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第24話 王都へ

2014.4.18 話を大きく修正しました。

2014.4.27 御前会議の開催時期の記載を追加しました。

 敏文は日が完全に落ちてから、ニザエモンの屋敷に帰ってきた。


「あ、お帰り~」

「大図書館はどうだった?」

 泊まらせて貰っている部屋に入ると、アヤメとサラはニザエモンの店で買った服やアクセサリーを部屋中に広げて、お互いに着せ替え人形になっていた。

「なっ! なんだこのあり様はっ!」

 敏文は固まった。

 そんな敏文を気にすることもなく2人は服を広げては肩にあて、腰にあて、そしてぽいっと放る。


「ブンゾーはどうしたんだ?」

 敏文の問いに2人とも首を傾げている。

「あれ? いないの?」


 どうやら最初は居たらしいのだが、2人が服を広げてすぐにいなくなったようだ。


「ねぇ、トシフミ。どっちの服が似合うと思う? 私はこっちだと思うんだけど、アヤメはこっちの方がいいって言うのよね」

「いや、サラ。絶対にこっちだって。あと、このアクセをつければ……」


(もしかして、ブンゾーにもこれをやったのか……。それは逃げ出したくもなるな)


「そっかな~。もう1回着てみようっと。ちょっとトシフミもどっちがいいか見てみてくれる?」

 そう言うとサラは、その場で着替えようと服を脱ぎ始める。

「お、おいちょっと待て! 俺いるんだけど忘れてないか?」

「えっ? ああ、他の人はヤダけど私は別にトシフミならかまわないけど?」

 そう言うとサラは着ていた服を脱いで下着姿になってしまう。

 目のやり場に困った敏文は冷や汗をかきながら、後ろを向いた。


「ところで、お前たちニザエモンさんの店で幾ら使ったらこんな状態になるんだ?」

 敏文の問いに2人は指を折り答えた。

「ん~、15万イェンかな」とアヤメ。

「私は20万イェン!」と着替え終えたサラが無邪気に叫ぶ。


(1日で200万円を探検者の活動に関係のない普通の服やアクセサリーだけに使ったっていうのか?! ダイヤのついたような高価な物を買っているようには見えないのに。ここは東京じゃないんだぞ)

 敏文は内心驚いていた。



「探検者の活動中、この荷物どうするつもりだ?」

 敏文が半ば呆れながら聞くと、アヤメが腰に着けていた袋をプラプラしている。


「いいなぁ、私もほしいなぁその袋。どこに行けば売ってるんだろう? ニザエモンさんのお店にもなかったし。王都に行けばあるかしら?」

「解らないけど、あるかも知れないよ」

「そっかぁ。じゃ次は王都に行こう!」


 敏文は頭痛がしてきていた。

(そうか、それがあるから買い込んだのか……。ダイカク……なんてものを娘に……)


 恐らくダイカクも探検者になるアヤメに渡した魔法の袋にこんな量の服を収納するとは思っていなかっただろう。


 敏文は2人に広げたものをちゃんとしまうように伝えて部屋を出た。


 廊下を歩いていると、ニザエモンが向こうから歩いてくる。

「ニザエモンさん。あまりあの2人に散財の楽しさを教え込まないでくださいよ」

 敏文は苦笑いしながら、一応クレームをしておく。

「まあ、そう固いことおっしゃらずに。女性にとってお買い物は、一種の気分転換だともいうそうですよ」

 ニザエモンはにこやかに答える。

「そう言えばトシフミ様。ハカタンの大図書館はいかがでしたか? お探しの物は見つかりましたか?」

「ええ、全てではありませんが、色々と知りたかった事の一部を知ることが出来たように思います。とても有意義な時間を過ごせました」

「そうですか。それはようございました。ご紹介した甲斐がありました」

 そして、付け加えるように言う。

「トシフミ様も宜しければ、明日私の店をご覧になってください。お二人のようなよう服や装飾品じゃなくとも、探検者の方にオススメの魔道具等も王都の専門店程では有りませんが、ある程度は揃えておりますから。武器や防具等も、別棟の通りの向かいの売り場に揃えていますので」

