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第21話 ハカタンへの道

2014.4.18 話を大きく修正しました。

 その日はとても天気が良く、敏文達は快適に馬車の旅を続けていた。


 敏文は気配探知の魔法を時々使いながら慎重に進んでいるが、今のところは特に問題はない。


 敏文は商売の話やハカタンの特産品の話などニザエモンの話を聞きながら、馬車を進めていた。すると、御者台の後ろの小窓がぱかっと開いて、ヒトミが顔を出してきた。

「おじいちゃんばっかりずるい。ヒトミもおじさんとはなす!」

 そう言って、狭い小窓からうんしょっと這い出してきた。


「おいおい、危ないぞ」

 敏文は一旦馬車を止めて、ヒトミを受け止めた。後からクミの声がする。

「すみません、トシフミさん。ヒトミがどうしてもって聞かなくて」

「いえ、今のところは特に問題無さそうですから。じゃ、出発しますよ」


 敏文はヒトミをニザエモンとの間に座らせて馬車を進める。ヒトミは、にこにこと嬉しそうだ。両足をぶらぶらさせながら、話かけてくる。


 敏文はそんなヒトミの他愛もない話を聞きながら、愛里の姿をダブらせていた。


 その内、話つかれたのか日差しの暖かさに負けたのか、ヒトミはうとうとし始め、遂には敏文の膝を枕に寝てしまった。


 寝顔がとてもかわいらしい。

 敏文は馬車を止めて、ヒトミを抱き上げると風の魔法の力を使ってゆっくりと地面に降りた。そして、馬車の客室のドアをノックして、中にいるクミに起こさないようにそっと渡す。クミはにっこりしながら、ヒトミを受け取ると頭を下げて小声でお礼をいう。

「(ありがとうございます)」

 敏文は片手をあげ、返事を返すと御者台に戻った。


「さて、行きますか」

 もう少しで今日宿をとる予定のクルーの村だ。

 ニザエモンの話によると養豚が行われているこの村には名物となる麺料理があるらしい。

(もしかすると…………)

 敏文は期待しつつクルーの村に入る。


 まずは、宿を決めて一息つく。そして宿の主人に話を聞くと、今日の夕食にその麺料理が出るそうだ。

 敏文は一瞬喜んだのだが……。

(ん、ちょっと待て。夕食がそれ? ってことは想像と違うのか?)


 果たして出てきたものは、豚肉が入ったほうとうのような鍋料理で豚骨ラーメンを期待していた敏文の想像とはかけ離れていた。

(まあ、これはこれで美味しいのだが……)


 敏文が少し、いやかなりがっかりしている様子に、宿の主人が恐る恐る聞いてくる。

「あの、何かお口に合いませんでしたでしょうか?」

「あ、いや想像と違ったので少し残念に思ったのです。でも、とても美味しいですよ」

「もし、差し支えなければご想像されていた料理というのをお教えいただけないでしょうか。と、言いますのも、この村では特産の豚を使った料理を考案中なのですが、私も今一つ何かが欠けている感じがするのです。それがわからなくて何か糸口に成ればと」

「そうでしたか。私が想像していたのは……」


 敏文は宿の主人と呼ばれてきた料理人にテレビで見ていつかやって見たいと思っていた豚骨ラーメンのスープから作るやり方を説明した。もちろん麺やチャーシューの作り方、トッピングの材料も含めて。

「上手く説明できてるかわかりませんが」

「いえ、面白い話を聞かせて頂きました。是非試させてください」

 料理人は目をキラキラさせて早速取りかかると言った。骨は今まで捨てていたらしい。そこからスープが出来るなんてと感動しながら、宿の主人と2人退出していった。


 翌日の朝、敏文は宿の主人からもし完成したら、是非食べに来てほしいと言われ、喜んでと答えて宿を後にした。


 クルーの村に豚骨ラーメンという名物料理が出来て大層繁盛しているという噂が聞こえるようになったのはその数ヶ月後の事だった。


◇◇◇◇◇


 敏文達は2日目も順調に旅をしていた。今日はチクシールの街に泊まり、明日にはハカタンにつく予定だ。


(このまま何事もなければいいんだが……)


