訳ではありません。其々に事情はありますから。ただ、このような動きを民が出来るのはどこでどのような災害が起こっていて、どういう状況なのか、何が何処に不足しているのかを役人が把握し、国民に正確に迅速に伝えることや、集まった人的、物的資源をどう配置、配分するのかをコントロールする必要があります。それなしに集められた物資や人は無駄を生じさせますので」


「なるほど、確かにそうですな。それほどの見識、トシフミ殿は元の世界でどのような事を担われていたのだ?」

 トモナリが尋ねる。

「私は元の世界では先程も申し上げた通り平凡な一市民でしかありません。働いている組織が作った物を買って貰いそのアフターケア等をしていたのです。ただ私の今申し上げたような事は一市民であっても大半の者が理解しておりました」


「アフターケア?」

 ナツキが首を傾げる。

「買ってもらった後に不具合が起きないか確認したり、もし起きた場合はその修理や交換をするなど必要な対応をとることを言います」


「そうですか。トシフミ殿やサラ殿がおられた世界というのは高い教育が為されていたのですね」

 ナツキが感心している。


「トシフミ殿の話への興味はつきないが、そろそろ夜分遅くなってきた。この辺でお開きとしようか」

 ヨシトモが言う。


 ナツキは残念そうに言った。

「[ミスティック]の皆さんはまだ暫く王都におられるのでしょう? また、元の世界の事を含めて、色々とお話を伺えるとうれしいのですが」


「[ミスティック]は暫く私の屋敷に留まる予定です。ご要望があれば伺わせます」

 ノーギ男爵が答えた。


「わかりました。では時間が取れそうな時にご相談しましょう」

「おい、ナツキ。その時は俺にも声をかけてくれ。時間が取れれば俺も話を聞きたい」

「私にも頼むよ」

 ヨシトモとトモナリがいう。

「わかりましたわ」


「今日は楽しかった。また、機会を設けよう」

「わしも面白い話が聞けて有意義じゃった。またの」

「ありがとうございます」

 ヨシトモとキジマール宰相の言葉に、敏文は立ち上がって礼をする。


「じゃあ、またね、アヤメ」

「はい、ナツキ様」

 アヤメは深く頭を下げる。


 そしてヨシトモ、ナツキ、トモナリ、宰相は退室していった。


「さて、俺も帰るとするか。[ミスティック]の皆には、今後も期待しておるからな。頑張ってくれ」

「はい、タチバナ伯爵。ありがとうございます」


 タチバナ伯爵も退室し、ノーギ男爵が言った。

「思わぬ形にはなったが、宰相殿やトモナリ殿に色々と説明することができた。さて、ダイカク達も心配しておろう。帰るとするか!」

「はい」


◇◇◇◇◇


 男爵の屋敷に帰った敏文達は褒美でもらった袋の中味を見て驚く。そこには金貨が20枚、2千万イェン入っていた。

 サラとアヤメは単純にはしゃいでいるが金銭感覚がおかしくなりそうだ。とりあえず4枚ずつ5つに分け、共同管理口座と各自で分けることにした。


◇◇◇◇◇


 翌日、敏文達はダイカクと共に魔法生物研究所を訪れ、魔法士としての認定を受ける事になった。アヤメは既に認定されているが、チームの一員として一緒に来ている。


 馬車を降り立った敏文は巨大な建物と建物の両脇にそびえ立つ大樹の威容に驚く。

「驚いているようだな」

 ダイカクは、敏文を見て言う。


 敏文は大樹を見上げながら、ダイカクに尋ねた。

「これ程の大樹は、見たことがありません。これは何という樹なのですか?」

「これは魔導樹というものだ。大気中の魔力を溜め込み、それを土壌に含ませる効果を持っている樹だ。この大樹があったればこそこの国の王都はここに定められたと言っても過言ではないようだ。それにこの国は、精霊と魔法で成り立つような土地柄でもあり、魔法や生物の研究所を置くのに適していると判断されたのだろう」