 敏文も魔道具には惹かれるものがある。

「そうか、王都には魔道具の専門店があるんですね。ニザエモンさん、サラが欲しがっていたからという訳ではないんですが、魔法の収納袋や鞄のようなものは王都に行けばあるのでしょうか?」

「専門店には在庫があるかも知れません。ただ、探検者だけではなく貴族等にも人気が高い上に、今は作り手がいないため、非常に高価なものではありますね。少なくとも金貨が数枚必要になると思います」

「そうなんですか。では、すぐには難しいな。ニザエモンさんの店にはどのような魔道具があるんですか?」

「そうですな。お仲間の間で離れた場所でも話をすることができる《遠話の腕輪》や、今いる場所の周辺の情報が表れる《鳥瞰の図》などはいかがでございましょう。この地図はホーエン全体も表すことが出来る優れ物です。また、知りたい場所の名前や探している店等の情報も、握って念じれば表れますし、そこまでの道程も示してくれますぞ」

「買います!」


 2つあれば元の世界のスマートフォンとまでは言わないがその一部に近いことが出来そうだ。

「幾らぐらいするものなのですか?」

「皆様のお手持ちのご予算で大丈夫だとは存じますが、他にも色々とございますし、明日物をご覧になられてからお考えになってはいかがでございましょう。私も幾らかはお勉強させていただきますので」

「解りました。では、明日お店で」

「はい、お待ちいたしております」

 ニザエモンは丁寧に腰を折り、そして廊下の向こうへ歩いて行った。


 中庭のところまで行くと、ブンゾーが縁側に腰掛けていた。敏文は声をかける。

「ここにいたのか」

「おう、トシフミ。今は部屋にいかない方が……」

「もう行ったよ。あの様子じゃ、ブンゾーが逃げ出したくなるのもわかるな。さっき、片付けるようには言っておいたから少ししたら戻ろう」


 敏文達が部屋に戻ると、流石に服やアクセの類はキレイにしまわれていた。


 敏文は食事のあと、部屋に戻ったところで3人にトモエの紹介をする。3人はもう驚かなくなっていた。

「これからは、いろいろトシフミに聞けば教えてもらえるってことよね」とサラ。

「何だかローメリアのことをトシフミに聞くのは違和感あるなぁ」とアヤメは首を傾げている。

「ま、いいじゃねえか。便利になるんだし」とブンゾー。


 そして、敏文は3人に明日物を見てからになるが、共同管理分のお金から、通信や地図の魔道具等を買いたいこと、明後日にはここを出発して、ミヤザに戻ろうと言うことを伝えた。

 サラやアヤメは、少し残念そうだったが何時までもニザエモンの家に居候するわけにもいかないと説明した。


◇◇◇◇◇


 翌朝、店が9時に開くと、敏文達はニザエモン商店を訪れた。魔道具は2階の奥にあり、いかつい警備の男が2人、個室になっている魔道具売り場の入口を警備していた。


 ニザエモン本人が応対をしてくれるようだ。にこやかに挨拶してくる。

「お待ちしておりましたよ。どうぞご覧ください」

 敏文達は陳列されている品を順に見ていく。予めサラ、アヤメには探検者としての活動に役立つもの限定と釘を指してある。


 そんな状況の中で最初に購入候補に上がったのは、やはりニザエモンが勧めた《遠話の腕輪》と《鳥瞰の図》だ。


 《遠話の腕輪》は言葉を発しなくても考えるだけで通じる念話モードがあるし、指定した複数の仲間内で同時に話すことができる機能もある。

 《鳥瞰の図》は只の平面な地図だけではなく、その名の通り鳥が空から見たように立体的に見える上に、現在位置の表示や、縮尺の変更もでき、最大でホーエン全体を表す事も可能だ。それに、洞窟や迷宮など探索時にはオートマッピングの機能までついているという。


