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第20話 独り立ちの時

2014.4.18 話を大きく修正しました。

 伯爵の屋敷に帰った敏文は、ダイカクとチームの面々にニザエモンの依頼について話をした。タチバナ伯爵の新たな依頼がない事が前提だが、個人的には受けたいと思っていることを伝える。サラとアヤメは激しく同意。ブンゾーは構わないと言い、ダイカクは、一緒には行かないと答えた。


 アヤメが理由を尋ねると、こう答えた。

「クミの事を考えると、護衛してあげたいのは山々だが、俺が帯同するとクミに必要以上にソーザの事を思い出させてしまうだろう。それにチームとして依頼を受ける受けないの判断は俺抜きでも依頼が受けられるのか判断して今後は行うべきだ。もっとも、今のお前達ならば、大抵のことは大丈夫だと思うがな」


 言われて見ればもっともだ。

 敏文はそこでアヤメに今後どうするか、自分達と一緒に行動するかダイカクと一緒に戻るかどうかを尋ねた。

 ヤナーガ行きの同行を申し出たのでチームに加わっているが、これから先は予定外の行動だ。ダイカクが帰るのであれば、一緒に帰るという判断も有るかもしれない。


「ひどいっ! 私もチームミスティックの一員だと思ってるのに! 私だけ帰れって言うの?」

 アヤメはカンカンだ。何故かサラも怒っている。

「トシフミは女心が解ってない!」とかなんとか。


 ブンゾーは敏文のことを生暖かい目で見ているし、ダイカクも敏文の肩をポンポンと叩きつつ、にかりと笑って言う。

「ま、一緒に行くというなら構わんよ。アヤメの事よろしく頼むな」


 敏文はよく理解できないままに2人に謝ったが許してもらえず、アヤメとサラの機嫌を直すのに、コウとタクミの力を借りなければいけなくなった。

(これは後でコウとタクミの機嫌も取らなければ……。俺はそんなに酷いことしたのだろうか……。女心って言われてもなぁ……)


 コウとタクミのお陰で2人の機嫌がよくなったところで、敏文はもう1人の精霊の存在を皆に紹介する。

「セイラン。姿を見せてくれるかい」

 敏文がそう言うと、その肩に淡く蒼い色の鳥が突然現れたことに4人は驚く。

「薫風の精霊という風を司る精霊なのだそうだ。今日ヤナーガの海辺で出会ってね」


「お前は……」とダイカク。

「これからいくつの精霊が……」とブンゾー。

「コウとタクミだけでも羨ましいのに……」とサラ。

「風を司る精霊なんて、そんな事って……」とアヤメ。


 その後、敏文は再び機嫌が悪くなったサラとアヤメのご機嫌取りをするはめになったのは言うまでもない。


◇◇◇◇◇


 次の日の朝、敏文達は警備隊本部に呼ばれ、各々タバルー峠での出来事について事情聴取を受けた。


 敏文は気配探知や魔力探知の技については話をせず、タクミやコウに関することは一切触れずに説明を行った。他の皆にも精霊のことは触れないように頼んで置いたので、恐らくそれについては上手く説明しているだろうと考えていた。

 時々、調査官が軽く首を傾げる素振りを見せていたので、もしかすると伯爵から必要以上の聞き取りをしないように言われていたのかもしれない。


 午前中に聴取は終わり、午後は探検者組合に顔を出すことにした。


◇◇◇◇◇


 警備隊に聞いて訪ねた場所には、煉瓦造りの4階建の立派な建物が建っている。カウンターや、待合室のスペースもミヤザよりずっと広い。


 ダイカクがカウンターの女性に声をかけた。

「チームミスティックの4名とダイカク=ササヤマだ。こちらの支部長にこちらに寄るように言付かってきたのだが」

 女性はハッとした顔をして応えた。

「ダイカク様とチームミスティックの方々ですね。はいお話を伺っております。どうぞこちらへ」

 敏文達は3階にある支部長応接に通された。


 少し待っていると、にこやかな表情をした少しふっくらした男性が現れた。背は低く160センチもない。髪の毛はなく頭がつやつやしていて、口ひげを蓄えている。少し赤い頬をしていることから、一歩間違えると幼く見えるのだがおっちゃんだ。

