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第19話 薫風の精霊

2014.4.18 話を大きく修正しました。

 敏文達はヤナーガへ向けて馬車を走らせていた。途中でサラが幌の中から出て、御者台の敏文の横に座る。

「ねえトシフミ。あの時どうしてサンジが怪しいって判ったの?」

「それは俺も聞きてえなぁ。どうしてだ?」

 ブンゾーも幌から顔を出して聞いてくる。


 敏文は馬車を操りながら話し出す。

「馬車を走らせて気配を探知してたときに街道の真ん中にぽつんと動かない気配を感じたんだ」

「それで?」


「その少し先に今度は街道を囲むように2ヶ所に固まっている人の気配が感じられた。だから何かあるなと」

「なるほどな」

 ブンゾーは頷いている。


「それとサンジに近づくと懐に何か異質な魔力を感じたんだ。それに様子を見ると意識がほとんどない様子の割には気配が確りしていてな」

「あ、だから魔道具があるって気が付いたんだ」

 サラが感心している。


「サンジがあいつらの仲間だって確信したのは奴と会話した時だ。襲われて命からがら逃げてきた筈なのに奴はわざわざ俺達に強盗達に襲われた場所を通ってヤナーガへ向かってくれと頼んだんだ。おかしいと思わないか?」


 敏文の問いかけに2人は頷く。

「そうよね。普通だったらそんなとこ通りたくないわよね」

「ああ、クマモに向かえって言うだろうな」

「だろ? それにあの臭いだ。襲われた直後のはずなのに、使用人だという遺骸からは強烈な臭いがしていたよな」

「すごくつらかった」

 サラが鼻をつまんで、嫌な顔をする。


「なるほどな。気配や魔力を探知出来るっていうのは便利なものだな。斜面をかけ上がったり、サンジを倒した時の素早い動きも、トシフミの技のうちなのか?」

「ああ。神技の精霊であるタクミのお陰だな」


「で、そのタクミくんは今どこに?」

 目をキラキラさせながらサラが聞いてくる。


(何だか不味い展開のような気が……)

「ちょっと今は休んでいるようだ。今は馬車で移動中だし、またいずれな」


 敏文が誤魔化すと、サラは不満そうだがしぶしぶ了解した。

「え~。じゃあ、どんな姿なのかは教えてよ。動物の姿なの?」

「淡い緑色の髪をした男の子の姿だな。羊の化身みたいで角があったりする」

「そうなんだ。あ、だからトシフミのこめかみに角みたいな紋章が浮かんでくるんだ。かわいらしいのかな。楽しみ~」


◇◇◇◇◇


 しばらく馬車を走らせていると、街道の視界が開け、その先に巨大な城郭で囲まれた大きな街が見えてきた。

「凄い!おっき~い!」

 サラは感動しているようだ。


 近づいてくるとその大きさがよくわかる。城郭の周りには5メルほどの幅の水堀が引かれている。城郭の高さは20メルぐらいだろうか。けっこう高い。


 街道を進むと城門が見えてくる。ヤナーガの南門だ。確かダイカクの話だとこのヤナーガは海軍基地があることもあり王都並みに警備が厳しいそうだ。長い行列が出来ている。


 30分ほど待っただろうか。ようやく敏文達の番だ。ダイカクと敏文は門兵達にタチバナ伯爵の要請でミヤザの街からやってきた事を伝える。

 そして、タバルーの峠で強盗達28人を《土縛》の魔法で捕らえてあること、アジトから女性達5人を保護して来ていることを伝えた。


 それを聞いた門兵達は、慌ただしく動き出す。城内の各所に連絡が走る。敏文達の馬車は南門脇の兵士詰所に誘導され、女性達は兵士の休憩室でしばらく休むように伝えられた。


 敏文達が詰所で待っていると、そこにがっしりとした完全武装の男が兵士を連れて入ってきた。

「おおっ、ダイカク様。ヤナーガに起こし頂きありがとうございました。それに今回はタバルーの盗賊捕縛に力をお貸し頂いたとのこと。誠に感謝致します」

「ユーフ殿ではないか。伯爵をお待たせしてしまい申し訳なかった」

「いえっ! ダイカク様はお連れの皆様と当家屋敷に起こし頂きたく。我等はこれより警備隊を率いて強盗どもをひっつれて参ります。それで大変恐縮ながら、皆様のどなたかお一人、捕縛された強盗達とアジトの所在をお伝え頂く為に、同行頂けないでしょうか」


