第23話 異邦の人
2014.4.18 話を大きく修正しました。
敏文は218号室に備えつけられているソファーに腰を下ろして、トモエの話を聞くことにした。
トモエは敏文の膝の上に腰かけるとまた眼鏡をツイと指先で上げて話を始めた。
『何から話そうかしら。そうね、まずは
今までにこの世界で[異邦の人]と呼ばれたあるいは認識された人間はローメリア全体で70人、ホーエンに限れば13人いたようよ。あなたたち2人を含めれば15人ということかしら。もっとも、これは記録に残っている人達の話よ』
『てことは記録にない人も沢山いるかもってことか。俺と同じ目にあった人が結構いるかもしれないってことだな』
敏文も言葉は発さず自分の思考の中で会話をする。
『そうね。正直私にもよく解らないわ。私が解るのは70人のことだけよ。そのうち詳しい記録があるのは20人ぐらい。後はそう言われた人がいたという記録があるぐらいね』
『そうか』
そして、敏文はその20人の記録について、順にトモエから教えてもらった。
一番古い記録で約1500年前になるそうだ。現在のストランド辺りに現れたらしい。その人物は、問題を抱えて広場で議論をしていた人々の前に眩しい光と共に現れて議論を解決したことで、神の使いだと崇められた。だが、その後は何か神託をするわけでも、奇蹟を起こす訳でもなかったので、次第に扱いが変わり、最後は、一庶民として死んだようだ。
その後の人達は、古い順に次の通りだった。
1300年前:現在のシンに武人
1200年前:現在のシャンハールに盗賊
1000年前:現在のグラスランドに狩猟人
900年前:現在のサウザン=ユナイトに海賊
800年前:現在のトリアードに剣士、ストランドに魔法士、シャンハールに暗殺者
700年前:現在のサウザン=ユナイトに商人、トリアードに冒険者、シャンハールに医者
600年前:現在のホーエンに魔法士、トリアードに商人
500年前:現在のシャンハールに魔法士、シンに武術家
400年前:現在のサウザン=ユナイトに発明家、ストランドに魔法士
300年前:現在のトリアードに技術者
200年前:現在のホーエンに発明家、シャンハールに反逆者
これはローメリアに来たときにそうだったのではなく、ローメリアでそのように生きたと言うことだ。
つまり、記録通りなら、敏文達は200年ぶりの[異邦の人]と言うことになる。
この内、900年前のサウザン=ユナイトの海賊、800年前のシャンハールの暗殺者、400年前のストランドの魔法士の三人が女性で、後はすべて男性だそうだ。
記録に残る女性が少ないのは、異世界であるローメリアに来ても一人で生き抜くことが出来ずに記録に残らなかったということなのかもしれない。
『ホーエンの13人のうち、2人しか記録が残らなかったのは、何でなんだろう?』
『そうね。2人以外の人達は、そこで出会った人と静かに暮らすことを選んだり、あるいは、異世界に馴染めずに早い時期に行方がしれなくなったり、色々だわ。でもそれぞれが自分の人生を生きた。考えてご覧なさいな。確かに異世界から来たのかもしれないけれど、普通の暮らしのなかで後世に記録や名前が残るような人生を歩む人ってどれくらいいるかしら』
『それもそうだな』
敏文は記録にあるという2人について聞いてみる。
『600年前の魔法士と200年前の発明家はどんな人生を歩んだんだ?』
『まずは600年前の魔法士ね。彼はエリクザールという世界から来たっていうディリコっていう人だった。彼はとても陽気な男でね。人を楽しい気分にさせるのがとても旨かったわ。だからとても多くの友人や、仲間に囲まれていたわ。彼はホーエンを旅して、色々な精霊とふれあい、今のホーエンの基本属性魔法と、特殊属性魔法の体系を整理した人なの。勿論それまでも基本魔法は使われていたんだけど、ただ使える人が使っていた感じだったのよ』
『何だか一緒にいたみたいに聞こえるんだけど』
『ええ、一緒にいたわ』
『するともしかして、今の俺のように精霊達に……』
『もしかしたら、そうなれたかもしれない。でも、私以外の精霊は彼には宿らなかった。いえ、正確には宿れなかった』
『どうしてだい?』