「どうも、来てもらった上に待たせてしまって申し訳ない。私が支部長のソージローです」

 そこで言われたとおりに各々の腕輪を一旦預け、ソージローの話を聞く。


 以下のようなものだった。

 まずは、探検者としての依頼への評価と報酬の話だ。

 ノーギ男爵の依頼完了に伴う報酬が10万イェン。これは贈り物を届けると共に、情報提供に対する謝礼込み。

 それ以外に、ニザエモンから出されていた家族の捜索に関する謝礼が100万イェン。これは、依頼を受けていた訳ではないが、結果として五人を救った事に伴い依頼主の同意の元で支払われることになったらしい。

 さらに、伯爵から強盗団の討伐に力を貸した者に対する謝礼金として、組合に預けられていた200万イェンが支払われるそうだ。

 合計で310万イェン、つまり元の世界のお金で3100万円の大金だ。


(有り難い事なのだが、余り大金を持ち歩くのは、気持ちが落ち着かないな)

 そう思った敏文がどうすればいいかをサラと話していると、ソージローが探検者組合の探検者口座の話をしてくれた。

 銀行に預けるように組合にお金を預ける事が出来るそうだ。腕輪に記録されて、どこの組合支部でも払いだして貰えるらしい。


 そこで敏文達は110万イェンをチームの共有として敏文が管理し、残りを50万イェンずつ分ける事にした。ダイカクは一言「要らん」と仰るので。

 敏文は取り敢えず5万イェンだけ銀貨と銅貨で貰い、あとは預ける事にした。


 続いてソージローはニザエモンからハカタンまでの護衛の依頼が指名で入っていることを伝えてくれた。

 これについてはあらかじめ話してあった通り、受ける意思はあるが回答を少し待って欲しいと伝える。

 ニザエモンから事情は聞いていたのだろう。ソージローはすぐに了解した。


 その時、ノックの音がして女性が入ってきた。トレイに腕輪とお金が入っているのだろう布の小袋を持って来ている。各々受け取り腕輪を嵌めると、腕輪の紋様が増えている事に気がつく。


「これは……」

 黄色であることは変わらないが、刀の紋様が4つに増えている。そしてタチバナ伯爵家の紋様も刻まれている。


「普通はひとつクラスを上げるのに、そのクラスの依頼を程度によって5~10は成功させる必要があるのです。ただあなた方は腕輪の記録を確認させていただいた限りでは、青に出されていた捜索・討伐の依頼をダイカク様がおられたとはいえ、結果としてほぼチームでこなされています。特に人質の救出はトシフミさんの行動によると聞いておりますので、評価に加算させていただきました」

「はあ」

 敏文は少し驚いていた。それでソージローが補足する。

「もともと、青が受ける依頼ですので達成に対する評価ポイントは高いのです。通常そのように黄色の探検者が最初から高いポイントを獲得することはまずなく、今回特例でチームミスティックはクラスを3つ上げる事にしたのです。実力から言えば青に匹敵するのかもしれませんが、まだこなされた依頼の数も少ないですからな」


 どうやら今回はこの辺の事情を説明する為に支部長に呼ばれたようだ。

「後、タチバナ伯爵家の紋様は、伯爵様からのたってのご要望でしてな。今後もよしなにという意味ではないでしょうか」


◇◇◇◇◇


 その後、敏文達は伯爵の屋敷に戻った。その日の夜は、伯爵は基地での会議とかで遅くまで基地詰めとなったらしく、夕食のあとは各々の時間を過ごした。


 サラとアヤメはチヨやシノとお茶を。ダイカクはタダシゲと、ブンゾーは早めに部屋に入った。


 敏文は自分に割り当てられた部屋のベランダから外を眺めていた。すると肩にセイランが現れた。

『何を考え込んでいるの?』

「うん?」

『例えば、元の世界の事とか』

「……そう見えるかい?」

『見えると言うより、貴方の目がとても遠くを思い浮かべているように感じるわね』

「そうか……わかっちゃうか。元の世界にどうやったら戻れるんだろう。それをずっと考えているよ。セイランは方法なんてわからないよね」

『私にはわからないわね。私は貴方が元の世界を思い出す事をいけないとは思わないわ。でも、余り想いを募らせ過ぎてもいけない。貴方は今はここにいるし、この世界で生きていかなければいけないわ。だから、今考えても結論を出せない事は、置いておくのもひとつの方法だと思うの』