 それ以外に敏文達があった方がいいと感じたのは、予め属性魔法を込めておき設置した本人が起動を念じると込めた魔法が発動する《遠操の魔杭》、投げた後の網の大きさは自由に設定出来き、火・水・雷のいずれかの魔法を通す事が出来る《通魔の投網》、半径3メートル程の物理的結界を5分間張ることが出来る《簡易結界石》等だろうか。

 他に、魔獣避けの機能がある《防魔のテント》や火魔法が使われているが火が出ないため風による揺らぎや火傷を気にする必要がない《無火の松明》があったが、代替の方法がありそうだったのでこれはすぐには必要ないと判断していた。


 結局、《遠話の腕輪》4つ1セットで4万イェン、《鳥瞰の図》7万イェン、《遠操の魔杭》10本セット1つ5千イェン、《通魔の投網》5万イェン、《簡易結界石》5個1万5千イェンで合計18万イェンを購入した。


 《遠話の腕輪》は直ぐに装着。

 《鳥瞰の図》と《簡易結界石》はアヤメに預けた。《通魔の投網》は敏文が持ち、《遠操の魔杭》は敏文が5属性の魔法を込めてアヤメに渡す事にした。


 支払いを終えた後、敏文は壁に男物の革のコートが掛かっているのに気が付いた。

「ニザエモンさん。あの壁に掛かっているコートは、もしかして魔道具ですか?」

「お気付きになりましたか。あれには適温調整の機能がついておりましてな。外気の気温に関わらず快適に過ごせるものです。藪などの中を通ったりしても傷がつかない保護機能や、常に清潔に保つ洗浄機能がついている優れ物です。売値は7万イェンなのですが勉強させて頂き、5万イェンでいかがでしょうか」

「常に快適なのはありがたいですね。頂きましょう」

 そしてニザエモンは奥から一着のベストを持ってきた。

「ブンゾー様には、こちらのベストなどはいかがでしょう。ほぼ同じ機能がついておりましてな。売値4万イェンのところ、3万2千イェンでいかがでしょうか」

 ブンゾーは手にとって確かめていたが、物が気に入ったのか、にかっと笑って言った。

「熊の毛皮にも愛着はあるが、暑いのは辛いからな。貰おう」

「ありがとうございます」

 ニザエモンはニコニコしている。


 すると、サラやアヤメも興味を持ったようだ。

「いいなぁ。女性用のものはないの?」

「同じような機能のデザインを重視した女性用のものがありますよ」


(まずい! ここで嵌まられると時間がかかりそうだ)


 敏文は2人に1つのコーデに限る事と1時間で選ぶように釘をさす。この後、探検者組合にもいかなければいけないことも念押しした。

 サラとアヤメは不満そうだ。

「え~」とアヤメ。

「選べないかも」とサラ。

「この後、探検者組合にもいくんだぞ。あまり時間を掛けずに決めてくれ」

「横暴だ~」とアヤメ。

「女の買い物の邪魔をするとはいい度胸だ~」とサラ。


 溜め息をひとつつくと敏文とブンゾーは2人を残して、通り向かいの武具売り場に向かう。

 敏文は対人用の長めの直剣と腕に着ける小型のバックラーが欲しいと考えていた。

 対魔獣用には《ムラサメ》があるが、ブンゾーに貰った直剣は少し短い為、先日の盗賊との戦闘の際にリーチが足りないと感じていたからだ。また、相手の剣を受けたり、場合によっては殴って倒すことを考えて腕の形に合わせた、籠手兼盾の役割をするものを探していた。


 こちらのニーズを売り場のマネージャーに伝えると、一振りの長剣を持ってきた。刃の部分の長さが1メルほどある両刃のものだ。ミナミー島の刀匠が作成したもので、歯こぼれ防止と、切れ味維持の金属魔法も掛けられているそうだ。