 そう、思っていた敏文の期待は裏切られる事になる。


 敏文が気配探知をかけつつ進んでいると、前方に人が争う気配がある。街道の数人を十数人が囲んでいる感じだ。


 敏文はセイランを呼び、前方の偵察を頼むと馬車を止めて、後ろ馬車にいるブンゾー、サラ、アヤメを呼びニザエモンとこれからどうするか話をした。

 アヤメは助けてあげるべきだと主張したが、サラとブンゾーは状況がわからない中でニザエモン達を危険にさらす事は出来ないという。両方の言い分に一理ある。


 すると、セイランから連絡が入った。

『盗賊が定期馬車を襲っているみたい。馬車の護衛は倒れていて、後は剣を持った男の子と、怪我をした男性が1人、それと女性が2人と子供だけだわ』

『風で盗賊たちを撹乱できるか?』

『ええ、大丈夫よ』

『すまん。頼む。直ぐに行くから』


 敏文は3人に馬車の護衛を頼み、自分が先行する事、来ても問題がなければ、《火矢》の魔法を3発放つ事を伝えて了解させる。そして、《神速5(3倍)》を発動させて《気功》の技の《身体強化》をかけてその場へと向かった。



 その場についてみると、セイランの風で盗賊たちは、右往左往していた。

「なんだこの風は! 目が開けてられねぇ!」


 それでも、剣を持って震える男の子に対して剣を振り上げている奴がいる。敏文は《神速5(3倍)》を発動し、間に割り込むと、腰の後ろにつけていた剣直刀が短い剣(シーバでブンゾーに貰ったもの)を抜いて降り下ろされた剣を弾きかえす。


「おいっ! 大丈夫かっ!」

 男の子は突然目の前に現れた敏文に驚きつつ、こくこくと頷く。

 敏文が周りを見渡すと、定期馬車の御者と、護衛の男が2人の他に女性が1人倒れていて、その側には小さな女の子が倒れているのが目に入った。女性の背中には大きな切り傷があり、うつ伏せで倒れている女の子の周りには血溜まりが出来ている。2人とももう息がないのは明らかだ。


 敏文はセイランに撹乱を止めるように伝えると、盗賊どもに言い放つ。

「お前ら、女子供に手をかけるのか!」


 盗賊どもは、ようやく敏文が立ちはだかっている事に気がつき、かつ敏文が1人なのを見て嘲笑う。

「おい、お前どっから出て来やがった?」

「別に俺達はやりたいように殺るんだよ。それが楽しいんじゃねえか! なぁ!」

「1人でのこのこ出て来やがって、こいつもやっちまおうぜ」

「ひーっひっひ、死ねやぁ!」


 その時、その盗賊達の言い草に敏文は怒りに我を失った。

「この腐れどもがぁ!」


 敏文は目の前の男の胸を斬り上げる。次の瞬間には後ろにいた男達との間合いを詰めて、その剣を振り下ろしていた。

「がっ!」

「ぎゃっ!」

 敏文が動いた後には盗賊達の短い悲鳴だけが残されていく。敏文は怒りのままに次々と盗賊たちを斬り捨てていった。


『トシフミっ! もうやめて!』

 セイランの声に敏文が自分を取り戻したとき、周りには定期馬車の乗客たち以外には、最後に剣を向けた小便を漏らしながら泡を吹いて気絶している男だけしか、生きている者はいなかった。


「あ、あ、あ…………」

 男の子が大きな口を開けて驚いた表情をしている。


 敏文は《火矢》を3発放つと、自分が返り血で真っ赤になっている事に気が付く。こんな格好でヒトミや皆に顔を会わせることは出来ない。何とか気を保ちつつ、水魔法で体についた血を洗い流す。

 ようやく血の色が無くなったところで敏文はずぶ濡れのまま膝を抱えて座り込んだ。


 少しすると、ニザエモンとブンゾーたちが馬車でやって来た。馬車から降りたブンゾーは、クミ達女性に馬車からおりず、外を見るなと特にヒトミには見せるな、と伝えた。

 サラとアヤメは、周りの惨状に声も出ない。ブンゾーは、呆然とするサラに定期馬車の怪我人の治療を指示すると、敏文の肩をぽんぽんと叩いて言った。

「お疲れさん。今は辛いかもしれん。ただ、直ぐに立ち直ってくれると思ってるし、そうでないと困るぜ」

「ああ」

 敏文はそう言うと立ち上がり、盗賊のうち一人だけ生き残った男に、《土縛》をかけると、盗賊たちの死体を街道脇に積みあげた。


 その間、ブンゾーとニザエモンは定期馬車が馬1頭ながらまだ使えるのを確認すると、そちらに乗客たちとサラ、アヤメをのせ、ニザエモンの男性の使用人に手綱を取らせた。

 クミ達の馬車はニザエモンが、敏文達の馬車には定期馬車の犠牲者の遺体を布にくるんで乗せてブンゾーが手綱を取った。敏文はブンゾーの隣に座っている。


 そして、チクシールの街に向かった。


 道中ブンゾーが話かけてくる。

「何かを守ろうとするとき、すべて思い通りに出来たら、それに越した事はない。でも、それが出来ない時もあるだろう。その時お前は責任を持って決断しなければいけない。お前はこのチームのリーダーでもある。今回、お前は初めて人を殺したんだろう。この世界は平和そうに見えているかもしれないが、実際はそうじゃない。犯罪にあって命を落とすものや、魔獣に殺される者もいる命懸けの世界なのさ。相手を倒さなければいけないこともある。そこを忘れるなよ」