「……そうだな。そうかもしれないな。ありがとう。セイランは優しいな。これからも俺が迷っている時に、今みたいな話してくれると助かるよ」

『そうね。気が向いたらして上げるわ』


 その日敏文はセイランと夜遅くまでいろいろな事を語り合った。


◇◇◇◇◇


 翌日は伯爵との会合の時間が午後取れるということだったので、敏文たちは午前中ハカタン郊外の修練場を借りて魔法の修練を行った。最後の上級魔法の修練だ。


《流》と呼ばれる大きなその属性に関連する流れを発生させて、相手を飲み込むもの。

《巻》と呼ばれる小型の竜巻を起こすもの。

《探》と呼ばれる捜索・探知を行うもの。

《奪》と呼ばれる音や熱など属性に関連する現象を相手から奪うもの。

《洞》と呼ばれる大きなドームを作って複数の対象を守るもの。

《隕》と呼ばれる巨大な属性を伴う隕石を落とすもの。

《解》と呼ばれる状態異常も完解する最上級の治療魔法。

以上の7種類だ。


 一通り、魔法の行使の仕方を習うと、自分が使える属性でそれぞれ試していく。

 敏文とサラはそれぞれの属性について問題なく発生させられたが、アヤメとブンゾーは風の上級魔法については手こずっていた。


 何度も首を傾げながら、行使させるのだが、発生はするもののコントロールがうまくいかずに、消えてしまったり、あらぬ方向へ発生したりしている。中級までは特に問題があるようには思えなかったのだが……。


 敏文はセイランに話を聞いてみる。

『どう思う?』

『そうね。ブンゾーは上級魔法を発生させるには、少しだけ魔力が練り足りないようね。もう少し魔力の状態を整えてから発動すればよいのだけれど、我慢ができてないみたい。あと少し練ればっていうところで発動してしまうから、整わないんだと思うわ』

『アヤメはどうだい?』

『アヤメは魔力は充分に練れているわ。ただ、発動時に魔力を必要以上に篭め過ぎているから、余分な魔力がコントロールを損なわせているように思う。他には……』


 敏文は2人に対するアドバイスを聞いて、セイランからだと伝えて説明する。

 2人はなるほどと少し考えてから修練を再開した。すると少しずつだが、風の上級魔法のコントロールができるようになってきた。あとは自分で精度や威力、スピードを上げていくよう訓練するしかないだろう。


 ダイカクも満足そうだ。

「アヤメは今まで風魔法については、能力はあるのにコントロールがうまくいっていなかった。ちょっとしたコツでうまくなるものだな」

 にっこり笑って、敏文達に伝える。

「よし、あとは自分たちで使いながら錬度をあげていくことだ。俺が教えられるのはここまでだ。お前たち4人とも充分魔法士として独り立ちできそうだな」

「ありがとう。ダイカクさん」

 敏文は今まで修練に付き合ってもらったことにお礼をいう。

「いや、トシフミにはアヤメを救ってもらったり、シーバやタバルーでもいろいろと見せてもらった。これからもよろしく頼む」


 そしてダイカク先生の魔法講座は終了した。


◇◇◇◇◇


 その日の夕刻、伯爵の屋敷に戻った敏文たちは、タチバナ伯爵の書斎に呼ばれていた。

「なかなか時間が取れなくてすまんな。警備隊の事情聴取もとりあえずは必要なところは終わったようだ。引き止めてしまって済まなかったな」

「いえ。こちらこそヤナーガでいろいろと体験させていただきました。ありがとうございます。それに過分な報酬もいただきましたし感謝いたします」

「あれは、元々探検者組合に強盗団討伐に協力してくれた探検者に渡すように依頼してあったものだ。それだけのことをお前たちはしたということだよ」

 伯爵は髭をいじりながら笑って言う。


「ところで、これからお前たちはどうするのだ」

「はい、ダイカクさんはミヤザに戻られると仰ってます。俺達は今回ニザエモンさんという今回救出された方々ゆかりの商家の方から、ハカタンまでの帰りの護衛の要請を受けています。もし伯爵様に特にこの後のご依頼等がないということでしたら、そちらを受けるつもりでおりましたが、何か我々がお受けしたほうがよいご依頼等ございますでしょうか」