『…………一番最初に私が彼と一緒にいたからよ。当時の私は独占欲の塊みたいでね。彼のことが大好きで大好きで。他の精霊が彼に宿りたがっても、嫌だと駄々を捏ねてね』
『えっ、それまじ?』とコウ。
『もしかして、トシフミにも同じことするつもり?』とタクミ。
『それは許されないわね。話し合いが必要よ』とセイラン。
すると、トモエは苦笑いをして話し出した。
『ごめんなさい。今はそんなこと考えていないから安心してほしいの。当時の私は周りが見えていなくて。彼の可能性を潰してしまったのかもと今でも悔やんでいるわ。結局彼は精霊達の祝福を受けるだけに留まった。それが今の特殊属性魔法に繋がっているの』
『なるほどね』
そこで敏文は前から聞きたかった事を4人に聞く。
『ひとつ皆に教えてほしい。俺がダイカクさんに聞いた話ではこの国で精霊達の祝福を受けて特殊属性魔法を使える人はいても精霊が直接宿る形で魔法を行使した人間はいないという話だった。俺やディリコは外の世界の人間だが、君達はこの世界の人間に宿ろうとしたことはないのかい?』
トモエが答える。
『この世界の人間たちは、魔力を行使するということには充分な魔力・精神力の器はあるのだけれど、精霊を宿せるほどの大きな魔力・精神力の器がある人間がいないのよ。もちろん人間的には器の大きな人は沢山いたわ。でも、そういう意味の器ではないの。貴方とディリコには、今までホーエンに現れた[異邦の人]の中でも、抜けて大きな、精霊が安心して宿るだけの器がある。それに人間としても、真っ当な性格の持ち主でもありそうだから、コウやタクミ、セイランも貴方に暖かさや安心感を持って近づいたのではないかしら』
『そうだね。僕もそう思うよ』とコウ。
『河原で稽古をしてる姿を見て、人を打ち負かす力じゃなくて守る力がほしいと言ったトシフミの言葉を信じたんだよ』とタクミ。
『貴方から感じる器と魔力と精神の薫りに引かれたのかしら』とセイラン。
『じゃあ、一緒に来たサラはどうなんだろう?』
するとコウが答える。
『トシフミほど魔力と精神力の器は大きくないんだけれど、全く小さいという訳でもないんだ。だから、相性がいい精霊なら宿るかも』
『それは、使える属性の水や雷とかかい?』
『それは、そうとは限らないわ。精霊や本人の性格も影響するから』
トモエが説明する。
『なるほど何となく分かってきたよ。ところで、もうひとりの発明家はどんな人だったんだい?』
トモエはふっと天井を見上げて懐かしげに話し始めた。
『彼はとても真面目で研究熱心な人だったわ。カストリアという世界から来たパストールという人だった。彼は来た当初は毎日毎日帰りたい帰りたいってホームシックになっていたらしくてね。向こうの世界にやり残した仕事があったそうよ。彼には残念な事に貴方やディリコほどの魔力と精神力の器がなかったから、私達精霊が宿る事はできなかった。でも人間的にはよい性格の持ち主だったわ』
『彼が記録に残った理由は?』
『彼はね、ある程度は魔力が使えたの。それでね、私と金工の精霊、空間の精霊が祝福をあげたの。彼は様々な魔道具を作ったわ。通信の魔道具や別空間への収納ができる袋や鞄、船を進めるための道具など生活を便利にする魔道具をね。通信や船の道具は魔力を持つ人なら作れる設計図も残したの。貴方のはめている探検者組合の腕輪もそうよ』
『なるほど』
『ただ、彼の人生の最後は残念な事になったわ』
『……どうなったんだい?』
敏文は気になって聞いてみる。
『知っているかしら。この世界では200年ほど前に世界を巻き込む戦争があったこと』
『ああ、聞いたことがあるよ』
『トリアードの船が王都を急襲したことがあったの。その時に魔法の流れ弾に当たってしまって。ホーエン側が打ったものだったようだから、より残念な事に感じられるわ』
『そうか、それは残念だな』
『彼はホーエンにとても貢献してくれていたから。その時の街の人達の残念がりようはすごいものでね。今でも王都には、記念館と銅像があるわよ』
『そうか』
敏文は王都に行くことがあれば行ってみようと考えた。
『俺にはとても2人みたいな貢献は無理だな』
『貴方は彼らではないわ。貴方らしくやればいいのよ』
セイランが気を楽にしてくれる。
『ありがとう』
敏文はここでもしわかればありがたいという気持ちでトモエに尋ねる。