 念のためトモエに確認したが、確かに金属魔法は掛かっているようだ。

 敏文の腕に合わせた籠手も持ってきている。貴鋼というとても硬い金属で出来ていて、大抵の刀剣の刃では傷つかないそうだ。少し重さはあるが特に腕を振って見ても違和感は無さそうだ。

 ニザエモンから話を聞いていたのだろう。長剣だけで30万イェンのところ、籠手も含めて28万イェンでいいそうだ。

 敏文はそれらを買う事にした。ブンゾーは通常矢と破魔矢の矢筒を1つずつ、それに投擲用の小型の手斧を数本買ったようだ。


 そして本館に戻った敏文達はそれぞれ必要なもの(敏文は予備の下着やシャツ、デニムのジーンズ)と携行食料等を買い1時間後に戻ったのだが、2人は予想通りまだ悩んでいた。

「あ~。もう解った。探検者組合は俺達が行ってくるから。帰ってくるまでに決めといてくれよ!」

「わかりましたっ!」

「さて、アヤメ。時間も貰ったし、頑張って選ぶかぁ」


◇◇◇◇◇


 敏文達は荷物を部屋に置くと、探検者組合に向かい、到着して直ぐに依頼の掲示板を確認する。

 黄色の掲示板には、採取や人探し、建築現場の助っ人などがの依頼が多く貼られている。護衛の依頼はほとんどない。

 通常護衛の依頼はクラス赤から紫に対して出される。依頼料はランク、クラスによって決められているため、ランク、クラスが上に行くほど依頼料が高くなる。

 これは人の命を預かる以上、其れなりに経験を積んだ人間に当たらせる為の措置だ。

 但し例外が2つある。

 1つは敏文達がニザエモンから受けたように指名で依頼される場合だ。この場合、指名する方がランクの低さによるリスクを負うことになる。

 もう1つが、金銭的に恵まれない人が、女性や子供だけで近場へ移動する場合など、赤以上の依頼料より安い値段で、護衛を要請する場合だ。黄色のクラス5だけが依頼を受けられるようになっている。最低限の護衛をこなせると組合より認められたものに受けさせるためだ。


 黄色の掲示板をよく見ると、1つだけブンゴへの護衛を依頼しているものがある。女性2人と子供の3人が護衛の対象だ。馬車を探検者側が用意する条件で3000イェンの依頼料になっている。ここからブンゴまでは1泊が必要な距離だ。一人400イェンの宿に泊まると半分以上消えてしまう計算だ。

(元々行きがけの話を受けようとしてるのだし、まあ、いいか)


 敏文は依頼書を掲示板から剥がすと、受付の女性に話しかける。

「これですがまだ受けること出来ますか?」

 受付の女性は依頼書を確認すると嬉しそうに言った。

「これを受けて頂けるんですか。ありがとうございます。依頼料それだけなんですが大丈夫ですか?」

「元々ミヤザに行くついでなんで」

「そうですか。依頼人は急に女性と子供だけでブンゴまで行く必要が出来たようなのですが定期馬車が取れなかったようでして。ではチームリーダーの方腕輪をこちらにかざしてください」


 敏文が腕輪を魔道具にかざすと、受付の女性ははっとする。

「チームミスティックのトシフミさんでしたか。ミヤザのノーギ男爵様よりトシフミさん宛の伝言を預かっています。男爵様宛に連絡を入れて欲しいそうです。組合内に通信の魔道具がありますが、おつなぎしましょうか?」