「そうなんですか」

「さて、入ろうか。俺も王都を離れてから訪ねるのは久し振りだからな」


 ダイカクと敏文達が建物の中に入ると、1階のロビーにいた白衣を着た研究員と見られる人達が驚きの声を上げる。

「おい、あれはダイカクさんじゃないか!」

「本当だ。ダイカクさんが来られてるぞ!」

「いつ以来だ? 今までどうされていたんだ」


 そして近寄ってきて、ダイカクに声をかける。

「ダイカクさん! お久し振りです! 研究所に戻られるのですか!」

「今までどちらに?」

 ダイカクを囲んで、次々と話しかけている。


「今日はオズーノ様に呼ばれていてな。残念ながら研究所に戻る訳ではないのだ。済まんな」

 研究員達は収まる様子がない。

「ダイカクさん、是非ともお戻りを! 皆がお待ちしております!」

「ダイカクさん!」


「これこれ、私の客人を余り困らせんでくれんかの?」

 その声に皆が振り向くと、そこには長い杖を持った。白髪で長い髭の老人と金髪をアップに纏めた長身の美しい女性が立っていた。


「オズーノ様。おひさしぶりでございます。お呼びと伺いましたので参上致しました」

「漸く来おったか。今まで何度顔を出せと言うてもミヤザを離れんかったお主が、今回はどういう風の吹き回しじゃ?」


 オズーノは67歳。小柄な老人で160セル程しかない。ホーエン国内では賢者と呼ばれ、魔法・生物研究所の所長を長く務めている。そしてダイカクの師匠でもある。敏文が現れるまではこの国で唯一の基本属性魔法を5属性使える男であった。それに加えてオズーノは特殊属性魔法である生属性の魔法を使用することが出来た。生属性魔法とは植物や動物など生き物の力を引き出し、それを使って行使することができる魔法で、特定の精霊の祝福を受けて初めて使えるものだ。現在はオズーノしか使い手が確認されていない。

 ホーエンには基本属性魔法を1ないしは2属性使えるものはそれなりにいるのだが、3属性以上となると、現在はこのオズーノ、ダイカク、そしてダイカクの兄弟子にあたるジョウ、それにもう一人しか公には確認されていない。


「オズーノ様。そうおっしゃいますな。久し振りね。ダイカク」

 そしてそのもう一人である金髪の女性が横から取りなす。


「久し振りだな。ミシェル。元気そうで何よりだ」


 ミシェルは29歳。背はサラとほぼ同じ170セルほどだ。長い金髪と透き通った水色の瞳が特徴の女性だ。オズーノの3高弟の一人とされ、火・風・土の3属性を使うことができる。ホーエンの出身ではなく、サヘール大陸の北方、ストランド王国から魔法留学してオズーノに単身弟子入りしていた。


「私はいつでも元気ですわ。ここでは日々研究することが沢山ありますもの。ところで一緒にいらっしゃる方達は?」

 ミシェルはダイカクにそう尋ねる。

「ここにいるのは私の弟子と娘だ。オズーノ様にお会いするついでと言っては何だが、魔法士の認定を受けさせようと思って連れてきた」


 その時、周りがざわめく。

「ダイカクさんが弟子を取られたのか! あれほど、弟子は取らないと仰っていたのに……」

「どんな奴等なんだ!」


 ざわめくホールに少し居心地の悪さを感じたのか、オズーノが提案した。

「こんな場所で立ち話も何じゃ。ワシの部屋に行くとしようか」

「そうですわね。そういたしましょう。さ、ダイカク、行きましょう。お弟子の方々もどうぞ」



 敏文達はオズーノの部屋に入った。年齢に見合った落ち着いた部屋だ。


「さて、改めて久し振りじゃな。王都を離れてからどうしておったのじゃ」

 オズーノの問いにダイカクは笑って、半分は晴耕雨読、半分はノーギ男爵の使い走りだと答えた。


「よく出てきてくれたな。明日の会議もお主の識見期待しておるぞ」

「今回、ホーエンで魔道具が関わる事件が起こっている件、あちこちで多くの民が巻き込まれております。その目的が何であれ、何物にもむこの民を害することを良しとする理由などありません。それを速く解決したいが故の協力です。決して今の王家の為にとは考えておりません」

 オズーノの言葉にダイカクは表情を厳しくして言う。


(ダイカクと王家の間に何かあるのだろうか。そう言えば、ダイカクは王宮魔法士だったのに職を辞して、ミヤザに引き払っている。これだけ民の為にと熱く語る彼が王宮魔法士を辞するだけの何かがあったのだ。

 ただ今はそれを聞くべき時ではないだろう。いずれ聞くときがくるだろう)

 敏文はそう思っていた。


「わかっておる。そう熱くなるな。そう言うところは変わらんな」

 オズーノの言葉に、ミシェルも笑いながら頷いている。

「ただ、そんなお主にも何か変化があったようだの。色々と師事を求める声があったものを頑として受けなかったお主が、弟子を取る気になろうとは。どういう心境の変化だ? それともその弟子たちにお主を変える何かがあるのかの」


 するとダイカクはニヤリとして答えた。

「どうでしょうか。ただ、この弟子たちには驚かされることが多くありまして。きっとオズーノ様もミシェルも驚くでしょうな」

「ほう。随分とこの者達を買っておるようじゃ。楽しみじゃ」

 その時、白衣を着た研究所の所員が魔法士認定の準備が整ったことを伝えに来た。


「では、行くとしようかの」


◇◇◇◇◇


 敏文達は、この研究所の魔法士認定室に誘導される。

 魔法士の認定は次の手順で行われるそうだ。

1.検魔鏡による基本属性の適正確認

2.魔法行使力測定器による魔力/精神力の測定

3.魔法行使実技試験


 準備が出来るまでの少しの間、敏文達とダイカクは魔法士認定室内の控え室で待つことになった。


(検魔鏡はダイカクのところで最初にやったものと同じだろう。実技ってのはまあやって見せろってことだよな。魔法行使力測定器ってのは何だろう)