「俺が行こう」

 敏文は自分から申し出た。

「すまんな、トシフミ。それでは彼に同行させよう。アジトの場所も知っているし《土縛》自体も彼がかけたものだしな」

「そうでしたか。それではトシフミ殿よろしくお願いする」


◇◇◇◇◇


 敏文はユーフと一緒にタバルー峠へ戻り、ダイカク達は伯爵の屋敷に向かう。クミ達はまだ、十分に回復出来ていない上に精神的なダメージも大きかったことからヤナーガの病院に入院することになった。


 警備隊100名と15台の馬車でタバルー峠を目指す。まずは街道沿いの23人からだ。あの場所にたどり着くと、ぼさ髪の頭目やサンジを始め、全員そのまま埋まっていた。

 敏文が近づくと、ぼさ髪の男がかすれた声で悪態をつく。

「てめえか! 覚えてろよ! いつか絶対に仕返ししてやる!」

「出来るんだったら来いよ」

「ちっきしょ~っ!」


 警備隊の隊員達が埋まっている盗賊達を囲んで武器を向ける中、敏文は《土縛》の魔法を解除していく。強盗達は次々に捕らえられて馬車に乗せられていった。盗賊の中にいた魔法士には《魔法封じの猿轡》がされる。これで捕らわれた魔法士は魔法を発する事が出来なくなった。


 敏文は100メルぐらい向こうに襲われたと見られる亡骸があることも伝える。


 そしてその後、強盗のアジトへ向かった。アジトに捕らえておいた残りの男達も捕らえる一方、盗品を回収し、今までに襲った人達をどうしたのか、もし殺してしまった場合、遺体をどうしたのか等尋問する。


 男達の話では近くの崖から棄てたということだったので、明日以降警備隊が捜索することにして、今日はこの5人と、アジトにあった盗品、お金、武器や証拠になりそうなものを馬車に積んで帰還することになった。


 帰り道は、明日以降の捜索を考えてか、少し重苦しい空気になった。

「何人犠牲になったんでしょうか。酷いものです。俺がアジトにいた女性達を助けたとき、酷い乱暴を受けた痕があって、彼女達は立つことも出来ないほど衰弱しきっていました。恐らく、犯し、要らなくなったら殺していたのでしょう。クマモで聞いた話ではこの1ヶ月ほどで被害が出るようになったということでしたが、助かったのが5人なら、もっと多くの人が……」


 するとユーフが苦し気な顔をしながら答えた。

「我等も何度か討伐隊を組んだのだが、捕捉できなくてな。恐らく彼等は少ない人数の旅人や、商人の馬車だけを狙って襲っていたうえ、アジトを転々としていたようなのだ。その為ヤナーガとクマモの間は往来が出来ない状況になっていてな。我等も非常に苦い思いをしていたところだったのだ。ヤナーガの警備隊に捜索願いがあったものだけでも、恐らくは50人は越える。クマモに出されているものも合わせればもっとだろう」


 そこで、ユーフは大きく息をついた。

「だからこそ、今回のダイカク様や貴殿達の働きには感謝したい」

「俺達はタチバナ伯爵様のご要望に応えるようにという、ノーギ男爵様からの依頼を受けた探検者に過ぎませんよ。ダイカクさんに同行頂いていたので出来たことです」

「そう、謙遜されるな。貴殿には申し訳ないが 、強盗どもの捜査に少しばかり協力を頂きたいがかまわないだろうか」

「ええ、伯爵様の御用が済めば時間はありますので。出来ることであれば」


 敏文は奴等がどうなるか気になって聞いてみた。

「あの強盗達はどうなりましょうか?」

「被害の規模を考えれば、まず間違いなく死罪だな」

「そうですね。そうなって欲しいと思います」


◇◇◇◇◇


 警備隊が帰還したのは夕方になってからだった。タバルー峠の強盗団が捕まったという噂は、街に広まっていたらしく、城内に入ってからは見物人が大勢通りに出ていた。


 馬車は、街のメインストリートに面した警備隊本部につく。強盗達は、屈強な警備隊員に引っ立てられ、建物の中に連れていかれた。周囲は街の見物人から浴びせられる怒声と罵声で凄い騒ぎになっていた。