「……お願いします」

 敏文とブンゾーは顔を見合せつつ、女性の案内で通信室へと入った。

「男爵様のお宅とつながりました。どうぞお話ください」


 敏文は椅子に座り通信の魔道具の前で話はじめる。

「トシフミですが、聞こえますか?」

「おう、トシフミか。ノーギだ。元気にしとるか?」

「おかげさまで何とか。先日は依頼完了のご報告をダイカクさんにお願いしてしまい申し訳ありません」

「気にしなくていいぞ。それよりもう黄色のクラス5になったそうじゃないか。まだ1ヶ月たっておらんぞ」

「成り行きで強盗を討伐した以外は護衛をしただけなんですがね。ところで御用がおありだと伺ったのですが」

 敏文は男爵に要件を聞いてみる。


「お前たち、何か今依頼を受けている最中か?」

「いえ、これからブンゴ経由でミヤザに向かおうと考えていて、ちょうどブンゴまでの護衛の依頼を受けようと思っていたところです」

「そうか、良かった。ブンゴに着いたらミヤザへは戻らず、船で王都に向かってくれ。俺も直接ダイカクと共に向かう」

「王都ですか?」


 そこで敏文達はホーエン各地で発生している闇魔法が関係すると思われる事件について対策会議が、国王臨席の元でキジマール宰相の指示で行われることを知った。

 緑の月の17日に行われると言うことだった。


「俺達は王都へいって何をすればいいんでしょうか?」


 ダイカクはともかく、一介の探検者でしかない自分達が宰相が開く対策会議に参加するとは思えない。


「お前たちは会議に参加せずともよい。シーバやタバルーで起きた事件についてキジマール宰相や、オズーノ殿に話をしてくれればよい。それに、合わせて魔法生物研究所で魔法士としての認定を受けてはどうかと思ってな」

「そうですか。わかりました。ところでよくダイカクさんが王都行きを了解しましたね。あれほど嫌がっていたのに」

「まあ、今回は内容が内容だけにな。それにオズーノ殿からも研究所に顔を出すように言われていてな。渋々ながらと言うわけさ」

「そうでしたか。それで何時までに王都のどこに伺えばよいでしょうか?」

 敏文は男爵にこれからの予定を聞く。


「会議は今日から7日後に開かれる予定だ。その前にお前たちが知っている事をオズーノ殿とキジマール宰相の耳に入れたい。出来れば5日後には王都に入れるとよいが。王都に着いたら、貴族街にある俺の屋敷に来てくれ。場所はアヤメが知っているはずだ。貴族街に入る際の検問所は[ミスティック]が通れるようにしておく」

「わかりました。では、王都でお会いしましょう」

「おう! 無事に来てくれよ」



 通信を終えた敏文は、やれやれと両手を広げてブンゾーに話しかける。

「暫くは、この話に振り回されそうだな」

「恐らくな。でも、全く茅の外というよりはいいんじゃないか」


 敏文達は通信室をでて、受付のカウンターに戻ると通信のお礼と先程の依頼を改めて受けることを申し出た。


 そして、明日の朝9時に依頼人と探検者組合の前で待ち合わせとする事を決め、ニザエモンの店に戻った。


◇◇◇◇◇


 魔道具売り場に行くと、漸く2人は買うものを決めていた。

 サラは緑色のロングカーディガンを、アヤメは腰まであるポンチョを買ったようだ。


 敏文は2人とニザエモンに、明日の朝に依頼を受けて、ブンゴへ出発することを伝える。


 ニザエモンは寂しそうにしたが、では送別会をしましょうと提案してきた。


◇◇◇◇◇


 その夜、ニザエモンと、トウエモン、サトミ、 クミ、ヒトミが送別会を開いてくれた。

 ヒトミはずっと敏文の膝の上に座っていたが、その内こっくりこっくりし始めたのでそれを機会にお開きとなった。


 敏文は部屋に戻るとサラとアヤメに、ブンゴへの護衛の依頼が完了したら、男爵からの指示で王都にむかうことを伝えた。

 サラは「わ~い、王都だ~」と喜んでいるし、アヤメは「王都かあ、久し振りだなぁ」と懐かしんでいた。


 アヤメは男爵の屋敷は覚えているそうだ。王都は、小高い丘の上にある王宮の周りを貴族街が囲み、その外側に庶民街があるのだそうだ。庶民街の周りを城壁が囲み、更に貴族街、王宮と三重の城壁になっているらしい。王都に住んでいた際は庶民街に住んでいて学校の友達達と遊んだり、貴族街のノーギ男爵の屋敷にアケビを訪ねたりしたようだ。