 敏文がダイカクに聞くと魔法行使に必要な魔力量と魔法を使うに当たっての耐性を示す精神力量を数値で表す装置だと教えられた。


「これはここでしか把握出来ないものなのですか?」

 敏文の問いにダイカクが答える。

「検魔鏡と違って他人に見える形で測定するものは小型化が難しくてな。ここと魔法科がある高等学校にしかおいておらん」


「でも、そうすると戦っている間の魔力の残りの把握や新しく魔法を覚えた場合に使えるのかということはどうやって把握するのでしょう?」

 サラが聞く。

「魔法士の認定を受けると、魔法士の証である首飾りを渡される。これを着けていると、自分で意識したときに魔力の残量と総量、現在の精神力と健常時の精神力が数値でわかるようになっている。また、使用したい魔法を意識すれば、それをあと何回打てるかということは意識内でわかるようにもなっているぞ」

「へ~、それは便利ですね」


 敏文は首飾りと聞いて少し心配になった。よく、妻が外してどこに行ったかわからなくなっていたのを思い出したからだ。

「でも、首飾りということは、かっちり嵌まる腕輪と違って奪われたり、失ったりする可能性もあるのでは?」

「この首飾りは本人を認識する機能があってな。他の人間が身に付けることは出来ないようになっているんだ。また、本人から50メートル以上離れると、勝手に首に戻って来る仕組みにもなっている。また、他人に知られたくない時は、他人には見えないようにする機能もついているな」