 敏文が馬車を降りてその様子を眺めていると、ユーフが声をかけてくる。

「さあ、トシフミ殿。当家の屋敷にご案内しよう」



 ユーフに案内され、敏文は伯爵の屋敷に到着した。そのまま、皆がいるという喫茶室に向かう。


 喫茶室の扉を開けると、皆が座ってお茶を飲んでいた。

「「お疲れ様」」とサラとアヤメ。

「おう、戻ったか!」とブンゾー。

「疲れてるところ済まなかったな」とダイカク。

「まあ、俺は場所を伝えて見てるだけだったし、そんなに疲れてはいませんよ」


 その時、扉をノックする音が聴こえ、メイドが入ってきた。

「皆様、御夕食の用意が整いました。伯爵様も同席されます。どうぞこちらへ」


◇◇◇◇◇


 食事をする部屋は、非常に落ち着いた場所で調度品も高級なもので揃えられていた。フレンチのレストランにきた気分だ。

 長テーブルに既に伯爵がついており、伯爵を正面に見て、左にダイカク、ブンゾー、敏文、サラ、アヤメの順に、右には、恐らくは伯爵夫人と若い男性と女性がついている。


 伯爵は、銀色の短髪でよく日に焼けた精悍な顔立ちをしている。顎髭がより力強さを増している感じだ。

 タチバナ伯爵は名をヘイハチといい、46歳。ダイカクの1つ年上だ。伯爵であると同時に、高等学校卒業後、海軍戦略研究所に入り、その後、ずっと海軍畑を歩んできた。背は敏文より若干低いが、肉厚で肩幅の広いがっしりした体つきをしている。


 夫人と思われる女性は終始にこやかな表情をしており、品がある。向かいにいる若い男女は、ご子息とご令嬢だろうか。

 敏文達が席につくと、ウェイター達がグラスに飲み物を注いでいく。


 そして、おもむろに伯爵が挨拶を始めた。

「ダイカク、今日はこちらの求めに応じてよくヤナーガまで足を運んでくれた。遠方から来てくれたこと感謝する。この場は私の家族だけの内輪の宴だ。気を楽にしてくれ。同席しているのは、妻のチヨ、息子のタダシゲ、娘のシノだ」

「チヨです。今日は到着そうそうお疲れかとは思いますが、気楽に楽しんでくださいませ」

「タダシゲです。ダイカク様のご高名はかねがね。今日はよろしくお願いいたします」

「シノです。皆様とお会い出来て光栄です」

 こちらもブンゾー以下自己紹介していく。

 敏文は男爵から預かった木箱を控えていた執事の男性に渡す。

「ノーギ男爵様からお預かりしたものです。探検者の仕事としてお預かりして参りました」

「おう、これは済まんな。おい、後で受け取りを書いてやってくれ」

 伯爵は執事の男性にそう伝えると、グラスを手に取り、乾杯の声を挙げた。食事は海の幸を中心にした、非常に洗練されたものだった。


 伯爵が話し始める。

「本来はミヤザで起きた事件の情報収集のつもりできてもらったのだが、タバルーに巣くう強盗団の捕縛に力を貸してくれた。重ねて本当に感謝する」

「通りすがりにやむを得ずですがね」


 ダイカクの言葉にタダシゲが言う。

「でも、クマモから海路という手段もおありになったでしょうに、あえて陸路を取られたのは何か勝算があったからなのでは?」


 ダイカクが笑って応える。

「勝算というほどのものではありませんが。クマモの探検者組合で情報収集した結果、強盗達の手段にある程度の予想が立ちましたのでな。それに今回は彼等[ミスティック]がいたのもありますな」


 伯爵がこちらを見て話しかけてくる。

「強盗どもを取り調べ中の警備隊の報告では、ダイカクだけでなく、その方達も非常に有能な魔法士であり、強盗団捕縛に力を奮ってくれたとのこと。何でも強盗団の男の中には、あんな目にはもう会いたくないと怯えている者もいたようだぞ。奴等をどんな目に合わせれば、そう言わせられるのだ」


 アヤメが答えた。

「トシフミが炎で囲んで逃げられなくしたところに、私達が風と雷の魔法をたくさん打ち込みました」

「それは……」

 タダシゲとシノが絶句している。

「確かに、そんな目に会ったら夢に出そうですね。タダシゲ兄さま」

「わっはっは。久々に愉快な気分だ。祝いに街のものには夜明けまでの飲酒や宴を許可したから、街の方は盛り上がっておるのではないかな。この1月の嫌な気分を晴らしてくれたその方達に街の者も感謝しておろう。チームミスティックであったな。その方達を敵に回さんほうがよさそうだ。これからも懇意に頼む」