「アヤメ、王都の案内頼むな」

「ええ、任せといて」


(1週間もすれば王都か。どんなところなんだろうな。また、新しい出合いがあるんだろうか)


◇◇◇◇◇


 翌朝、敏文達はニザエモン達の見送りを受けて出発した。


 ヒトミはとても寂しそうだったが、この街に来たら必ず寄るからと言う敏文の言葉にこくっと頷いてくれた。

 別れ際に、ニザエモンが寄ってきて紙袋を渡す。

「これは?」

「餞別です。数があっても困らないものを見繕いました。どうぞお持ちください」

「本当にお世話になりました。ありがとうございます」

「いえ、こちらこそ。また、お会い出来るのを楽しみにしております」

 ヒトミが大きく手を振って、見送ってくれている。

「トシフミおじさん、お姉ちゃんたち、またね~」

「ヒトミちゃん、バイバ~イ」

 サラやアヤメも手を振っている。


(また、会うこともあるかも知れない。それまで元気でな)

 敏文はそう思いながら手を振っていた。


◇◇◇◇◇


 敏文達は探検者組合で依頼人の家族を乗せてブンゴへ向けて出発した。


 依頼人たちは最初は恐縮していたが、敏文達がブンゴ行きのついでだから気にしないように伝えると、安心したのか打ち解けてくれた。


 2日間の日程は無事に何事もなく進み、依頼人達をブンゴの指定の場所に送り届けることが出来た。


 ブンゴの探検者組合を訪ね、依頼完了の報告をすると、腕輪を魔道具にかざす。依頼料は共同口座にいれてもらうことにした。


 処理が終わると敏文はカウンターの女性に王都への船の乗り場はどこになるかを尋ねた。


 するとカウンターの女性は、これから1時間後に王都行きの船が出航するが、もしそのまま直ぐに王都に向かうことで構わないのであればこの船の護衛として依頼を受ける気がないかと言う。


 ブンゴと王都コーベン間の定期船は国から委託を受けた商人が運航しているらしいのだが国から派遣される警備兵以外に乗船予定な探検者を護衛として3チームほど雇うそうだ。なんでも、予定していたチームのメンバーが一人重傷を負って入院してしまい、王都行きが延期となったらしい。


 敏文は馬車を乗せられること、黄色でも大丈夫であることを確認すると、依頼を受けることにした。


 敏文達は急いで指定された場所に向かい、乗船手続きを済ませると、馬車を船に乗せた。


 船は馬車を乗せられる船倉に当たる1階と甲板上にあり一般乗客が相部屋で休む2等客室がある2階、操舵室や船長室、それに主に貴族や富裕層が使用する1等客室がある3階に別れている。

 乗船して直ぐに、敏文達は船長室に呼ばれた。そこには既に2つのチームが待っていた。とりあえずチーム名と各自の名前だけの自己紹介を済ます。


 先にいたのは、いかつい髭の男4人のチームランク赤[虎の庵]と、全身を黒い鎧や衣装で纏めた男3人女2人のチームランク青[漆黒の猟犬]だった。


「おい、随分と遅えじゃねえか。来るのは赤の男4人だと聞いていたが」

 チーム[虎の庵]のリーダー、タイガが言う。

「待たせてしまったのなら済まないな。この便に乗る予定だったチームのメンバーが入院が必要なほど負傷したらしくてな。急遽代わりでさっき組合から言われて来たのさ」

 敏文は事情を説明した。


「そうか。ん、お前たち黄色か。ならばこの船の護衛は俺達と[漆黒の猟犬]の連中に任せて、船室で昼寝でもしてるんだな」

 その言葉にアヤメが突っ掛かりかけたが、敏文は片手で抑える。


 そこでチーム[漆黒の猟犬]のリーダーのケイジが話に入ってきた。

「なあ、タイガ。腕輪の色だけで判断しない方がいいと思うがな。最近ニシノベの探検者の中に、探検者になって1ヶ月もたたないのに青に討伐依頼が出されていた強盗団28人を捕縛し、他にも別の盗賊18人をほぼ殲滅したチームがあるという話をきいた。盗賊の生き残りの話では、17人が倒されるのに10秒とかからなかったそうだ」