『なあ、トモエ。ディリコはエリクザール、パストールはカストリア、そして俺は地球から。色々な世界からこのローメリアに迷いこんでいる。どうしてこんなことが起こるのか知っているかい?』
『…………トシフミはどうしてそれを知りたいと思うの? それを知ってどうしたいのかしら?』
『俺は地球に家族を残して来ている。本当は出来ることなら直ぐにでも帰りたい。帰る方法が有るのなら、それを実現する事が俺の第一の目標になる。でも、方法がないのなら、この世界で生きる事を第一に考えなくてはいけない。それを知るためにはまずは何故、どうやってこの世界に来たのか知らないといけないと思うんだ』
『そう、じゃあ私の知識として話すけど、本当のところはどうか解らない部分もあるからそのつもりで聞いてくれる?』
『ああ、解った』
『世界はね、時間と空間の螺旋で成り立っていると言われているわ。でも、その螺旋の大きさや時間の流れる速度、その方向はそれぞれの世界によって全く違うそうよ。例えば上から下にだけではなく右から左へ、あるいは斜めに。そして何かをきっかけに螺旋の大きさが突然変わったりして、隣にある世界の螺旋と交わるようなことが発生したとき、空間の歪みが発生して巻き込まれる人がいるそうよ』
『そうすると、同じ時間の同じ世界に戻ることは…………』
『…………限り無く難しいということになるわね。もし、歪みが発生したとしても全く違う世界に行くだけの可能性が高い』
『…………そうか』
敏文は目に見えて落ち込む。
敏文の落ち込みように、コウやタクミ、セイランが声をかける。
『でも、だれもその螺旋を見たことはないんだよね』とコウ。
『もしかしたら方法があるかも』とタクミ。
『空間の精霊が何か知らないのかしら』とセイラン。
トモエが残念そうにいう。
『私も200年前にあったきり。今はどこにいるか知らないわ』
『じゃあ、空間の精霊を探しに行こうよ』
『そうだね』
『まだ、可能性はあるかもしれないわね』
3人が励ましてくれる。
『私の知識が間違っている可能性もないわけではないわ。そうね。私も協力しましょう』
最後はトモエも笑っていう。
『皆ありがとう。これからもよろしく頼む』
『任された!』
『は~い』
『ま、いいわよ』
『そうね。最初から諦める必要ないものね』
敏文は4人と凄く理解し会えた気がして、とても嬉しかった。
◇◇◇◇◇
(どうしよう。あたしどうすればいいんだろう)
アイは受付をやってる先輩に頼まれごとをされていた。
「アイちゃん! 貴女が本をぶつけたトシフミさんていう探検者の人が218号室にいるはずよ。もうすぐ閉館の時間になるわ。そろそろ閉館ですって伝えてきてくれる?」
(あの人探検者だったんだ! 探検者の人達って怖い人が多いって聞くし、本をぶつけた慰謝料払えとか、どう落とし前つけてくれるとか、言われたらあたしどうすればいいんだろう……)
アイは頭がパニックになりながらも先輩の頼みを断ることが出来ず2階への階段を上がっていた。
(先輩は大丈夫よっていうけど……)
アイは恐る恐る218号室の扉を開く。
ソファーに座った敏文を見つけたアイは、声をかけようと思って一歩踏み出そうと足を上げたところで急停止する。
(な、なに?)
突然目の前の敏文がだれもいないはずの本棚の方に向かって身振り手振りで誰かと話しているように見えたからだ。
しかも、一言も喋らないのに、ふっと笑ったり、深刻な顔をしたり、最後には何だか落ち込んでいる。
(あ、あたしはどうすれば…………)
その時、ガタリと音がして敏文が立ち上がった。
(ひっ、こっ、こっちにくる……)
アイは堪えきれずに叫んだ
「もう閉館なんです! ごめんなさ~~い」
それだけ言うのが精一杯で、アイはそのまま走って逃げ出した。
(また、やっちゃった……。いつも先輩に図書館では走っちゃ行けないって言われてるのに…………)
敏文はその様子を驚いた表情で見ていた。
(ただ、閉館を伝えに来ただけならあんなに謝らなくてもいいのに。あ、本をぶつけた事、まだ気にしてるのか。気にしなくてもいいのに)
ふと振り替えると窓の外は暗くなりはじめていた。
「夕方にって約束したのにすっかり遅くなってしまったな。急いで帰ろう」
この修正がよい方向に行っているといいのですが………。