「はい」


 そして宴は終わり、伯爵との情報交換は明日行うこととしてその日は休むことになった。


◇◇◇◇◇


 翌日、伯爵との情報交換を朝から行った。

 ミヤザで起こった出来事について、敏文とブンゾーそしてダイカクが説明をした。その上で、事の原因となった散魔石の話をしたところで、伯爵の顔が曇る。

「それは人為的なものに間違いないのだな」

「はい、間違いございません」


 ダイカクがそう答えると、伯爵は苦々しげな表情をして言う。

「今回の強盗団が持っていた魔道具は、どう思うダイカク」

「サンジなるものが持っていた魔法士の魔法行使を封じ、魔力を吸い取る道具ですが、おそらくはこれも闇魔法により作成されたものである可能性が高いと考えます」

「やはりそう思うか」


 伯爵は顎髭をいじりながら考え込む。

「王都に報告に行ったノーギ男爵の話では、キジマール宰相がホーエン国内の他の地域でも魔物が増加したり、何らかの犯罪が増えているとの話をされていたようです。何者かが意図して事を起こそうとしているのかもしれません」

「今回の件もその一環の可能性があるということか。ダイカク」

「そう考えるべきでしょうな。そこでなのですが、今回の強盗団、特に直接魔道具をもっていたサンジなるものについて、徹底的にこれまでの行動を洗うとともに、どこでこの魔道具を手に入れたのか調査をお願いしたいのですが。また、この魔道具自体の調査については、魔法生物研究所に伯爵、貴方から依頼してもらえないでしょうか」


「ダイカク、お前が依頼してはいかんのか?」

 伯爵は首を傾げながら尋ねた。


「いろいろな場所で問題が起こっていて、行動を起こす必要があることを王都の連中に知らしめるには、複数の切実な声があがるほうがより効果があると考えるのですがどうでしょうか」

 伯爵は少し考え込むと、にっこり笑って答えた。

「そうだな。では、その魔道具はこちらで責任を持ってあずかろう。信頼のできるものに王都に届けさせることとする。キジマール宰相には私から連絡を入れよう」

「お願いします」

「やはり直接話してみてよかったな。お主達がタバルーの強盗団を捕縛してくれたことで、また新たな情報が得られた」


「伯爵。もしやと思いますが、警備隊が手こずっていた強盗団、私達が何とかすることを織り込んでおったのではありますまいな」

 ダイカクの言葉に伯爵は笑って答える。

「いやいやそれは勘繰り過ぎだと思うがな。ところで、すまんが2、3日ヤナーガに逗留していってくれ。警備隊の捜査の結果次第では、何らかの依頼をするかもしれん。あと、チームミスティックの皆は、ここにいる間にヤナーガの探検者組合を尋ねておいてくれ。今回の件に絡んでいろいろと手続きがあるようだ。組合支部長からも依頼されておるのでな。よいかトシフミ」

「はいわかりました」


◇◇◇◇◇


 伯爵も午前中に取れる時間がここまでということで、敏文達はそれぞれ時間を過ごすことにした。探検者組合へは、明日午後に行く事に決めた。


 ダイカクはタダシゲから魔法に関する講釈を頼まれていた。

 女性2人はシノから旅の話が聞きたいからとお茶会に呼ばれている。

 ブンゾーはヤナーガの街に知り合いが住んでいるとかで、尋ねることにしていた。


 1人手が空いた敏文はタバルー峠で捕われていたクミやヒトミ達の見舞いに行く事にする。ダイカクに少しだけお金を借りた敏文は病院を訪ねるため伯爵の屋敷を出て街へ歩き出した。


 病院への道は途中で警備隊本部に立ち寄ってユーフから教えてもらう。そう遠い距離ではないようだ。途中で果物をたくさん買い、すぐに病院にたどり着いた。

 女性の病室に見舞いに行くのは少し遠慮があるが、状況が気になっていた敏文は病室を訪ねることにしたのだ。


 看護婦に教えられた病室に行くと、病室の扉に張られた札にはクミ、ヒトミ、サト、フミ、タエの文字がある。

(みな同じ病室だったんだな)