 ケイジは敏文に聞いてきた。

「お前たち探検者になってどれくらいだ?」

 敏文は隠しても仕方ないので正直に言う。

「……まだ、1ヶ月たってない」

「ほう、それで黄色のクラス5か」

「ってことは、こいつらが」

「そう言うことだな。タイガ」

 ケイジは敏文を見てニヤリと笑う。

「一度手合わせ願いたいもんだな」


 そこで船長が話に入ってきた。

「自己紹介はその辺でもうよいかな」

 そして全員に伝える。

「本船に何かあった場合の配置は、船首の甲板に[漆黒の猟犬]、船尾の甲板に[虎の庵]とする。[ミスティック]には、操舵室前の甲板で待機し、両者を魔法で援護してくれ。[ミスティック]は全員魔法を使えると聞いているのでな。援護役に回って貰おう。異存はないか?」


「おう!」とタイガ。

「了解した」とケイジ。

 敏文も了解の旨伝える。続けて船長が言う。

「万一何かあった時は、操舵室から緊急音を出す。それを合図に配置についてくれ。では、解散してくれ」


 最初に[虎の庵]の連中が船長室を出ていく。続いて敏文達も出ようとしたのだが、ケイジに呼び止められた。

「少し話がしたいのだがいいか?」

「俺だけでいいのか?」

「いや、よければチームのメンバーも一緒に。俺達は一等客室に部屋を借りている。そこでどうかな」

 敏文は後ろを振り返り、皆に異存がないことを確認すると、「わかった」と答えた。


「ついてきてくれ」

 そう言うとケイジと[漆黒の猟犬]のメンバーが船長室を先に出ていく。

 敏文達はその後をついていった。


 同じ階の廊下の奥にその部屋はあった。


 ケイジに促されて入った部屋には、応接のソファか置かれ、窓側には机と椅子がある。そして、奥には、2つずつベットが置かれた部屋が3部屋あるようだ。


「まあ、座ってくれ」

 ケイジはソファの片側の中央に座っている。その横には女性が1人座り、小柄な男が椅子を反対に向けて背もたれに寄りかかるように座ってこっちを見ている。長髪の男は壁に寄りかかり、小柄な女性はケイジの後ろに立った。

 敏文は勧められた通りにソファの真ん中に座る。ブンゾーが壁に寄りかかりそこでいいと言うので、サラとアヤメが敏文の両脇に座る。


「それで話と言うのは?」

 敏文が尋ねるとケイジは表情を崩して言う。

「いや、ここで会ったのも縁だし、これから3日間とはいえ、狭い船の上で共に護衛につくんだ。少しお互いの事を知っておいてもいいと思ってな」

「そうか」

「こちらから言い出した事だ。俺から改めて自己紹介しよう。俺はケイジと言う。[漆黒の猟犬]のリーダーをやっている。探検者ランクは青のクラス5だ。剣と槍を使う。後は火魔法を上級まで使えるな」

 ケイジは29歳。背は183セルと敏文より少し高い。黒髪の短髪で整った顔立ちをしていて、体もがっしりしたいかにも戦士というタイプだ。黒い鎧に黒いマントを羽織っている。


 次にケイジの隣に座っている女性が話し始める。

「次は私ね。私はサリナ。探検者ランクは青のクラス3。風と雷の上級魔法士よ」

 サリナは26歳。背はサラより少し低い168セル。ウェーブのかかった長い髪をかきあげながらにっこり笑うその顔は口元のホクロも相まってとても妖艶だ。同じく黒のゆったりしたローブを着ているが、それでもはっきりとわかるほど体の線はその豊かさを示していた。