「ああ。頭ではわかったつもりなんだが、まだ気持ちが整理できてない。少し時間をくれ」

「考えすぎるな」

「わかった」


 そして、夕方近くになって敏文達はチクシールの街にたどり着いた。そのまま、この街の警備隊詰め所に向かい事情を説明する。

 警備隊は、犯行現場に隊員を派遣するとともに、馬車の乗客の保護、遺族への連絡をする一方、敏文や捕らえた盗賊の事情聴取を行った。

 敏文が聴取を受けている間、ニザエモンやブンゾーたちは宿を取ってくれたようだ。サラとアヤメが警備隊詰め所に迎えに来てくれた。


「トシフミ大丈夫?」

 サラとアヤメが心配そうに敏文を見ている。

「ああ」

 そう短く答えた敏文だが明らかに様子がおかしかった。


 宿に入った敏文は、先に風呂に入り体から血の臭いを取ると食事もそこそこに自分の部屋に入った。部屋はブンゾーと同室だ。


 敏文は1人でベランダから外を眺めていた。

 まだ気持ちを整理出来ないでいたのだ。


(人を殺してしまった……。17人も……。俺は人殺しに……。あそこでもう少し冷静だったら、奴らを殺さなくとも済んだんじゃないか……。でも、18人に囲まれて、馬車の乗客たちにもあれ以上の被害を出さずに済ますには仕方が無かったはずだ……。俺はどうすればよかったんだ……)


 敏文は頭をかきむしりながら自分の考えに入り込んでいた。


 その時、フワッと優しい香りがしたと思ったら、突然唇を塞がれた。目の前にはアヤメの顔があった。そして、背中からサラが敏文の事を抱き締めていた。

「トシフミ、余り悩みすぎないで。お願い」サラが言う。

「私達が一緒にいるから。辛いときや、苦しい時は一緒に」とアヤメ。


 敏文は二人の行動に驚き、そして答える。

「し、心配させてすまない。いや、でも……」

「私達は、これからも貴方の傍にいるわ。そして、貴方の支えになりたい。貴方が私達を守って支えてくれるのと同じぐらいにね」

 敏文の首に両手をかけながら敏文の目を見てアヤメがにっこり笑う。


「貴方が元の世界に奥さんや娘さんがいることも知ってるわ。今日、貴方が感情を抑えられなかったのも、恐らく犠牲になった女の子に娘さんの姿をダブらせたのだろうとも思ってる。でも、私達は貴方が好きだし貴方の事を支えたい。そう思っている事は知っておいて欲しいの。だからって今すぐご家族を忘れてなんて求めたりはしないから安心して。でも少しは頼ってくれるとうれしいけどね」

 敏文の背中に顔を預けて敏文を抱きしめたままのサラが言う。


「…………ありがとう。俺みたいな男にそこまで言ってくれて。今は君達の想いに応える事は出来ない。でも、俺にできる全力で二人の事は守るから。だから、これからもよろしく頼む」


「ええ、こちらこそ」とサラ。

「もちろん!」とアヤメ。

「あ、今の私のファーストキスなんだ。だから、大事にしてね」


「え、じゃあ私のはファーストハグ……」

「そんなわけないじゃない。少なくともシーバの魔獣討伐の時に男爵のとこで抱きついてたじゃない!」

「あれ、そうだっけ……」

「そうです!」


「…………フフフ」

「…………アハハ」

「…………ハッハッハ」

 その瞬間3人で大笑いした。

「本当にありがとう。吹っ切れたよ」

「だから私達にも頼りなさいって言ったじゃない!」そうサラが言えば、

「私達頼りになるんだから。ね~」アヤメも返す。


「わかった。頼りにさせてもらいます」

「やっと素直になったわね」

「まったく。フフフ」


(人を殺したという今日の出来事は絶対に忘れない。自分の責任だ。でも、もう今日の事でくよくよするのはやめた。前に進まなければ。さあ、明日からも頑張るか!)

 敏文は2人に感謝しつつ、自分で立ち直ることを選んでいた。

すいません。エロくなりそうでなりませんでした……。作者がヘタレなので。

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