 敏文は扉をノックする。


「はい、どなたさまでしょうか」

 女性ではなく、年配の男性の声がする。もう一度扉の名前を見て間違っていないことを確認すると、敏文は部屋の中に声をかけた。

「探検者チームミスティックのトシフミといいます。お見舞いに来たのですが今は避けたほうがよいでしょうか」

「トシフミさんでしたか。どうぞ」

 クミの声だ。

 敏文はゆっくりと扉を開いて中に入った。


 すると中には5人の他に、商人らしい風体の年配の男性とその使用人だろうか。男女が1人ずつ立っていた。

「あ、トシフミおじさん。きてくれたんだ」

 ヒトミがにこっと笑う。恥ずかしいのかクミにしがみついている。

「おおっ。ヒトミが笑ってくれた」

 年配の男性はとても嬉しそうだ。そして、こちらに向かって歩いてきて敏文の両手を握って頭を下げる。

「あなたがトシフミ様でしたか。私はハカタンの商人で、ニザエモンというものです。この度は、娘や孫、使用人達うちの者を強盗団から救っていただいたとのことで本当にありがとうございます」

 後ろにいる男女も、クミや他の女性達も皆頭をさげてくる。


 ニザエモンはハカタンで商店を手広く営んでいる。頭頂の毛が若干薄いが、とても人のよさそうな笑顔をしている。背は低く160セルあるかないかぐらいだ。

 使用人の男は背が敏文より高く、180セル少し。護衛を兼ねているのだろう筋肉質な体をしていた。

 一方の女性は、小柄で160セルない。ニザエモンより少し低いくらいだ。こちらはニザエモンの身の回りの世話を担当しているのだろう。5人が食べ終わった食事の片づけをしていたようだ。


「いやいや、俺達も峠で強盗団に囲まれましてね。その意趣返しをしたまでです」

「でも救っていただいたことには、変わりありません。娘達が行方しれずになったと聞いて直ぐにヤナーガへ来て警備隊や探検者組合に捜索と救出を頼しても、なかなか見つからなかったのです。半ば諦めかけておったところでした。義息や孫、使用人たちなど帰らぬものとなったものもおりますが、5人だけでも助けていただいたのです。このご恩は一生わすれません」

 そこまで言われてしまうと、返す言葉がない。

「お父さん。トシフミさん困っていらっしゃるわ。中に入っていただいたら」

「おおっ。すまん。つい」


 敏文は見舞いの品である果物の袋を使用人の女性に渡し、皆に食べてもらってほしいと伝えると、差し出された椅子に座った。

「みなさんどれくらいで退院できそうですか?」

 クミがヒトミの頭を撫でながら答える。

「あと3日ほどで、退院できそうです」

「そうですか。では、俺達の滞在とほぼ同じぐらいですね」

「トシフミさんたちは、お仕事でこちらに?」

「ええ、タチバナ伯爵からのご依頼を受けていました。あと3日ほどで終わる予定ですがもし伯爵から追加の依頼があった場合はもう少し先までかかるかもしれません」


 ニザエモンが聞いてくる。

「トシフミ様はその後はどちらに?」

「ミヤザの街から来たものですから帰るつもりでおりましたが」

「すぐに帰らなければならないご用事でも?」

「いえ、特にそういう訳ではありませんが」


 そこでニザエモンが敏文に尋ねた。

「もし、ご都合が悪くなければ、我々とハカタンの街へお越しいただくわけには参りませんか?」

「お父さん! ご迷惑になるじゃない! トシフミさんすみません」

 クミはそう言ったが敏文は興味を持ってニザエモンに尋ねる。

「ハカタンですか。どんなところですか?」

「大陸との交易が盛んな場所で、とても賑やかな街です。食べ物だけではなく、大陸からの珍しい物品や、たくさんの書物を収めた大図書館などもあります。なにより、私の家をお尋ねいただければ。おそらく妻や家族の者たちも一言でもお礼をしたいと思うと思いますので」


 敏文は引っかかるものがあり、もう一度尋ねた。

「今、ハカタンに何があるとおっしゃいました?」

「珍しい物品や大図書館ですが……」


(たくさんの書物があるという図書館に行けば何かこの世界のことや、昔いたとされる[異邦の人]の情報がわかるだろうか……)

 敏文はすでにこの時点でミヤザへは直接帰らず、ハカタンに向かいたい気持ちになっていた。


「わかりました。ただ、俺も1人ではなく同行者もおります。伯爵様のご依頼があるかもしれません。それがなければ相談の上、決めさせてください」


 するとニザエモンがはたっと手を叩くと、思いついたことを話し出した。

「それでは、こうしてはどうでしょうか。ハカタンにいく理由があったほうがよいのでしたら、私達がハカタンに戻るための護衛を探検者組合にチームミスティック指名で依頼させていただくというのは」