「なるほど、それなら安心ですね」


 その時、準備ができたと連絡があり、敏文達は控え室を出て認定室へ入った。


 そこには白衣の検査員が4人とオズーノ、ミシェルが待っていた。


「まずは、適性確認をします」

 白衣の男がそう言って、検魔鏡を敏文、サラ、ブンゾーに渡す。敏文達の背後に記録用のボードをもった白衣の検査員がついている。


「息を整えて、持ち手を両手で握って静かに目を閉じてください」


 すると、ブンゾーの後ろにいた検査員の男から声が上がる。

「ほう、ブンゾーさんは2属性持ちですね」

「こっちのサラさんもだ」

 サラの後ろにいた検査員の男も声を上げる。


 そして、敏文の後ろにいた女性検査員が、声を震わせながら、オズーノに向かって叫んだ。

「オズーノ様っ! こんなことがっ! この方5属性持ちです!」


「おおっ! 本当だっ!」

「オズーノ様以外で初めてだっ!」

 検査員の驚く声がする。


 目を開くと、確かに5つの宝石が光り、5つの光が渦を巻いている。


「成程、ダイカクお主が言っておったのはこう言うことか」

「私でも3属性ですのに5属性とは……」

 オズーノとミシェルも驚いているようだ。


 ダイカクが笑いながら言う。

「私も最初に見た時は驚きました。それにサラも2属性ですが、非常に適性が強い」


「そうじゃの。では、次へ進めてくれ」

「はい。では次は魔法行使力の測定です。こちらの椅子にお掛けください。最初にブンゾーさんから」


 ブンゾーが椅子に座ると、両手と頭に装置がつけられる。


「では測定します」


 すると椅子の側にある大きな箱形の装置の前にある表示盤に上下に2つの数値が表れる。


 それには上段に620、下段に160と表示されている。

「魔力総量、620。それと精神力総量、160ですね」

 検査員がいう。


「では、次にサラさん、お願いします」


「私どれくらいだろう?」と言って座ったサラの数値は周りを驚愕させた。


「え、いや、しかし……。魔力総量8,500。精神力総量1,800です。今まで見たことありません。こんな数値っ!」

 オズーノやミシェルだけでなく、ダイカクまでが驚いている。


「え? 皆さん何をそんなに……」

「これが、驚かずにいられますかっ! あなたの数値はホーエン国内の最高値とされてきたオズーノ様の値を軽く超えているのですよ! 驚かない方が不思議ですっ!」

 サラの問いに検査員の一人が凄い剣幕で答える。


「こんなに高かったとは。流石に俺も驚いた……」

 ダイカクが呟く。

「因みにオズーノ様やダイカクさんの数値って……」

 そう聞く敏文にオズーノとダイカクが答える。

「わしは魔力総量4,000、精神力総量850じゃ」

「俺は3,850、820だ」

 敏文がミシェルを見ると、溜め息をついてこう言う。

「私は2,900、730よ。如何にさっきのサラさんの数値が規格外か解るかしら」


「俺は何だかトシフミの数値を見るのが恐くなってきたよ」

「そうね、トシフミはサラよりもっと規格外だからね。どんな数値になるのかしら?」

 ブンゾーとアヤメが囁き合っている。


「じゃ、トシフミさん、最後にお願いします」


 敏文が検査を受けると、検査員が呟いた。

「何だやっぱり壊れてるんだ……。アハハハ、やっぱそうだよな、おかしいって思ったんだよ……」


 全員が注目した数値は、魔力総量25,000、精神力総量6,300を示していた。

「25,000じゃと!」

「そんなばかな!」


 皆口々に、否定の言葉を口にする。

「他の装置でも、試して見るのよ!」

 ミシェルの指示に検査員達は慌てて起動し準備する。


 結果5台の測定器を試して出た答えは何れも25,000と6,300だった。

 試しにオズーノ、ダイカク、ミシェルの3人がそれぞれ試して見たが、さっきの自己申告の通りだった。


 顔を見合わせる検査員たち。

 沈黙するオズーノと高弟と言われる弟子2人。


「やっぱりね」

「やらかしたな、この2人」

 アヤメとブンゾーは囁き合っている。


「認めるしかないのぉ」

 オズーノの一言にダイカクとミシェルが頷く。


「オズーノ様。この後如何いたしましょう。実技、予定通り試されますか?」

 所員の言葉にため息をつきながらオズーノが言った。

「…………そうじゃな。やるまでもなさそうじゃが、一応規則じゃからな」


 敏文達は実技室に移され、ダイカクに教わった其々の適性にあったすべてを順に行使していった。


 認定検査を終え、オズーノ、ミシェルとダイカク、敏文達はオズーノの部屋で結果が出るまで待機となった。


「お主たち、一体何者なのじゃ。その年齢までは何をしておったのじゃ。この国の学校に通っておれば、その魔力総量と精神力総量であれば間違いなく何らかの反応があるはずじゃ」


 オズーノが敏文とサラを見ながら言う。

「ダイカク、何か知っておるのか?」

 ダイカクが敏文を見るので、敏文は大きく頷いた。


「オズーノ様、この者達には他の者と異なる“理由”があります。実はこの者達は[異邦の人]なのです」

 ダイカクの話にオズーノ、ミシェルの二人が大きく目を開く。

「なんじゃと!」「何ですって!」


 ダイカクが敏文に事情を説明するように促すので、敏文はこれまでの事をかいつまんで説明した。


「待つのじゃ。今お主精霊を宿しておると言うたな。それはどういうことじゃ」

 王女救出のくだりでオズーノが話を止める。


「はい、俺は今4人の精霊を宿しています。ここにいる仲間の力ももちろんですが、この4人の精霊の力があればこそ、こちらに来てからこれ迄生きてこれたと思っております」

「そ、それは誠か」

「はい、皆姿を現してくれないか」


 敏文がそう言うと、4人の精霊たちが姿を現した。

 オズーノもミシェルも、そして2人を始めてみるダイカクも驚いている。


「きゃー。可愛いですわっ! この仔犬の愛らしさ。この緑の髪の艶やかさ。この蒼い翼と羽の美しさ、あと、この子なんか、眼鏡までかけて知的って感じが素晴らしいですわっ! この子達が精霊ですのね! 精霊が住まうと言われるホーエンに来てからというもの、精霊の事を考えなかったことはありませんわっ! なかなか会えなくて、本当にこの国に精霊が住まうのかって思った事もあったのですが、今日念願が叶いましたっ。」

 ミシェルが、もの凄い勢いで4人の周りを飛び回っている。

(この人こんな性格なのか? ギャップが激しすぎるな)


 精霊達もどん引きしているようだ。

『トシフミ、なんなのこの人?』

『うわっ、何だかうっとおしい……』

『あっ! 勝手に羽根に触らないで!』

『うるさいわね…………』


「ミシェル!」

 オズーノが声をかけると彼女は自分を取り戻したようだ。

「はっ! 私としたことがっ!」

「どうも、ミシェルは精霊の事になると見境がなくなるというか。しっかりせんか」

 ダイカクも苦笑いしている。敏文は精霊達に元に戻るように依頼する。

「申し訳ございませんでした。トシフミ殿もスミマセン」

 ミシェルも腰を折って謝る。


 その時、ドアがノックされ、検査員が3つのケースを持って現れた。

 オズーノはそのケースを受け取ると敏文達に向かって言う。

「さて、トシフミ殿、サラ殿、ブンゾー殿。こちらへ」

 そして、其々の首に首飾りをかけていく。


「新たな魔法士の誕生を慶ぼう! おめでとう!」

「「「ありがとうございます!」」」


最後まで読んで下さりありがとうございます。

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