 すると伯爵は相好を崩して言った。

「そうか。既に当人達から依頼を受けておったか。なに、彼女たちの護衛については、最初は警備隊から付けようと思っていたのだが、もしお前たちが受けてくれるというのであれば、こちらから指名依頼してハカタンまでの護衛を頼もうかと思っていたところだったのだ。ちょうどよかったな」

「よかった。安心してニザエモンさんの依頼を受けることができます」

「俺からも頼むぞ。彼女たちは今回大変辛い思いをしている。無事に家まで送り届けてやってくれ」

「わかりました」


(確か明後日に退院だったよな。とりあえず、明日依頼を受けることを探検者組合と病院によって伝えてくることにしよう)

 そう敏文は考えていた。


◇◇◇◇◇


 翌日、探検者組合に寄って依頼受領の話をした後、ダイカク、ブンゾー、サラ、アヤメとクミ達を見舞いにいく。病室の扉をノックすると、そこには前と変わらず5人とニザエモン、使用人の2人がいた。

「やあ、ヒトミちゃん。また来たよ」

「トシフミおじさん!」

 ヒトミは嬉しそうににっこりする。


「ニザエモンさん。先ほどチームミスティックは指名のご依頼を受ける旨、探検者組合に伝えて来ました。ハカタンまでご一緒させていただきます」

「そうですか。ありがとうございます」

「トシフミおじさん、帰りに一緒に来てくれるの?」

「ああ、そうだよ。よろしくな」

「うん!」

 ヒトミは嬉しそうだ。それを見ているニザエモンも、クミも微笑んでいる。

「お姉ちゃんたちも一緒に行くからよろしくね」

 アヤメの言葉に、ヒトミは元気に返事をする。

「うん! よろしく!」

 だいぶ元気が出てきたようだ。良かった。


 アヤメとヒトミのそんな様子を見てダイカクとクミもにこやかな表情を見せている。

「ダイカク様、この度は本当にありがとうございました」

「いや、俺はあまり大したことはしておらんさ。今回、ハカタンへは帯同出来ないが許してくれ。代わりに彼らが一緒に行くから」

「解りました。でも、ハカタンに来ることがありましたら、是非お立ち寄りください」

「ああ、そうさせて貰うよ」


◇◇◇◇◇


 そして翌日、伯爵の屋敷から馬車で出発しようとする敏文達に、ダイカクが渡すものがあるという。

 渡された物は、ブンゾーには破魔の矢と新しい弓、サラには防御力強化の髪飾り、敏文には以前シーバの討伐戦のおり借りたムラサメ、そしてアヤメには魔力増幅の首飾りと腰につけられる皮の袋だった。


 アヤメに渡した皮の袋についてダイカクが説明する。

「これは古い時代から伝わる空間の魔法が掛けられた魔道具でな。袋の中の別空間にたくさんの物を収納できる優れものだ。俺が探検者として活動する際は重宝していたものだ。今回、これをお前にやろう。幾らか旅に有用な物もいれたままにしてある。良く使う場所を考えて使うのだぞ」

「お父様、ありがとうございます。大事にします」

「トシフミ、ブンゾー、サラ。アヤメを頼むな」

「はい」

 敏文はダイカクに応える。


 ダイカクは帰りは海路をとり、ミヤザに帰るそうだ。馬車がないし、1人で帰る事を考えればその方がいいのかもしれない。


「すみませんが男爵様へのご報告、よろしくお願いいたします」

「ああ、任せておけ」

「では、お父様。行って参ります」

「おう、気をつけてな」


 そうして敏文達は伯爵の屋敷を出発し、病院に向かった。

 病院では退院の手続きを済ませたニザエモン達が、扉つきの客馬車で待っていた。

 護衛の為、敏文が客馬車の御者台にニザエモンと座り、客馬車の中にはクミ達5人と女性の使用人が乗った。ブンゾー、サラ、アヤメともう1人の男性の使用人は、敏文達が乗ってきた馬車に乗った。 


「さあ、行こうか」

 そして敏文達はハカタンへ向かって出発した。

今日も最後まで読んで頂いてありがとうございます。

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