「なるほど」


 すると、ヒトミが少しはにかみながら嬉しそうに言う。

「トシフミおじさんが帰りに一緒についてきてくれるの?」

「そうだね。ここのお仕事が終わって、おじさんと一緒にいる人たちがいいって言ってくれたらね」

 敏文はそう言うと、にっこり笑った。

(この娘を見ていると、愛里や愛菜を思い出す……。気にかかって助けてあげたくなるな)


「わがままを申し上げてすみません。トシフミさん」

「いえ、ただ仲間の意向を確認させてください」

「ありがとうございます」


 そして余り長居するのはよろしくないと思ったのでまた来ることを伝えて、病室を退室した。去り際にヒトミがにっこり笑って手を振っていた。少し元気が出てきたようだ。


◇◇◇◇◇


 病院を出た敏文は少し風にあたりたくなって、海の方へ向かって歩いていた。


 ヤナーガの城郭は海にも突き出していて城の中に海もあるような感じだ。敏文は外海がどうなっているか見てみたくて城郭の階段を上がり、一番上の外海が見晴らせる場所にきた。胸ぐらいまでの壁に体を預け、海を眺める。風が心地いい。空には海鳥が飛んでいる。

「お前達はいいなあ。自由に空を飛べて。気持ちいいかい?」

 答えがあるわけもないと思いながらも聞いてみた。


『悪くはないわね。空を飛ぶのは』

「!」

 女性の声がする。子供ではなく、少し大人な感じだ。

 まさか、返事があるとは思わなかったので驚いて周りを見ると、人はいなかったが1羽の鷹だろうか隼だろうか、羽が淡く蒼い鳥が塀の上に止まっている。


(さっきまで何もいなかったと思ったが……)


 敏文は半信半疑ながら、その蒼い鳥に向かって尋ねた。

「まさか、応えてくれたのは君かい?」

『ええ、そうよ』

 蒼い鳥が敏文の方を見て答えた。


「君は精霊なのかい?」

『そうね。私は薫風の精霊。貴方に聞きたいことがあるんだけどいいかしら』


 突然の質問に戸惑うが、敏文は先を促す。

「……なんだい?」

『貴方はこの世界でどうしたいの?』

「難しい質問だね。君は俺がこの世界の住人でないことは恐らく気づいているよね」

『ええ』

「俺はこの世界で何をすべきなのか、何を出来るのか、まだよくわからないんだ」

『そう』

「本音を言えば、元の世界に戻りたいと思っているし、怖いことなんて関わりたくもない。でもだからと言って、なにもしないでいることも出来ない」


 蒼い鳥は黙って海を見ている。

「元の世界に戻るためにはなんでここに来たのかを、そしてこの世界の事をよく知り、自分に何が出来るのかをよく考えなければいけないと思っている。だから、この世界をまわって戻る方法を探したいのさ。それで知識や経験を積み重ねたい。そう思っているよ」


 蒼い鳥は敏文の方に向き直った。

『そうなのね。私は風の薫りが大好き。この世界にはその場その場で違った薫りがあるわ。貴方と一緒に旅したら、そういう薫りを感じることができるかしら』

「一緒に来るかい?」

『貴方が嫌でなければご一緒させてくれる?』

「嫌だなんてとんでもない。喜んで」

 敏文は少し驚いたが、喜んで申し出を受けることにする。


『じゃあ、私に名前をいただけるかしら』

「そうだね……」

 敏文は少し考えた。蒼い体で颯爽と空を飛ぶ姿をイメージする。

「じゃあ、セイラン(青嵐)なんてどうだい? 青葉の上を駆け抜ける強い風のことを指す言葉なんだけど。気に入ってもらえるかな」

『ええ、ありがとう。気に入ったわ』

 セイランは両方の羽を広げて嬉しそうに羽ばたかせる。


「これから、よろしくセイラン。それと俺には2人の精霊が助けてくれている。コウとタクミだ。2人とも仲良くしてくれるか?」

『僕はコウ。紅炎の精霊だよ。よろしく』

『ボクはタクミ。神技の精霊さ。よろしくねセイラン』

『2人ともよろしくね』


「じゃあ、セイランはどこにする?」

『何がかしら?』

「宿る場所」

『ああ、そうね。じゃあ、取り敢えず右手の甲にでも』

 そう言うと、セイランは姿を消し、敏文の右手の甲に蒼く翼を象った紋章が浮かんできた。


「じゃあ、みんな戻ろうか」

 敏文はそう言うと、伯爵の屋敷に向かって歩きだした。

薫風の精霊が登場しました。

これから、少しずつその力を現していきます。

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