 壁に寄りかかっていた男が立ち上がり、静かに話し出す。

「俺はジョウジ。青のクラス4。刀を使う」

 言葉数の少ないこの男は27歳。黒い長髪をそのままなびかせている。黒い着物に長めの羽織を着ている。長身で細身、敏文やケイジよりも更に背が高く186セル。そして豹のように非常に俊敏そうに見える。腰には大小の刀を差し日本で言えば昔の剣豪のようなイメージだ。


「私はレイカといいます。探検者ランクは青のクラス1です。水と土の上級魔法士です。主に治癒や防御などの支援が担当ですね」

 小柄で物腰が柔らかいレイカは23歳。アヤメと同じ歳になる。背は163セル。ふっくらした狸顔で愛嬌があり、ストレートの髪を頭の後ろでバレッタで纏め、両耳横の1房だけ胸の辺りまで垂らしている。黒い丈の短いジャケットに長めのスカートをはいている。


 最後に椅子に座っていた小柄な男が名乗った。

「俺っちはハヤト。探検者のランクは赤の4さ。主に使うのは弓とナイフ。俺っちは、偵察や情報収集が得意なんだ」

 年齢は19歳。背は165セル。この世界では高等学校に通わずに探検者になるものもそれなりにいる。ただ年齢のせいか小柄なせいか少し幼く感じられた。黒いシャツに、ベスト、丈の短いズボンをはいている。


「ハヤトあなたみたいな子供が、ランク赤だって言うから、[ミスティック]の人たちビックリしてるじゃないか」

「俺っちは大人だ! お・と・な!」

 サリナの言葉にハヤトが毛を逆立てた猫のように、フーッと威嚇している。

「もう、サリナもハヤトをからかうの止めてよ。ハヤトもほら」

 レイカが、二人の仲裁に入る。チームの仲は良さそうだな。


「俺達はこの5人で活動している。其なりには名前も売れてきてはいると思うがな」

 ケイジが最後に締めくくった。


 敏文は少し考えて精霊のこと以外は話すことにした。

「俺はトシフミ。[ミスティック]のリーダーをやっている。探検者のランクは黄色のクラス5だ。他のメンバーもランクは同じだ。さっきも話した通り、まだ探検者になってから1ヶ月もたっていない。俺は剣と刀を主に使う。あとは5属性全ての魔法を上級まで使うことが出来る。ただ、魔法士の認定は受けていないから、魔法士ではないな」

「5属性全部だと?!」

「オズーノ様以外にそんな人いるの?!」

[漆黒の猟犬]の全員が驚いている。


「トシフミの後はやりづらいな。俺はブンゾー。主に弓と手斧を使う。後は風と土の魔法を使える。土は初級までしか使えねえが、風は上級まで使えるぜ。後、トシフミと同じで魔法士じゃねえな」

「私はサラ。水と雷の魔法を上級まで使うわ。私も二人と同じで魔法士ではないわ」

「私はアヤメ。風の魔法士よ。一応上級までは使うことが出来るわ」


「魔法士じゃないのに2属性持ちっているのかよ。聞いたことねえな」

「お前たち上級魔法まで使えるなら何で認定受けてないんだ」


「その辺は詮索なしってことで」

「判った。探検者やってれば誰だって知られたくないことの1つや2つぐらいあるだろう。詮索はなしにしよう」

 ケイジはやけにものわかりよく了解した。

「ただし…………」


“ブォーーーーッ”


 その時、出航を報せる汽笛が鳴った。


(何だか嫌な予感がするのは気のせいか?)


「ただし、俺と手合わせして貰おう」


(どうやら、逃げられそうにないな)

 敏文はひとつ溜め息をつくと答えた。

「……わかった。受けよう」

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